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「できることコレクション」~2023.12.17 プレミアリーグ 第17節 アーセナル×ブライトン レビュー

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レビュー

狙い通りではあるが思い通りではない

 共に欧州カップ戦をミッドウィークに戦った両チーム。すでに首位での通過を決めており、その試合で大幅なターンオーバーをできたのはアーセナル。首位通過が決まっていない(2位なら2試合増えるのでCLよりもELの方が首位通過の重要度は高い)ことで主力を投入し、かつ中2日でエミレーツにやってくるブライトンとはコンディションの差があるのは当然である。

 そんなコンディションの差を利用するように立ち上がりに目立ったのはアーセナルのハイプレスである。ジェズスに加えて、前線にはウーデゴールが入り時折GKにまでプレッシャーをかけていく。

 ブライトンはロングキックを蹴ることはなく、自陣でのボールのつなぎに終始。プレビューで触れた明確なCHのサリー(これを直近の試合で実践しているバレバはこの日はベンチだった)は採用されず、2CBの前の2CHが細かくポジションを調整しながらアーセナルのプレスに対峙する。

 ギルモアとグロスの関係性は不定形であり、グロスがギルモアと縦関係のギャップを作るポジションを取ったり、あるいはギルモアが左サイドに落ちるアクションをしたり。特に狙いが見えたのはギルモアの左落ちの動き。自らが列を下げて中盤を空けて、空いたスペースにララーナが降りてくることでさらなるプレス隊の引き寄せを行う。

 降りて自分が結果的にフリーになってもOKだし、中盤を引き出すことでファーガソンの周りがフリーになってもOK。そういう意味ではブライトンのビルドアップはアーセナルのプレス隊を狙い通りに引き寄せられたといっていいだろう。

 ただし、狙い通りではあっても思い通りではない。降りてくるララ―ナに対してはライスが完封。その後方のファーガソンに対してはガブリエウもサリバも1人で相手を抑えることができていた。

 そのため、ブライトンは左サイドの降りる選手を三笘やファーガソンに調整することで対応。しかしながらサリバが降りていく選手を潰し続けることで落ちる選手を変えることに明確な効果が見られることはなかった。

 どちらかといえば単純にアーセナルの選手が取り切ってしまうことが多いため、ブライトンのビルドアップよりもアーセナルのプレスの方が優勢といえるだろう。ライスとハヴァーツのIHの前ベクトルの守備は凶悪。繋ぎたがるブライトンの心を見事にへし折り続けていた。

 ブライトンがより押し込んだ配置を作れれば3バックを形成。SBのミルナーを三笘のそばに寄り添わせる形が多かった。ブライトンの基本のスタイルで言えば三笘が大外に張るパターンもあったが、大外にミルナーが出張るパターンもそれなりに見られた。

 このレーン割り振りの理由はいくつか考えられそうだ。大外のミルナーにより対面のサカを押し下げる措置、ララーナが列を落ちるアクションを頻発するためファーガソンのそばに前を向いて怖い三笘をおきたかった、ライスの背後に三笘を忍ばせることでフリーになりやすいorライスのプレスを牽制などがざっと思いつく例だろう。

 素直に大外に三笘を置けば?という思いもわからなくはないが、ただ三笘を大外においてもホワイトはともかくその背後に立つサリバまで三笘一人で何とかするのは無理だろう。何かしらの工夫は必要な状況で、レーンを入れ替えるというのはデ・ゼルビのアイデアなのだろう。ただ、この保持のスキームは単純にここに至る頻度が低すぎるために実効性を検証するのは少し難しい感じがした。

消えるジンチェンコが問題なかった理由

 アーセナルのプレスはボールを奪った後はスムーズに右サイドに展開。そこからカウンターに移行する。ミルナー×サカのマッチアップは予想通りアーセナルにとって非常得になるマッチアップ。さすがにブライトン目線ではかなり厳しいマッチアップだった。

 三笘がミルナーのヘルプに来ることもなくはないが、同サイドからホワイトがオーバーラップを仕掛けていくと、サカのマークをあっさりと捨ててしまうため、そうなるとアーセナルは1on1で仕掛けができる。この辺りは三笘が云々というよりはチームとしての優先度がサイドで枚数を合わせて守るということだろう。

 ただ、質で殴るアーセナルはこの右サイドを集中攻撃。サカとウーデゴールが延々とギャップを作り続け、そこにライスとジェズスが絡んでくるという状況は相手からすれば頭が痛いだろう。サイドからは延々とアーセナルがクロスを上げることができる状態が続いていく。

 左サイドは立ち上がりこそフェルトマンがマルティネッリを潰したスタートとなったが、負傷でヒンシェルウッドに代わったことでアーセナルが優位を取り戻した印象。特にマルティネッリの縦突破に対してヒンシェルウッドはついていけないため、左足からのクロスを入れ放題という状況だった。

 左右からクロスが無限に入ってくる状態を何とかできたのは両CBの跳ね返し能力の高さゆえ。特にファン・ヘッケの前半のパフォーマンスは圧巻。アーセナルの最後の局面に間に合わせ続けながらシュートブロックに入ることができていた。

 プレスからのショートカウンターの話から始めたため、アタッキングサードについてフォーカスした話の筋になったが、自陣からのビルドアップもアーセナルは良好。ブライトンは人基準の守備がベースではあったが、ジンチェンコに対してアディングラがついていくところはかなり極端に人についていくことを意識していたように思う。ジンチェンコはこれに気付いており、ビルドアップには関与しないことで自分もアディングラもアーセナル陣内から締め出した。

 こうした状況にあっさりと対応が可能なのは直近のSBにキヴィオルが入ったケースではインサイドに絞るアクションはなかったため。右サイドからウーデゴールが降りるアクションからビルドアップに絡むバランスはすでにその時点で確立済みだ。

 ウーデゴールやサカが降りるアクションを行うのに合わせるようにジェズス、ライスが列を上げてウーデゴールやサカのマーカーが空けたスペースを利用する。前方の選手が降りるときの後方の重たさも、前に上がりすぎることによる後方のバランスの悪さもこの日のアーセナルにはなし。非常にリスク管理ができている攻めを構築しつつ、オフザボールのランもさぼらないことでブライトンの守備ブロックに対してスピード感のあるアタックを実現できていた。

 逆サイドでは30分のシーンのようにジンチェンコがアディングラを振り切って前方で仕事をする場面もちらほら。消えるだけでなくそこに自らの個性も上乗せできていたのでパフォーマンスとしては文句なしだろう。

 あとはアーセナルに足りないものはゴールだけ。相変わらずパフォーマンスが安定しているダンクとファン・ヘッケの牙城を崩せなかったことがブライトンのよりどころだったし、不用意なジンチェンコのリスタートから三笘と対峙するホワイトに警告が提示されたことがアーセナルに前半につけることができた唯一の傷だった。

左サイドの裏抜けにご褒美が

 後半、ブライトンはビルドアップの陣容を変える。CBにヒンシェルウッドを残す形+ギルモアにビルドアップ隊を制限。相棒のグロスは右サイドに流れることに。

 これによりハヴァーツのプレス参加を制限。あえて前方に漂うことでアーセナルの前プレを弱めるのがブライトンの狙いだった。実際のところこの変更でジェズス、ウーデゴールに加わる三の矢がなくなり、ブライトンはボールを持つ時間を前半よりは作れていた。

 しかしながら、降りてくる選手への厳しいアーセナルのチェックがこのブライトンの対策で緩むことはない。ララーナのワンツーのような落としもあっさりと封じるなど、プレスは弱められても機能的な加速につなげるまでは至ることができなかった。

 さらには前プレが効かなくてもアーセナルは前進できないわけではないので、ブライトンのこの措置はアーセナルの強みの一部を削ったに過ぎない。自陣からのボールキャリーから敵陣でのプレータイムを前半と同様に確保するアーセナルはセットプレーから先制。ゴールマウス付近のニアにボールを集めていたアーセナルだったが、混戦のニアでのクリアがファーまで流れてきてこれをジェズスが仕留めた。ニアで触ってしまったのがこの日ピカイチだったファン・ヘッケという切ない因果はプレミアではよく見る光景でもある。

 失点を受けて3人の交代に踏み切ったブライトン。左にイゴールを入れたのはサカ対策だろう。右のヒンシェルウッドを解放する形でイゴール、ダンク、ファン・ヘッケの3人がバックスに入り、三笘のサポート役には逆サイドからグロスが移動することとなった。

 ミルナーよりも攻撃性能に優れるグロスが左に流れたことは厄介ではあったが、アーセナルにとって盤面は悪い状態ではない。先制点によりブライトンは無理なプレスに出ていく必要が出てきたためラインを高く保つ場面が増える。ダンクとファン・ヘッケが猛威を振るっていたのはあくまでボックス内での話。アジリティに不安のある両者をPAから引っ張り出せれば、アーセナルのアタッカーとの優劣は入れ替わることとなる。

 マルティネッリ、ライス、ハヴァーツ、ジェズスとヒンシェルウッドの背後を安全地帯としてカウンターからガンガン攻め込むアーセナル。即時奪回のプレッシャーを逃がすところではこの日キレキレだったウーデゴールと、広いスペースでダンクを手玉に取ったジェズスが見事。グロスを左に送った手当てに比べて、先制点による変化がもたらしたアーセナルの得点の可能性は十分に大きいものだった。

 それでもフェルブルッゲンのファインセーブでなんとか踏ん張り続けるブライトン。最後の砦となったウェルベックの投入はトップで張り付くことを余儀なくされていたジョアン・ペドロの解放に非常に効いていた。ピッチのあらゆるところでのポストで起点を作れるジョアン・ペドロはこの試合最後の三笘の相棒。ホワイト相手に手前で起点を作ることで背後のスペースを作り出し、三笘→グロスの決定機を作り出すことに貢献した。最後までブライトンが勝ち点の可能性を残したことがあと一歩で結果につながる可能性があったシーンだ。

 しかし、実際に得点を手にしたのはアーセナル。トロサールとジンチェンコから左サイドで時間を作り出すとウーデゴール→エンケティアと繋ぎ、最後は左に流れたハヴァーツ。前半から前線への飛び出しをさぼらなかった左サイドから試合を決めるゴールを仕留める。ライスも含めて後半もこの飛び出しができるCHのバイタリティには頭が下がるばかりである。

 試合の多くを完全に支配し、あらゆる局面でブライトンを圧倒したアーセナル。首位に浮上し、アンフィールドでのクリスマス決戦に臨むこととなった。

あとがき

 アーセナルは今季の中でも相当上位に入る内容だった。強度面という今季の頭から指摘されている部分は試合の状況(相手や前後の日程)次第で出し入れできるような印象だし、それを90分持続させたことは偉い。前線からCBまで中央ユニットの守備ブロックの凶悪さはなかなかのもので、これをトーマス抜きで成立させている時点でアーセナルは十分層が厚くはなっている。特に降りる動きとリンクさせて前線へのフリーランをハードな守備と両立させていることは特筆すべきところである。

 ブライトンはあらゆる策を講じてはいたが、アーセナルのあらゆる強度に屈した印象。今できることはやっていたが、それでもアーセナルが前半戦で積み重ねた「できることコレクション」のような90分の前では通じないところが出てきても仕方ないという感じの日だった。

試合結果

2023.12.17
プレミアリーグ 第17節
アーセナル 2-0 ブライトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:53‘ ジェズス, 87’ ハヴァーツ
主審:ティム・ロビンソン

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