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「ハイプレスさん、お久しぶりです」~2019.1.19 プレミアリーグ 第23節 アーセナル×チェルシー レビュー

 プレビューはこちら。

 スタメンはこちら。

目次

【前半】
チェルシーの攻め筋

    プレビューでも書いた通り、この試合のアーセナルのスタメンとして私は3バックor3センターじゃないかと予想していた。蓋を開けてみれば、3センターで臨む陣形を採用したアーセナル。しかし、私がプレビューで書いたこととはいささかニュアンスが異なる3センターだった。

 具体的にはどこが異なるかといえば2トップ+トップ下の採用だろう。ビッグマッチになると急に対症療法的な布陣選択になるのはいかにもエメリらしい。サッリチェルシーのビルドアップの起点となる両CBとジョルジーニョを2トップとラムジーで抑えにかかる作戦だった。ちなみに前回のスタンフォード・ブリッジでの対戦ではジョルジーニョ番に近い存在だったのはエジル。ただ、今回とは違って4-2-3-1のトップ下だったこともあり、フェイスガードといえるほどの密着マークではなかった。どちらかというとこちらのツイートのように、トッテナムがチェルシー相手に採用した戦略に近いように感じた。

 ツイートで言及されているトッテナム×チェルシーはレビューを書いたのでこちらも参考になれば。

 中盤菱形の4-4-2が4バック相手にプレスをかける場合、問題になるのは相手のサイドバックに誰がプレスをかけるか。この試合ではインサイドハーフのトレイラとゲンドゥージがそれぞれ担当した。スパーズに比べるとこのプレスはやや積極的で、前半のトレイラとゲンドゥージはかなり深い位置までサイドバックにプレスをかけていた。チェルシーのインサイドハーフにボールが渡ると、アンカーのジャカがスライドすることが多かった。チェルシーの中盤が時間をかけてボールを持っていると、最前線から2トップがプレスバックに戻ってくるという形。

 アザールにボールが渡ったら前を向かせる前にソクラティスがつぶす。ボール運びの時のポイントはチェルシーのインサイドハーフがアーセナルの中盤を突破できるかどうか。

 チェルシーがうまくいったシーンの例を挙げる。ケパからCBやジョルジーニョを経由せずに直接SBへ。アスピリクエタからカンテに。GKから直接の展開のため、ジャカのスライドが間に合っていない。

 ボールを運ぼうとするカンテにジャカがファウルを冒してプレーは切れる。チェルシーがうまく展開できたシーンだったが、ジャカは最低限の対応はできた。

 アーセナルがうまくいったシーンはルイスからアロンソに。中央のジョルジーニョにパスをつけ、コバチッチにボールが渡るが、トレイラとジャカで挟んでボール奪取。ジョルジーニョを経由した分、アーセナルの中盤にスライドの時間ができてしまったようだ。

 もう1つポイントはアーセナルのFWのプレスバック。ジョルジーニョ番をしているラムジーを追い越して、FWが戻ってくる。そのため時間がかかるとチェルシーの中盤は密集の中でボール回しをしなくてはいけなかった。アーセナルとしては、FW1枚が戻ってももう片方のFWとラムジーでカウンターの起点になるし、両SBは走力で優位性がある。仮に全体のラインが下がってしまっても、この試合に関してはアーセナルは後ろからのやり直しで試合を組み立てられていたので問題なかった。

 振り返ってみればチェルシーの攻めの糸口はインサイドハーフのところで先手を取ることだったと思う。アーセナルの中盤の対応が遅れれば理屈の上ではチャンスが出てくるが、あまり時間をかけずに攻めきれたシーンはなかった。チェルシーがボール保持をして相手陣に押し込んだときは、アーセナルは4-3ブロックを組んでいるため、サイドバックは比較的フリーになりやすかった。というわけで高い位置でボールをフリーで持つことが許されるマルコス・アロンソ。

 リュディガーを経由して、チェルシーがシュートまで持って行けたシーンを見てみる。アロンソにボールが渡る。アロンソ→ウィリアン、リュディガーからアスピリクエタへボールが渡る。中のアザールにクロス。

 フリーになる両サイドバックをうまく利用した形になった。アザールがサイドに出てくる場面もあったが、そうなると中の人数が足りずフィニッシュの精度が足りなくなる展開に。

 前半のチェルシーの攻め筋としては

① 最終ラインでプレスを回避。
② 中盤をスピードアップしながら、一気に最終ラインへ。
③ 高い位置でサイドバックを起点にブロック崩し。

 というのが大まかな流れ。アーセナルのプレスは効果的でショートカウンターを繰り出される場面もあったが、全くボールを運べていないわけではなかった。ただ、ボールサイドの中盤にはアーセナルの選手がうじゃうじゃいたので、チェルシーのミドルゾーンは少ないタッチで前にボールを運ばないと、囲まれてしまうシーンが多かった。ラムジーを見張りにつけていたジョルジーニョは封じることができたが、脅威になったのはダビド・ルイス。少ないモーションから放たれる浮き球のフィードは、アーセナルを脅かした。裏に抜けたペドロのループが決まっていれば、試合の流れが大きく変わった可能性もあるだろう。

【前半】-⑵
アーセナルの攻め筋

 チェルシーのビルドアップの阻害から始まるショートカウンター以外にも、この試合のアーセナルは後方からも攻め手を作れていた。チェルシーのブロックの形は4-5-1と呼べばいいのだろうか。アーセナルのCBがボールを持っているときには、アザールのほかにインサイドハーフがプレスに飛び出してきた。だから4-4-2っぽくも見えた。前回見た試合はCF(モラタ)とLWGのアザールの4-4-2でブロックを組んでいたが、アザールを中央に置くときはこうシフトするのがデフォルトなのだろうか。チェルシーを追っかけている人がいたら教えてほしい。
とにかくチェルシーのインサイドハーフがつり出された後に、アーセナルはCB→SB→ジャカ→サイドに展開というパターンで前進していた。

 サイドチェンジの質が高いジャカにボールが入れば、ボールサイドにはラムジーが寄っていって数的優位を確保。SBとラムジー+FWで崩すパターンが多かった。インサイドハーフも同サイドに後方待機。試合前の予想では、マルコス・アロンソの裏とかは狙い目かなと思ったけど、アーセナルはここ数試合通り自軍左サイドから攻める場面が目立った。チェルシーの問題はクロス対応だろう。2失点目はフリーキックからの流れとは言え、コシエルニー1人を捕まえきれなかった形に。

 前半に積極的なプレスを敢行し、セットプレーの流れから2得点を挙げたアーセナル。2-0で前半を折り返す。

【後半】
ボールは持てたけども

 後半のチェルシーは大枠はそのままに微妙にアプローチを変えた。具体的には両WGが降りてボールタッチする機会を増やすようになった。先述したように、チェルシーのインサイドハーフには常にマークがいるわけではない。低い位置に降りるチェルシーのWGにはアーセナルの選手はついていかなかったし、アーセナルのプレスの強度も疲労のせいかスコアのせいか前半よりは落ちたため、チェルシーのサイドバックが低い位置でフリーになることも増えた。そのためWGとインサイドハーフ、SBのパス交換からチェルシーが徐々に前に出ていくシーンが増えることに。ただ、前には出ていけたものの、チェルシーは前進する機会が増えただけで、最後の数十メートル攻略には至らず。アーセナルはオーバメヤンとラカゼットの献身的なプレスバックと、せっせとクロスを跳ね返すCBコンビがとても目立った。

 後半からはチェルシーがボールを支配する機会が目立ってきたが、徐々にアーセナルも反撃の機会を得るように。推進力のある両サイドバックを軸にサイドから追加点を狙う展開で進んでいった。
両チームが選手交代に動いたのは20分過ぎ。チェルシーはジルー、バークリーをウィリアンとコバチッチに代えて投入。CFがいる4-3-3に移行。アーセナルはラムジーとラカゼットに代えてナイルズとイウォビを投入。ぱっと見1トップ2シャドーの4-3-3に移行したように見えたが、直後にベジェリンの負傷で結果的に3枚がえみたいな形になってしまった。エルネニーをトップ下、トレイラを右サイドハーフに出した4-2-3-1に移行。

 チェルシーはアロンソと左サイドに移行したアザールで、左から攻略を試みるもののなかなか決定機はつかめず。プレビューで紹介したアーセナルの弱点である「サイドにボールがあるときに中盤がバイタルをあける」という現象はたまに見られたものの致命傷にならず。アザールがジルーと近い距離とパス交換できればチャンスは生まれただろうが、中央は密集すると踏んだのか、アザールはジルー投入後はサイドからのチャンスメイクに徹していた印象だった。

 試合はそのまま終了。チェフが見守る最後のビックロンドンダービーはアーセナルが2-0で勝利。スタンフォードブリッジでの借りを返した。

まとめ

 アーセナルを4位争いから脱落させることができなかったチェルシー。前半に背負った2点のビハインドは重たくのしかかり、アーセナルのブロックを崩すことはできなかった。序盤からジョルジーニョが封じられた影響はあるだろうが、いい時のチェルシーは中央が封鎖されても、サイドで多角形を作って前進していた印象がある。インサイドハーフの2人がプレスを回避する機会が少なかったのも誤算だろう。今のチェルシーにはジョルジーニョが消された10対10の状態での質が求められるのかなと思った。そこで相手のバランス崩せれば、またジョルジーニョは空いてきそうだし。

    この日のチェルシーのパス配給で効果が見られたのはアーセナルの最終ラインが上がったときの裏への浮き球。ダビド・ルイスがたまに見せたものの、おそらくこれが最もうまいのはモナコに去ってしまったセスクではないか。プレスも不発、後ろからの組み立てができたときには、すでに2点のビハインドでアーセナルにブロックを組まれてしまっていたおり、万事休すだったか。

    最終盤は点が欲しくてジルーを投入したのだろうけど、中央でジルーと合わせられる選手がいないのは少し気になった。アザールがサイドに流れてチャンスメイクしないとだったのかなと。アーセナルも4-2-3-1に変えてきたし、アロンソは前半ほどフリーになってなかったので、放っておけばサイドからクロスが上がる仕様は変わってしまったという事情もあるだろうし。もう1枚サイドに崩しのカードがあればなと。だからプリシッチ?プリシッチよくわからないんだけど。
それ以外の部分でも粗が見えたアーセナルのセットプレーに漬け込むことができれば、終盤まで競りかけることができたかもしれないなと。得点力の回復もそうだが、主力の勤続疲労が気になったチェルシー。ELが本格化する終盤はコンディションが4位争いのカギになりそうだ。

 アーセナルの戦術は前半にかなり負荷をかけたものだった。似た形でチェルシーに挑んだトッテナムと比較しても、前半は人への意識が強く、非常にエネルギーを使う展開だった。この賭けにエメリが出た理由はおそらく得点力。アーセナルは直近は不調だったが、点が全く取れていなかったわけではない。無得点で終わればしっぺ返しが来る可能性もあったが、今のアーセナルの前線の質の高さは折り紙付き。1点目を見ればこの試合の選択が間違いではなかったことがわかる。ラムジーやエジルの起用法に目がいきがちだが、待望の純正2トップとしての起用となったラカゼットとオーバメヤン。プレスバックも大いに貢献した。
豊富な運動量でチェルシーを苦しめたのはインサイドハーフも同じ。トレイラとゲンドゥージは試合を通してよく走った。ゲンドゥージは前向きなプレスのかけ方はうまい。スペースうめと被カウンター時の判断はまだ怪しいけども。もちろんCBコンビもこの試合は素晴らしい出来だった。ただ、ベジェリンがいなくなるのはやべぇ。

 序盤はおなじみだったハイプレスを久しぶりに採用することで窮地を乗り切ったエメリ。同じ一週間の準備期間でも前節とは雲泥の仕上がりを見せた。次節はFA杯のユナイテッド戦を挟み、カーディフとのゲーム。今節とは全く違うアプローチが必要だ。マンチェスターの両雄との間に挟まれた難しい一戦になるだろうが、4位争いの位置をキープするために勝利は必須。ひりひりした戦いはまだまだ続きそうだ。

試合結果
プレミアリーグ 第23節
アーセナル 2-0 チェルシー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 14′ ラカゼット, 39′ コシエルニー
主審: アンソニー・テイラー

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