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「『いい経験』にする」~2023.12.9 天皇杯 決勝 川崎フロンターレ×柏レイソル プレビュー

目次

Fixture

天皇杯 決勝
2023.12.9
川崎フロンターレ
×
柏レイソル
@国立競技場

戦績

近年の対戦成績

直近10試合で川崎の7勝、引き分けが3つ。

Head-to-head

Head-to-head
  • 直近11試合の柏戦で川崎は無敗(W7,D4)
  • 直近6試合の対戦で川崎は柏にクリーンシート4つで複数失点がない。
  • ただし、柏が最後に川崎に勝利したのは2017年の天皇杯準々決勝。
    • クリスティアーノのゴールで0-1での勝利を等々力で挙げた。
  • カップ戦での対戦は川崎に対して柏が3連勝中。
    • 2017年天皇杯、2016年リーグカップ、2008年リーグカップ

スカッド情報

川崎フロンターレ
  • 右下腿三頭筋肉離れで離脱中の大島僚太はランニングをスタート。
  • 佐々木旭は左ハムストリングの肉離れで離脱。
  • 車屋紳太郎は左脛骨骨挫傷で離脱もフルメニューを消化。
柏レイソル
  • 犬飼智也と山田雄士は前所属で今季の天皇杯に出場しているので出場不可。
  • ジエゴはリーグ最終節の一発退場により出場停止。

予想スタメン

Match facts

川崎フロンターレ
  • 鬼木監督就任以降、最少勝ち点、最少得点、最多失点でリーグを終える。
  • 公式戦直近10試合負けがない(W8,D2)。
  • 直近の公式戦9試合のうち、7試合で3得点以上を挙げている。
  • 京都戦で豊川雄太に得点を決められて以降、公式戦では約315分失点がない。
  • 5回のカップ戦決勝での敗戦以降、決勝戦は2連勝中。
  • 直近の公式戦18試合で退場者は1回だけ。それ以前の32試合では6回退場者を出している。
    • 唯一退場者を出した試合はアウェイの柏戦。遠野大弥の一発退場。
  • 直近4試合の公式戦ではいずれも80分以降に得点を決めている。
  • レアンドロ・ダミアンは先発出場した直近4試合の公式戦で4得点を決めている。
柏レイソル
  • 公式戦直近5試合未勝利でシーズンを終える。
  • リーグ戦では直近8試合連続クリーンシートを逃している。
  • しかしながら、天皇杯での直近4試合はここまでいずれもクリーンシート。2023年の天皇杯は2回戦での1失点のみ。
  • 今季先制された試合での逆転勝ちがない(D5,L15)。
  • 直近の国立競技場での試合は2020年のルヴァンカップファイナル(開催は翌年の1月4日)。FC東京に1-2での敗戦。
  • タイトルを掲げた3回のカップ戦ファイナルはいずれもチームに出場停止の選手がいた。
    • ホン・ミョンボ(1999年リーグカップ)、工藤壮人(2012年天皇杯)、大谷秀和、橋本和(2013年リーグカップ)
  • 細谷真大は先発した直近8試合の公式戦で6得点。
    • しかしながら川崎相手に先発した4試合では得点を決めたことがない。

予習

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展望

テンポアップの意識を強める理由

 鬼木監督の就任以降、多くの国内タイトルを手にしてきた川崎。そうした中でなかなかうまくいかないのが天皇杯である。もちろん、2020年シーズンの天皇杯初優勝はとても喜んだ。だが、当時の天皇杯はコロナ禍の影響で川崎は準決勝からスタートしているというスーパーシード制。タイトルまでは2つのハードルを越えるだけでよかった。

 もちろん、それでも立派なタイトルであることには変わりない。だが、リーグを戦いながらの下位カテゴリーとの対戦となる3回戦や4回戦で足元をすくわれる怖さはJ1のサポーターならば誰もが経験しているところ。そういった大会だからこそ、正規ルートでは優勝未経験という思いが個人的には強い。「優勝経験チーム」として並べられることにはどうしてもむずがゆいところがある。今年はそんな思いを取り除くためのチャンスでもある。

 対戦相手となる柏は一発勝負という観点では非常に嫌な相手だ。確かにリーグ戦ではかなり苦しんだ一年になったが、そうした逆境をパワーに変えられるチーム。当たれば重たいパンチを持っていることも不気味である。

 両チームの前回の対戦は第31節と直近のもの。そのため、前回の対戦と大きくスタイルは変わっていない。ベースとなるフォーメーションは4-4-2で一貫しているし、後述するDFライン以外は大きくメンバーは変わることはないだろう。おそらく予想通りのメンバーをこのファイナルに送り込んでくるはずだ。

 スタイルとしては基本的には定点攻撃よりもトランジッションの方を好んでいる。プレスでのテンポアップから、マテウス・サヴィオと細谷を軸としたカウンターで相手の守備が整う前に破壊するのが柏のスタンスである。

 リーグ最終戦でも柏はカウンターから先制点をゲット。その名古屋戦では得点以外の場面においても、2トップとSHの前4枚で取り切る意識が強く、そのまま攻撃を完結させていく意気込みを感じる。

 もっとも、そういう部分はすでに前回の日立台での対戦で川崎は痛感している部分だろう。瀬古のパスミスをひっかけたところからあっという間にゴールを陥れられた経験は川崎のサポーターの記憶にきっちりと刻まれている。川崎相手にはもう少し様子を見てくるかな?と思ったのだが、前からのプレスを容赦なく行っていたのが印象的だった。

 今回の決勝でも柏はおそらく前からのプレスを強気でかけてくるスタイルを継続してくるだろう。その理由は柏のビルドアップでの時間構築のところにある。前回のリーグ戦対戦時のプレビューとして柏の弱点は「ワンタッチ、ツータッチで相手を剥がすプレーを連続して行おうとするあまり、プレーの精度が伴わないことがある」という風に述べた。言い換えると、時間を前に送り活用する前進があまりできていないということになる。

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 ここ数試合の柏は以前ほど忙しくはない感じもするが、天皇杯では懸念があるのは確かだろう。規定により出場不可となる犬飼は柏のバックラインでは貴重なボールを運んで時間を生み出してくるタイプのプレイヤー。そして、中央での細かいパスでのコンビネーションが得意ではない分、サイドのオーバーラップで奥行きを作るジエゴの出場停止も柏にとっては痛い。

 よって、ビルドアップで時間を作り、押し込んでの攻略を行うというスキームは前回対戦よりもイメージがしにくくなると予想する。したがって、トランジッションは重要な要素になるだろう。前4枚で仕留める成功体験をベースに、川崎には強気のプレスでくる公算は強い。

 ただし、ポゼッションからの攻撃も直近の名古屋戦では手ごたえがある。仙頭と椎橋の2CHはポジションを細かく変えながら名古屋のCHと2トップの受け渡しにギャップを生み出していた。出場停止から帰ってくる高嶺もおそらくこうした部分に順応はできるはず。川崎戦ではパスを散らす意識の高さが際立っていた。

 サイドを広げながら組み立てることができれば、キーマンのサヴィオは前を向いてボールを持ちやすくなるし、中央へのパスも刺しやすくなる。プレス→カウンターのスキームを機能させるのが柏にとっては最優先だろうが、保持から川崎を揺さぶる形を犬飼とジエゴ抜きで作れるかどうかもまた柏のポイントになるだろう。

突き付けられた課題を押し付ける

 川崎からすればビルドアップでリズムを作れるかが大事。前からのプレスの意識が高い柏の4枚の前線の裏をつけるかどうかがポイントになる。はっきり言ってこの部分は鳥栖戦では全然だめだったところである。

 柏のプレスの弱みは個人の強度は高いが、層ごとの連動が甘いこと。特に前線やSHが前に出ていったときにCHがプレスに出ていくのが遅れることになる。よって、FW-MFの間のスペースが空きやすい。

 イメージとしては2トップ、SH、CHの間にそれぞれ段差ができる感じである。この段差を活用するイメージを持つことができれば理想である。そのためにはズレを作る必要がある。もちろん、相手もズレないように気を遣うケースが多い。例えば川崎相手によくあるのは右のCBにボールをあえて持たせる形である。アンカーは2トップの一角がケアし、ボールを持つのが苦手な方のCBは捨てる形だ。これであれば中盤はズレない。

 ということで川崎のCBは放っておけない存在になる必要がある。GKやアンカーを使って揺さぶるのももちろん重要だが、やはりここはきっちりと持ち上がることも意識したい。はっきりいってこの部分はジェジエウに求めるのは厳しい。でも今の大南であれば求められる。おそらく、この試合ではCFにダミアンというロングボールの逃がしどころもある。ぎりぎりで相手を引き付けてほかのマークが空くかどうかを見極めたいところ。

 理想としては同サイドのSHであるサヴィオが釣れる形である。大南がサヴィオを釣れたことが利用したパスワークができれば最高である。例えば、以下のような。

 インサイドに山根が絞るアクションを組み合わせれば、サヴィオは外を切るか、内を切るかを迷うことになる。大南はサヴィオが切れていないコースを使えばよい。図では内側のパスを切る想定だが、外の家長のコースをサヴィオが切ってきたらインサイド側に持ち替えるか、ソンリョンに戻して山根に直接つけるかダミアンへの長いボールを山根が拾う形に設計してもいいだろう。

 前回の対戦では逆にサヴィオは右のCBであるジェジエウのところを奪いどころにしていた。彼がジェジエウの右足側からプレッシャーをかけることで川崎の右サイドにボールが展開されなかったことになる。業を煮やした家長が左サイドに出てきた結果、川崎は狭いスペースでの攻略に注力し、サイドの偏在化と前線への供給不足が発生したというのが日立台での最大の反省点である。

 なので、今回はきっちりと柏の左サイド側のSHとSBのスペースを使うのが川崎にとって大事。サヴィオの守備が前から来るのか、それとも釣りだす必要があるのかはわからないが、サヴィオの背後のスペースを使えればチャンスは出てくることになるだろう。

 SHの背後を埋める形で柏のSBが出てくればさらに理想的だ。これを使いたいのは左サイド。山村でマークを集めておいて、登里を解放する以下のようなシチュエーションである。

 これができれば片山は前の登里と背後のマルシーニョの2つのどちらかにアタックに行くかに迷いが出る。片山の背後のマルシーニョに通せば、次にさらされるのは犬飼の代わりに右のCBに入る選手。おそらく立田になるだろう。最終的にはここに負荷をかけたい。インサイドでのダミアンとのマッチアップと外のマルシーニョのケアを共にCBに強いれば、ダミアンへのマークは必ず甘くなる。

 このような形でCBを外に引っ張りだしてWGとスピード勝負という状況を作るのは川崎相手に鳥栖が仕掛けたビルドアップとそっくりである。鳥栖にやられたことをそのままパクって柏にぶつけてほしいというのが願望ということになる。

 繰り返しになるが、そうした状況を作るためにはバックラインからのズレを作る必要がある。時にはダミアンにボールを逃がす形はOK。回避したいのは自らポジションを守らずに攻めるためのスペースを狭めてしまうことだ。家長は右の大外からの抜け出しでチャンスを作るという流れを鹿島戦以降継続している。この試合でもおそらくそのような自分の持ち場での仕事を全うする役割の方がチームを助けることになるのではないだろうか。

サヴィオの迎撃は橘田で

 非保持においてはとにかくサヴィオにフリーでボールを持たせてしまうことが最悪。そのためにはまずは柏相手には下手な形でのロストをしないことが最優先。攻撃と守備はシームレス。日立台での失点からそれを学ぶことができなければ、あの引き分けは完全に無駄なものになってしまう。

 サヴィオは左サイドのハーフスペース付近に出現するので、川崎からすれば右サイド側の守備のズレを極力なくしたい。やはり警戒したいのは家長の背後を使われることにより、川崎の中盤がずれること。基本的には絞るサヴィオに迎撃する役割は橘田に任せたい。脇坂のスライドに合わせると、それが難しくなる。

 バックラインからサヴィオの迎撃に出ていけば細谷が抜け出すスペースを自ら与えることになる。そうした状況は避けておきたいところだ。そのためには家長がきっちりとSBに着き切ることが重要になる。

 終盤戦の川崎は本当に天皇杯とACLにフォーカスしてきた。できることだけでなく、できないこともたくさん突き付けられたし、そうした中で今季の川崎にリーグの覇権を争う力がなかったことは痛いほど感じた。けども、試行錯誤しながらできることとできないことを整理したからこそ2023年の最後のタイトルの可能性を残しているのだ。

 失敗を「いい経験」として振り返るにはそのあとの成功がセットというのが自分の信条だ。たくさん積み重ねた失敗をいい経験に変えるために、2023年最後の大一番で必ず勝利をつかみ取る必要がある。

【参考】
transfermarkt(
https://www.transfermarkt.co.uk/)
soccer D.B.(
https://soccer-db.net/)
Football LAB(
http://www.football-lab.jp/)
Jリーグ データサイト(
https://data.j-league.or.jp/SFTP01/)
FBref.com(
https://fbref.com/en/)
日刊スポーツ(
https://www.nikkansports.com/soccer/)

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