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「Catch up Premier League」~Match week 25~ 2022.2.12-2.13 etc

目次

①マンチェスター・ユナイテッド【6位】×サウサンプトン【10位】

■トーンダウンで抜け出せないドロー沼

 立ち上がりから積極的な攻勢の連続。非常に決定機の多い序盤戦となった。ユナイテッドは6分にロナウド、9分にサンチョが惜しい場面を作る。どちらのシーンも裏に走るアタッカーが最終ラインを振り切りながらフリーの状況でGKと1対1を迎える。だが、これはフォースターがセーブして事なきを得る。ユナイテッドはこの場面に限らず直線的な動きでサウサンプトンの最終ラインに機動力勝負を仕掛けることで優位に立つ。

 一方のサウサンプトンもチャンス創出はできていた。こちらはサイドのクロスから決定機。大外から奥行きのある形のクロスを上げる形で決定機を迎える。だが、ユナイテッドよりも手早い形ではない分、決定機の多さ的にはサウサンプトンは劣勢。サウサンプトンはユナイテッドのボールホルダーをフリーにしてしまうと、直線的に縦パスを繋がれて一気にユナイテッドにピンチの場面を作られてしまう。

 サウサンプトンはその状況を受けて10分過ぎに5バックをベースに変更。前節と同じくSHの撤退守備を早めることで5バックに変形。5-3-2で中央を固めるフォーメーションを採用し、縦パスを連続的に繋がれることをまずは防ぎ行く形である。

 だが、それでもユナイテッドは縦に早い裏抜けからの決定機。ラッシュフォードがラインを破り、敵陣にボールを運ぶとラストパスを合わせたサンチョが嬉しい初ゴールをゲット。立ち上がりから続けていた直線的な動きでユナイテッドがようやく先制点を手にする。

 この場面はサウサンプトン視点でいえばサリスの対応が怪しかった。サイドでアクロバティックなクリアにトライして一気に裏を取られてしまったが、そこまで賭けに出る場面だったかどうか疑問。もう1人のCBのベドナレクも裏抜けに対する対応の博打成分が高く、ピンチの原因になっていた。

 サウサンプトンはフォーメーション変更で重心を上げにくくなった分、チャンスを作りづらくなってしまう。だが、それでも糸口を見つけるのはさすが。横へのスライドが大きいユナイテッドのCHをサイドにずらし、彼らが開けた中央のスペースに入り込むことでDFラインの前で前を向く選手を作りチャンスを作るようになる。

 アプローチを変えたサウサンプトンは後半早々に追いつく。CHが開けたスペースで前を向くタスクを前半から行なっていたエルユヌシが左のハーフスペース付近で絞って前を向くと、ここからアダムスにラストパス。角度のあるところから同点ゴールをゲットする。

 ユナイテッドはここ数試合見られる悪癖がこの試合でも露呈。後半頭から前半から大幅に割引されたプレーでチャンスの頻度がグッと下がってしまう。この試合で言えば、前線のフリーランはチャンスメイクの生命線なのだが、そのフリーランの頻度が低下。守備においてもポグバなどのサボりが目立ってしまい、サウサンプトンに前半よりライン間を使われるように。

 サウサンプトン的には左のハーフスペースから前を向き、ショウの戻りが遅れやすい逆サイドの裏から一気にラインを押し下げるというチャンス創出パターンが完全にハマった形である。後半になってもブロヤは運動量が落ちなかったのは圧巻。柔らかいタッチと高いキープ力で縦に早いテンポの攻撃の牽引役となった。

 ユナイテッドはマグワイアの決定機など惜しい場面がなかったわけではないが、後半はむしろよく逆転されなかったと胸を撫で下ろす展開だったと言ってもいい。悪癖を克服できなかったユナイテッド。負けないけども勝てないというループから今節も脱することができなかった。

試合結果
2022.2.12
プレミアリーグ 第25節
マンチェスター・ユナイテッド 1-1 サウサンプトン
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:21′ サンチョ
SOU:48′ アダムス
主審:スチュアート・アットウェル

②ブレントフォード【14位】×クリスタル・パレス【13位】

■サイドからの決定打を見出せずトンネル継続

 5連敗中という今季最も長い連敗記録を何とか止めたいブレントフォード。今節の相手はこちらも2022年になってから未だにリーグ戦の勝利がないクリスタルパレスである。

 連敗中のブレントフォードにとって前向きな材料といえば、当然GKのラヤの復帰である。最終ラインからの司令塔が復帰したことにより、ブレントフォードはボール保持の確固たるパターンが復活。最終ラインもラヤというボールの戻しどころがあるため、自陣深くでも余裕を持ったビルドアップが可能となった。

 だが、前進の精度まで保証されていたかといわれるとそこは別の話である。この日はターゲット役となるトニーが不在。ブレントフォードの攻めのパターンは手段不問で敵陣深い位置でWBにボールを渡し、そこからクロスを上げるというものである。トニーへのロングボールはその手段の中でも最も精度が高いもの。ラヤはWBも含めてあらゆる方向にボールを蹴りながら前進のやり方を模索していたが、なかなか得意の攻めのパターンまで至ることが出来なかった。

 そういう点では3-2-5に変形してビルドアップをすることができるクリスタル・パレスの方が敵の陣内まで安定してボールを運ぶことが出来ていた。だが、こちらもチャンスメイクまではたどりつけず。押し込んだ後の5-3-2のブレントフォードのブロックに苦戦。大外ではザハが封じられ、ニアのサポートもブレントフォードのIHとCBに消されてしまう。

 ザハのいない右サイドでは左以上に苦しむ。局地戦で1on1を挑めるオリーズを起用していればもっと勝負になったのだが、さすがにアイェウには荷が重い役割。いつもだったらサイドに顔を出して+1の役割を担うギャラガーもこの日はどこか大人しかった。クロスを上げてもブレントフォードには跳ね返し耐性があって効果は薄め。パレスは押し込んでからが遠かった。

 後半、両チーム選手を代えながらマイナーチェンジ。ブレントフォードはダ・シルバの投入で、おなじみのファーへのクロスだけでなく、ニアに抉るドリブルからのマイナスのコースも創出。新しいパターンを与える。

 後半のブレントフォードはCBの選手が対角にフィードを飛ばすパターンを積極的に活用。前半に比べれば、敵陣に攻め込む機会は増えたように思えた。

 一方のパレスは右にオリーズを投入。左右に翼を起き攻め手を増やす。だが、これにはブレントフォードのIHがスライドして2枚で見る形で防ぐ。

 だが、互いに試合を完全に握るほどの優位は作れずに試合終了。長らく勝ちがない両チームにとって未勝利のトンネルはまだ続くこととなった。

試合結果
2022.2.12
プレミアリーグ 第25節
ブレントフォード 0-0 クリスタル・パレス 
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
主審:シモン・フーパー

③エバートン【16位】×リーズ【15位】

■土俵に上がってきた相手を叩きのめす

 前節はニューカッスル相手に苦戦。ボール保持に舵をきったランパードのエバートンはニューカッスルのプレスの前に解決策を見出せずに難しい内容に終始してしまうことになってしまった。

 彼らの問題はショートパスを大事にするというスタンスを取りながらも局面では前を向くことを個人のスキルに委ねていることである。配置によって周りの選手で協力しながら前を向かせるという連携の構築にはまだ至っておらず、対人スキルが通用しなかったり囲まれて狙い撃ちされたとしたら詰んでしまうという難点がある。

 そういう意味ではリーズは今のエバートンにとって有難い相手だったように思う。マンマーク色の強い彼らのスタイルに対する解決策はまさしく『個人で個人を剥がすこと』。今のエバートンが選手たちに委任している要素である。

 個人個人の強度で言えばエバートンはリーズよりも上。リーズが局地戦に持ち込んでくれたことはエバートンにとって非常に助かったはず。加えて、この試合のリーズは守備の対応が軽かった。ハードに人にマークにいくという部分はもちろん普段からリーズが行っているのだけども、そこからボールホルダーに安易に飛び込んでしまったせいで剥がされてしまうというシーンが目についた。

 こうなればエバートンはだいぶ楽である。先制点のコールマンの場面においてもそう。押し込んだ場面でサイドから安易にボールホルダーに飛び込んでかわされてしまったせいで、エバートンはだいぶ余裕を持ってエリア内でパスを繋ぐことができていた。

 もっとも、リーズの安直な飛び込みがなくてもエバートンはカットイン等のドリブルでのマークマンを剥がしてのチャンス創出を連発していたので、飛び込まなければ優勢が覆っていたかというと微妙なところであるけども。

 セットプレーで追加点を得たエバートンに対して、リーズは後半頭から3-3-3-1にフォーメーション変更。エバートンの4-4-2に対して人と人の間や外側に配置できる形で優位をとり押し込む機会が増える。

 だが、この日のエバートンの守備陣は非常に集中していた。いつもならどこかバラバラな印象のあるクロス対応も冷静に対処。リーズの押し込んでからの攻撃をどっしり跳ね返していた。かつ、ロングカウンターからのチャンスメイクも十分。リシャルリソンが3点目をとって試合を決定的なものにする。

 相手が得意な土俵に上がってくれたとはいえ、まずはエバートンにとって一番欲しかった勝利という結果が出たのは大事。それも攻守が噛み合った完勝である。迫り来る降格圏から少し離れることでできてまずは一安心だ。

試合結果
2022.2.12
プレミアリーグ 第25節
エバートン 3-0 リーズ
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:10′ コールマン, 23′ キーン, 78′ ゴードン
主審:グラハム・スコット

④ワトフォード【19位】×ブライトン【9位】

■なめらかなビルドアップをベースとした完勝劇

 使用するフォーメーションは変幻自在なブライトンだが、今季はここまで4バックが主流。だが、この試合では久しぶりに3バックを採用。直近での3バックでのスタートはミラーフォーメーションとして組み合うために採用したチェルシー戦くらいである。

 立ち上がりから3バックを意識した幅の広いビルドアップを行っていたブライトン。大外にはWBのククレジャとランプティの2枚が常駐。特に右のランプティは対面する相手を剥がせるスキルの持ち主。優位を取れる貴重な存在である。

 それに加えて、IHがサイドのフォローも可能。ニアのハーフスペースの抜け出しや、大外とのレーンの入れ替わりなど人についていく意識が強かったワトフォードの守備を振り回すことができていた。

 ブライトンはサイドチェンジもスムーズで、横断しつつ薄いサイドを作りながら突破するスキームまでが滑らか。機があれば同サイドCBの攻め上がりも許容しており、厚みを持たせたサイドの攻撃を見せることができていた。逆にワトフォードの守備は2トップが数的不利の3バックに歯が立たず、ほとんどプレスの先導役として機能してなかった。

 ただし、この2トップは攻撃になると非常に頼りになる存在。だが、いつもと比べて手早い直線的な攻撃が少なく、幅を使いながらゆったりと攻める機会が多かったのは気になった。SBのオーバーラップを使った攻め方もできなくはないけど、2トップ単騎が一番効くし、結局時間はかかっても『頼むぜデニス!』ってなっているシーンも多かったので。

 というわけで試合はブライトンペース。左右に振り回されて広く守らされ続けるワトフォードは徐々に中央が空くようになる。すると、今度は縦パスをさす形で直線的に進むブライトン。あらゆる攻め手でワトフォードを翻弄する。

 そんなブライトンは前半終了間際に先制。大外のランプティからのクロスをモペイがダイナミックなボレーで決めて先手をとる。がっかりストライカーらしからぬビューティフルゴールで試合の流れに沿った得点を手にしたブライトンだった。

 後半、サールを投入し個人で戦えるアタッカーを増員したワトフォード。4-3-3に変形して反撃に挑む。ただし、解決策はフォーメーションを変えても同じく個人に依存する局地戦。2人以上が絡むパスワークは非常に少なく、サールやデニスの打開力頼みになってしまう。

 この試合のブライトンが良かったのはボールロストの仕方で下手を打たなかったこと。彼らのロングカウンターが繰り出されるようなポゼッションの拙さを見せずに、きっちり敵陣に押し込んでカウンターの発動が難しい状況に追い込むことができていた。

 安定した仕組みから生み出されるポゼッションで90分間ワトフォードを上回ったブライトン。ワトフォードはこれでホジソン就任以降の3試合で無得点。守備に人員を割くことである程度の立て直しはできたが、3ポイントを取るための得点がどうしてもついてこない苦しい状況だ。

試合結果
2022.2.12
プレミアリーグ 第25節
ワトフォード 0-2 ブライトン
ヴィカレッジ・ロード
【得点者】
BRI:44′ モペイ, 83′ ウェブスター
主審:ジョナサン・モス

⑤ノリッジ【18位】×マンチェスター・シティ【1位】

■健闘の30分と対応力のそれ以降

 シーズンの序盤の絶望的な状況から比べると、いくばくか希望が持てる状況まで回復したといえそうなノリッジ。ディーン・スミス就任以降は守備に安定の兆しが見え、しぶとく勝ち点を拾う試合が増えてきている。

そんなノリッジと今節対戦するのはラスボスのマンチェスター・シティ。リーグ連覇に向けてひた走る王者に対してスミスはどのような策を講じるのかがこの試合の見どころである。

 直近数試合のノリッジは4-4-2型のフォーメーションが基本だったが、この試合は4-5-1を採用。スタメンの入れ替えもあったので、スカッド的な理由もあり得ない話ではないが、基本的には普段よりも撤退しながらの守備に念頭を置いた形をこの試合に向けて敷いたといっていいだろう。

 前回の対戦に比べれば、守備の練度は大幅に高まったのは間違いない。同サイドに人数をかけるマン・シティの崩しに対して、ノリッジはきちんと圧縮することが出来ていたし、同サイドからの崩壊を食い止めることは十分できていた。

 マン・シティ側の事情でいうとアンカーがフェルナンジーニョだった影響は否めない。ロドリほどサイドチェンジの速度や精度を備えておらず、同サイドにスライドするノリッジの守備陣に対して、優位を取れる揺さぶりをかけることが出来なかった。

 ノリッジは最終ラインの押し上げをサボらずに行っており、反撃の機運も十分。ラシツァのドリブルを軸としたカウンターはゴールに迫る場面を少ないながらも作り出していた。

 上々だったノリッジだったが、当然このまま終わらないのが首位のチームである。アンカーから速いパスを供給できないのであれば、サイドから一発で供給すればいいやろ!ということでワイドプレイヤーからバシバシとサイドチェンジを開始。徐々にノリッジの守備陣に綻びを作っていく。

 すると30分には先制点。マフレズ→スターリングというWG to WGのパスワークでノリッジのゴールをこじ開ける。ノリッジの守備網も前半30分までは悪くはなかったが、ここからは王者の対応力が上回る展開にだんだんとシフトしていく。

 ここからはノリッジの攻略法を見出してしまったマン・シティによるゴールショーとなった。迅速な左右への展開から後半開始早々に2点目を取ると、セットプレーからさらに追加点。一気に試合を決めてしまう。バックラインとサイドプレイヤーがアンカーの展開力を補いながらノリッジを横に揺さぶっていく構造で安定を見つけてしまっていたマン・シティであった。

 ノリッジは反撃も徐々にしりすぼみに。核弾頭のラシツァはウォーカーにピタッと止められるようになってしまったし、プッキは独力でディアスとアケ相手に違いを作れるほど絶対的ではない。サージェントは自陣の深い位置まで下がる頻度が高く、攻撃に出る余裕がそもそもない。。

 反撃の術を失ったノリッジ相手に、マン・シティは若手を次々と投入。中でもデラップのPK奪取は本人の自信になっただろう。今季は苦しんでいるスターリングもこのゴールでハットトリックを達成。30分で困難を解決したシティが終わってみれば力の差をみせつける大勝を果たした。

試合結果
2022.2.12
プレミアリーグ 第25節
ノリッジ 0-4 マンチェスター・シティ
キャロウ・ロード
【得点者】
Man City:31′ 70′ 90′ スターリング, 48′ フォーデン
主審:アンドレ・マリナー

⑥バーンリー【20位】×リバプール【2位】

■仕込まれたリバプール対策

 バーンリーが上位対決をやるという試合はエンタメ性に欠ける展開になりがちなのだけど、個人的にはこの試合はとても楽しめた。いいプレーがたくさんあった!とかそういうわけではないのだけど、なんで試合がこういう展開になったのか?に至るまでを考えるのが楽しかった。

 試合の内容としては当然リバプールの方がボールを持つ展開にはなっているけども、極端に支配的な展開にはならなかった。むしろ、中盤に締まりがないダラっとしたロングボールが飛び交うバーンリーの得意な展開になった。 従ってバーンリーにもチャンスは十分。前半でいえば、肌感覚としてはバーンリーの方がややチャンスが多いように思えたくらいである。

 試合がそういう展開になったのには個人的には2つ理由があると思っている。1つ目はバーンリーの攻め方の話。この試合のバーンリーの保持はかなり周到に準備をされていたように思う。

    冬の移籍市場でCFがウッドからベグホルストに代わったことで、直近のバーンリーは相手の最終ラインの前でポストプレーを行うことが増えていた。しかし、この試合は明らかな例外。最終ラインから前線に出されたボールはほとんど裏へのもの。それに合わせて選手が抜け出す形である。

 選手の抜け出しには十分な数が用意されていることが多かった。今季ほとんどの試合で先発しているマクニールを外し、SHにコルネとレノンという今季最前線でも起用されている選手を置いたこともリバプール相手に本気に点を取りに行っている証拠。常に3人近くが抜け出しており、リバプールのDFラインが危うい形で受けることもしばしばだった。

 バーンリーはボールを出すタイミングも相当図っていたように思う。後方からせーの!で蹴るのではなくて、外から内側にバーンリーの中盤が横パスを受けたタイミングでワンタッチで前に蹴りだすことが多かった。これに何の意味があるかというと、リバプールの中盤が食いついたタイミングになるので、彼らとしてはラインを押し上げたタイミングで裏を取られることになる。

 特にバーンリーはファビーニョが食いついた時を狙っていたように思う。アンカーの彼が前がかりになれば、裏を取られて背走するDFラインをカバーできる役割は実質不在になる。軽い守備が散見されるリバプールのIHを1枚剥がして、ファビーニョがカバーに出たタイミングで裏に蹴る。これがこの試合のバーンリーのチャンス創出パターンだった。点にはならなかったけど、ここ数試合で断トツに点が入りそうだった。

 もう1つ、この流れを作った原因はリバプールのスタンスにある。バーンリーのこのやり方を封じるだけなら対策は非常に簡単。彼らにボールを持たせて、裏に抜けるスペースを埋めてしまえばいい。けども、リバプールはそういうことをしないチームである。

    シーズンの雌雄を決する首位決戦や、ラウンドが進んだCLの決勝トーナメントならば、そうした細かいスペースのマネジメントにもこだわるだろうが、基本的にはオープンな展開はどんとこいである。当然、勝つ自信があるから。1つのミスの代償が高くつくCLとは異なり、バーンリーという相手を踏まえれば、リバプールがオープンな蹴りあいを制御しないのは当然のように思える。

 ダイチが仮にそこまで計算してこのやり方で得点機会を増やす奇襲をかけたのなら見事なものだし、その誘いを受けながら勝ちきるリバプールも見事。セットプレーのスラしに飛び込むファビーニョは技ありであった。

 試合自体はエンタメ性の高いものではないけども、その展開を作った背景まで見てみるとおもしろいという非常に興味深い試合だった。

試合結果
2022.2.13
プレミアリーグ 第25節
バーンリー 0-1 リバプール
ターフ・ムーア
【得点者】
LIV:40′ ファビーニョ
主審:マーティン・アトキンソン

⑦ニューカッスル【17位】×アストンビラ【11位】

■クリーンな前進が決め手になる

 冬の移籍市場を経て上り調子になっている両チームによる一戦。サウジアラビアマネーの流入で即戦力の大量補強にこぎつけたニューカッスルと、コウチーニョの合流とジェラードの就任で勢いを増しているアストンビラ。両チームのファンは明るい気持ちで春を迎えることができるだろう。

 どちらのチームも自陣深くからのビルドアップを志向。特にエディ・ハウが就任して時間が経ったニューカッスルは徐々に腰を据えてポゼッションを頑張り始めた感である。CBが横に開きながらボールを持ち、GKがビルドアップに参加する。その前にはアンカーのシェルビーが縦パスを受ける機会を伺う。精度はまだまだだが、本気度は十分うかがえる。

 アンカー起用が定着しつつあるシェルビーは守備でも珍しく強度十分。14分にラムジーのハーフスペースへの裏抜けをカバーしたシーンなどはチーム全体の士気の高さがうかがえる場面でもある。

 ただ、そこからもう一歩を踏み出せないのが今のニューカッスル。アストンビラのシャドーはニューカッスルのCBとSBの中間ポジションに位置する。そのため、ニューカッスルはCB次第ではSBに時間をもらいやすい。だけども、そこのズレを利用してどうこう!というところまでは保持のクオリティが整っていない印象。迷ったらとっとと蹴る形で前線のウッドのフィジカルを活かそうとする形が多かった。

 アストンビラも保持のメカニズムも結構似たようなもの。GKを挟むようにCBが立ち、最終ラインが横に開きながらポゼッションをするが、ズレを使うショートパスよりも前線への長いボールを優先することが多かった。

    もっとも、アストンビラは困って蹴るというよりは、ミングスの対角フィード積極的に生かしたいという意図はあったように思う。最悪、そこで優位を取れなくてもセカンドボールは運動量豊富なスリーセンターが拾えるやろ!的な。

 よって、両チームが保持を志向はするが、アバウトなロングボールが出口となっているせいで、精度が足りずに決め手に欠く内容になっていた。

 得点シーンはそうした流れの外側の出来事。シェルビーが前を向いて、グラウンダーの楔を突き刺すという、ここまでの両チームの攻撃の出口とは異なる形でのチャンスメイクだった。ウィロックが倒されて得たFKを決めたのはまたしてもトリッピアー。両チームとも詰めが甘くなりがちな仕上げが目につく中で、ビシッと縦パスで決めたチャンスが得点につながったので、『ああ、チャレンジは報われるんだな』と思った試合だった。

 先制したことでラインを下げたニューカッスルにより、アストンビラはボール保持の時間が増える。敵陣に押し込むことにより、持ち味である両シャドーの距離の近いパス交換による崩しがだんだんとみられるように。

 後半は左サイドのコウチーニョを軸にブエンディア、ワトキンス、ディーニュなど多くの人が絡む多彩な攻撃を見せる。単騎による前線のアタックが目立っていたニューカッスルに比べると、組織での崩しは一枚上手だったように見えた。あわや、ジョエリントンが退場しそうになるくらいにはニューカッスルを追い込むことが出来ていた。

 それだけにワトキンスがネットを揺らした66分のゴールが認められなかったのは痛恨だった。オフサイドでこの機会を逃したビラは、選手交代でギアチェンジを図るもかみ合わずに失速。

 逃げ切りを果たしたニューカッスルにとっては大きな勝利だが、両SBが負傷するという悲報も。とりわけプレースキックでチームを牽引してきたトリッピアーの長期離脱は、チームに暗い影を落としている。

試合結果
2022.2.13
プレミアリーグ 第25節
ニューカッスル 1-0 アストンビラ
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:35′ トリッピアー
主審:クレイグ・ポーソン

⑧トッテナム【7位】×ウォルバーハンプトン【8位】

■ミスに付け込まれて乗せられた重石

 やや普段と異なるメンバー構成を敷いたトッテナム。おそらく、ウルブスという相手を意識したスタメン選びをしたのだろう。前節のアーセナル戦でのウルブスを見る限り、裏に抜ける動きを駆使しなければ彼らの5バックを壊すのは難しい。なので、裏に抜けながら壊すことができるということに軸足をおいたメンバーを選んだのだろう。

 新加入のベンタンクールとパートナーを組んだウィンクスのCHコンビはまずは裏を視野に入れて、前線の動き出しに合わせたパスを供給する。左のWBのセセニョンという人選もレギロンに比べてスピードに特化したもの。鋭い抜け出しについていくためのものだろう。守備での軽さはトレードオフにはなるが、狙いとしては十分わかるスタメン選びといえる。

 というわけでトッテナムの狙いはあくまで縦方向のギャップ。ウルブスの守備陣が降りてくるケインにどこまでついてくるかなどを探りながら、最終ラインに穴をあけたスペースにソンやルーカスが走り込む。ソンが迎えた決定機はその日のトッテナムのスタメンの狙いが詰まったもの。ソンと同じ高さで攻撃に参加したセセニョンも含めて、理想的な攻撃の形であった。決められなかったけども。

 だが、狙いの攻撃が見られたからといってトッテナムの試合運びがうまくいったかというとそれはまた別の話になる。前半のうちにウルブスはあっさり先制。右サイドのネベスのミドルの処理からの混戦で最後はヒメネスが押し込む。前節、ウォード=プラウズが演出した逆転劇がフラッシュバックしたトッテナムファンは多いのではないだろうか。確かに、セットプレーの流れという難しい局面ではあった、それぞれの選手が目の前の状況に懸命に対応していたかは微妙。ネベスへの寄せを怠ったデイビスはその代表例だ。

 同じく前半のうちに入ったウルブスの2点目はトッテナムのバックラインのミスがらみから。自陣深い位置で行われたトッテナムのパスワークだったが、ロリスのパスがマイナス方向に流れてしまったことでウルブスのプレスを誘発。ここからボールを奪ったウルブスが一気に攻め込み、最後はデンドンケルが追加点を奪う。見事なプレッシングからのショートカウンターの完結。お手本のような相手のミスに付け込んだプレスだった。

 トッテナム視点からいうとロリスのミスといえばそれまでなのだが、デイビスのフィードもひどい。よりによって内側にアバウトに蹴り込むという選択は『カウンターをしてくれ』といっているようなもの。大きくタッチライン際に蹴るコースを選択していれば、ここまでひどい形でカウンターを受けることはなかったはず。ロリスからのパスが乱れた時点でつなぐことを諦め、いかに安全にボールを捨てるかを念頭においたプレーを選択すべきだった。

 2点のリードを奪われたトッテナムはクルゼフスキを投入し、4-2-3-1へ移行。ケインとクルゼフスキの2か所を中盤の収めどころとして反撃に挑む。が、中央の起点をつぶすのはウルブスの得意分野。フォーメーション変更のあおりを受けて大外に追いやられたソンがダイレクトにCBを出し抜く機会が減ったこともあり、このトッテナムのアプローチの変更が効いたといえるかは微妙なところである。

 後半は結局裏にボールを蹴る速い展開に終始することを決めたトッテナム。そうなると、スピードに難があるクルゼフスキはついていけなくなっていく。あの手この手を試したトッテナムだったが、ウルブスの守備ブロックを壊せる解決策を得られないまま試合は終了。速い段階で課された2失点という重石を跳ね返すことはできなかった。

試合結果
2022.2.13
プレミアリーグ 第25節
トッテナム 0-2 ウォルバーハンプトン
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
WOL:6‘ ヒメネス, 18’ デンドンケル
主審:ケビン・フレンド

⑨レスター【12位】×ウェストハム【4位】

■すがすがしい気持ちで終われなかったレスター

 ファウルが多く、ぶつ切りになっている展開の中で先手を取ったのはアウェイのウェストハム。意外と少ないダイレクトな裏へのパスで10分に先制点をもたらしている。

 試合が落ち着いてからの展開もウェストハムの方が優勢。レスターは低い位置からのビルドアップで難を抱えている感じ。怪我人が多く、猫の目のように最終ラインの構成が変わるシーズンになっているので、ある程度仕方ない部分はあるかもしれないが、この試合でも連携にギャップがあるせいでの低い位置からのロストからピンチを迎える場面が多かった。

 相手がウェストハムというのもレスターにとっては不運だった。サイドにおいて追い込むような守備をするのがうまく、特にSHとSBの2人で挟み込むようにホルダーにチェックをかけてボールを奪い取れるチーム。レスターの最終ラインにはある程度ボールを持たせつつ、ミスや誘導でボールを刈り取った際には一気に攻め込む。それがウェストハムの流儀。生半可なポゼッションでは跳ね返されてカウンターの餌にされてしまう。

 リードもあることだしがっちり固めてロングカウンターからの反撃を視野に入れればOK。レスターはビルドアップからじっくりと攻め込もうとするが、ロストからの不要なファウルを連発し波状攻撃の流れを作り出すことができない。

 そんな流れはふとしたプレーで変わる。前半終了間際、CKからのクレスウェルのハンドである。このPKをティーレマンスが叩き込み、試合はハーフタイムを前にタイスコアに。

 後半も劣勢が続く苦しい展開のレスターだったが、勝ち越し点を手にしたのは彼らの方。後半、攻め手として頼みの綱になっていたバーンズが左サイドからボールを持つと、タイミングを外したようなクロスにフイを突かれたウェストハムの守備陣。

 出し抜いたクロスの先に待ち受けていたのはリカルド・ペレイラ。逆サイドのSBがクロスに飛び込む形で、2点目を呼びこむ。一瞬、ピタッと止まったかのようなウェストハムの守備陣のフリーズを見逃さなかったバーンズのファインプレー。クロスというアイデアを引き出したであろうペレイラのフリーランも見事だった。

 先制点の場面のように最終ラインの強度には難があるレスター。徐々にカウンターの機会を増やすウェストハムに対して、肝を冷やしながらもなんとか守り切る場面が増える。それならばと最後の最後に投入したのはヴェスターゴーア。CBを増員し、ウェストハムの総攻撃に備える。

 だが、この備えでは勝ち点を守り切れなかったレスター。後半追加タイムにセットプレーからドーソンのゴールでウェストハムが土壇場で追いつく。

 内容的には劣勢、でも後半にはリードもゲット。だが、終盤には追いつかれてしまう。レスターのファンには感情が忙しい週末となった。結果だけ見ればウェストハムにドローというのは悪くないが、守備固めをしてもなお実らなかった逃げ切りを考えるとすがすがしい結末とはいえないのは間違いない。

試合結果
2022.2.13
プレミアリーグ 第25節
レスター 2-2 ウェストハム
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
LEI:45‘(PK) ティーレマンス, 56’ ペレイラ
WHU:10‘ ボーウェン, 90+1’ ドーソン
主審:マイケル・オリバー

⑩チェルシー【3位】×アーセナル【6位】

■EUROを悪夢を振り払ったサカ

 レビューはこちら。

 互いに前の試合からメンバーは入れ替え。チェルシーはCLとFA杯を掛け持ちしての勤続疲労がメンバー入れ替えの主要因なのに対し、アーセナルはリーグ3連敗という悪い流れを断ち切るためのタクティカルな判断が濃い。

 変更したメンバー構成で対症療法的なプレッシングを行ったのはアーセナル。チェルシーのバックラインに対して、3トップ型でプレスに向かい、時間を奪いに行くアプローチを見せた。

 チェルシーのバックラインはアーセナルのプレスを利用して前進するほどの手練れが不在。ジョルジーニョ、リュディガーのどちらかがいれば、相手のプレスを裏返す前進ができたかもしれないが、彼ら2人がいないスタメンではアバウトなボールをルカクとヴェルナーに蹴り込むのが精いっぱいだった。

 一方のアーセナルにも難はあった。この日のアーセナルは自陣深くでのボール奪取後にショートパスをつなぎながら前進を狙うことが多かった。だけども、このパスの精度が非常に低い。それゆえ、自陣で引っ掛けてはチェルシーのショートカウンターを食らい続けるという悪い流れになってしまう。

 どちらも難がある中で先に失点したのはチェルシー。クリステンセンがロングボールの対応をミスってしまい、エンケティアにプレゼントパス。メンディとの1対1を冷静に制したエンケティアが今季初めてのリーグ戦のゴールを決める。

 だが、アーセナルもその直後にミス。そのエンケティアのポストがずれたところからチェルシーのショートカウンターを食らい、ヴェルナーに同点ゴールを許す。

 共にミスから失点が続いていたが、アーセナルはミス後も自陣からのショートパスでの前進を継続。継続したことでようやくチェルシーのプレスを回避し、チャンスにつながったのが2点目のゴールのシーンである。ジャカの自陣からの前進でカンテ、アロンソ、ルカクを剥がすと、サカ→ウーデゴールとつなぎ、最後はスミス・ロウが決める。

しかし、これも直後にチェルシーが同点に。前半から共に2点ずつを奪う打ち合いになる。

 後半もアーセナルはハイプレスを継続。するとこれがアスピリクエタのミスを呼び、この日2点目のエンケティアのゴールを呼ぶことに。チェルシーはバックラインの足元という不安要素が失点につながってしまった。

 この日3回目のリードを奪ったアーセナルはこれ以降は撤退。5-4-1でプレスを控えつつ、チェルシーのバックラインの中で最も不安定だったサールをロングボールで狙い撃ちにする。

 チェルシーはハフェルツを投入し攻勢を強めるが、バックラインが我慢できないという課題が先に来てしまう。後半追加タイムに差し掛かる少し手前でアスピリクエタがボールに関係のないところでサカを倒してPK。この一連のプレーもアーセナルが狙い撃ちしたサールのサイドからだった。

 このPKをサカが自ら沈めて試合は決着。サカにとってはリーグ戦2桁ゴール達成に、EUROの悪夢を払拭するPK成功と個人にとっても大きな意味を持つ勝利となった。

試合結果
2022.4.20
プレミアリーグ 第25節
チェルシー 2-4 アーセナル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:17‘ ヴェルナー, 32’ アスピリクエタ
ARS:13‘ 57’ エンケティア, 27‘ スミス・ロウ, 90+2’(PK) サカ
主審:ジョナサン・モス

今節のベストイレブン

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