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「シンプル大反省の日」~2024.5.15 J1 第14節 サガン鳥栖×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

非常に多彩な立ち上がりの攻め手

 今季4回目の連勝チャレンジに挑む川崎。今節の相手はこちらも連勝チャレンジの鳥栖。今季初めてという次元ではなく、川井監督就任後初の連勝チャレンジである。

 立ち上がりにペースを握ったのは川崎。鳥栖の守備に対して明確な攻め手を見つけて攻撃を仕掛けていく。鳥栖は4-4-2でアンカーを受け渡す形でのスタート。すなわち、川崎のCBのどちらかは余ることになる。川崎はスタートから左右に揺さぶることで高井と佐々木で富樫を挟み撃ち。まさにプレビューで書いた通りの前進が見られた。

 さらには4:30にはサイドに振る形からあっさりとアンカー解放。ファン・ウェルメスケルケンは欲を言えばもうワンテンポ早くボールをリリースできれば良かったのだけども、それでも管理されていたはずのアンカーから前を向いてボールを運ぶことができるという点はとても良かった。

 それ以上に効果的だったのは背後を狙うアクションである。マルシーニョという鉄板はもちろんのこと、山田や遠野、瀬古といったIHより前の選手たちはみんな裏を狙う動きを共通して見せていた。悪い時は足元に要求することにこだわりすぎてしまうという川崎の悪癖と逆パターンということはもちろんのこと、この方向性は鳥栖の守備の方向性にも刺さっていたように思える。

 先にも述べたように鳥栖は4-4-2の2トップでアンカーを管理するチーム。よって、恒常的に川崎のホルダーにプレスがかかっている状態ではない。にもかかわらず、鳥栖のバックラインはラインを上げようとする傾向が強い。つまり、前線のプレスの挙動と後方のラインアップが連動していない。個人的にはあまりにもバックラインが根拠なくラインをあげようとしすぎているのかなと思った。

 オフサイドを取ろうという意識は十分にあるのだろうけども、3分に高井のロングフィードに抜け出しかけた山田への対応はラインを上げようとするテヒョンよりも長沼の対応の方が自然だと思うし、11分のマルシーニョの抜け出しがオンサイドに終わったのも、(カメラの外なので詳細は見えないが)個人的にはバックラインの過度な列上げの弊害なのかなと思う。家長が出張した左偏重の攻撃は微妙だが、川崎はセットプレーから先制点をゲット。瀬古のCKから高井がゴールを決めて早々に優位をリードに結びつける。

 このように川崎は長短を問わずに攻め手を見つけることができるスタートとなった。5失点という大敗をした試合でこんな話をするのは変ではあるが、スピーディに多くの攻め手を提示するという点では今季のリーグ戦の中ではトップクラスにいい入りだったと言えるだろう。まぁ、スコアに関係なくいいことを拾うのはレビューくらいじゃないとできないからいいんだけどね。結果に塗り潰されたものを拾っていきましょう。勝った時も負けた時もね。

綻びができてきた優位

 鳥栖のボール保持は大体は事前に想定した通りだった。バックラインは広く距離をとる。低い位置でボールを受けることには抵抗はないが、相手がプレッシャーにくるとその場で動けなくなる上に、相手のプレスが動いた影響を活用できる選手はバックラインには比較的少ない。困ったらマルセロ・ヒアンにロングボール!という割り切り方である。

 川崎の高い位置からのプレッシングは鳥栖がGKを使っている分、同数で受けているわけではなかったのだけども、鳥栖のDF陣がバタバタするようなプレッシャーの掛け方はできていたように思う。立ち上がりに関しては遠野と橘田が最も重要な河原を受け渡しながら対応することができているし、ヒアンへの裏へのボールは高井と大南が安定して対応することができていた。

 しかしながら、鳥栖は少しずつ保持での解決策を見つけていく。まずはCHの最終ラインに落ちるアクションで川崎のプレスを沈静化する。そうなれば、鳥栖のバックラインはキャリーができるようになるので、相手を動かしながら中盤へのパスコースを見据えることができるようになる。

 まず、ポイントになったのはマルシーニョの背後に潜り込む原田。川崎が立ち上がりに佐々木からボールを運んだように、鳥栖も原田からボールを運び、ここからライン間への斜めの差し込みで横断を行うように。原田からのダイレクトな横山へのサイドチェンジも含めて、鳥栖の左サイドという攻めところにボールを届けることができるように。

 さらには24分には横山の降りるアクションから河原を解放するなど、要人が少しずつ自由をもたらされるように。菊地も低い位置に落ちては手塚をフリーにするなど、少しずつ鳥栖はアタッキングサードに進む手段を身につけていく。

 すると、鳥栖は同点ゴール。鳥栖の右サイド側でのボールの奪い合いを制すと、サイドから上がったクロスを仕留めたのは横山。好調のアタッカーが嬉しいJ1初ゴールを決める。

 川崎からすると、ファーサイドのクロスという最近の泣きどころからの失点。マルシーニョのロストは無駄感があるが、クロス自体はボックス内で十分対応できる性質のもの。ファー対応でミスりまくっている上福元が出ていくか躊躇するのは個人的には納得感がなくもないくらいにGKが届くか微妙な距離ではあったが、出ていかない判断を上福元が下すことを視野に入れられるファン・ウェルメスケルケンにはボールにミートして欲しいところ。上福元にもなんとかできるチャンスはなくはないとは思うが、最後のところはSBのシンプルなクロス対応だったかなと思う。

 追いつかれた川崎は再びハイプレスに出ていくが、鳥栖はこれをひっくり返すことで勝ち越しに成功。右サイドで一つずつ相手を外しながら釣り出してを繰り返し、マルセロ・ヒアンの対応に右CBの大南を川崎側の左の大外まで釣り出す。スローインを素早くスタートした富樫は非常に状況が見えていた一方で、スローインをレシーブしたヒアンに対してズルズル下がる対応を見せた高井は状況が見えていなかった。

 大南がヒアンの対応として左サイドに突撃してきた時点で、川崎には陣形を整える時間を作る必要がある。これだけ早くスローインリスタートされたら、大南が菊地を見てファン・ウェルメスケルケンが横山を見るという本来の配置に戻る隙はない。菊地をフリーにせずに受け渡すのは多分無理だろう。そんな時間はない。戻りでなんとかなるとしたら位置的には瀬古は可能性あるかなという感じ。瀬古が菊地を監視できれば、ファン・ウェルメスケルケンが横山をチェックできたかもしれない。ただ、個人的には大南が左サイドに飛んできていることがわかっているのだから、そういう点でヒアンを遅らせる仕事をできなかった高井が一番残念かなと思う。川崎のCBが出ていくことの意義は間違いなく潰し切ることにある。この点は大南とジェジエウ以外の川崎のCBには全員物足りないところがある。

 さらに鳥栖は前半終了間際に追加点をゲット。河原からパスを受けたヒアンの抜け出しでリードを広げる。この場面の対応はやはり橘田と河原の関係性だろう。おそらく、橘田が一番避けたかったことは一気に距離を詰めた結果、逆を取られてしまうこと。そのため、右サイドの富樫に選択肢を限定し、この次のパスでプレスを仕留めようという発想だったのだろう。

 当然、ヒアンへのパスは橘田の想定外。橘田からすれば縦へのコースは切れていると判断したはずなのだろうが、その想定を河原が上回ってしまったシーンだと言えるだろう。ちなみにマルセロ・ヒアンの動きはプレビューでエリソンにこんな形で裏抜けして欲しいと提示したイメージに近い。いい動き出し。CB陣からすればどちらかというと河原までパスを届けることを許してしまった高井に悔いが残るかなという感じである。

 川崎からすると守備での綻びが出てくるのと同じように攻撃でリズムを掴めなくなった。前半見せていた丁寧な時間の作り方は消えてしまい、裏になんとなく蹴るようになっていた。

 川崎はやたらと裏にスパスパパスが通る時の悪い癖なのだけども、割と手前で工夫をせずにノータイムで裏に蹴る頻度が増える。41分の瀬古のダイレクトなどが一例である。序盤はそれでも通っていた。なぜならば、鳥栖が不用意にラインを上げるというきっかけが勝手に与えられていたから。しかしながら、鳥栖は徐々にそうした無防備なライン上げを自重し、雑な長いボールへの対応を徐々に難なくこなしていくように。

 ハイプレスにも解決策を見出されたしまったため、得点のきっかけが掴めなかった川崎。そうした中で前半終了間際に山田の突撃から奪い取った追撃弾はまさしく命綱と言えるものだっただろう。

5バック移行からのハイプレス再起動が決め手に

 後半、反撃に出たい川崎だが、瀬古のミスから攻め込まれるとセットプレーから失点。上福元が弾いたシュートを山田が処理し切れずにゴールを許す。クリアする余裕があっただけに、山田にとっては悔やまれる場面となってしまった。

 反撃に出たい川崎だが、右サイドからの前進は不調。降りて受けようとする家長に対してファン・ウェルメスケルケンが適切なサポートができずに互いに孤立。目を引く家長を使ってフリーになることができなかったのは痛かった。

 ただし、逆サイドではアタッキングサードで手応え。裏に抜けるアクションに対する鳥栖の受け方が悪く、PAラインあたりからあっさりと抜け出してマイナスのクロスを折り返せる場面が増えていく。

 押し込まれる状況となった鳥栖は早々に横山に代えて山﨑を入れて5バックに移行。受けにいく決断をする。ただ、この5バックはかなり付け焼き刃感があった。サイドの守備はどこに追い込むかが曖昧で川崎を閉じ込めることができないままズルズルとラインを下げては危ういクロスを入れられていたし、ボックス内の強度が1人DFが増えた分増したとは思えなかった。

 川崎は右サイドの家長を軸とした崩しに人数をかけすぎていた感があり、このバランスを選手交代によって修正したいところ。だが、鬼木監督は右の大外で働ける家長を外してしまうという決断をしてリセットをかける。

 鳥栖はこの川崎の交代を見てハイプレスのスイッチを入れる。後方がジェジエウと大南という右サイドのユニットから預けておけばOKの家長がいなくなってしまえば、躊躇なくプレスに出ていけるというのは当然の発想だろう。ファン・ウェルメスケルケンの交代と鳥栖の5バック化は前者が先だったとはいえ、5-3-2相手でズレのキーになるSBに大南がいる状況は厳しい。立ち上がり以降、パフォーマンスを落としていたファン・ウェルメスケルケンの交代は妥当に思えるので、ビハインドならばここに橘田を置いても良かったように思う。

 ハイプレスは69分に脇坂があわたという形で捕まるが、この場面はなんとか事なきを得る。しかし、直後にそのシーンの記憶がすっぽり抜け落ちていたかのような橘田が全く同じ形で河原に捕まってしまい、試合を決める5点目を決める。

 これ以降は何もなし。反撃のきっかけすら掴めないまま時間をダラダラと過ごしてしまい、そのままタイムアップを迎えた。

あとがき

 鳥栖は4-2で5バック移行からもう一回プレスにギア入れ直したところも良かった。川崎のクオリティ次第ではあのままただ受けるだけなら追い付かれる可能性はあったので。あれでラインを上げる決断をしたことが最後の勝利の決め手になった。2点目の富樫のスローインもそうだが、総じて勝負所をきっちり抑えている感がこの試合ではとても光っていた。

 川崎は絶妙なバランスで保っていた部分を要所要所で鳥栖に壊されてしまった感じ。特に2失点目で歯止めが効かなくなってしまった感。前半の立ち上がりはいい内容ではあったが、後半の2つの失点は一番悪い時期っぽい緩さを感じたので、ここは失点で試合の流れが悪くなることに引きずられたと思う。ベンチも交代策でさらに事態を悪くしていた感があったので、揃って大反省の日という位置付けになるだろう。

試合結果

2024.5.15
J1リーグ
第14節
サガン鳥栖 5-2 川崎フロンターレ
駅前不動産スタジアム
【得点者】
鳥栖:26′ 37′ 横山歩夢, 44′ マルセロ・ヒアン, 47′ 原田亘, 75′ 河田篤秀
川崎:13′ 高井幸大, 45+3′ 家長昭博
主審:笠原寛貴

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