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「急ぐことの意義」~2024.4.13 J1 第8節 セレッソ大阪×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

IHが歪みを使うビルドアップ

 無敗で首位と勝ち点差1の2位につけるC大阪と2試合連続無得点と元気のない川崎。立ち上がりは両チームの勢いをそのまま反映したようなものになっていた。

 序盤特有の蹴り合いを終えるとペースを握ったのはC大阪。自陣からのポゼッションをスタートする。仕組みとしてはだいたい予習通りである。インサイドに絞る登里が田中の隣に立ち中盤として振る舞う。逆サイドのSBである毎熊は3人目のCBと1列前の中盤とアタッキングサードにおけるサイドの3人目を行ったり来たり。

 らいかーると御大が下のツイートみたいなことを述べていて、C大阪は陣形に変化をつけることができているチームであるのだが、これができるのは毎熊の存在が結構大きい。ちなみに川崎も去年の山根にはこれやってほしいっていうイメージだったはずだ。なかなかうまくいかなかったけども。

 川崎の守備は4-4-2ベースであり、極端に人を捕まえることはしなかった。それでも人に吸い寄せられるところがあったり、間延びするスペースは出てくる。C大阪のビルドアップはそこをつく形。一例となるのは3分手前の左に流れる奥埜。インサイドに吸い寄せられてしまったところを外に流れる形でフリーになる。懸念していた下のプレビューの図そっくりの前進のされ方を3分にしており笑ってしまった。

 上の奧埜のようにC大阪はIHがズレを享受するキーマン。WGでピン留め、SBの可変で発生したズレを生かすのが彼らの仕事である。右の柴山も舩木やジンヒョンからの対角パスから中盤の背後と大外のSBの間に立つようなスペースを狙い、長いフィードのレシーバーになっていた。

 高い位置に入り込んだ際には右サイドを軸に襲撃。毎熊、柴山、フェルナンデスの3枚から深さをとっていく。川崎はCHがポケットをカバーし、相棒のCHも同サイドにスライド。脇坂も同サイドに流れてきており、同サイド圧縮が基本で逆サイドはエリソンか家長がカバーする形をとる。いずれもしてもC大阪が押し込むことができるスタートとなった。

優先事項は裏で統一

 一方の川崎の保持のターン。C大阪は4-3-3からIHが前にスライドする4-4-2に移行することで川崎のCBにプレッシャーをかけていく。ただし、C大阪のFW-MFラインは間延び。瀬古と山本はライン間で簡単に前を向けそうな状況が成立していた。

 しかしながら、川崎はこの状況をうまく生かすことができない。CBはSBにまずパスをつける。この時点でインサイドに折り返すことができればCHはフリーでボールを運ぶことができる。だが、川崎にとってこのパスの優先度は低いようだ。2:30の瀬川のようにSBが見るのはまず裏のスペース。ライン間でMFが前を向くシーンを作ることはしなかった。

 試合の序盤のバタバタだからこそなのかなとも思ったが、同じく7:00の橘田も似た振る舞い。サイドでマルシーニョの落としを受けると、まず見るのは裏のスペース。それが無理と分かったら、横パスを選択したが、縦パスを模索する間に相手の中盤の押し上げが間に合ってしまいロストにつながる。

 瀬川のパスの選択、橘田のまず裏を見るアクションを踏まえると裏に蹴ることの優先度が高いことが伺える。この選択に至ること自体はチームとしての共通の画が見える。その一方で、手前にタメも作らずにとりあえず裏に蹴っても相手のバックラインとのヨーイどんの徒競走にしかならない。エリソン、マルシーニョのスピード勝負。もしくは周りに選択肢のない家長がみんなの攻め上がりを待つまでの時間稼ぎをすることになる。

 だからこそ、川崎のCHが前を向いた形を作る必要があるのだけど、川崎のSBはそれをせずに前を蹴っている。注意したいのはSBの独断なのかチームの決め事かはわからないということ。いずれにしても自分の目からは効果的には見えない。

 また、CHの2人も互いの関係性を意識しない。例えば、瀬古は相手を引きつけて2枚をキープする形をたまに作るのだけども、その分浮いている山本を使うアクションが極端に少ない。2枚引き寄せているのであれば、山本にボールを渡すことができれば簡単に列を越えられそうなのだけどもそれをしない。山本も受けにいく動きを見せないし、受けにいく動きを見せても瀬古が使わない。例えば、15分のシーンを切り取ると、2人を引きつけた瀬古の背後を山本が抜けるアクションを見せれば、より自由度が高くボールを前に進めることができたような気もするのだけども。

 それをしないのであれば、瀬古が自分に複数枚の注意を引きつける行為はただただ失うリスクを高めている。マークを引き寄せる行為は周りをフリーにするからこそ尊いのであって、その2つがセットにならなければロストの危険を孕むだけだ。川崎は中盤の不用意に縦につけるプレー選択と、ヨーイどんの裏パスのコンボでボールをあっさりと捨てていく。その結果、いたずらに自陣がカウンターにさらされるリスクを背負うことに。右に流れるレオ・セアラは右足しか使わない!!という決め打ちをしているかのようにシュートの読みを的中させたソンリョンと川崎のDF陣が踏ん張る展開が続く。

誘導がささりプレスから主導権を握る

 C大阪優位の流れが少し変わったのは川崎のプレッシングからである。川崎のプレスがハマるメカニズムは以下の通りである。

エリソン-脇坂の列と瀬古-山本の列の間をコンパクトにしてC大阪の中盤を幽閉する
✅脇坂が横を切って縦に狙いを定める
✅縦パスを瀬川がハントする

 まずはFW-MF間の列をコンパクトに保っていく形を作ること。登里と田中をFW-MF4人で幽閉し、ボールを入れることを阻害する。

 C大阪視点に立てば、CHが幽閉された場合、次に活かしたいのはワイドのCB。舩木か毎熊である。ここから2トップの脇を取る形でボールをキャリーして1列目を超えたい。川崎はその動きに対して、脇坂が横からプレスをかける。これで縦に方向を限定する。

 これで左の大外のカピシャーバ、奥埜にパスコースを限定する。瀬川のいい形でのボール奪取が多かったのは脇坂の誘導により舩木の選択を縦パスに絞ることができたから。ボールを受ける瞬間にプレッシャーをかけてカピシャーバに前を向く前に決着をつける。

 この形が機能することで川崎は敵陣に押し返すことができるように。前半の問題である全体の陣形を前に押し上げられないことは脇坂の片側誘導のプレスから解決の兆しを迎える。

 C大阪の選手はトランジッション局面になるとポゼッションで落ち着かせるアクションにトライするのではなく、縦にひとまず逃すプレーを取りがち。GKをロングキックでスタートするジンヒョンも含めて、プレーを落ち着かせる気はなかった。レオ・セアラへのロングボールは押し込むことができたフェーズにおいてはCBとCHで挟むことができており、思ったよりもリズムを産まない。これで前半の終盤は川崎がペースを握る。

 しかしながら、押し込んだ後のサイド攻撃が機能しない川崎。三浦不在の左はもちろんのこと、まだ可能性があった右サイドからも効果的なクロスを上げるための下準備をなかなか作ることができず。それでもCHは押し込んでボールを触れることで少しずつパス精度を上げることができたという前半の終盤となった。

失点シーンはどう振る舞うべきか?

 迎えた後半は前半の終盤と陸続き。C大阪が縦に急いてしまうことでボールを渡してしまうため、川崎が押し込む展開が続く。

 川崎の惜しまれる部分は中盤の関係性を作りきれないという前半の問題点は変わらなかったこと。例えば、脇坂がビルドアップに降りてきたにも関わらず、瀬古が強引な大外への展開をトライした結果、引っ掛けてカウンターを食らうなど1人の選手の動いた影響を特に利用しないという状態が続いてしまう。中盤の関係性が変わらないことで、川崎は後半頭の流れを引き寄せきることができなかった。

 川崎が前半ほど押し込む時間を続けられない結果、C大阪は少しずつ幅を使うアクションを思い出すように。押し込まれると今度は苦しくなるのは川崎。前に残った家長とエリソンに苦し紛れのロングボールを使うことが目立つように。登里の裏をケアする舩木の奮闘と、エリソンに当たり負けせずに減速させる毎熊の存在感が印象的だった。

 川崎がたまに押し返す形でチャンスを作っても、MFがチャンスをフイにする部分が目立つ。48分、75分の2回連続で瀬川の素晴らしい横パスを台無しにしてしまった脇坂は切なかった。中盤で一枚を引き寄せて逆サイドまでというところをきっちりやって欲しかった。

 押し返した流れでC大阪は先制点をゲット。川崎は自陣の攻撃をクリアで家長へのロングボールに逃すが、これをC大阪にカットされる。その流れからC大阪はフェルナンデスとカピシャーバのオーバーロードで川崎の右サイドを攻略、ファーのレオ・セアラがミスマッチの空中戦を制して先制点を叩き込む。

 失点シーンの構造を防ぐにはどうしたらいいかを考えてみよう。おそらく毎熊からフェルナンデスに渡った場面以降はノーチャンス。毎熊→フェルナンデスのところに対してどのようにすれば制限をかけられたかを考えていきたい。

⒈ 家長のリトリート

 最もオーソドックスなのは家長のリトリートだろう。この場面だけを見れば右の大外の選手の戻りが遅れているのは明らか。家長がロスト後にフェルナンデスを捕まえる形が一番丸いように思える。

 しかしながら、少しこの形で守ることは懸念がある。1つは先に述べたように川崎の押し返しには家長とエリソンのロングボールが主な手立てになっていること。そうであれば前残りの状況を全否定していいのかは難しいところになる。

 さらには、この試合の家長の守備の基準は登里か舩木であることが多く、同サイドのIH位置に入る奥埜(=失点シーンで言えばフェルナンデスが立っている位置によく立っていた選手)のマーカーを務めることは少なかった。奥埜を捕まえる場合は脇坂が舩木にプレスをかけて同サイドにパスを誘導していた時が多く、この状況とは異なる場面である。よって、この対応はイレギュラーになる。無論、距離的には戻れるのでイレギュラーでも対応せよとするのであればそれまでだ。

2. 脇坂の毎熊へのプレス

 では家長を前に残すことを考えたらどのような守り方があるか。気になるのは中盤の狭いポジションである。家長が戻っていないとはいえ、中盤は4枚存在している。家長の空白が目立つということは他の選手がきっちりバランスの良いポジションを取れていないということでもある。

 狭い位置に人を固めることも理由がある時もある。ホルダーにプレスがかかっており、パスコースを誘導できている時である。毎熊を脇坂が左足側から切りつつ、川崎の左サイド側に誘導できればC大阪を狭いスペースに追い込むことができたかもしれない。

 このプランの難点はこの場面において物理的な移動が間に合ったかどうか。脇坂のスタート位置が低かったのは直前の家長へのロングボールをPAから供給したから。家長が時間を作るのを失敗した以上、脇坂に毎熊にプレッシャーをかけられる位置まで押し上げる時間があるかは怪しい。

3. 遠野の毎熊へのプレス

 最後はこのプラン。個人的にはこれが一番いい気がしている。遠野が毎熊の右足側からプレッシャーをかけて川崎の左サイド側に誘導する形。もちろん、脇坂の位置はこれに呼応するようにルーカスを捕まえられるポジションにセットで修正する必要がある。

 カウンターの局面を見ると、エリソンと家長の2枚で攻撃を完結させるのは難しい場面。ボックス内まで戻っていたとはいえ、左サイドの攻撃の役割を任されるはずの遠野はより高い位置までプレスに出ていくべきだった。そうなれば、毎熊にプレスをかける流れは自然だ。

 加えて、この場面はC大阪が川崎の左サイド側に張っている選手がいないため、遠野は外切りプレスを外されるリスクが限りなく0に近い。誘導だけなくボール奪取まで進めればサイドのカウンターも狙える。

 ただ、これはあくまで俯瞰で盤面を見れる状態で熟考した上での自分なりの最適解。遠野のエラーであると責めたいわけではないことを理解してほしい。いずれにしても家長とエリソンをベースにした川崎の前進がコンパクトなFW~MF間を分断することにつながってしまい、結果的に失点の場面を招いてしまったことだけは確かだ。

 リードを奪われた川崎は3枚代えを敢行。相手を引きつけてパスを出す意識があるゼ・ヒカルドと狭いスペースでも覚えがあるスキルを見せたヴェロンは可能性を感じさせた一方で、全体が左偏重になるという町田戦の前半のような場面も増えてしまい、なかなか役割を整理できなかった印象。特に左に固まりながらも大外を取ることができなかったのはしんどい。この辺りも三浦の不在が嘆かれる展開となった。

 C大阪は新潟戦と同じくリトリート気味の4-5-1→ハブナーを投入しての5バックと「持ちたいなら持てば?」というスタンスの振る舞い。最後まできっちり跳ね返しに成功し、川崎相手に勝ち点3を確保。見事単独首位浮上を果たした。

あとがき

 C大阪は保持主体ながらもそこに尖っているわけではなく、あらゆる局面でバランスがいいチームだった。登里、毎熊、セアラが負傷しなければ大きくプレーモデルは崩さずにある程度は走れる気がする。彼らのようにきっちり仕組みを組んでくる相手であると今の川崎の問題点がよく見えてくるなという感じがする。

 川崎が試合の流れを掴めるのは特にプレッシングに関してコンパクトなフェーズを保てている時。前半30分から後半開始10~15分くらいがこの試合でいえば該当する時間帯だった。

 これでリズムを掴むと押し込みながら人数をかけるフェーズに突入するのだけども、そうした時に特に左サイドのソリューションがない。右サイドには人がいるけど苦しいなという感じ。それもあって、縦に早くスピーディーに攻撃を仕掛けようとすると、リズムを生み出す縦のコンパクトさが失われてしまうし、失点シーンのような守備のエラーも呼び込んでしまうというジレンマに悩まされる。

 全体を見るとやはり気になるのは中盤の振る舞い。いつだって縦に最短で進む方がスペースがあるというわけではない。特にこの試合では序盤のSBの選択とかが当てはまるけども、横パスを使いながら手前があることをフリに使えば、相手の守備陣を手前を引き出したり、あるいは足を埋めたりすることができる。

 エリソンとマルシーニョと家長は後方からの貯金がないまま前で時間を作ることを求められている。だから、裏抜けは徒競走になるし、周りに人がいない家長に預けてもパスの選択肢がない。別に縦に急ぐのであればそれでもいいけども、それならばそもそも今の川崎のようなスカッドを組む必要がない。CHには山本よりもセカンドボールを拾える選手が欲しいし、瀬川よりも対人でカピシャーバと対峙できる選手をSBに置いた方がいい(後者に関しては今日のスカッドでできるかは別の話だが)。

 要は方向性の話である。橘田はともかく、瀬川に関してはある程度まとまった期間このポジションを任せているわけであってそのプランと人選に乖離があるように見える。この試合では受ける前に寄せることで潰すという山根っぽい守備はできていたし、瀬川のパフォーマンス自体は悪いという訳ではない。あくまで設計との関係性の話だ。

 まずは裏を狙おうという傾向は個人的には設計面での不具合を感じるが、例えば縦パスを引っ掛け続ける瀬古やサイドチェンジを正確に決められない脇坂あたりは個人のスキルの問題に帰結するところ。そういう意味で今の川崎は設計図とその再現度の両面で問題を抱えていると思う。

 このバックスでC大阪相手に複数失点をしなかったことからも後方の踏ん張りはまだ効いている方。正直、強度的には今日以上のものを後ろに求めることは不可能なので、このクオリティで踏ん張れているうちに中盤が目を覚まして欲しい。

試合結果

2024.4.13
J1リーグ
第8節
セレッソ大阪 1-0 川崎フロンターレ
ヨドコウ桜スタジアム
【得点者】
C大阪:70′ レオ・セアラ
主審:御厨貴文

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