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「新しい重心はどこに?」~2022.4.9 プレミアリーグ 第32節 アーセナル×ブライトン レビュー

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目次

レビュー

■突破できないアイソレーションの意味

 代表ウィーク明けの初戦はクリスタル・パレスに3-0と大敗。順調だったCL出場権獲得に暗雲が立ち込めたリスタートとなった。長年アーセナルファンをやっている人ならばわかると思うが、こうした時に悪いことは続くものである。主力であるティアニーとトーマスの離脱が決まり、少数精鋭でやってきたアーセナルはここにきてレギュラーポジションにさらに2つ穴が空くことになった。

 トーマスにはシーズン閉幕前に戻ってくるチャンスがあるという話だが、裏を返せばそれくらいギリギリの離脱期間ということ。基本的には今、スカッド入りしているメンバーと今月下旬のトレーニング復帰が示唆されている冨安を加えたメンバーで残りの日程を戦うことになるだろう。

 ブライトン戦はそういう意味では今後の戦いの試金石になる。特に穴が空いた2つのポジションを軸に、全体のバランスをどのように再調整していくのかという部分が大いに気になる試合となった。

 先発メンバーを見てみるとトーマスが不在のアンカーにはロコンガがすんなり収まったが、LSBはジャカが入り、タバレスはベンチ行き。スミス・ロウとマルティネッリを併用することで左サイドに攻撃的なタレントを重ねた形でのスターティングイレブンとなった。

 この試合のアーセナルの狙いを考える前に触れておかなくてはいけないのはブライトンのフォーメーションだった。基本的にはブライトンは保持でも非保持でも持ち場からの動きが多いため、ベースとなる形を見極めにくいチームである。この試合はその中でも特に動きが読み取りにくかった。そもそもブライトンのメンバーに右のワイドができそうな人とかいないし。

 ブライトンの保持は異常に左に偏っていた。おそらく3-5-2のような形がベースなのだろうが、CBの左のククレジャ、WBのトロサール、左IHのカイセドや2トップの左を務めたウェルベックなどベースのポジションが左の人以外にも、アンカーのビスマや2トップの相棒であるマック=アリスターなどの中央寄りの選手も左サイドにグッと流れて密集していた。

 左に相手を寄せて、右でアイソレーションをしたいのかな?と思ったのだが、右の大外を務めるのはグロス。単純にここからの単騎突破を狙うならランプティやマーチのような1人で何かができるような選手を置いてまでグロスを使う意味はないだろう。何か他の目的がありそうと捉えるのが自然なように思う。

 アーセナルはサイド偏重のブライトンの保持に対してうまく対応することが出来なかった。フェルトマンとダンクが2CB気味に形成するバックラインに対してはラカゼットが孤軍奮闘のプレス。ウーデゴールが出ていけなかったのはブライトンがCBからのパスの受け手がやたら多かったからである。ビスマ、カイセド、ムウェプ、ククレジャなど多くの選手が待ち受けている。塞ぎきれなさそうなら無理にプレスに行かないという判断は理解はできる。

 だけども、ブライトンの攻撃を左サイドにとどめておけなかったのは明らかな誤算だろう。左サイドのトロサールから斜めのパスを許してしまったせいでPAの侵入を許してしまっていたし、逆サイドのスミス・ロウのポジションが悪いため、右への大きな展開も許してしまっていた。密集による数的優位だけでなく、大きく開いた右まで使われてしまってはアーセナルとしては難しくなる。

 アーセナルが失点において決定的な崩され方をしたのはブライトンの人が集まる自軍右サイド側ではなく、左サイド側。つられてしまったのは左SBのジャカ。グロスへのパスによって大外までつり出されてしまい、同サイドのCBとの距離がぐっと広がってしまった。

 これを見逃さなかったのがダンク。右サイドのムウェプの抜け出しに合わせてフィードを飛ばしてアーセナルの逆を取る、抜け出したムウェプは一気にアーセナルの陣内を深くえぐったところでマイナスのトロサールにラストパス。これを叩き込んで先手を奪う。

 アーセナルとしては陣形のバランスが大きく崩れたところを仕留められてしまっていた。ただし、ブライトンとしては得点前の15分にも似たような崩しがあったので、形としてはずっと狙っていたのかもしれない。大外は突破できなくても引き付けてくれるだけで意味がある。突破力のあるWBのいないこちらのサイドは安泰かと思ったのだけど、そう甘くはいかなかった。

■不発に終わったゲームメイク

 保持においてもアーセナルはうまくいかなかった。なんとなく4-3-3っぽい風味で中央を固めるブライトン。となると、真ん中に鎮座するロコンガは消され気味だった。相変わらずポジションから逃げないので、消されるのはうまく、外にマーカーを逃がさないという意味ではよかった。

 ただ、もう少しボールを受けた機会では頑張ってほしかった。限られたボールタッチはずれたし弱いシーンもしばしば。あとは前線やIHが背負って受けた時にリターンを受ける形を作ることはもっと意識しておきたい。進んで幽閉から脱出するための動き。ある程度ボールを触れなかったのは仕方ないが、ボールを触る頻度を増やせる工夫が出来た場面はあったので、そこは改善の必要がある。

 ボールをもてるようになった後半はロコンガの活躍の機会は増えたが、ブライトンのプレスが緩んで時間をもらったことは考慮に入れないといけないはずだ。できればもう少し前半から保持における存在感は欲しい。44分のようなサイドチェンジはもっと頻度を高めなければいけない。

 中央を固めている相手に対しては当然外で勝負したいアーセナルだが、このサイドへの展開がこの日は低調。特に左サイドはひどかった。CBのガブリエウはパスのスピードが足りず、大外のマルティネッリにいい形で付けられない。ジャカにはスミス・ロウとマルティネッリを使い分けながらのSBからの司令塔タスクを期待した人も多いだろうが、こちらも不発。そもそも保持に絡めず、ほとんどノーインパクトだった。

 中央を閉じられているなら中央を囮にサイドを!という意識が出てきてもおかしくないが、途中から業を煮やしたジャカがロコンガをどかして中央でのゲームメイクを始めたので、まぁそういう流れでもないのだろう。中央にこだわってはラカゼットがつぶされるシーンを繰り返し前進できなくなっていた。

 ならばトランジッション勝負!と行きたいところだが、ブライトンの守備に対しては押し下げられているか、ボールサイド(主にアーセナルにとって左サイド)に寄せられているかのどちらか。ボールを奪った後でマルティネッリが素早くワイドで高い位置を取れる位置にいないことの方が多くカウンターの起点を作れない。

 右のサカはこの試合でシミュレーションを取られるなどコンディションには問題があった様子。トランジッションで頼みのWGにつなげないアーセナルは苦しい展開に。前半終了間際のセットプレーからの同点弾が認められていればスコアだけでもタイで終わることが出来たのだが。

■共に不可解な後半の守備

 後半のアーセナルは布陣変更。ジャカを中央に戻し、マルティネッリとサカにWB的に左右に大きく開かせることで大外にとりあえず起点を作らせる。

 ブライトンの守備は人への志向が強め。マルティネッリには右のワイドCBのフェルトマンがチェックにいっていたし、サカには左のCBのククレジャがべったり。だが、この2人がワイドに開くと、当然最終ラインは怪しくなる。そこをカバーしたのがブライトンの中盤。彼らがバックラインに吸収されることでピンチを凌いでいる。

 ブライトンはとりあえず対応はしていたが、混乱はしていたのだろう。3センターがバックラインに吸収されれば中盤の中央は空く。アーセナルとしてはここに攻め込むスキができる。ロコンガが早々にドリブルでファウルを奪取していた場面は前半にはあまり見られなかったシーンだ。

 ブライトンはトロサールとグロスの役割が不明瞭。サカやマルティネッリにボールが入った時にカバーには来るので、守備をサボってるわけではないのだろうが、フラフラと前に出ていっては、特にアーセナルの攻撃の邪魔にならない外切りプレスをかけるような場面もあったりしたので、あまりブライトンのブロックの助けになっていなかった。

 そんなこんなでアーセナルは後半の主導権を握れていた。しかしながら、後ろの陣容を見るとバックラインが3枚でそのうち1枚はセドリック。かつ、この日はジャカが崩しに躍起になっていた分、CHに戻った後もポジション放棄が目立っていたのでロコンガが中央でケツを拭く役を任されていたとなると、アーセナルは受けに回ってしまえば脆いのは明らかである。

 カウンターから押し返す元気が残っていたブライトンは66分に追加点。ムウェプのゴールはスーパーだったが、アーセナルの守備には不満が残るだろう。ククレジャに突破を安易に許した右サイドの守備、ヒールパスを決めたトロサールに触ることすらできなかったロコンガ。中央のスペースはラカゼットが埋めており、なぜかジャカが左サイドを守っていたなど不可解な点が多い失点だった。

 それでも先述のように後半の主導権はアーセナル。やたら空く両サイドの大外を軸に攻め込んでいく。ブライトンはそれならば!ということでSBのランプティを投入し、CBの負荷を減らそうとする。だが、いかんせん守備がペラペラであり、終盤にヘロヘロなサカにも全く歯が立たなかった。選手のキャラクター的に適切な役割ではない気がする。

 PA外の守備で唯一アーセナルの脅威になっていたのはククレジャ。終盤のアーセナルの攻撃はククレジャに突撃しなければ大体成功していたし、ククレジャに突撃すれば大体失敗していた。交代で入れたペペもサカと共に左に入れてククレジャの居ないサイドからひたすらぶん殴る役割にした方が効いたかもしれない。

 ただ、ククレジャへの突撃よりもアーセナルファンをがっかりさせたのは後半に得た多くのセットプレーの好機の大半をトリックプレーやショートコーナーなどの粗末な小細工に走ることでドブに捨てたこと。ようやくシンプルに蹴ったウーデゴールのFKがポストを叩いた時は『はじめからそれでいいだろ!!!』と嘆きたくなったアーセナルファンばかりだったのではないか。

 終盤、そのウーデゴールのロングシュートで追撃を見せたアーセナルだったが2点の重みを跳ね返すことは出来ず。4位トッテナムにさらに離されてしまう手痛い一敗を喫することになってしまった。

あとがき

■バランスを崩してしまっている

 パレス戦は個々の不調さが先に来る内容だったけども、この試合は全体的にバランスがおかしくなっていた。個人的に違和感を覚えたのはジャカのプレー。トーマスがいなくなったことによって、背負いすぎているのかなと。プレーのクオリティが低いわけではないのだけど、無駄に出ていくことで穴を空けたりとか保持でのやたら前がかりな感じとかはどことなく空回りしている感じはした。ちょっと嫌な負荷のかかり方だなと。精神的にも。

 個人的にはこの後の対戦相手を考えると、ここでタバレスは使っておきたかったはず。SBの対人守備的に関してはここから先の相手は負荷が高いし、押し込む機会が後半これだけ増えたのならば今季残りを見据えても出番があっても良かったように思った。

 後半の攻勢は攻守のバランスを大きく崩したゆえの産物であり、今後の課題の解決策提示とはニュアンスが異なる。冨安をセドリックのポジションに入れればまだ成り立つかもしれないが、ロコンガを中盤に残す形ではトップハーフ相手にはアキレス腱になりうる。ブライトンの守備に危うさがこれだけありながらオープンプレーで崩せるシーンはあまりにも少なかったのも課題だ。

 試合全体を見ても特にトーマスがいなくなったことでチーム全体がどこに落としどころを見つけるかを迷っている感じが出てしまっていて、そこのバランスの悪さに漬け込まれた故の敗戦だったように思う。早く新しい重心を見つけなければ、5月を待たずして今季の大目標をあきらめなければいけないという最悪の展開もあり得る。時間はもう残されていない。

試合結果
2022.3.16
プレミアリーグ 第27節
アーセナル 1-2 ブライトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:89‘ ウーデゴール
LIV:28‘ トロサール, 66’ ムウェプ
主審:デビッド・クーテ

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