プレビュー記事
レビュー
4-4-2に対する3-2-5の話
ドバイキャンプ以降は連勝継続中のアーセナル。ミッドウィークにはCLのポルト戦を控える中で、ターフ・ムーアにてポルトと同じく4-4-2を基調とするバーンリーと対峙する。
立ち上がりは少しバタバタしたものだった。強気に出てくる相手に対して、やや縦に突っ込み過ぎてしまった感があったというか。そうした部分で多少攻撃の機会をバーンリー側に与えてしまった節もあった。
しかしながら、アーセナルはすぐにその状況を修正。4分にはマルティネッリからウーデゴールへのマイナスのパスから先制ゴールを決める。
このゴールに向かう形はまさしくこの試合のメインストリームとなる構図だったといえるだろう。詳しく説明をする前に少し両チームの配置と狙いについて触れていきたい。
バーンリーは先に述べたようにベースとなるのは4-4-2。ミドルゾーンに構える形で縦と横にコンパクトな陣形を敷き、ライン間とピッチの中央の幅を大体PAくらいか、それよりはもう少し広いくらいの形で構えるスタンスである。ボールがサイドに出たら、全体の陣形ごとスライドするのが特徴であり、狭いスペースに閉じ込めることでボールサイドからの圧縮を防ぐというのが狙いである。
アーセナルの保持時のフォーメーションの基本形は3-2-5。ホワイトもしくはウーデゴールがライスの隣に立ち、前線は5枚の形を形成する。
サッカーの試合はもちろん配置論だけで完結するものではないが、この試合はそうした配置における特色がそのまま展開に色濃く反映された類のものだった。よって、まずはそこから掘り下げていく。次のCLの相手も全くタイプは異なるものの同じ4-4-2なのでちょうどいいだろう。ポルト戦のプレビュー前に読んでおいて損はないはずだ。
アーセナルが形成する3-2-5での保持からバーンリーが組む4-4-2のブロック守備のかみ合わせを見てみると、まずは相手のプレス隊に対するバックラインの枚数に余裕がある。そして、相手のバックラインに対しての前線の枚数も優位である。
前線の枚数が優位であるのならば、その状態を維持したまま前にボールを送り届ければチャンスになりそうな予感がする。一番簡単なのはバックラインの数的優位をそのまま前線の数的優位に転換すること。つまり下図のようなイメージである。
だが、こうしたパス1つではうまくいかないこともある。全体の数的優位の話はあくまでピッチ全体をカウントしたもの。ボールにきっちりと寄せることができればそうした優位を使うことはできない。例えば、下図のような状態でサカがフリーなことには特に意味はないだろう。フリーであっても使えなければ意味がない。
この図でマルティネッリにSBが強気で当たることができているのは、ボールホルダーにプレッシャーをかけることでボールが次にどこに動くかの雲行きを限定することができているからである。決められた角度を切られる、または寄せられている距離が近いなどの制限がかかれば、ホルダーがパスで届けられる方向や距離は限定されることになる。
逆に言えば、そうした制限をホルダーに欠けられない状況においては後方の守備者は次のプレーの雲行きを予測しにくいということである。マルティネッリにボールが渡るかがわからないのに、マルティネッリに強くプレスに行けば、ピッチの他の部分に不具合が出るのは明白である。
この試合のバーンリーのように4-4-2の守備側が陣形を維持することにとらわれてしまいホルダーにプレスをかけないと、攻撃側は一番初めの図のように大外のWGにボールをつける状態を作るのは容易である。そのうえ、ボールが渡ったWGはスペースがある状態で1on1を仕掛けることができる。
大外から自在に揺さぶりをかける
ここまでは一般論の話である。ここからはアーセナルとバーンリーの話としてこの構図を見ていこう。まとめるとこの試合のバーンリーはいわばアーセナルに大外のレーンを明け渡して勝負をすることを許容する形になったといえるだろう。
これがどういう状況かアーセナルファンにとってはわかるはずだ。保持が多く押し込む展開におけるアーセナルにとっての一番の悩みの種は突破力のあるWGに対する厳しいマークをどのように剥がすかである。しかし、この試合のバーンリーはむしろその部分を手薄にかつスペースがある状態で勝負することを受け入れてくれる形となっている。アーセナルにとっては願ったりかなったりな展開なのは言うまでもない。
先制点の場面を見ると、アーセナルは大外の選手にオープンな状況を与えており、そこから自在にラインを押し下げて攻撃を仕掛けることができている。こういった場面は先制点以降も続き、アーセナルは大外を安定した攻撃の起点として機能させることができていた。
大外にボールがあってなお、バーンリーはボールの雲行きを設定することが出来ない場面が続いた。さすがにマーカーが目の前にいないシーンはあまりなかったが、サカやマルティネッリに対して1on1であれば、抜き去って無効化される可能性を踏まえる必要がある。そうなれば、周辺の守備者はその状況にも備える必要がある。雲行きを予測できているとは言い難い。
右サイドはそうした状況を特に存分に使うことができた。大外でボールを持っているサカ。そして、トロサールとハヴァーツはボックス内に抜け出す形でパスを引き出せる位置にいる。ボックス内に2人いると守備側はより飛び出しのタイミングをつかみにくい。それだけでなく、マイナスの方向にはウーデゴールがいる。サカにとってはいわば保険の選択肢も用意できている状況である。
アーセナルにとってはそこまで特別な状況を作っているわけではない。しかしながら、バーンリーは下がりながらこれに対応しなくてはならないので、ブロック守備が大外のサカ、ボックス内の2トップ、マイナスのウーデゴールにそれぞれ対応できる状況を整えるのは難しい。
ちなみにバーンリーはリバプール戦においても同じ憂き目にあっている。大外で高い位置を取るアレクサンダー=アーノルドを捕まえられず、ボックス内に走りこむリバプールの前線に好き放題チャンスを作られ続けた。高い位置で相手を阻害するという理想を実現するために必要な策を講じることができず、結果的に最も相手のストロングポイントをモロに食らってしまったという構図はリバプール戦と全く同じであった。
この状況は前半の流れの中で特に変わることはなかった。ボックス内の2トップが作った深さに対して、WGを含めた2列目が容赦なく突撃するアーセナルは二次攻撃でも迫力は十分であった。
バーンリーの攻撃はロングボールをフォファナに何とかしてもらうというプランだった。ガブリエウは初手では入れ替わりを許しかけたが、追いかけて捕まえ直すのだから恐ろしい。バーンリーは立ち上がりのバタバタした展開を除けば、特にチャンスを作ることができなかった。
ボックス内に時間を送り続けたアーセナルは40分過ぎにPKでさらにリードを広げる。試合は非常にモノトーンであり、常にアーセナルが攻め続けた45分だったといっていいだろう。
容赦ない追加点ラッシュ
CLをミッドウィークに控える中で2点のリードを得た後半の立ち上がりに理想の展開を考えるのであれば、早めに3点目を奪って相手の反撃の心を折ることだろう。アーセナルは注文通りにその3点目を早々に手にする。
アーセナルは左サイドからの横断に成功。サカは右足でデルクロイクスとの1on1を抜き切れないまま制して3点目を決めた。バーンリーからすれば、この場面はサカにボールが渡った時点でおしまいである。
前半の項でも述べたが、バーンリーの守備の原則はボールサイドに圧縮をかけること。それであれば、サカにパスを出す前に受けたウーデゴールのところは絶対に潰しどころとして狙うべき部分。ここを捕まえきれずに、大外のサカまで展開を許してしまったのはオドベールやデルクロイクスのエラーといえるだろう。
3点差で試合はトーンタウン。バーンリーのバックラインに対して、アーセナルは少しローライン気味で受ける場面が出てくるなど、どちらのチームかに関わらずボール保持側に余裕のある展開となった。
少し試合の流れが変わったのは大けがをしてしまったラムジーへの措置が終わった後である。バーンリーはただでさえ3点差を追わなければいけないというタフな展開な上に、仲間をショッキングな形で失ってしまった。非常に難しい状況に置かれることとなったのは明らかである。
そんなバーンリーに対して、アーセナルは前線のハードなプレスを再開。一つ目のチャンスこそ決め損ねたトロサールだったが、次をきっちり仕留めてこの試合でもゴールを記録する。容赦がない。
さらに5点目はスローインから独走したハヴァーツがゲット。スローインを受け取ってすぐに前線に投げ込んだキヴィオルが演出した好機といえるだろう。
この試合のキヴィオルを見ていると試合に出続けることの意義を感じる。大外への気が利くランは増えているし、5点目のような試合の勘所をとらえたようなプレーも増えてきた。絞るのをやめるなどといった保持タスクの簡略化の影響もあるかもしれないが、個人的には本業である相手を止める部分のパフォーマンスが安定して、自信がついたことが大きいのではないかと邪推したりする。
逆に交代で入ったアタッカー陣は試合になかなか絡んでいけない苦しさを感じる部分が大きかった。わかりやすかったのはネルソンだろう。ブラウンヒルのミドルを許したシーンもそうだが、挟みに行ったラーセンに対してのコースの切り方が甘く、あっさりと間を割られてしまうなど印象が悪いプレーが多い。後半の点差がついた時間でもオドベールに対して、挟み込んで潰し切ることを徹底したサカとはここを切り取っても少し差があるパフォーマンスといわざるを得ないだろう。
交代での使いやすさを踏まえれば、個人的にはアタッカー陣はまずはとがった持ち味を見せてほしいと思っている。その点ではアーセナルの前の控え選手たちはクリアしている部分が結構多いように思う。
しかしながら、そのゲームに耐えうる水準のプレーができるか?ということも交代選手を投入できるかどうかの重要な要素の一つになっている。アーセナルは交代選手にそこまで求められるチームになってきたし、その基準をクリアしないと吹っ飛ばされるような試合は明らかに増えてきた。
この試合のキヴィオルと交代で入ったアタッカー陣を見ていると、試合に出続けることで研ぎ澄まされた部分の差を少し感じてしまう内容になったのは少し寂しさを感じる部分である。まぁ、この試合の4,5点目の取り方を見ると、レギュラー陣の容赦のなさはかなりのものだなと思ってしまうけども。そこは前提として押さえておきたいところではある。
あとがき
CLに向けていい準備はできたと思う。それでも一つのミスで吹っ飛ばされてしまうのがCLの舞台の怖さでもある。アーセナルの勝ち抜けの方が前評判としては優勢かもしれないが、近年の欧州の舞台における一発勝負の経験値で分があるのは相手の方。相手に付け入るスキを与えないことが一番だが、そういう時間帯になっても揺るがない落ち着きを見せることができるかがノックアウトラウンドの課題になるだろう。
試合結果
2024.2.17
プレミアリーグ 第25節
バーンリー 0-5 アーセナル
ターフ・ムーア
【得点者】
ARS:4‘ ウーデゴール, 41’(PK) 47‘ サカ, 66’ トロサール, 78‘ ハヴァーツ
主審:ジャレット・ジレット