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「人懐っこいヨークシャー・テリア」~2018.12.8 プレミアリーグ 第16節 アーセナル×ハダースフィールド レビュー

 一時は3試合負けなしで勝ち点を積み重ね始めたハダースフィールドだったが、現在は2連敗中。早くも今季4回目のリーグ戦連敗になっている。対戦相手次第の部分もあるが、基本的にはリーグ戦のみの過密日程は選手層の薄い下位チームの方がより不利である。トップリーグにおいてアーセナルホームで最後に勝ったのは実に60年ほど前になるが、アーセナルに一泡吹かせることができるだろうか。ちなみにハダースフィールドの愛称は「テリアーズ」。ヨークシャー・テリアを産んだヨークシャー州にハダースフィールドが位置していることが由来の要だ。マスコットも犬がモチーフになったものが使われている。ちなみに、ヨークシャーテリアは元々ネズミを追わせるという成り立ちらしく、大変勇敢で、負けん気が強く、頑固で自己主張もする「テリア気質」であるとのことだった。試合と関係ない。

 負傷者が徐々に増えてきたアーセナル。前節は2人を負傷交代で失い、過密日程を迎える前に不安は募る。強豪との連戦で疲労はたまる一方だが、ここをしのげば1位通過を決めているELを挟んで日曜日までリーグ戦はお休み。一息入れられる。上位勢に食らいつくためにもここは落とせない試合だ。

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目次

【前半】
ハダースフィールドを解剖する

 そのうちサッカーにはフォーメーション図があまり理解の助けにならない時代が来るのと思っている(もう来てるかもしれないけど)のだが、この試合のハダースフィールドの布陣は正しくそれに当てはまるケースなのかなと思った。

 アーセナルのビルトアップの配置はこの図に近かった。CB3枚での最終ラインの組み立てを行う。ハダースフィールドは3枚のCBのプレスに数を合わせる。特徴的なのは2トップの補助として前線のプレスを担当したのはWB(SH?)のレーベであること。これに伴い、浮くベジェリンはコンゴロが捕まえに行く。

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 アーセナルのボランチから前の選手には、基本的には前を向かせないようにハダースフィールドの選手がチェックに行く。中盤はローテーション気味で、攻撃時にアンカーのようにふるまうホッグが前でプレスをかけることもあった。ハダースフィールドの中盤がアーセナルの中盤に厳しくチェックに行くタイミングで後方のDFラインも押し上げを実施。ラカゼットとオーバメヤンもザンカとシンドラーが捕まえに行く。降りていってもついていく動きは徹底。時にはハーフウェイラインを越えてチェックをかけるときもあった。

 前を向かせないことが第一なのでファウルはやむなし。自陣から遠い位置のFKは怖くないとの判断だろう。仮にファウルでも止められず、前を向かれたらその瞬間に全体でプレスバック。PA周辺を5-3-2のような形のゾーンで固める。

 ただハダースフィールドがPA周辺を5バックで固めるシーンは20分過ぎまではあまり見られなかった。アーセナルがボールを保持して押し上げるシーンが少なかったから。アーセナルはプレスを脱出して前を向いたら、両WBがメインで一気に裏を取って、ブロックを組まれる前にフィニッシュに持ち込んでいた。ただ、ハダースフィールドの帰陣も速かったため、アーセナルのカウンターは数的同数ややや不利になることが多く、序盤は決定機を生み出せなかった。

 ハダースフィールドがボールを保持している局面ではコンゴロがLSB、レーベがLSHっぽく振舞う4-2-3-1っぽい形が多かった。ボールを取り返すと、両CBは大きく開いてアーセナルの2トップ脇から侵入を試みる。時にはGKもボール回しに参加。アーセナルのインサイドハーフが最終ラインに食いついてきたらそのギャップに入りこんできた選手に楔を入れる。そのタイミングで裏へ走る選手にボールを送る。これで仮にボールをロストしても、陣形的にはアーセナル側に押し返してからのスタートが可能だ。

 先述した通り、特徴的なのはアーセナルの最終ラインにプレスをかけるのが左WBのレーベになっていること。後方のコンゴロはレーベの動きを基準にして動いているように見えた。21分のシーンでは、ムスタフィへのプレスが遅れ、結果的にベジェリンについているレーベに対して、オーバメヤンを注視しながら裏抜けを警戒しているコンゴロという役回りの変化があった。この辺りは縦の連係がうまくいっているように見えた。オーバメヤン足速いからぎりぎりの対応っぽく見えたけども。この役割ではレーベには過負荷を強いることになる。4試合連続で左サイド前線を担当していたドゥルムではなく、フレッシュなレーベを先発で起用したのはこの役割を任せるためかもしれない。単にケガ明けで復帰しただけかもしれないけども。

 ただ、レーベのサイドからのプレスが遅れることは稀だった。むしろプレスが遅れるのはドゥポワトルがプレスを担当していた逆サイドのほう。アーセナルはここから進軍していきたいところだが、いかんせんここで今季いい働きを見せていたホールディングが不在。ソクラティスも持ち上がってみたり奮闘はしていたけども、その結果ドン詰まりすることもちらほら。アーセナル的には後方からの押し上げもイマイチで、前は個人個人で捕まえられるということで、陣形を前に進めることに苦労していた。

 風向きが変わりはじめるのは20分過ぎ。徐々にアーセナルの選手がハダースフィールドのプレスをかわし始める。特にハダースフィールドが手を焼いていたのはゲンドゥージ。行動範囲が広く、相手を剥がせるドリブルを武器に人を引き付けながら、ハダースフィールドの陣形に穴をあけていた。中央の低い位置からボールを引出して、ビルドアップに詰まる最終ラインの手助けをしていたのが印象的。オーバメヤンの決定機創出もゲンドゥージ起因だ。いつもより縦横無尽に動くオーバメヤンの動きもハダースフィールドの守備陣の混乱を誘っていた。直後のラカゼットの決定機を演出したのはベジェリン。競り合い後に前線まで駆け上がるのも素晴らしかった。

 35分を過ぎたころには徐々にファウルで止めるシーンが増えてくるハダースフィールド。カードがここから増えてくる。ハダースフィールド3人、アーセナル1人がタックル起因のファウルでカードをもらっていた。ソクラティスが流れに乗って累積警告になるカードをもらったのは、軽率といわざるを得ない。最後の最後でハダースフィールドに惜しいシーンがあったものの、得点はなし。前半は0-0のスコアレスで折り返す。

【後半】
打開はサイドから

 後半頭から2枚替えを敢行するアーセナル。ラカゼット、リヒトシュタイナーを下げて、イウォビとムヒタリアンを投入して4バックに移行する。

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 狙いとしてはかみ合わせを外すことだろう。後方の人数は減るが、ハダースフィールドは徐々にプレスの強度が落ちていたし、枚数削ってもOKと判断。ゲンドゥージを軸にプレス回避はできていたので、むしろそこからできる間のスペースで受けることができるイウォビとムヒタリアンを入れるということだろう。

 ポイントはインサイドハーフを使ったサイドでの数的優位もしくは同数でのコンビネーション。左はゲンドゥージ、右はトレイラだったりジャカだったりをメインに低い位置にインサイドハーフがポジションすることで、SBの押し上げを図る。交代して入ったサイドハーフの2人は比較的内寄りにポジションを取り、インサイドハーフに対してパスコースを複数作る。ハダーズフィールドは徐々に押し込まれてて、後方に人数を増やさざるを得なくなる。

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 サイドで優位ができる分、中央での密度は下がるのは4-3-3の難点。そこを補う動きをしたのが得点シーンのトレイラだ。オーバメヤンが流れたスペースに飛び込んで貴重な先制ゴールを決めた。ゲンドゥージの仕掛けのパスも然り、この辺りは3センターっぽい効果が出ていると感じた。トレイラのオーバーヘッドも強烈だが、受けてからのうまいなオーバメヤンは。

 少ない枠内シュートで苦しみながらもなんとかこじ開けたアーセナル。試合は1-0でアーセナルが逃げ切った。

まとめ

 耐えきれなかったハダースフィールド。出場停止や負傷者が出てくる中で面白い対策を打ってきたように感じた。しかし、プレミアは過密日程の真っ最中。少し過負荷な戦術だったかもしれない。結果的には20分程度しか持たなかったし、そこで決定機らしい決定機をあまり創出できなかったのもつらい。ブロック組んでからも奮闘はしていたが、アーセナルに上回られた格好だ。これで3連敗。残留に向けてまずは踏みとどまれる1勝が欲しいところだ。

 またも2枚替えで急場をしのいだアーセナル。本文中では触れなかったが、次節はソクラティスとムスタフィ不在の最終ラインは非常ベルが鳴っている状態。エメリは頭が痛いだろう。前半の動きを見返すと、いつもより行動範囲が狭かったラカゼットの状態も気がかりだ。そんな中でマンオブザマッチのトレイラに加えて、印象的な働きをしたのはゲンドゥージとオーバメヤン。ゲンドゥージは本文でも散々触れたので割愛。オーバメヤンは前節くらいから、トップとしての引き出しはかなり増えてきた印象。ポストやプレスバックなど本人の100%宣言はあながち嘘ではないかも。

 CBの頭数不足、WBの控えが実質不在という問題も抱える3バックシステムは継続するのだろうか。次節もエメリはぎりぎりのやりくりを強いられるのは間違いないだろう。

【おまけ】
ラカゼットのオフサイド判定について

 40分過ぎだったかな?ラカゼットのゴールがオフサイドで取り消された部分でこんなツイートをしたんですけど 競技規則を読み直すとこんな記述が出てきたので。

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 ラカゼットは相手のCBがバックパスをする前に、明確にCBにプレスをかける動きをしていたので、「ボールへ向かう相手競技者に挑む」の項に当てはまるのは妥当かなとも思います。このほかに試合中にツイートしたウィリアムズのタックルは赤が妥当。という意見は変わらないけど、ラカゼットのオフサイドは不可解という意見は僕は撤回しますね。

試合結果
プレミアリーグ 第16節
アーセナル 1-0 ハダースフィールド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
83′ トレイラ
主審:ポール・ティアニー

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