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「FA杯は好き、でも再試合は嫌い」〜勝手にプレミア定点観測21−22 中間報告 part2〜

ボトムハーフ編!!前編はこちら!

目次

【11位】クリスタル・パレス

5勝8分7敗/勝ち点23

■舵取りは激しく、積み上げは地道に

 ボトムハーフの中では比較的明るい展望が描けるチームといえるだろう。多くの不安な声と共にロンドンに帰還した新監督のパトリック・ヴィエラは前任者のホジソンとは異なり、保持主体の仕組みからチームを改革していく動きを見せている。

 前任者のスタンスである撤退型+ロングカウンターという形とは対極の形からチームを組んでいく選択をしたパレス。大きな舵の切り方が明らかな不振を呼んでしまうパターンもあるものの、パレスは方向転換の急激さの割にはうまく進歩しているチームといっていいだろう。

 ベースのシステムである4-3-3から保持時は3-2-5に大きく動くのが特徴。左サイドバックのミッチェルをWBの位置まで上げてアンデルセン、グエーイと共にウォードが最終ラインに入る。共にロンドンのクラブからやってきたグエーイとアンデルセンは足元のスキルが高く、新しいパレスを支えるディフェンダーとしての資質は十分である。

 ミッチェルの逆サイドの大外に入るのは右のSHを務める選手。すなわち、保持におけるパレスの両ワイドの選手はいずれもアシンメトリーな役割を託されていることとなる。右のワイドを務めるのはスペシャリストのオリーゼか何でも屋さんのアイェウ。大外から1on1を仕掛ける爆発力の観点でいえばオリーズの起用も面白いが、バランスや守備での貢献を考えるとアイェウになるのだろう。今のところは彼の方がプレータイムは長い。

 逆サイドのSHにはよりアタッカー気質の強い選手が入ることになる。CFとしてプレーできるエドゥアールはここに起用されるし、孤高のエースであるザハもここに入る。

 今までのパレスはザハがいなければ成り立たん!という感じだったけど、今季のパレスにおいてザハはアウトサイダー。仕組みにはめ込もうとすると、浮いてしまいやすいけど、仕組みでは解決できない問題に直面した時に個の凄みを発揮するという様子。チームが機能しないほど、彼への依存度が上がるという不思議な仕組みである。

 逆にチームの仕組みの中で大活躍を見せているのはギャラガー。チェルシーからのレンタルで新加入すると恐ろしいスピードでフィット。前向きのプレスと終盤まで落ちない運動量。そして組み立てからフィニッシュまで全局面関われる万能性でパレスのサッカーをつかさどるアイコンまで一気に駆け上がった印象である。

 試合終盤の決定力も高く、既にチームの勝ち点獲得に直接関与しているギャラガー。チェルシーからするとすでに来季のローンバックを決めていてもおかしくないくらいの活躍ぶり。パレスとしてはなるべく長いこと自クラブにとどめておきたい存在なのは間違いない。

 形を作り、そこにはめ込める人材も見えてきたヴィエラのパレス。基礎工事は順調。あとは練度、精度、幅などどうこの形をベースに磨いていくか。完成度を高めさえすれば、上位陣を苦しめる存在になりうる好チームだ。

Pick up player:コナー・ギャラガー
 ほかにいない。フリーマンで行動範囲は広いけど、チームが困った時に顔を出してボールを運びながら決定的な働きをして見せた。チェルシー、本音を言えば冬にでも戻したいのでは・・・。

今季ここまでの歩み

【12位】ブレントフォード

6勝5分9敗/勝ち点23

■使えなくなった得意パターン

 開幕戦ではアーセナルを撃破するという鮮烈なプレミアデビューを果たしたブレントフォード。まさしく序盤戦の主役といった様相で強豪を相手に回して本拠地にて熱戦を繰り広げてきた。

 なんと言っても特徴的なのはほとんど決め打ちといっていいくらいに、ボールの循環の流れが決まっていたこと。後方からのロングボール、落としをIHが拾ってサイドに展開。サイドからはファーに向かってハイクロスを蹴って落としをPA内で詰める。この一連の流れで得点までいけるのである。

 技術は高くはないが、やることをここまで限定すればさすがにかなりソリッドにはなる。大外から相手にひっかけにくいハイクロスをファーにあげるというオーダーさえやり遂げれば、そこには必ずといっていいくらい人が飛び込んでいる。高さという不調のない武器を手にしているのも頼もしい限りである。

 だが、中盤戦を越えたところから徐々に下火になってきたブレントフォード。大きな要因はラヤの離脱だろう。シュートストップ力は前提として、前線のロングボールにおける出し手としても非常に重要。攻撃の起点を1つ失ってしまったことでここからブレントフォードを支えてくれていたロングボールでの前進が効かなくなってしまった。

 お決まりのパターンでの前進が出来なくなったブレントフォードは徐々に苦戦するように。もっとショートパス寄りのトライも始めているところではあるが、またプレミアで通用する確固たるものにはなっていない。

 パターンAが使えないならば、使えなりに何とかするのがトーマス・フランク。試合ごとのシステムを調整して臨む。例えば、シティ戦の5-3-2の撤退型はPA内で脆さを見せるブレントフォードにとっては不向きなやり方。だが、ワイドのCBには前向きな迎撃をするなど部分的な改良で撤退時の状況を少しでも良くしようという工夫は見られた。敗れはしたが手を焼いた部分もシティにはあったはずである。

 ラヤは未だに復帰の目途は立たず。守護神なしで戦わなければいけない状況はまだまだ続く様子である。決まった型を維持できないながらにどれだけ勝ち点を拾えるか。序盤戦の貯金を維持しつつ、なんとか残留という最低目標は達成したいところである。

Pick up player:イヴァン・トニー
 チームの調子と同じく序盤戦に比べればコンディションを落としている印象ではあるが、それでもチームの攻撃を牽引する柱であることには変わりない。得点だけでなく、チャンスメーカーである万能性も魅力。多くの才能豊かなストライカーを輩出してきた歴代のブレントフォードのFWに引けを取らない活躍を見せている。

今季ここまでの歩み

【13位】アストンビラ

7勝1分12敗/勝ち点22

■再建の一歩目は上々

 グリーリッシュが不在となった今季は彼の売却資金で多くの攻撃的な選手を補強。イングス、ブエンディア、ベイリーなどクラブレコードを含む数多くのディールを成立させて、脱グリーリッシュに備えた動きを早いうちから見せていた。

 しかしながら、なかなかピッチ上では再構築が進まず。タメの効くグリーリッシュの不在で全体を押し上げる武器がなくなった影響は甚大。彼を追い越す動きでサイドからラインを下げて速いクロスを入れて仕留めるというパターンがなくなってしまい、チームはなかなか昨季のように決定機を作り出すことができない。

 中盤より前に怪我人が多く出たのも誤算だっただろう。昨シーズンは通年で稼働してきたドウグラス・ルイスが離脱。開幕から抜群の機能性を果たしてきた3センターに欠員が出ると中盤の強度は低下してしまう。

 2列目では期待の新戦力が軒並み出遅れ。ブエンディア、ベイリーなど多額の金をかけたタレントたちはまだアストンビラのサッカーになじめず新たな攻撃の柱にはなれなかった。

 唯一期待通りの働きを見せたイングスはどちらかといえばボックス内で勝負したいタイプ。少ないチャンスを決めることはできても、チャンスそのものを増やせるタイプではない。攻撃のリズムがつくれずまごついているうちに、スミス監督は解任。脱グリーリッシュ化のチャレンジはジェラード新監督に託されることとなった。

 ジェラードはまず、自陣からのショートパス主体の前進に切り替え特定のタレントによる前進の仕組みからの脱却を図る。多角形形成からの破壊を繰り返すことでサイドからの前進を試みることで、チャンスメイクは安定。トップのワトキンスの機動力も生かせるシステムの中で徐々に2列目のタレントが息を吹き返すように。

 守備の安定感も出てきており、対ビッククラブ相手には結果は出せていないものの、再び上を見据えることができる状況は整ったといえるだろう。ジェラードにとってはリスクのあるチャレンジだったはず。ここで大きな失敗をすればいつかは出番が回ってくるであろう古巣の監督就任にも影響が出る可能性も否定できない。それでもなんとか第一関門は突破。ここからチームを立て直して厄介なアストンビラを取り戻し、プレミアでの成功を手土産に大手を振ってアンフィールドに向かう青写真を実現させることができるだろうか。

Pick up player:ジョン・マッギン
 チームの調子に引っ張られず開幕からハイパフォーマンスを継続。チャンスメイクに得点に守備にあらゆる局面に顔を出しながらチームを牽引。EUROの疲れも何のその、好パフォーマンスだった昨年をしのぐ存在感をみせている。

今季ここまでの歩み

【14位】サウサンプトン

4勝9分6敗/勝ち点21

■チェルシーに敬礼!!

 大まかな方向性は例年通りといっていいだろう。波の大きいパフォーマンスと破壊力と脆さが隣り合わせのチームカラーは相変わらず。ハーゼンヒュットルのサウサンプトンは今年も出入りの多いシーズンとなっている。

 昨シーズンと変わったところを挙げるとすれば攻撃の中心人物だろうか。昨季はCHからの縦パス主体で中央でアタッカー陣のコンビネーションを駆使しながらの崩しで一気に相手の最終ラインの裏を取る連携で得点を重ねていた。そのためSHは極端に内に絞り、2トップと近い位置でプレーすることが求められていた。

 だけども今季の攻めにアクセントを加えているのは中央ではなくサイド。とりわけ存在感を発揮しているのは両SBである。パスセンスが魅力であるカイル・ウォーカー=ピータースがいる左サイドでは、斜めへの侵入からチャンスメイクを量産。パスの出し手としても受け手としても機能する彼を軸にアタッキングサードに侵入していく。

 右サイドでは単騎で活きるリヴラメントが躍動。一人で大外を蹂躙できるEUROでも流行った典型的な香車型SBとして、右サイドを一手に引き受けたパフォーマンスを見せている。

 さらにシーズン中盤からはCFの軸としてブロヤが定着。体を張ったキープでシーズン序盤にはなかなか見いだせなかった中央からの前進を託せる選手がようやく出てきた感である。ちなみにブロヤはチェルシーからのレンタル、そしてリヴラメントはチェルシーからの移籍と今季のセインツはチェルシーに世話になりっぱなしである。チェルシーに敬礼!

 ただ、いいことばかりならばこの順位にいるはずはない。守備面では昨シーズン以上にバックスがハイラインに耐えられない状況が頻発。攻撃時には主役になれる両SBは守備時には穴にもなりうる存在。特にリヴラメントは誰が相手でも抜けるけども、誰が相手でも抜かれそうというくらい1対1は見ている側にひやひやさせながら見守る思いを味わわせている。

 CBも悩みの種である。ヴェスターゴーアの代わりとなる柱が育たずに悪戦苦闘。成長を促したいサリスはトッテナム戦であまりにも軽率な一発退場を犯してしまうなど、信頼を得るのはまだ先の話になりそう。GKもカバジェロを緊急補強しなければいけないくらい怪我人に悩まされている。ちなみにカバジェロも元チェルシー!

 ここまでくればある種苦しむのは当たり前ともいえる。攻撃力だけで見ればここから後ろに登場するチームに比べれば2,3段上なので、撃ち合い上等!馬鹿試合上等!チェルシーに敬礼!の精神で残りのシーズンを乗り切ってほしいところだ。

Pick up player:ジェームズ・ウォード=プラウズ
 プレースキック職人はここに来て存在感を増している。精度の高いFKから勝敗を分けるプレーを連発。組み立てにおいても貢献度は高く中盤からコンスタントなチャンスメイクを続けている。

今季ここまでの歩み

【15位】エバートン

5勝4分9敗/勝ち点19

■課題に拍車がかかる

 アンチェロッティ→ベニテスという豪華絢爛の監督のリレーを行ったエバートン。しかしながら、ピッチで得られている結果と内容はチームの規模に見合ったものとは言い難いのが現状だ。

 昨シーズンのエバートンの大きな問題点はアンチェロッティをもってしてもオーガナイズできなかったブロック守備である。中盤が動きすぎることで間延びし、おおざっぱな撃ち合いが増えてしまうことである。

 もちろん、エバートンにはその撃ち合いに堪えうる優秀なアタッカーはいる。だが、リードしている際の試合のコントロールができなかったり、とりあえず相手に持たせておきたい試合で困ったり、あるいはより優秀なアタッカーがいるチームとの対戦では通用しなかったりなどチームに幅をもたらせない副作用は見えていた。

 バトンを引き継いだベニテスはこの課題を改善するどころか助長するような形のシステムを組んだように見える。間延びした陣形を受け入れて、中盤の豊富な運動量ですべてを解決する方向性。動く範囲を制御するのではなく、動けるやつを利用しましょう!という方向に舵を切った。

 となると、負担がかかるのは当然動ける中盤。ドゥクレがいなくなればこのチームは終わってしまいそう!という予感は普通に的中し、ドゥクレが負傷でいなくなった後は間延びした陣形とそれを処理しきれない中盤がそこにあるだけだった。

 撃ち合いの部分もなかなか厳しい様相だった。昨季は得点力だけでなく、空中戦のターゲットとして陣地回復役も担っていたキャルバート=ルーウィンの離脱はかなり痛かった。ドリブルジャンキーに見えて、人と組ませた方が活きるリシャルリソンはなかなかのびのびとプレーすることが出来なかった。

 直近12試合で1勝という成績はエバートニアンからすると受け入れがたいものだろう。この期間で勝ち点を奪った相手がアーセナル、トッテナム、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッドと謎に豪華なのは不思議だが、勝ち点を落としてしまっていること自体は不思議でも何でもない。

 この順位にいるのは試合の延期が続いており、年末年始で1試合しかリーグ戦がなかったことも一因ではあるが、それでもトップハーフには明らかに届かない位置である。

 さすがに降格の心配はないだろうが、昨季背伸びした経営を考えれば強化にお金を使う余裕はそこまでないはず。現有戦力で改善策が見いだせないのならば、シーズン終了までベニテスが監督の座についていられるかは怪しいといわざるを得ない。

Pick up player:デマライ・グレイ
 マジで獲っておいてよかった!キャルバート=ルーウィンが不在、リシャルリソンが調子が上がらない前線の中でひとりでできるもん系ドリブラーとしてピッチを躍動。フィニッシュの精度も高く、陣地回復から得点まで攻撃を一手に引き受けることができる貴重な存在として不動の地位を確立した。

今季ここまでの歩み

【16位】リーズ

4勝7分8敗/勝ち点19

■妥協しない姿勢も怪我人続出を前に・・・

 躍進を果たした1年目とは異なり、プレミア2年目となった今季は非常に厳しいシーズンとなっている。昨季は全く気にしなくてよかった降格圏のボーダーの話も今年はきちんと耳にいれなければいけない状況だ。

 大きな要因となったのは怪我人の多発である。開幕時から主力に怪我人が止まらない状況が続いてしまい、万全なスカッドを組んでプレーすることが出来なかったのは痛かった。

 とりわけダメージが大きかったのはバンフォードとフィリップスの2人。前者はアバウトなボールを収められるターゲット役として、足元がうまい選手ばかりとはいえないリーズの攻撃を引っ張る役割をこなしていた。守備面においても、2人のCBを相手に1人でプレスが立ち回れる貴重な存在。

 リーズのマンマークの起点は1トップが2人のCB相手に互角にやりあえなければいけないので、非常にハードルが高い。新加入のジェームズが同じ役割をこなそうと奮闘しているが、現状ではバンフォードの水準には至っていない。ジェームズがフィットしないというよりは単純に要求が高すぎるもののように思える。

 もう1人の要人であるフィリップスは左右への大きな展開というリーズの攻撃の持ち味を出すことができる稀有な存在である。こちらもフォーショウを復活させてなんとかやりくりしているものの、フィリップスと比べるとどうしても見劣りしてしまう。

 ビエルサはターンオーバーを極力避けてでも妥協しないチームを作ることで知られている。だが、今季はその妥協しないチームのメンバーがそもそも揃わないことで苦境に立たされている。負傷しているのはバンフォード、フィリップスだけではない。ラフィーニャも離脱と復帰を繰り返しているし、エイリングやロドリゴはさらに低い稼働率になっている。

 昨季までの主力で健康な選手は数えるほど。アーセナル戦はベンチメンバーにプレミア経験のある選手がほぼいない状況で臨むことになってしまっていた。

 妥協を許さないビエルサの性格を考えれば、現実的な路線に収束していくことは考えにくい。というかその路線に収束した時のリーズの強みがプレミアで通用するのかがそもそも怪しいけど。となれば、単純に負傷者の復帰か救世主の到来にすべてがかかっているといっていいだろう。1人でも多くの復帰と1人でも多くのニュースターの登場で、本来のビエルサらしいダイナミックなサッカーを残りの半年で取り戻すことを目指すしかない。

Pick up player:スチュアート・ダラス
 リーズが誇るなんでも屋。主戦場は今季はSBのように見えるが、基本的には選手がいないところならどこでもできる人なので、彼が離脱しなかったことはビエルサにとっても非常に大きかった。

今季ここまでの歩み

【17位】ワトフォード

4勝1分13敗/勝ち点13

■何度ツボにハマる試合をできるか

 昇格組として開幕戦で勝利を挙げて好スタートを切るもその後は低迷。監督が再建屋として名高いラニエリに代わってもなおチームはなかなか上昇気流に乗ることができない。現在はリーグ6連敗中で降格圏に徐々に近づきつつある状況だ。

 これまでの戦績さえ見れば彼らのスタイルは浮き出てくるようである。クリーンシートはここまでなし。勝利した4試合はいずれも3得点以上決めている。その他の試合では3点以上取ったゲームはなし。ハマれば強いが守れない。彼らの試合は非常にわかりやすい。

 目につくのは守備面の不備である。クツカ、シソコなど経験と運動量が豊富な中盤セントラルはある程度ボール奪取の見込みは立つが、そのほかがあまりにもひどい。両SHは攻撃性能こそ優秀ではあるが、献身的な自陣を埋めての4-4-2ブロック守備に長けているメンバーではない。ラニエリ×4-4-2といえば当然ミラクル・レスターの再現が期待されると思うが、ワトフォードには岡崎やオルブライトンがいないのである。

 それに輪をかけてひどいのがSBである。ワトフォードのSHは守れないけども、彼らが下がらなければワトフォードはSBから簡単に決壊してしまうチーム。とりわけ、新加入のローズのパフォーマンスは思わず目を覆いたくなる。当然のように1on1で敗れ、抜かれた後の対応は攻め残るFWのように怠慢、PA内だろうとお構いなしでレイトタックルを行いPKの大安売りをする。

 全員が彼ほど怠慢なわけではないが、1人怠慢な選手を何とかできる余裕があるほど最終ラインの人員は潤沢なものではない。チーム全体の重心が下がってしまったり、CBがサイドに出てきたりなどSBのところでのデュエルの劣勢は確実にチームに悪影響を及ぼしている。

 攻撃に目を向ければ多少は未来は明るい。22得点はおそらく今季の残留争いの中心になりそうなボトム5の中では最も多い数字。中心の1人と目されたサールがここ数試合欠場しているものの、それを補って余りある活躍をしているのがデニス。ベルギーからやってきたアタッカーは独力で攻撃を完結させられるプレミア下位にうってつけのキャラクター。とりわけ12節以降の7試合で5得点と苦しいチームの中での光となっている。

 さすがにここからソリッドなブロック守備を作り上げる未来は見えないので、どれだけ殴り勝てるかだろう。一度ツボにはまれば試合終了まで殴るのをやめないイケイケなスタイルのスイッチが入ることを祈るしかない。

 70分までは楽勝ムードだったグディソン・パークを恐怖のどん底に突き落とし、スールシャールの解任の背中を押したワトフォードの爆発力に我々は今季あと何回お目にかかることができるだろうか。

Pick up player:エマニュエル・デニス
 開幕前はサールが牽引するのかと思っていたのだが本命はこっち。得点も舌を巻くものが多く、特にウェストハム戦のゴールは絶品だった。いや負けたけど。

今季ここまでの歩み

【18位】バーンリー

1勝8分8敗/勝ち点11

■降格争いは妥当な失点のペース

 年々、じり貧になってきている感が否めないのだが、今年もやはり苦しい戦いとなっている。ここ数年の伝統芸能と化している出遅れは今季も健在。10節に昇格組のブレントフォード戦まで未勝利という苦しい立ち上がりだった。

 初勝利以降は勝ち星こそないものの引き分けで相手から勝ち点を定期的に奪うケースはちょくちょく。チェルシー、ウォルバーハンプトン、ウェストハムのような上位チームからも勝ち点をもぎ取っている。

 チームとして少し変化を感じるのは少し4-4-2で自陣のブロックを組むモデルに限界が来ているのではないか?という点。バーンリーの過去の成績を見ていると、上位に躍進できた年は軒並み失点が50点付近に抑えられたときになっている。ちなみにEL出場まで躍進した17-18シーズンは39失点だった。

 それががっつり降格争いをした昨年は55失点。今年もその水準に近いペースで失点を重ねており、躍進した年にチームを下支えした堅守というベースがなくなりつつある。

 CB陣を見てもハイクロスへの対応はさすがではあるものの、鋭いボールを入れられるとあっさりマーカーをしてフリーで合わせられているシーンも多く、イメージほどの堅さはない。得点においては空中戦の武器は未だに健在ではあるけども。

 勝ち点をとれている試合は守り切るというよりもむしろ、彼らが点を取れるもっさりした展開に相手を引きずり込んだ時のように思う。間延びした中盤から長いキックでボールがピッチを行ったり来たり。そんな何とも言えない時間が流れているときほど試合はバーンリーに傾いていることが多い。

 今年はウッドがなかなか得点が伸びずに苦しんでいるが、代わりにスコアラーとして躍進しているのが新加入のコルネ。ダイナミックな得点でチームトップの6得点を挙げている。

 なので、ポイントはもっさりとした沼にいかに相手を引き込むか?である。少ない攻め手でゴールまでたどり着くFWにとっととボールを渡してなるべく点をとる形を作る。負けない試合を続けながら勝ち点を拾うシーズンにはなるだろう。何チームを沼に引きずり込めるか。自分たちのペースで進められる試合を増やせるかがポイントになりそうだ。

Pick up player:マックスウェル・コルネ
 どうやらクリス・ウッドがニューカッスルに行ってしまいそうなので、得点源としての期待はより高まりそう。怪我が多いのが玉に瑕。彼の稼働率がバーンリーの残留を左右するといっても過言ではないだろう。

今季ここまでの歩み

【19位】ニューカッスル

1勝8分10敗/勝ち点11

■手段は問わないミッション

 サウジアラビア系の企業からの買収を受けて、ファンにとっては憎きマイク・アシュリーの手からようやくチームが離れることとなったニューカッスル。間違いなく、今季のプレミア前半戦のピッチ外の主役は彼らである。

 真っ先に首を切られるであろうと思ったブルースに対してまさかの続投宣言を出しておきながら、次の試合のトッテナム戦に負けたら即解任という鬼畜ムーブをかました新オーナー。確かに続投宣言とメディアに銘打たれた文書の中には『トッテナム戦は全力でサポートするのでよろ』としか書いていないので、嘘はついていない。なんだその伏線回収みたいなやつ。わざわざ言う必要あったのかよ。

 というわけでみんな初めから知っていた通りブルースはクビになりました。後任になったエディ・ハウが取り組んだのは脱サン=マクシマン。ブルースによってニューカッスルはサン=マクシマンなしでは生きられない体にされてしまったので、まずはその依存度を下げるところから始めたようである。

 脱サン=マクシマンの手段はハウにとって手慣れている4-4-2からスタート。ボーンマス時代に見せたようなポゼッション寄りのメンツを並べて、ショートパスをつなぎつつ自陣から進んでいく形にトライ。

 ただ、ウィロックとシェルビーというCHコンビではプレミアの守備強度を満たさないことをどうやら早々に悟った様子で、数試合で方向転換。ジョエリントンをIHにする3センター化を行いアンカーにS.ロングスタッフのような守備的な選手を置くという現実策に落ち着いた感がある。

 とはいえチーム構築の本番はここから。トリッピアーの獲得を決めて、返す刀でウッドの獲得を狙っていくなど降格だけは全力回避のムーブ。どうせならデニス、ラフィーニャあたりの他のライバルたちの主力もぶっこ抜いてプレミア史に残る鬼畜の所業をやってほしい。

 いずれにしても今季はどんな手段を使ってでも残留すればOK。それ以降の話は来年だ!という感じである。そのための監督がハウでいいのかはよくわからないけど。降格してしまっては意味がない。金があってもチャンピオンシップに来る戦力には限りがあるだろう。冬の戦力を組み込んだ短期的な最適解の導出にたどり着けるかが向こう数年のニューカッスルの命運を分けるといっても過言ではないだろう。

Pick up player:ジョエリントン
 1トップとしては爆発力が足りないが、FWとしては勤勉で体も張れるタイプということで、IHにコンバートされた。便利屋さん感もあるけど、地味にこの役割は代替不可。黒子としてチームを支えている。

今季ここまでの歩み

【20位】ノリッジ

2勝4分14敗/勝ち点10

■ポゼッションを防衛策以上のものにしたい

 11節にブレントフォードに初勝利を挙げて、いよいよここからや!!!となったところでファルケ監督は普通にクビ。なんでそんなに間が悪いタイミングなんだよ。あと、地味にブレントフォードはバーンリーに続いて初勝利を届けてしまっている今季のサンタクロース的な存在である。

 というわけで後任に据えたのはこちらもアストンビラを途中解任されたてほやほやのディーン・スミス。スミスが再構築するチームはニューカッスルと同じくポゼッションに舵を切る志向のチーム。縦に速く3トップで得点するチームから脱却したいという狙いだろう。

 ただ、これは攻撃面というよりも守備面を考慮したものであるのではないかなと個人的には踏んでいる。今のノリッジの守備陣で縦に速い攻撃の応酬になると、バックスの強度が足りずに耐えられないと考えたのではないか。そのため、ポゼッションを増やして守備の機会を減らそうと目論んだと予想する。

 そのためウィリアムズやギルモアのような現代的な選手を中核に据える形に変更。スミス監督は就任以降、3試合とも勝ち点を奪い一気に断トツ最下位から残留争いまで返り咲く。

 しかし、そこからの6試合は全敗。勝ち点どころか得点も1つも取れず、再びチームは苦しい局面に立たされてしまう。縦に速い形、引きこもってのロングカウンター狙い、そして今のポゼッションといろんなスタイルにトライしていたが、正直どの形でも弱みが出てきてしまいそこをあっさりとつぶされるという試合続き。最少得点、最多失点では残留するほうが難しい。

 とはいえ、今年のリーグ戦は下位4チームが切り離される形で勝ち点は推移している。勝ち点的には残留の可能性はある。まずは糸口を見つけること。得点源のプッキへほとんどいい形で届けられていないのでその部分を頑張りたい。保持を守備機会の減少だけでなく、得点を取る武器にできた時にようやく残留の光が見えてくるはずだ。

Pick up player:ビリー・ギルモア
 EUROではスコットランド代表で、プレミアではノリッジでというかなり力関係的に厳しいチームの司令塔を歴任することになった21-22シーズン。正直、チェルシーでは経験し得ない状況に陥っている感があり、この経験がレンタル元のクラブでタメになるのかはさっぱりわからないが、とりあえず目の前のことを一生懸命やっている感はこちらまで伝わってきているので頑張ってほしい。

今季ここまでの歩み

おしまい!

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