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「消えていいけど、現れたい」~2022.1.22 プレミアリーグ 第23節 アーセナル×バーンリー レビュー

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目次

レビュー

■いないなりにやらないといけない

 絶好調だった12月の勢いは元日のシティ戦を境に一変。2つのカップ戦での敗退や多くの退場者、負傷者を出すなどアーセナルは固定メンバーで戦ってきた前半戦のツケを払うことになっている。強制的に起用できるメンバーが入れ替わったことで内容の良さも継続できず。チームは上昇気流に乗れずに苦しんでいる。

 ただ、バーンリーの苦しみはアーセナルの比にならない。ニューカッスルに移籍したウッド、AFCONに派遣されているコルネという2トップを欠いてしまっており、ただでさえ厳しい前線のパンチ力の低下は顕著。2人で9点を挙げたストライカーを欠き、残されたメンバーで今季のリーグ戦で挙げた得点はたったの6点である。

    うち、3点はCBが決めたもの。CBのベン・ミーがこの日のバーンリーのスカッドの唯一の複数得点者である。というわけで実質、セットプレーからしかバーンリーはボール保持においてほとんどチャンスを作ることはできなかった。

 したがって、この試合の争点はアーセナルの保持の局面を巡る攻防となる。今季の前半戦で行われたアウェイのバーンリー戦と同じく、この試合のアーセナルは4-1-4-1で臨むこととなった。ただ、今回に関してはこの形で臨むことに意味を持たせたというよりはジャカとトーマスをサスペンションで欠くというチーム状況ゆえにこの形を選ばざるを得なかったと表現するほうが正しい。アーセナルのCHのバックアッパーはPLで1試合ベンチ入りしただけのパティーノのみである。

 チームの核といっていい2人のCH。これによって当然あきらめなければいけない部分もある。その最たるものは縦パス。精度、速度ともにチームトップクラスの縦パスはこの2人ならではのもの。バーンリーはライン間のマネジメントが甘く、このスペースへの縦パスからのチャンス供給が期待できる相手ではあるが、彼らがいないのならば縦に大きく局面を進める形を連発することはむずかしい。

 よって、それ以外のところからアーセナルはチャンスメイクをする必要はある。スコアレスドローという結果で終わったくせに生意気感があるかもしれないが、この日のアーセナルのメンバーとバーンリーという相手を考えれば十分にチャンスメイクが可能な状況は整っていたように思う。

■アンカーが前を向くには?

 この試合のアーセナルの保持のポイントはアンカーであるロコンガが2トップに近い位置のやや敵陣寄りに立つことが多かったことである。

 ロコンガがこの位置に立つことでCB→アンカーから直接パスを入れることはむずかしくなった。けども、ロコンガのこの立ち位置に関してはそこまで悪くなかったように思う。

   この日のバーンリーの守り方は2トップが2CBとアンカーのロコンガを受け渡しながら見る形だった。よって、バーンリーの2トップの立ち位置はロコンガによってある程度引っ張られることになる。

    ロコンガのよかった点は自身に2トップの注意が向いているのを理解していたところだろう。彼は消えること自体は多いが、自分が消えることを受け入れているなとも思う。この試合でいうと、無理にCBからパスを受けようとせずに位置をキープしたことで、バーンリーの2トップはロコンガを気にしながらCBにプレスをかけることになった。

 仮に、ロコンガが最終ラインにしてまでボールを受けようとすれば、数的優位は確保できる。そして、彼自身がボールを受けることは容易になる。けども、CBの持ち運びに対するバーンリーの2トップのチェックも躊躇なく行うことができるようになる。その上、この日のバーンリーのCHは降りていくロコンガに対して、ついていく素振りを一切見せなかった。したがって、ロコンガが降りることでバーンリーの2列目の配置が動くことはない。

 ロコンガが2トップの背後から動くことが許容される場面があるとすれば、彼が相手のCHを引きつれることができる場合である。バーンリーが2トップは2CBにひたすらついていきます!アンカーのロコンガには2列目から別途人員を割きます!ならば意味がある。

 けども、この試合はそうではない。ロコンガに注意を向けているのは2トップである。そして彼らはロコンガが最終ラインに落ちようと特に動かされることはない。よって、この状況でロコンガが最終ラインに落ちることは単にアーセナルは1列目を越える手段を失うだけである。

 バーンリーのCHはアーセナルのIHを気にしていた。彼らにとってロコンガが落としを受けるというパターンがあるかないかは非常に重要だ。ロコンガが最終ラインに落ちてビルドアップをするならIHにはボールの落とし先がなくなってしまう。

 FW-MF間でアンカーが前を向くことを攻撃のスイッチとして定める場合(トーマスがアンカーの際のアーセナルはその節がある)、アンカーがFW-MF間に立ったまま、CBから直接パスを受けて前を向くのは難易度が高い。なぜなら、守備側が真っ先に防ぎに来る事象だからである。なので、ロコンガは自身に2トップを引き付けることでCBが自陣からボールを運ぶことを容易にしたのではないか。

例えばIHの落としを受けるとか

 何が言いたいかというと『CBからアンカーが直接パスを受けれない位置に立っているから』という理由だけで、この試合のロコンガのポジショニングが咎められるのはおかしいのでは?と思っていることである。ただ、この試合のロコンガの立ち位置に関しては別途気になる部分はあった。それはまた後程。

■司令塔はSB

 そもそも、この試合のアーセナルはトーマスがアンカーを務めているときほど、アンカーに前を向かせてゲームメイクさせることをメインに据えていたかは微妙なところであった。個人的にはピッチの上で、ズレを作りつつどこから攻めるのかを決めるこの試合のアーセナルの司令塔は右のSBのベン・ホワイトのように思えた。

 この試合のアーセナルの保持の狙い目はマクニールであった。2列目の中で最も高い位置に出てくる頻度が多い選手である。ホワイトが最終ラインに人数が十分足りているにも関わらず、低い位置でボールを受けることにこだわっていたのは対面のマクニールが自身についてきているという手ごたえがあったからだろう。

 ちなみに逆サイドのSBであるティアニーに対しては、対面のレノンはプレスが少し遅れることが多かった。これは警戒度の違いだろう。レノンは寄せ自体は遅れてはいたが、ティアニーの得意な縦のコースを切りながら寄せていっていたので、十分これでも間に合っていた。より配球能力が高いホワイトに対してはレノンの寄せのスピード感では無理である。

    話を戻す。ホワイトがマクニールを引き付ける動きに連動するようにサカは大外で受けられる準備をする。アーセナルとしてはここが優位なのが大きい。ピーテルスとしては前を向かれて1on1されたら敵わない相手という認識なのだろう。したがって、ピーテルスはサカに対してついていく動きをする。

 これによってバーンリーの左サイドは歪むことになる。アーセナルの右のユニットはこの歪みをラカゼットやウーデゴールがうまく使えていたし、サカ自身が厳しい寄せを受けながらピーテルスをかわす場面もあった。右サイドはこのように左に比べると有用に相手の歪みを崩しにつなげることが出来ていた。

 ちなみにロコンガは右サイドでの崩しにはよりうまくかかわれたと思う。例えば、先にあげたウーデゴールの前進のためのパス交換の壁役になるとか、あるいはサカの真横のフォロー役になるとか。

 ロコンガは消えていることを利用するのはうまいけど、ボールを受けに現れるところには改善の余地が残る。状況は刻一刻と変わるのがサッカーであり、適切な場所だけではなく顔を出すタイミングも大事になってくる。その変化に対する移動がまだ未熟。といっても彼だけでなく、チーム全体の課題であるけども。

   この試合の直後に行われたチェルシー×トッテナムのジョルジーニョはロコンガのいいお手本になる。14:20付近と30:20付近のプレー。どちらもロコンガにとっては身に付けたいプレーだ。消された後に現れるのがうまい。そして、彼に受けさせるための周りのフォローもうまい。

 話は戻るが、とにかく右サイドは左サイドに比べてうまく前進は出来ていた。ホワイトを軸に、サカ、ウーデゴール、ラカゼットがスペースの歪みを利用する動きが非常に効いていたからということができるだろう。

■使えなければ意味がない

 ここまで書いてきたように。選手がポジションを下げるときは、ピッチの状況を変化させることを伴わなければうまくいかないことが多い。選手が降りる動きに対してはリターンがなくてはいけないのである。その観点でいうとアーセナルの左サイドは右に比べるとうまくなかった。とりわけ気になったのはIHのスミス・ロウの降りる動きである、

 確かにスミス・ロウが降りることによって対面のウェストウッドは彼のマークのためにポジションを前方にずらしている。そういう意味では効果はある動きといえる。だけども、この日のアーセナルはこのウェストウッドが出てきて空けたスペースに入り込む選手も、パスを通す手段も有していない。このスペースを使えないのならば意味がない。

 スミス・ロウの動きに合わせて自動的にウェストウッドがつり出されたスペースを使うメカニズムができていれば前進できるのだが、この日のアーセナルはその部分は放置されていた。ちなみに右のウーデゴールも降りてくる動きが多かったが、陣地回復のために敵陣に再度走り込む動きを伴うことが多かったため、さほど問題にならなかった。自分で自分の引き出したスペースを使う的な。

 そもそもアーセナルはわざわざスミス・ロウが降りてこなくとも、ロコンガが立ち位置を守る限りは9分のようにガブリエウが持ち運ぶことによって、ウェストウッドをつり出すことができる。スミス・ロウが降りなければ、ウェストウッドが空けたスペースは彼自身が使えるし、彼自身もより高い位置でパスを受ける選択ができるようになる。

 その上、無理に降りてくる弊害もあった。1つは彼自身のプレーの問題。スミス・ロウは敵陣ゴール側に背中を向けてボールを受ける際に、ワンタッチ目でマイナス方向にコントロールする動きを使いがち。このマイナス方向への移動はバーンリーにとってプレスを入れるスイッチとなっていた。

   ワンタッチで誰かに落として前向きでフリーの選手を作れれば、また違ったかもしれない。アーセナルの左サイドがバーンリーのプレスに屈しがちだったのは、アーセナルが低い位置のパス交換で誰に前を向かせてどう脱出するかの設計図をもっていなかったからである。

 もう1つ、スミス・ロウが位置を下げた弊害はマルティネッリのフォローがいなくなることである。左サイドのマルティネッリはこの試合では外に張りながら後方からのロングボールを引き出すことが出来ていた。このロングボールは左サイドからのビルドアップの脱出口となっており、十分に機能はしていた。

 その一方で、アーセナルはこの左サイドからのプレス脱出を十分な攻撃の機会に結びつけることはできなかった。なぜならば、本来彼をニアゾーンでフォローするスミス・ロウが低い位置を取ることが多いから。

    もちろん、ラカゼットがここを使ってもいいが、その分ゴール前に人数を割くことが出来なくなる。そんな移動をしてまでスミス・ロウが降りる動きにこだわることがチームにいい影響を与えているようには思えない。

    前半の追加タイムのようにウェストウッドの後方の左のハーフスペースでボールを受けられれば、攻撃は大いに加速する。この場面のように後方のティアニーが押し上げる形で受けられれば、前方にはアタッカーが残った状態で攻め込むことができる。

 前半終了間際に生まれたこのチャンスはようやくいい形が作れた!というポジティブな気持ちをもたらす一方で、これさえやっていればもっとうまくいったのに!という気持ちにもなったこと。そして、残念だったのはこの左サイドから縦に進む形が後半においてもほぼみられなかったことである。

■部分的に修復された左サイドだが・・・

 左サイドからの前進は後半も良化せず。というわけでホワイトがサイドチェンジで左にぶん投げる機会が増える。確かに逆サイドからボールを引き取る形でなければスミス・ロウは無駄に低い位置を取ることもない。後半の左サイドからのチャンスの多くはスミス・ロウが高い位置を取って中央に旋回していく形である。スミス・ロウが低い位置を取ってうまくいった攻撃はほぼない。よって、ホワイトのサイドチェンジは左サイドの機能不全の一部を修復したといっていいと思う。

 ただ、このやり方の難点はロングボールのトラップ、そこからの仕掛けを含めると左の大外の受け手にはマルティネッリが推奨されること。よって、彼自身がカットインしてフィニッシュに絡む動きをやりにくくなってしまう。

 それならば、SBに内側のサポートに入ってほしいところだが、基本的にはティアニーはホルダーの外を回る動きの方が得意。大外をマルティネッリというところから逆算するのならば、ギャンブル性は高いもののインサイドに入り込めてパンチ力があるタヴァレスに賭けてみるというのも面白かったかもしれない。サカが途中からガス欠+タックルの繰り返しでダメージを受け始めてからは左サイドへの崩しの依存度が上がったのでなおさら。

 この試合のアーセナルを振り返ると出場停止で真ん中からの起点が死に、盤面の配置の部分で左サイドの組み立てが死に、ガス欠で右サイドが死にという段々と選択肢が限られた状態になったのが苦しかったところ。

 同じくバーンリーも非常に苦しかった。最終盤、前がかりになりまくるアーセナルの裏をとりカウンターを発動し、単騎でスルスル運んだマクニールにだれもまともな選択肢を作らないので、とりあえずシュートを打って終わるというムーブを繰り返していた。アーセナルファンじゃなかったら、もらい泣きしそうなくらい哀愁を誘うカウンターだった。

 両軍ともにジリ貧という言葉が正しいだろう。時間の経過とともに苦しくなった90分はスコアレスドローという結果に終わった。

あとがき

■勝てなきゃダメ!だけど・・・

 どんなに内容が良くても勝たなきゃ意味がありません!という試合を勝てなかったのだから、よかった!で済ますのはお門違いである。だけども、個人的にはこの戦力なりにはできることはやったのかなという感じ。

 秋のアーセナルならば、そもそもホワイトの対角パスや右サイドの駆け引きなどがそもそも全くなかった。あの当時に比べれば明らかに崩しの手段は増えているように思う。チームのパフォーマンスは向上の余地はある。けども、進んでいる方向自体はそこまで間違っていないかなとは思った。それでも勝てないっていうのは重く捉えなきゃいけないのかもだけども。

 話題のロコンガに関しては消えるのはOKだけど、現れるほうをがんばろう。

試合結果
2022.1.23
プレミアリーグ 第23節
アーセナル 0-0 バーンリー
エミレーツ・スタジアム
主審:デビット・クーテ

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