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「クロスを悪者にしない」~2023.11.11 プレミアリーグ 第12節 アーセナル×バーンリー レビュー

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レビュー

裏抜け勝負のメリットとデメリット

 ウーデゴール、ジェズスに加えてついにホワイトも離脱。野戦病院というのは少し言い過ぎかもしれないが、数試合を欠場する程度の怪我人が少しずつ増えているアーセナル。ベンチにも背番号の大きい選手がちらほら入るようになっている。Aマッチデー直前のバーンリー戦は踏ん張りどころといえるだろう。

 エミレーツに乗り込むバーンリーは今季2勝目を狙う。今季はここまで11試合で勝ち点4と厳しい数字ではあるが、5回の対戦で4回勝ち点を取っているアルテタとの相性の良さを生かし、なんとかポイントをもぎ取りたいところである。

 バーンリーはハイプレスからアーセナルのビルドアップの阻害をスタート。立ち上がりのこのプレスを落ち着かせると、アーセナルは3-2型のビルドアップに移行する。ニューカッスル戦と異なり、ラヤを組み込まない3-2型が多かったこの日のアーセナル。リスク管理の観点か、引き込まなくてもバーンリーの4-4-2は破壊可能という発想なのかはわからないが、低い位置にボールがあるときの冨安はガブリエウとサリバと並ぶ高さでポジションをとっていた。

 基本的にはバーンリーの守備には目的が2つあるように思えた。「FW-MF間をコンパクトに管理する(=ジンチェンコとジョルジーニョを幽閉する)」「アーセナルのWGには2枚の選手であたりに行く」という方向性はバーンリーの守備から読み取ることができた。

 逆に言えばこれが維持できなくプレーはバーンリーとしては許容したくないということ。例えば、9分にハヴァーツが受けたような縦に一気に進むパスを通されてしまうと、SHが自陣に戻る時間が無くなり、アーセナルのWGを2枚でチェックするのは難しくなる。どちらかというと1つ目の「FW-MF間をコンパクトに管理する」という狙いは、2つ目の「アーセナルのWGには2枚の選手であたりに行く」という狙いを実現するためのものという関係性なのかもしれない。

 それでもまずはWGにボールを当ててみるアーセナル。サカと対峙するテイラーはボールが渡る前にアプローチをかけて潰しに行くというククレジャやバーンのような対策で1on1を未然に防いでいた。

 というわけで各駅停車のポゼッションからWGにボールを渡してもダメそうということに気づいたアーセナル。まずは縦方向のコンパクトさを解消したいため、前線が裏にボールを引き出し、縦に相手の陣形を引き延ばしにかかる。

 裏へのアプローチのいいところは失敗した際に相手に危険なカウンターを食らう可能性が低いこと、悪いところは相手にポゼッションの機会を渡しやすいこと。30分のビルドアップの失敗を除けばアーセナルはバーンリーに危険なカウンターの機会を許さなかったし、バーンリーにはそれなりにポゼッションの機会を与えることとなった。

 ボールを持つバーンリーの攻撃が成功できるかどうかはひとえにライスを中盤からどかすことができるかどうかにかかっている。ジョルジーニョが非保持でかなり右サイド側に流れることが多かったアーセナル。これに引き寄せられるようにライスも同サイド側にシフトするポジションをとっていた。

 このライスの背後を取ることができればバーンリーの攻撃は加速することができる。実際に何回か加速が見られたシーンも。8分のアムドゥニのミドルなどはこの要件を満たした攻撃のシーンだった。

 というわけでバーンリーとしてはアーセナルに攻略にひと手間をかけさせたうえに、自分たちの攻撃の機会も手にしたことになる。悪くない立ち上がりだといえるだろう。

2つのクロスで攻略の方向性を打ち出す

 アーセナルは徐々に押し込むフェーズに戦況を移行させる。キーになるのはバーンリーのSHの守備におけるポジション。ライン間をアーセナルのIHが狙ったり、あるいはワイドのCBが持ち上がったりすることで少しずつインサイド寄りにポジションをとることが増えてくる。

 こうなってくると大外へのパスルートは開けることになる。WGが深い位置でボールを受けるケースが少しずつ増えてくるアーセナル。攻撃の課題はビルドアップでの前進からアタッキングサードの攻略に移行した感があった。

 基本的にはサイドからの手数をかけた崩しを行っていくのがアーセナルの指針。左はライス、マルティネッリ、ジンチェンコ。右は冨安、サカ、ハヴァーツの3人の関係性を基本としてパスをつなぎながらクロスを上げる機会をうかがう。CFのトロサールはマルチ役として両サイドの4人目として顔を出していた。

 ざっくりとアーセナルが狙っていたクロスは2つ。高さとしてペナ角付近からアーリー気味にファーサイドを狙う弾道の高いクロスが1つ、クロスの出し手が裏を取る形で抜け出して弾道の低いクロスをマイナスに打ち込むのがもう1つである。

 手数をかなりかける意識を持っていたので、基本的には弾道の低いクロスを打ち込む方が優先度は高いだろう。しかしながら、左からのクロスにはハヴァーツ、右からのクロスにはマルティネッリとハイボールのターゲットは両サイドにいる状況。バーンリーのDFが苦しい体勢でクリアする頻度の高さを踏まえれば、CKにたどり着くケースも多い。アーセナルはこちらもまた有効な手段ととらえている節があった。

 バーンリーのバックラインで言えば左のテイラーとバイアーの2人の対応はとてもよかった。ファーへのクロスに体を限界まで伸ばしてクリアし、ニア側のクロスにはラインを急いで下げて対応する。愚直にアーセナルのクロスを跳ね返すことができていた。

 しかしながら、アーセナルは試行回数で押し切ることに成功。左サイドのジンチェンコからのクロスをファーから折り返し、詰めたところにいたのはトロサール。ジャカを彷彿とさせるジンチェンコのボールから見事に前半のうちにアーセナルはゴールをこじ開けて見せた。

やや交代策は不可解だったが

 後半も大まかな流れとしては同じ。コレオショの単騎での突破をいなしたところから、アーセナルはコントロールしながらボールを持つ立ち上がりとなった。

 前半と少し違うなと思ったのはバックラインからボールをWGにつける際に、バーンリーのコンパクトさがやや失われており、手前であまり工夫をしなくともWGが1人で勝負できる状態が整っていたこと。特にアーセナルの左サイド側はこの傾向が顕著であり、マルティネッリを使った1on1は攻略の狙い目に。左右まんべんなく顔を出していたトロサールが後半左サイドに偏在していたのを考慮すると、やはりチームとしてはこちらのサイドを狙っていたのだろうと思う。

 そう考えると少し不可解だったのは早い段階でのハヴァーツの交代。ターゲットとなる右サイドの高さは失われてしまう。クロスの出しどころを左に集約した後半のアーセナルの攻め筋に対してハヴァーツ→ヴィエイラの交代は少し違和感があった。前半のような左右均等な状況ならばわからなくはないのだけども。実際のところ、流れの中からの攻撃はハヴァーツが下がる前の時間帯の方が質が高かったように思える。

 バーンリーは少なくなった攻めのタイミングから何とか同点ゴールをゲット。左サイドのコレオショが冨安に対して深さを作り、そこからブラウンヒルがミドルシュートを放って同点にこぎつける。アーセナルからすれば当然冨安が受けたファウルのところは主張していきたいところだが、その部分を切り離してもコレオショの厄介さは90分を通して感じることができた試合だった。

 同点にされたアーセナルだが、セットプレーからすぐさま勝ち越しゴールをゲット。ゴールキーパー付近を狙ったトロサールのボールにサリバが反応。腕を伸ばしたGKに競り勝ってゴールにシュートを叩き込んで見せた。GKのそば、もしくはファーに大きい選手を集約する形を終始狙っており、そのうちの1つが結実。注文通りのところにボールを置いたトロサールのプレースキックもまた称賛されてしかるべきである。

 さて、アーセナルはCKからさらに追加点を得る。今度は跳ね返された後の二次攻撃。ジンチェンコのタイミングを合わせるためのこのワンツーキックって何か技名とかあるのだろうか?と言いたくなるくらい、必殺技感のあるシュートでアーセナルは2点のリードを奪う。

 これで勝利は安泰!と思われたのだが、アーセナルはファビオ・ヴィエイラの退場で10人でのプレーを余儀なくされることに。2点のリードを奪ったタイミングだったことや、バックラインを固めてのパフォーマンスに信頼感があったことなどでそこまで緊迫したシーン続きというわけではなかったが、最後はバーンリーに攻めの機会を渡して受けきる流れに。

 アーセナルは頭部の裂傷をしたジョルジーニョを交代しようとしたが、裂傷では脳震盪プログラムのように交代枠が増えることはないのだろう。エルネニーがピッチサイドとベンチをユニフォームで往復する間に試合は終了。アーセナルはホームでの連勝を飾ることとなった。

あとがき

 退場者も失点もあり、90分間支配力を持続させることはできなかったアーセナル。だが、ソリッドな4-4-2に対して段階を踏んだアプローチと攻略の方向性が定まったクロス攻勢をかけたことは評価できる。

 以前のバーンリー戦では意味もなくクロスを上げ続けていたアルテタのアーセナル。背が高いFWもいないのに意図もなくクロスを放り込む姿を見て「アルテタはもうだめかもしれない」と思ってしまった試合でもある。

 ただ当時、アーセナルがバーンリー相手に放ったクロスの本数だけ取り上げられて揶揄されるという風潮には納得がいっていなかった。クロスの狙いがないのが悪いのであって、数は問題ではない。数だけ取り上げてさもクロスを悪者にする雰囲気はどうかと思った。悪いのは何も考えずにクロスを上げる自分たちである。

 当時とメンバーは違うがこの試合では同じ相手に狙いを持ったクロスからきちんと攻略できた。個人的にはとても感慨深い。先制点のようにたとえ高さがなくともクロスからゴールは決められる。押し込んだ相手にクロスは有効な攻略手段の1つだ。クロスを悪者にしていてかつてのアーセナルから進歩した姿を見せられた90分だった。

試合結果

2023.11.11
プレミアリーグ 第12節
アーセナル 3-1 バーンリー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:45+1‘ トロサール, 57’ サリバ, 74‘ ジンチェンコ
BUR:54’ ブラウンヒル
主審:マイケル・オリバー

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