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「片手で足りる前哨戦」~2023.10.29 J1 第31節 柏レイソル×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

逃げ道以上のものが見えない

 「川崎フロンターレ×柏レイソル」というカードを見て多くの人が感じることは「天皇杯の前哨戦だ!」ということだろう。しかしながら、この試合の序盤戦はそちらよりも「リーグでの明確な目標がないチーム対残留争いに向けてお尻に火がついているチーム」という解釈の方がよりしっくりくる。そんな内容だった。

 立ち上がりから前にプレスに来たのは柏。正直、もう少し様子を見ながら当たってくるのかな?というのが自分の想定だったのだが、彼らのプレスの意欲は十分。2トップはアンカーの受け渡しよりも高い位置から川崎のCBを捕まえることを明らかに優先していた。ボールを奪い取った後は山村と登里というスピードに難がある川崎の左サイドを手早く狙い撃ちしていく。

 川崎はこうした柏のスタンスに面食らったように見えた。特に右サイドはスタメン復帰戦となった後方のジェジエウのところでノッキング。組み立ての機能を果たせず、なかなかスムーズに前進をすることができない。

 川崎にとって命綱になったのは前線に逃げ場があること。CFのゴミスと左のWGのマルシーニョへのロングボールは柏のプレスに対する逃がしどころとしてはうってつけである。

 ただし、とりあえず逃がすだけのロングボールなのでそれ以上のものは何もない。ロングボールを当てたゴミスの足元からの落としを受ける味方はいないし、左サイドでマルシーニョが抜け出してもクロスのターゲットはゴミスの1枚だけだ。柏からすればマルシーニョとゴミスの関係性だけ気を付けていればOKなので難易度としてはそこまで高くはない。もちろん、ゴミス1枚でもなんとかなる可能性はあるが、ここは古賀が粘り強く自由を与えない対応をしていた。

 10分もすれば川崎は徐々にゆったりとボールを持って相手を押し下げることに成功する。特に柏の管理が甘いFW-MF間のスペースを軸に川崎はポゼッションを展開する。

しかしながら、マルシーニョオンリーになってしまっているミドルゾーンの出口問題はあまり解決する様子はない。ビルドアップに枚数を割き過ぎており、3人のCHと家長が低い位置を取り続けていたため、マルシーニョとゴミスの孤立は変わることがなかった。

 構造的にもっとも大きな問題となっていたのは家長だろう。攻め手が限られている先細りのような展開になっている大きな要因は左サイドへの出張と最終ラインへのサリーを繰り返した彼のところにある。展開、および相手次第で左サイドに出張していい日としない方がいい日があるのはこのブログをいつも読んでくれている方からすればよく知っていることだろう。柏はボールサイドにためらいなく人数をかけるチーム(=逆サイドをがら空きにするリスクを取るチーム)であるため、同サイドを密集で崩し切るよりも逆サイドへの展開をきっちり残しておく方が重要だ。

 この試合はジェジエウが先発したからなおさら。右のワイドの預けどころとして大外に張ることを大事にしてほしかった。

 ロスト後の怠慢は…

 右サイドへの展開がなくなった川崎は狭いスペースからの崩しを集中的に行うことに。しかしながら、この展開はその日の川崎のコンディション次第で出来不出来が大きく変わるものになる。この日の出目は川崎にとって悪いもの。パスワークは狭いスペースに突っ込んではロストを繰り返し、柏のカウンターを誘発してしまう。

 一見、順調そうに見える柏。だが、彼らも彼らでなにもかもうまくいっていたわけではない。プレビューで指摘した通り、柏は少ないタッチ数でのパスワークへの意識が強すぎるため、そうしたパスを二本三本つなげようとしてしまう場合が多い。こうしたパスはもちろんつながればいいのだが、必要以上に細い糸を手繰るようなパスワークになると、なかなかそれも難しい。柏は十分にスペースや時間があるカウンターの時でもそうしたプレー選択で精度を欠いてしまい、カウンターを完結できないパターンが多かった。

 低い位置からのポゼッションでもなかなかプレーを完結させることができない柏。プレスをどこから行ったらいいのかの基準が定まっていない川崎の3トップに対して、柏は外循環から川崎のSBを引き出し、その背後にFWを送る形を作る。この形自体はいいのだが、抜け出した後の精度はもう少し落ち着きが欲しいところ。川崎のプレスを引き出すところまでは簡単にできているだけにもったいない感がある。

 よって、試合は密集ポゼッションから不用意にチャンスを供給する川崎とカウンターからのパスワークで安定感を欠く柏の苦しいにらみ合いとなった。そのバランスが崩れたのが前半終了間際。川崎のミスが複数積み重なったところを柏が見逃さずに仕留めて見せた。

 まずは瀬古のパスミス。ゴミスへボールを預けたい気持ちはわかるし、低い弾道でつけて素早く落としてもらっての連携に移行したい気持ちもわかる。しかしながら、当然低い弾道のパスにはロストというリスクが付きまとうことになる。この場面ではそのリスクをもろに食らうことになってしまう。そこを踏まえればより高い弾道のパスでゴミスを狙うべきだった。

 ロスト後の対応が一番まずかったのは家長である。この場面で左のCBの横に落ちていたのが家長。本当は右に張っていてほしいのではあるが、ここは目をつぶるとしても、ロスト後に謎に攻めあがって元のポジションに戻ろうとしていたのは飲み込むのが難しい。最終的にスコアラーになった山田雄士をマークするようにリトリートすれば山村があそこまで出ていく必要はない。仮に振り切られたとしても、ついていこうとして結果的に振り切られることと、ついていこうとしないことは全然違う。

 そもそも、本来の山田雄士の対面の登里は家長が降りるポジションをとった影響で高い位置を取っている。低い位置に降りている家長がトランジッションの時にさぼってしまうのであれば、こうした不利益を被るのは至極当然だ。このシーンは個人のミスと効果を生まないポゼッションの変化が掛け合わさっており、ある意味川崎の前半のパフォーマンスを象徴しているシーンといえるだろう。

修正されない右を使う意識

 前半終了間際にゴミスがネットを揺らすもオフサイドで認められなかった川崎。ビハインドで迎えた後半は失点の起点となった瀬古に代えて、遠野を入れる交代を行う。

 しかしながら人が変わっても川崎のシステムは変わらず。相変わらずの左偏重でのノッキングを繰り返し、同サイドから脱出をすることが一向に出来ない。深い位置をとれても横パスから簡単にカウンターを食らってしまえば、待っているのは右サイド側ががら空きな陣形である。

 柏はプレス時に左WGのサヴィオが1列前のジェジエウの位置に立つ機会が増えた。おそらく川崎が右をちっとも使わないための対応だろう。この陣形のメリットはカウンター時に旗頭となれるサヴィオを川崎の選手がいないサイドにおいておけること、そしてもう1つは柏の2トップの右側のFWが川崎の左サイドのプレスに加勢しやすくなることである。

 確かにこの試合の登里のパスのクオリティはよくはなかったが、同サイドにこれだけ閉じ込められやすい環境を作られればミスが起きるのは必然だろう。繰り返しになるが、右の大外を使う意識がないから柏はこうしたプランに打って出ることができる。ガラ空きになったサヴィオとジエゴの間のスペースを狙う意識がある陣形を組めれば、山村から対角パスを飛ばす余裕は明らかにあったはず。それをしなかったことはシンプルに残念な気持ちでいっぱいだ。

 そうした構造的な不具合とは関連性が薄い遠野の退場劇が起こり、川崎は10人で数的不利になる。柏は一気に畳みかけようと攻勢を強めていく。サヴィオのクロスとジエゴがオーバーラップの組み合わせから川崎のラインを上下動させて、バイタルが空けば高嶺がミドルを打ちまくる。途中から川崎のMFを追い越すようにジェジエウがミドルシュートのブロックに行っていたのはこの時に高嶺に3連ミドルを打ち込まれていたからではないかとにらんでいる。しかしながら、ボックス内の細谷や高嶺のミドルは追加点を奪うことができなかった。

 10人の川崎の流れが変わったのはジョアン・シミッチの登場と小林と宮代というオフザボール勝負の前線が入ってからである。展開力のあるシミッチの登場で川崎は最後の20分で右サイドを使うということを思い出す。広くピッチを使うようになった川崎に対して、柏はボールの捕まえどころを完全に見失うようになり、4-4-2の広がった網目を簡単に横断されるようになる。

 川崎の同点ゴールは山根のオーバーラップから。ゴミスで犬飼と古賀のラインを決めた川崎は橘田がフリーで合わせて同点に。「裏へのランorピン止めで最終ラインの高さを決める」×「後方からのサポート」はとても汎用性の高い得点パターンだ。遠野とかこれやって欲しいのだけど。

 以降も川崎は10人という数的不利をお構いなしで勝ち越しゴールを狙い続ける。ただ、小林が抜け出し切れるスピードがなく、宮代はパスワークでミスが目立ちカウンターは停滞する。

 保持で展開を平定できず同点ゴールを許した柏。彼らもまた終盤に押し込むチャンスを迎えたがこじ開けることができず。川崎のブロック守備には十分スキはあったが、柏のパスワークにはもう一歩丁寧さが欠けていた。

 10人×11人という不均衡で後半を戦った一戦は引き分けで幕切れ。日立台での川崎戦はこれで3年連続のドロー決着となった。

あとがき

 10人で走り回った選手たち、とくに中盤の橘田と脇坂とゲームチェンジャーになったシミッチの3人には非常に感銘を受けた。オーバーラップからのクロスで一発回答アシストを決めた山根も今季の課題となっている部分に一定の答えを示したパフォーマンスだったといえるだろう。プラス材料は上記の選手たちとDFラインに脅威を与え続けたシミッチくらいだろうか。

 チームとしてはやはり構造的にメリットがないトライをだらだらと続けてしまったシミッチ登場以前の時間帯が悔やまれる。手の内を見せないといえば聞こえはいいだろうが、別に4-3-3で幅を広くとる形での4-4-2攻略をこのメンバーで行う川崎の資料はこの試合以外にも山ほどあると思うので、わざわざ自分たちが苦しくなる戦い方を長々と続けていた腰の重さの方が個人的には気がかりだ。片手で足りる収穫しかなかった天皇杯決勝の前哨戦は杞憂であることを国立ではきっちり証明してほしい。

試合結果

2023.10.29
J1 第31節
柏レイソル 1-1 川崎フロンターレ
三協フロンテア柏スタジアム
【得点者】
柏:39’ 山田雄士
川崎:70‘ 橘田健人
主審:福島孝一郎

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