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「流れのキープ力」~2021.10.30 プレミアリーグ 第10節 レスター×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■右サイドの攻め所+CHの負荷軽減で主導権を握る

 立ち上がりから優勢だったのはアウェイのアーセナル。特にボール保持からの前進でペースを握り、レスターを敵陣に押し込む。

 非常に効いていたのは右サイドの前進だ。スマレの後方に入り込むラカゼットで相手のCHの後方を取るとそこから右サイドの高い位置を取るサカに展開。そこからはサカが対面のトーマスにドリブルを仕掛けながらレスターのラインを動かす。

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 ドリブルでラインを下げたところでマイナス方向が空くレスター。サカのドリブルで開いたバイタルに他の選手が飛び込むことでチャンスを創出する。サカがこういったラインを動かせるようなプレーができるととても心強い。今のアーセナルの得点力はどこまで2列目を絡めることができるか次第なので、こうした2列目が入り込むスペースを作る動きはアーセナルの攻撃の底上げに必須。サカを高い位置まで押し上げたラカゼットも含めて、右サイドの動きが非常にスムーズだった。

 アタッキングサードより手前の場面でもアーセナルのビルドアップは安定感があった。今のアーセナルはCHが落ち着いて前を向く機会を増やすことができれば、ボールを落ち着かせることも縦に進めることもできるので、ビルドアップはいかに彼らに前を向いてボールを進めるかがポイントになる。

 プレビューでこの試合でポイントにあげたのはSB。レスターの3-4-1-2に対してサイドの選手は時間を与えられると思ったから。彼らが自分たちに相手をひきつけることができれば、中央でCHをフリーにできる。

 例えば9分手前の冨安のプレー。大外でラカゼットとワンツーしながら中央に入り込むドリブルを行うとスペースがあく。

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 この場面では空いたのは降りてくるオーバメヤンだったけど、この動きはトーマスやロコンガを前に向かせるのに役に立つ。相手をサイドに置き去りにして中央に入ってくる選手がいれば、中央のマークは分散しやすい。逆サイドのタバレスもそうだが、内外問わずプレーができるSBが両サイドにいるので、CHがプレッシャーを一身に受ける頻度は下がっているように思う。

 もちろん、それに一役買っているのはCBも同じ。相手を引きつけつつ配球役として相変わらず安定しているガブリエウと、自らがより積極的に持ち運ぶホワイトのコンビはこの日も高水準のビルドアップをすることができていた。

 前線の選手も降りてくる頻度が適切で、顔を出した後に前に出ていくまでの動きがスムーズ。特にラカゼットはこの部分の匙加減が別格だった。

 このような多様な手段でCHのプレッシャーを軽減できるようになっているのを見ると、アーセナルのビルドアップは少しずつ質が高くなっているのだなと思う。クリスタル・パレス戦の1失点目は個人的には教訓で、厳しいプレッシャーをCHに押し付ける形のボールの動かし方をチーム全体で減らすべきだなと痛感した。この課題解消はここ2試合を見る限り順調に進んでいる。

 保持の局面で押し込む機会が増えたアーセナルはセットプレーから先制。ニアに走り込むホワイトをフリにその後方に選手を潜り込ませるのがこの日のセットプレーだったが、この場面ではガブリエウがホワイトの後ろから入り込み先制する。その直前のCKではニアのホワイトと他のアーセナルの選手の間に立ったヴァーディがクリアできていたが、この場面ではこのヴァーディのストーンをギリギリ超えるようなクロスでガブリエウに届かせた。サカのCKは見事な軌道だったと言えよう。

 続くアーセナルの2点目は先に示したサカのドリブルでのスペースメイクが目立ったシーン。サカのドリブルによってできたスペースにラカゼットが入り込んだことで溢れたボールにスミス・ロウ。コースはほぼなかったが、ここしかないところを撃ち抜いて見せた。スミス・ロウはアシストもゴールも増えており、2列目の得点力という積年のアーセナルの課題を解決しうる存在になっている。

 サカと対面するL・トーマスはアーセナルとの前回対戦でぺぺに手を焼きまくった苦い経験がある。この試合でも対面のサカに手を焼いたL・トーマス。再び苦い経験で苦しめられることになった。

■重すぎるレスター、引きすぎるアーセナル

 先制点が非常に早い段階で入ったこともあり、元々のレスターの保持に対するアーセナルのプランがどのようなものだったか、本当のところはよくわからない。

 だけども、プレスとリトリートの二段構えであることや、前にプレスにいく時にロコンガが前にいく形でCHが縦関係になることなど、軒並みアーセナルの守備の陣形はプレビューで予想した通りと言えそうである。

 したがってレスターが狙い目にしやすいのはこの際にできるCHのギャップである。何回も出しているこの図でできるギャップ。

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 だけども、レスターはあまりこのギャップをうまく使える流れではなかった。考える理由は2つ。1つはアーセナルがそもそも強気の前プレを選択する機会が少なかったこと。ここは当然先制点をすでに確保しているからという部分が大きい。よって、そもそもCHの縦のギャップは発生する機会が少なかった。

 2つ目はレスターの重心がやたら後ろ向きだったこと。立ち上がりにアーセナルのプレスに対して何回か引っ掛けたためかマディソンやティーレマンスがやたら低い位置に入ってしまうことが多い。

 中盤を飛ばしてヴァーディが受けようとも、彼がサイドに流れてしまうとエリア内にヴァーディからのボールを受ける選手がイヘアナチョしかおらず、アーセナルとしては守りづらい状況ではない。そのためレスターはスムーズにゴールを刺すところまで移行ができない。後ろに選手をかけすぎる弊害である。これに苦しんできたアーセナルファンならば深く共感できる現象だろう。

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 アーセナルが深い位置で4-4-2を構えるようになったこと。そしてマディソンとティーレマンスが低い立ち位置を取ることでレスターはなかなかアーセナルの陣地に進むことができない。

 だが、アーセナルはいくらなんでもプレス開始ラインを低く設定し過ぎたように思う。アーセナルがプレスラインを下げたせいで徐々にレスターは押し込めるように。マディソンやティーレマンスも段々と立ち位置を高めに移動するようになったことや、アーセナルのプレス隊に放置されたCBが持ち運びを始めたりなど、レスターの修正はなかなかに見事だった。

 間でも裏でも生きる2トップがちょこまかするせいで、ライン間を閉めるのが難しくなったアーセナル。イヘアナチョやヴァーディが触れる機会が増えていく。撤退しているのならば、せめて使わせたくないところを閉じて受けたいところだが、アーセナルは危険なエリアでのファウルが何回かあった。レスターの2トップが裏に消えた!と思ったらマディソンが入り込んでくる!みたいなサイクルでレスターがアーセナルのDF陣を上回る機会が増えた。

 ミドルゾーンのシュート力に長けているレスターにこうした機会を与えるのは非常に危険なのだが、この日はラムズデールが立ちはだかる。特にマディソンのFKへのセービングは絶品。セーブ後の体勢の立て直しまで含めて、文字どおり水際で対応し、シャットアウト。レスターは流れを手にしながらも得点に手をかけることはできなかった。

■賭けにでたロジャーズと流れを取り戻したオーバメヤン

 うまくいっているけど2点ビハインドの状況は変わらなかったレスターはハーフタイムに2枚替えでシステムを変更。ここで攻め方を変える賭けにでた。 

 正直、ドリブラーを入れての4-2-3-1への移行はアーセナルにとってありがたいと思っていた。4-2-3-1の攻撃の軸となるのは当然両サイドのアタッカー陣。交代で入ったバーンズとルックマンは今季ここまで単騎突破を試みてはロストを繰り返すパフォーマンスが多かったし、バーンズと冨安のマッチアップならば、今は後者に軍配が上がると思っていた。

 しかしながら、この交代でさらにレスターは攻勢を強める。自分の目は節穴であった。少しでも言い訳をするのならば、特にバーンズは周りを使う動きがうまくなっていた。オーバーラップするL・トーマスやサイドに流れてくるスマレなどのサポートを使いながら、自身もエリア内に入り込んでいく。

 周りを使われてしまうとアーセナルはDFの連携の不備を露呈。攻撃では比較的良好な関係を気づいている冨安とサカも守備においてはまだ息があっているとは言えない。49分のように冨安とサカは受け渡しがうまくいかないことが多く、内側のトーマスやホワイトも含めて大外、ハーフスペース、そして裏の3箇所をローテしながら埋め切ることができなかった。

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 結局は内側に入れさせたくないのだけど、捕まえにいく意識が強くなり過ぎてしまうと54分のL・トーマスのシュートのようにゴールまでの電車道を開けてしまう守り方になってしまう。

 このハーフスペースへの入り込みはレスターの右サイドでも活用。ルックマンだけでなく前半よりも高い位置を取れるようになったカスターニュが攻撃に絡むことでアーセナルのサイドの守備陣を置き去りにする。

 ルックマンは外だけでなく、アーセナルのCHの後方でボールを受けてのドリブルで前にボールを進める役割もこなすことができていた。アーセナルはよりMF色の強いウーデゴールをラカゼットに代えて投入するが、中盤のフォローは彼が入ってもなお間に合わず。選手交代で流れを取り戻すことができない。ウーデゴールは保持でも下がり過ぎてしまう嫌いがあり、ラカゼットほどスムーズに試合に入ることはできなかった。もっとできると思うのだけど。

 そんな苦しい流れを変えたのはオーバメヤン。エバンスへの警告を引き出す抜け出しあたりから、アーセナルは守り一辺倒の時間を脱することができた。できれば退場判定にして欲しかったところだが、このプレーから押し返す時間も作ることができただけでも大きい効果があった場面だった。

 レスターの攻撃はハーフスペースへの走り込みを軸とする後方や中盤のオフザボールの激しい動きが基軸となっているので、時間の経過とともに徐々に動きが落ちてきたのも大きかった。動きが落ちたことで先に図で示したようなアーセナルの守備陣が防ぐべき3つの位置に、人を置き続けることが難しくなったのである。人がいなければアーセナルはそこを気にする必要もない。

 尻すぼみになったレスターを振り切り、結局そのまま試合は終了。苦しい時間帯を凌いだアーセナルがクリーンシートで逃げ切り、リーグ戦の無敗を7に伸ばした。

あとがき

■光が刺した4-2-3-1

 4-2-3-1へのシフトチェンジは少し大胆かと思ったのだけど、見事嵌めたのには驚いた。前半途中のビルドアップの修正も含めて、非常に実力が高いチームであることは示したと思う。ただ、3-4-1-2を維持したままの攻撃力の手当てっていうのはイヘアナチョ→ダカの部品交換以外は正直思いうかばないので、単に味を変えて攻撃するのならば4-2-3-1しかなかったのかもしれないけども。

 いずれにしても4-2-3-1に目処を立てられたのは大きい。この試合では結果に実らなかったが、これからは相手によって出方を見ながら使い分けられるようになると思う。バックスはまだ心許ないが、前線はダカの加入に加えてルックマンとバーンズが機能したとなるとだいぶバリエーションができてくる。引き続き上を目指すために明るくなれる材料はあった一戦だった。

■負けにくいチームへの変貌を遂げる

 苦しい一戦だったがなんとかクリーンシートの逃げ切りを達成。バックスはガブリエウを中心に後半の苦しい展開を跳ね返し続け、自分達ペースではない時間帯でチームを助け続けた。中でも際立ったのはラムズデール。これまでのアーセナルのGKと異なり、自らの高いパフォーマンス見せつつ周りを鼓舞する情熱派。彼のセーブは流れを相手に渡さないために非常に重要である。

 本文中で触れた後半のオーバメヤンもだけど、2点目を取って以降は自分達の時間帯は少なかったが、流れを相手に渡さないように粘る守備陣や流れを引き戻そうと汗をかくFW陣の奮闘は心強かった。要所での流れのキープ力は確実に高まっている。ハイプレスへの耐性の向上も含めて段々と負けにくいチームになっているように思う。

試合結果
2021.10.30
プレミアリーグ 第10節
レスター 0-2 アーセナル
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
ARS:5′ マガリャンイス, 18′ スミス・ロウ
主審:マイケル・オリバー

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