MENU
カテゴリー

「『1,2年後』への挑戦」~2022.3.16 プレミアリーグ 第27節 アーセナル×リバプール レビュー

スタメンはこちら。

目次

レビュー

■プレスとリトリートの二段構え

 プレビューでこの試合における最大のポイントとして設定したのは、リバプールに対するアーセナルのプレスのかけ方である。リバプールの2CB+ファビーニョに対してどのように対抗するのか。それが立ち上がりの見どころだった。

 直近のアーセナルの振る舞いに基づけば最もオーソドックスな対応は、ラカゼットとウーデゴールがファビーニョを受け渡しながらボールサイドのCBを監視し続ける形である。

 しかし、最近のリバプールは浮いたCBを活用した前進がうまい。とりわけ、マティプの持ち上がりには光るものがあるといえる。ブライトン戦、リーズ戦では得点に結びつく持ち上がりを見せたし、インテル戦でもプレス回避の試行錯誤を見せている。

 となるとアーセナルとしてはなるべくここは余らせたくない。よって、この試合のアーセナルはサカを前プレ隊に加えることでCB+アンカーの3枚を監視することにした。

 ここで少し昔話。といってもそんなに昔じゃないけども。右のWGが前プレに参加する形はどこかで既視感があったアーセナルファンはいるだろうか。僕は何となく今年のどこかで見たことある!と思った。というわけでレビューを見返してみると、そんな風情のエッセンスがあったのは地獄の開幕3連戦。シティ戦とチェルシー戦である。

 シティ戦ではアーセナルが5バックを採用していたり、チェルシーは3バックだったりなど、微妙に今回のリバプールのケースとは違うが、右のWGに当たる選手を前から追わせているという点は同じである。

 だけども、この時のプレッシングは大失敗だった。理由は2つ。前線の選手に中間ポジションを取らせながら、ボールの行方に沿って、その場で判断を求めていたこと。だが、当然ボールは人よりも速い。練度が十分でないプレッシングはチェルシーやシティなのでこれは通用しなかった。

 もう1つはプレスのスイッチ役がCHのジャカだったこと。プレスが空転すれば後方を即座に埋めに帰らないといけないジャカに中盤からゴーサインを出してもらうという仕掛けはいささか無謀である。よってこれも頓挫の一因だった。

 さて、今回のリバプール戦で見せたプレッシングはこの2試合と比べればはるかに機能したといっていいだろう。理由は明確。バランスを変えて、プレス隊に中間ポジションで判断させることをやめたからだ。

 変えたバランスはWGの2人。右のサカが前残りする一方で、左のマルティネッリは自陣深い位置までプレスバックを行い、対面のアレクサンダー=アーノルドにひたすらついていった。時には最終ラインに組み込まれて5バックのようになる形も。それでもマルティネッリはきちんと位置を下げて、対面のSB基準での守備を続けた。

 後方が5枚になることでジャカとトーマスは前に思い切ってプレスに行ける。仮にプレスで相手を逃がしてしまっても後方は5枚。昔と比べればリスクは少ない。

 マルティネッリが大外をケアするケースにおけるメリットはもう1つ。CBが横スライドをせずにPAで迎え撃てること。従来の4バック基調だとどうしてもボールサイドにCBが引っ張られるケースが出てきてしまう。マルティネッリを戻しての5バックならばそうしたズレは発生しにくい。よって、CBがPAでクロスを待てることになり、制空権で主導権を握れることになる。

 当たり前の話だが、プレスのスイッチを入れるのがFWというのもスムーズにプレスに行けた理由だろう。チェルシー戦のシステムでは前がかりに守るか否かはジャカの裁量に拠るところが大きかったが、そもそもそれがヘンテコだったように思う。

 プレッシングにおいて浮いていたのはロバートソンのところだが、アーセナルはここはうまく対応。サカが背後を消しつつ、セドリックと交互に対応して見せた。

 リバプールはこのアーセナルのプレスに対して、ロングボールによる裏抜けに加えて、IHであるチアゴが列を下りることによりビルドアップのフォローに入るように。だが、これもアーセナルはうまく対応。アーセナルはプレッシングに加えて、4-4-2のリトリートでライン間を締める形に移行することもできていた。アーセナルが迅速に陣形を組み直すことにより、低い位置に落ちたチアゴはパスの出しどころがなくなっていた

 アーセナルはハイプレスとリトリートを巧みに使い分けることでリバプールに対して、クリーンな前進をさせなかった。

■使わせなければ穴じゃない

 アーセナルの保持のポイントとなるのは中央でのパスでスピードアップができるかどうか。3分のような密集からのパス交換でのスピードアップからの前進は通用すればアーセナルにとって大きい。このようなパスから右のサカにボールを付けて、前線勝負に持ち込むことが出来たアーセナルだった。

 トーマスへのチェックも比較的甘く、アーセナルはここから2列目にボールを供給する。トーマスに対してはヘンダーソンとチアゴが交互にチェックにいっていたが、チアゴの番においてはややプレスが後手に回っており、アーセナルはそこに漬け込んだ。

 チアゴのサイドに流れるウーデゴールもハーフスペース付近ではフリーになることが多く、リバプールはスピードアップの阻害ができない。こうした前進を許してしまったことにより、序盤はリバプールがアーセナルに対して強気なプレッシングに打って出ることが出来なかった。

 一方、ボールを預けてもらったサカはここで苦戦。『ロバートソンの裏を取って、ファン・ダイクをつり出してPAに強襲をかける!』というのが、プレビューで描いた青写真だった。この試合では青写真通りサカにボールが渡るとファン・ダイクはサイドに流れてくるという動きが実際にあった。

 だが、これは『つり出せた』と表現できるかは怪しい。個人的にはファン・ダイクが自らの意志で流れてサイドにボールがあるスピードアップ前の段階でサカを潰してしまおうという目論見があったのではないかと思う。

 なので、むしろこれはアーセナルが思うように動かして穴をあけているように見えて、リバプールがその土俵にあえてのっかっているという構図に見えた。いくら中央に穴が空こうが、その穴を突くようなプレーをさせなければ問題ない。サカをサイドでつぶしてしまえばOK。

 サカがロングボールの受け手になった際はなおさら。全体が押し上がらないロングボールのターゲットならば、内側にいるのはせいぜいラカゼット1人くらいだろう。ファン・ダイクがサイドに出ていっても問題はない。

 なので、アーセナルとしては穴をあけることは出来たけど、その穴には決して届かない!みたいな。ファン・ダイクの空けたスペースはアーセナルに砂漠におけるオアシスの蜃気楼みたいなそんな感じだったのではないかなと思う。

 ちなみにリバプールはファン・ダイクがサカを監視することで大外に流れてズレを作ろうとするウーデゴールはロバートソンによって比較的楽に捕まえられていた。本来なら中央の方が受けづらく、サイドの方が受けやすそうなものだが、そこはこの試合ではあべこべになっていたということだろう。

 一方、逆サイドのマルティネッリは対面のアレクサンダー=アーノルドに対しては1on1でずいぶん優位を取っていた。1on1ならほぼ負けなしだろう。だが、ここでも問題が2つ。

 1つはマルティネッリのポジションの問題。この試合ではマルティネッリは低い位置を取っているため、トランジッション局面ですぐさまこのマッチアップは使うことが出来ない。

 もう1つはリバプール側の手当て。隙あらばヘルプにやってくるヘンダーソンはアーセナルにとってウザい存在であった。加えて、左にファン・ダイクが流れる分、こちらのカバーはファビーニョが重点的に実施。これにより同サイドでの1on1の機会をリバプール側が限定する。

 リバプールはジョッタが引いてトーマスへの監視を強めることで中央へのルートを封鎖。ラカゼットが超絶トラップを見せた前進場面を除けば、クリティカルにチャンスメイクになる縦パスは出てこず。ボールを握ることができるもののリバプールを崩してのチャンスメイクまではいくことができない

 対するリバプールはWGを左右で入れ替え。一番キープ力があるディアスを右に配置し、同サイドのアレクサンダー=アーノルドのオーバーラップを促す。40分以降、マルティネッリがややプレスバックが遅れたこともあり、リバプールは右サイドからのクロスでエリアを脅かすように。

 CKでの決死の守備を経て、何とか前半を互いにスコアレスで終わるという流れだった。

■ハーフスペースの2人が攻略の糸口

 後半、リバプールは左サイドを軸に裏抜けを前半以上に頻繁に狙っていく。立ち上がりはひとまずこれを受け返した感のあるアーセナル。マルティネッリが大外から大胆な反撃を見せて逆にリバプールゴールを脅かす。これでリバプールのハイプレスを牽制する。リバプールがとりあえず揺さぶり、アーセナルがやり返すという構図は前半と近い流れだった。

 だが、リバプールの後半の攻め方は前半と比べるとかなり狙いが徹底していた。おそらくこれはアーセナルの撤退型の4-4-2を壊すための手法だろう。

 まず、裏抜けは左サイドを中心に。この左サイドには配置にもかなり工夫があった。大外に1人、そしてハーフスペースに2人を近い位置に集結させる。IHのチアゴは降りてアーセナルのブロックの手前からパスワークに参加する。

 立ち位置のバランスさえ守れば入れ替わりもOK。ロバートソンがチアゴの位置に落ちてもいいし、ジョッタが大外に開いてもいい。大事なのはバランスである。

 ハーフスペースに2人を置く意味はおそらく、2人のうちの先に動いた方によって作られたスペースにもう1人を遅れて侵入させたいからではないか。得点シーンが一番わかりやすく狙いが出た場面なので、そこを元に解説する。チアゴからパスが出る直前のパスは上の図の通り。再掲する。

 この場面で囮の役になったのはマネである。内側に旋回することでホワイトをどかす。ただし、この動きだけだと裏に抜けるジョッタはセドリックが絞って対応すればOKになる。

 なので、リバプールにとって次に邪魔なのはセドリック。彼を排除したい。この時にキーになったのはジョッタの振る舞い。ジョッタは裏に抜ける直前に一度ポジションを下げる動きを見せている。これが巧みなのはこの動きで自身をサカに警戒させたことである。

 この状況でロバートソンが上がっていけば当然セドリックの注意は外に向く。後はサカに背中で消されているジョッタがチアゴからの縦パスを受けれるようにコースを取り直せばOK。

 縦パス、フィニッシュの精度も完璧だが、左サイドを再三狙っていた後半頭からの狙いが詰まっているような場面。あくまでこの動きは攻略の一例に過ぎないとは思うけど。

 オフサイドながら46分にマネがネットを揺らしたシーンも、ジョッタの引く動きでアーセナルの陣形を手前に引き出しておいて、マネが裏を狙うという動きだった。このハーフスペースに同時に立つ2人でスペースを攻略するというのは、おそらく後半頭からのリバプールの保持の策略ではないか。どこまでシステマティックなものかはわからないが、1点目の場面はリバプールのオフザボールの動きの巧みさがベースにあることは疑いの余地がない。

 動き直しのスキルと連携ならディアスよりマネだ。マネとディアスのサイド入れ替えはこの攻略を前提とした狙いもあったのかもしれない。

 とにもかくにも先制はリバプール。ラストパスが決まらなかったマルティネッリの左サイドからの突破、チアゴからのプレゼントパスをアリソンの見事なリカバリーで活かせなかったウーデゴールとアーセナルは結果が出せそうになった流れを活かせず、逆に失点する格好になってしまう。

 ここが勝負どころと見たリバプールはここで一気にプレス攻勢に。いつメン3トップに交代を行うと即時奪回でアーセナルの陣内でのボール奪取を行う。すると、エリア内でアーセナルの対応のミスを誘うリバプール。サカのクリアをひっかけて拾ったロバートソンがラストパス。これをフィルミーノが沈めて追加点を奪う。

 苦しくなったアーセナル。交代で入ったスミス・ロウとマッチアップの中で唯一勝ち目のあるマルティネッリにすべてを託す。しかし、頼みのマルティネッリは自陣深くまで戻る守備を課されている影響か、失点以降は完全にガス欠に。前半のような輝かしい突破はこの時間帯においてはもう見られなかった。それでも終了間際にあわやというシーンを作るのだから、大したものである。

 ぺぺ、エンケティアと続々と戦力を投入するアーセナルだが、時間が経つにつれて前進の手段が苦しくなってきた感は否めず。逆にリバプールは時間の経過とともに余裕をもって選択肢を選ぶ機会が増えた。

 3点目を取りに行ったリバプールだが、これはアーセナルのバックラインが体を投げ出して何とか阻止。ズルズルと失点を重ねなかったのはガブリエウ、ホワイト、ティアニーの功績が大きい。

 しかし、得点は最後まで奪えず。今年もアウェイに続きホームでもリバプールには敗戦。リーグ戦の連勝も5でひとまずストップしてしまうこととなった。

あとがき

■見えてきた逆転優勝のシナリオ

 いやー、リバプールは強かった。ファン・ダイク、ファビーニョ、アリソンはもちろん、ヘンダーソン、ロバートソンといった比較的いぶし銀の面々の仕上がりにビックマッチの心得を教わった気分である。負傷明けのサラーも含めてやや前線は本調子ではなかったが、それでも2得点なのだから十分だろう。これでシティとの勝ち点差は1。ついにエティハド決戦での首位交代がグッと見えてきた印象だ。

■掴んだ『1,2年後』への挑戦権

 正月のシティ戦に続き、ワンチャンスに賭けるような戦い方をしないで済んだのは成長といえる。その一方で、90分間手を替え品を替えやり遂げる!というこの試合で勝ち点を得るために必要なことは完遂しきれなかった印象だ。

 『撤退しながらワンチャンスを生かして何とか食いつく』と『がっぷり四つで食らいつき、最後は力負け』は結構違いがあるが、『がっぷり四つで食らいつき、最後は力負け』と『がっぷり四つで食らいつき、勝ち点を得た』もまた結構距離がある。今日のアーセナルとしては出来ることはやったといえるが、今日のリバプールから勝ち点を獲るには取りなかったというのがこの試合の個人的感想である。

 さて、アーセナルの次の目標はこうした試合を積み重ねていき、後半のリバプールのようなしぶとさやしたたかさを身に付けること。そのための足掛かりにしなければいけないのが、もちろんCL復帰である。

 自分の質問箱にリバプールファンから『アーセナルは1,2年後に怖いチームになっていそうと感じた』という感想が届いていた。他のクラブのサポーターにこうした恐れられ方をしたことは今まで何回かあった。けども、実際にその『1,2年後』が訪れた試しは自分がファンになってからはまだない。強いチームになる予感はあっても、実際にリーグに君臨することはなかなか最近のアーセナルにはできていない。

 だが、ここ数年のアーセナルはそうした明るい未来を見据えることすら難しかった。時間がかかり、多くの選手を迎え、多くの選手との別れを経て、ようやく再び『1,2年後』への挑戦権を得ることができた。もうこの挑戦権を手放すわけにはいかない。プレミアのどのチームも対戦を恐れるアーセナルになるためのこの機会を決して逃すわけにはいかないのだ。

試合結果
2022.3.16
プレミアリーグ 第27節
アーセナル 0-2 リバプール
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
LIV:54‘ ジョッタ, 62’ フィルミーノ
主審:アンドレ・マリナー

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次