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「サイドチェンジの収支」~2021.9.26 J1 第30節 川崎フロンターレ×湘南ベルマーレ レビュー

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目次

レビュー

■機能不全の要因は?

 注目を引いたのは川崎のフォーメーションである。鬼木監督は『4-3-3でトップ下を置いたような形』といっていたが、オーソドックスな4-3-3とはちょっとニュアンスがちがう。知念は攻守に右サイドに流れる時間もあったが、数字で表すのならば知念は最前線をベースとした4-4-2の方がしっくりくるようにも思う。鬼木監督的には知念がトップ下というかもニュアンスかもしれないが。

 知念と小林を併用というスターティングメンバーから真っ先に考えた狙いは奥行きを使った攻撃だ。ラインを下げるためのフリーランが得意な小林と、動いて背負って相手の陣地を広げることが出来る知念の組み合わせは相手を間延びさせる形がもっとも有効であるように思う。右サイドに絞ってラストパスやシュートができる遠野の起用も、知念と小林で作った奥行きを使う役割と考えれば合点がいく。

 確かに試合開始からしばらくは小林や知念を使った縦方向を意識した攻撃が続いていたし、実際その攻撃は湘南の脅威にはなっていたと思う。内側に絞った遠野も小林が作ったスペースを狙っていたし。だが、そのあとの川崎の崩しや、鬼木監督の試合後のコメントを見るとおそらく狙いは縦の間延びとは異なる(もしくはより優先度が高い別の手段がある)ところにあったと考えるのが妥当である。言葉として出ているのは幅というワードである。

 湘南のプレスは前線と中盤はマンマークが主体。サイドに誘導しながら、逆サイドの選手を捨てて同サイドで圧縮するような形で守るイメージである。

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 川崎はおそらく、この湘南のメカニズムを利用しようと考えたのだと思う。5-3-2というフォーメーションはゴール前や片側サイドなど局所的な密集を作るのに適しているフォーメーションではあるが、DFラインの手前の横幅をプロテクトするには難がある形でもある。

 鬼木監督が試合中も繰り返していて、この日のテーマとなった『幅』という言葉を借りるのならば、湘南のスリーセンターを幅方向に揺さぶろうということだろう。

 つまり川崎の狙いはまずあえて同サイドにボールと人を集め、湘南のブロックを引き寄せる。そして、一気に逆サイドに振り、薄くなったところから裸のDFラインを攻略していくというイメージである。

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 なので、逆サイドから縦方向にぶっこわすために湘南のスリーセンターよりも早くボールをスライドさせられているかどうか?というのが川崎の前半のポイントだったように思う。

 だが、川崎はこの青写真通りに攻撃することができなかった。理由を端的にいうと、湘南のスリーセンターのスライドに対して、川崎が優位を取れなかったことが原因となる。

 大前提としてあるのは川崎が10分を過ぎたあたりからピタッと相手を縦に引きのばす動きをやめてしまったことだ。湘南は縦方向に非常にコンパクトな陣形を引いていたので、知念や小林を使って縦方向にボールを動かす意識が薄くなった前半の中盤以降は、ライン間のスペースが狭くなってしまっていた。縦方向にコンパクトな状態で川崎は攻めなくてはいけなくなっていた。

 まず、問題になったのは相手を片側に寄せる作業である。川崎は時折狭いスペースを打開することで強引に相手を切り崩すこともあるチームだが、その頻度は年を追うごとに減ってきている印象である。

 加えて、この日採用した4-4-2とこの寄せる作業の相性の悪さも問題になる。IHを基準として作る4-3-3に比べると、CH基準で作る4-4-2は相手を寄せる多角形の重心が一般的に低くなりやすい。多分、内側のポジションの選手が4-3-3の方が押し上げやすいのだと思う。

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 さらに4-4-2という形はそのままの配置ではパスコースを作りにくい立ち位置になっている。なので、川崎はCHの脇坂と谷口を縦関係で同サイドに寄せることでパスコースを創出していた。主に川崎はボールをまずは左サイドに寄せることが多かった。

 その副作用として発生するのが川崎の右サイドの広大なスペース。CHが片側サイドに寄っている分、仮にボールを取られることがあれば、このスペースは攻略されることが必至である。

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 失点シーンはまさしくその流れだった。旗手がロストし、右サイドを守る中盤の選手は不在で山村と山根が一気にさらされてしまった。

 この場面の湘南側で秀逸だったのは町野の守備で、サイドに追い込んだ後、高いポジションを取り直して川崎のやり直しの手段を削いでいた。日本のチームのFWは列を越されるまでの守備は頑張るけど、越された後の守備の意味づけが苦手な選手が多い気がする。

 機能的なプレッシングをするチーム。例えば、ロティーナのC大阪とか、リカルド・ロドリゲスの浦和とかはこういう動きがFWまで仕込まれており、やり直しという手段で息継ぎをするところにも圧をかけていく。

 旗手のロストがやたらと目立っていたのは、縦方向への仕掛けのパスが多かったから。ただ、繰り返すようにこの日の川崎のテーマは幅。同サイドに人を集めることは崩し切るためではなく、あくまで逆を薄くするためである。なので、旗手のパスはチームの狙いに沿うものではなかったように思う。それでも縦に出さざるを得なかったというのは、湘南がやり直しも含めて、川崎が逆サイドに脱出するための手段をつぶすことができていたということだろう。

 さらに、脱出することが出来る状況が整っても、川崎には一発で高速サイドチェンジができるバックスはいない。多分、一番速くて正確なのはシミッチだけど、この日は不在。ボールを右サイドに大きく展開することが出来てもスピードが足りない。サイドチェンジに最終ラインを経由してしまっては、湘南のスリーセンターのスライドよりも早く移動するのが難しくなってしまう。

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 かつ届けられた右サイドでも川崎は苦戦。全体の重心を押し上げられていない上に、中盤は大体左にスライドしている。遠野や小林と山根の距離は非常に遠くなる。

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 湘南はこの現象を見て、山根やボールを受けに行く遠野に畑や杉岡が早めにチェックにいくことで時間を奪う。時間を作れないと見るや強気に出るのは湘南らしい。こうなると川崎的にはもうサイドを変えたことでマイナスの方が大きいといっていいだろう。前に出てきた杉岡の裏を突ければ一気に局面を裏返せるが、山根にはその余裕はなかったように見える。

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 知念が右サイドにおりる機会がでてくるようになったのはおそらくこのため。たしかに遠野と山根のヘルプにいくことが出来れば、右サイドでもボールを落ち着けることはできる。だが、本来はサイドを変えて薄いサイドを壊すのが川崎のこの日の目的だったはず。逆サイドで落ち着くことは目的ではない。

 知念自身の体のキレは好調なのは明らかだが、彼が真に効いているときは守備側に守るべき範囲を広げさせて余計なタスクを生んでいる時。この右サイドに降りる動きは湘南の片側寄せのプレスのタスクの範囲内で片付けられる部分であり、知念の怖さを活かせているやり方とは言えないだろう。

 まとめると4-4-2の幅を使った方法論はうまくいかなかった。サイドを変える過程で時間がかかったこと、そしてサイドを変えた先でメリットが得られないこと、偏在化したCHが守備面でリスクになることなど、本気で運用するなら課題が山積みといった印象だ。

■むしろ手助けになる

 湘南の攻め方はクリアだった。大橋と町野を目掛けたロングボールをIHの2人を軸に回収するやり方が1つ。もう1つはサイドを変えながら、薄いサイドを作りクロスを上げること。独力でサイドを壊せるアタッカーはいないので、なるべく手薄なサイドを作ることがチャンスクリエイトに直結する。

 5分40秒付近の攻撃は彼らの狙いの1つ。詰まりながらなので図解は省略するが、サイドを変えながら前進し、ややファー気味にクロスを上げる。プレビューで挙げた彼らの強みを生かすためのクロスである。

 2トップでアンカーを消しつつ、中盤が相手の時間を奪う川崎のプレスは立ち上がりはよかったものの、徐々に湘南が適応。アンカーの田中がマークから逃げることで保持も安定した。

 先制点を奪った後は無理にリスクを冒すことをしなかったのも大きい。加えて、すでに説明した通り川崎の保持は局在化させることで相手を片側に寄せる狙いがある分、自分たちも片側に寄っている。この局面で湘南がボールを奪い取れば、自動的にスカスカのサイド目掛けたカウンターが放てる。

 湘南は手段を問わず薄いサイドが作れればOKなので、相手がこの機会を作ってくれれば当然乗っかってくる。なので、わざわざビルドアップで自陣からつなぐ無理をしなくても、トランジッションでいい形を作れる。

 皮肉にも川崎が薄いサイドを作ろうとする動きが湘南が薄いサイドからカウンターを打つ手助けになってしまったという構図。川崎ファンとしてはやるせない前半だった。

■家長投入でダメ押しを図る

 後半の川崎は3枚がえ+4-3-3へのシステム変更で徐々にリズムをつかむ。湘南のIHが前に出ていく頻度が減ったことが一因のように思う。おそらく、川崎のIHが湘南のIHの後ろに回るようになったことで、湘南のIHが後ろを気にする頻度が上がり、前へのプレスに積極的に出ていけなくなったのだろう。

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 これにより、徐々にボールを前に動かせるようになってきた山村と車屋。特に左サイドから全体の重心を上げるシーンが目立つようになる。ビルドアップの手助けができる登里や独力での突破の期待がかかるマルシーニョで川崎は敵陣の奥深くまで下がっていく。

 一方で、改善の兆しがなかなか見えてこないのが右サイド。山根と小林が縦関係なのだが、この2人はなかなかに苦労。
2人の距離が遠い分、パスを狙い撃ちにされる。62分のパスが象徴的。2人を相手に裏抜けを狙う小林にボールを送ろうとした山根だったが、これはあっさりカット。距離が遠く、表で受けるヘルプが薄いことでロストを繰り返しピンチを迎えることになる。。

 川崎は前半と比べて、相手の重心を押し下げられることはできた。マルシーニョという一発の可能性もある選手もいる。川崎は相手の本丸に近づきつつあるが、右サイドは小林の裏抜け頼みで手痛いというのが3枚がえ+システム変更の効果だった。

 そこで家長の投入である。これで右サイドに表側で背負える人材を置いたので時間が作れるようになる。山根のオーバーラップの頻度はぐっと増加。右サイドにも厚みが出てくるようになる。

 この交代で速攻同点に追いついた川崎。脇坂のサイドチェンジを引き取り、オーバーラップした山根が放ったクロスを旗手がゲット。前半は苦戦したスムーズなサイドチェンジと右サイド押し上げのメカニズム確立で一気に流れを引き寄せる。

 マルシーニョに寄っていく家長の左サイドへの出張が必要だったかは意見が分かれることだと思うが、右のワイドに張った時の家長の質は本当に大きい。決勝点のアシストも家長。クロスに合わせた知念が劇的な決勝ゴールを決めて試合を決める。これも右に張った時の家長の強みである。

 幅を取るための手法を改善した後半はペースは一転川崎に。幅を取るための仕組みの整理と、運んだ先での選択肢の作り方を改善し試合の流れを徐々に呼び込む。手を伸ばした勝ち点3に届いたのは94分のこと。修正策でゴールとの距離を近づけたことが、知念が精いっぱいを振り絞った決勝ゴールのきっかけになったといえるだろう。

あとがき

■直線的なカウンターは確実に仕留めたい

 湘南にとっては十分に勝ち点を掴むチャンスがある試合だったといって差し支えないだろう。川崎が機能不全に陥っていた前半に追加点を決めることもできたし、押し込まれた後半ですらロングカウンターでチャンスがあった。後半はかなり車屋が右サイドまでヘルプに出てきていたので、ここで逆サイドを使えれば勝ち点につながる2点目を得られたように思う。

 カウンターは迫力はあるが、あらゆる選択肢を突きつけるというよりはゴールまで最短で向かうことで相手を間に合わせない形が得意なチーム。逆にそのスピードの部分で守備側が間に合ってしまうと苦しくなる。空いているスペースはありながら生かせずに車屋やジェジエウにつぶされるシーンを見ていると、前半のような相手を出し抜ききったチャンスを決めきれるかどうかが残留の分水嶺になりそうだ。

■アフター家長&ダミアン?

 劇的な展開、今季は長きにわたり苦しんだ知念がヒーローになったことなどのドラマ性でいい思い出となった試合だったが、内容を振り返ってみるとこの試合がどう次の一手につながってくるのかは見えてきづらい部分である。

 4-4-2は機能していない以前に、選手の特色とシステム、相手の弱い部分がマッチしておらず頓挫した印象だ。あえて、目的を考えると来季以降の契約がまだ不透明なダミアンと年齢的にキャリアの終盤に差し掛かった家長を抜きで新しいやり方をトライしようということなのかもしれないが、完成度はまだまだ。従来の4-3-3の方がはるかに安定していた。

 綱渡りの勝利だった。終盤の修正はさすがだったが、新しいトライやりすぎ感は若干あった川崎。それでも帳尻を合わせてしまうのはサポーターながら正直驚きもある部分である。苦しい5連戦もあと2つ。ここを負けなしで代表ウィークに突入すれば、横浜FMに非常にプレッシャーがかかる終盤戦になるだろう。

今日のオススメ

 後半、右に流れながらカウンター対応した車屋。被カウンター対応の成長は今季の大きな上積み。

試合結果
2021.9.26
明治安田生命 J1リーグ 第30節
川崎フロンターレ 2-1 湘南ベルマーレ
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:66′ 旗手怜央,90+4′ 知念慶
湘南:15‘ 田中聡
主審:今村義朗

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