MENU
カテゴリー

「割り切りの種類」~2024.8.17 J1 第27節 川崎フロンターレ×横浜F・マリノス レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

顔を見せた大島システムの不具合

 8試合連続無敗、そして3連勝と徐々にペースが上向いてきた川崎。今節は前節連勝が止まった横浜FMとの神奈川ダービーに臨む。

 立ち上がりの蹴り合いが収まると、ボールを持つようになったのは横浜FM。川崎は脇坂と山田を前に置く4-4-2だったが、彼らのプレスはあくまでもCHをベースに余裕があったらCBに出て行くというもの。横浜FMのCBはゆったりとボールを持つことができた。時には渡辺の最終ラインに落ちる動きなども入れて枚数を調整することもあった。

 川崎は狭いスペースに追い込んだ時にスイッチを入れようとする。例えば、1:30に山田が右に追い込む形から家長が永戸に対して横を切るようにプレスをかけていく。永戸はマイナスに動きながらコースを作ってこれを回避する。細かい動きではあるが、保持でつなぎ相手のプレスの誘導を裏切るようなボール回しが見られた場面だった。この局面に限らず、この試合は基本的にプレス隊に対してはどちらのチームがボールを持っていても保持側がプレスを交わす余裕があるいうのが基本だった。

 横浜FMのアタッキングサードの侵入のプランは大きく分けて2つ。1つは左のエウベル。ファン・ウェルメスケルケンから家長側にボールを引き取るように降りると、ここから内に切り込む形で横ドリブルを開始、逆サイドへの展開を視野に入れる。左サイドで無理なくボールを持てると判断したら、そのまま縦に進むケースもある。この辺りは川崎の守備者がどれだけエウベルにプレッシャーをかけているか次第といったところだろう。

 もう1つのプランは右サイドからのトライアングルアタック。最終ラインで左サイドにボールを集めて川崎のプレス隊を集めつつ、逆サイドに展開。主に松原を入り口として右サイドのマテウス、天野、山根といった面々から攻撃に出て行く。

 川崎からすれば数的優位は右サイドに寄せてくるという考え方は十分に想定できるものだったと思う。なぜならば、前節のFC東京もこの大島のいるサイドを狙い撃ちするというパターンは十分にやっているからである。というわけで、川崎は横浜FMが大島サイドでボールを持っている時間に関しては、橘田が同サイドにスライドすることでボールを潰しにかかる。

 横浜FMの速いテンポのパス回し、そして入れ替わるポジションに大島は対応しきれていなかった。そのため、川崎はサイドを同数で受けても捕まえきれない相手選手がでてきてしまう。

 横浜FMの狙いは主にハーフスペースの裏とペナ角やや内寄りの大島の持ち場ともいえるスペース。大外と奥の動きを駆使することにより、大島が本来の持ち場から離れたところに入り込むことができていた。1:40のマテウスがボールを持ったシーンを見てみよう。

 この場面で見られるように右のCHの橘田は大島サイドにボールがあるときはかなり激しくスライドする。大島が空けたスペースを潰すのは橘田の仕事。FC東京戦でも見られた動きなので、おそらくは川崎の仕様なのだろう。

 大島が釣りだされて、橘田がこちらまで進出すると、バイタルエリアに空きが出る。このエリアが主戦場となっていたのは西村。ロペスと縦関係を築く西村に対して川崎はCBの後方からの飛び出しでカバーをする。ロペスのマークについていないCBが潰しに行く。1:40の一連の場面では高井がこのタスクを背負った。

 川崎が用意した大島サイドのケアは橘田のスライドとCBのバイタル進出での潰しの2つである。どちらも大島が動けないことを前提として組まれた形といっていいだろう。

 少し話の時間軸は飛ぶが、横浜FMの2点目はこの大島サイドのケアを上回ったことで生まれたものだった。右の大外の松原からロペスに斜めのパスが通る。高井はロペスのチェックに行ったが、ロペスの落としを西村が受けると、そのままミドルでシュートを沈めている。

 先に述べた通り、この試合の川崎の基準で言えば、橘田がいない時に西村のチェックに行くのはCBの役割だ。ロペスに対して高井がチェックに行っているので、佐々木がでていかなければいけないことになる。実際、高井が二度追いして西村に追いかけてもミドルを打たれているので、彼はもう間に合わない。

 ただ、佐々木に関しても位置的にあそこから西村にプレスに行きましょう!というのは難しい。出てからでは当然間に合わないし、決め打ちでラインを上げれば、今後は佐々木の背後が狙われることとなる。

 もう1つの解決策は家長が絞ってバイタルを埋めることである。実際にFC東京戦では家長が橘田方向に寄るように詰めている場面もあった。

 確かに家長がその動きをしていれば、2点目の西村のミドルは防げていたかもしれない。しかしながら、今度は別の問題が生じることとなる。家長サイドまでボールを横断されるケースである。後方では渡辺がフリーになっているため、ロペスからここにボールを落とすことができれば、横浜FMは逆サイドに展開し、ファン・ウェルメスケルケンが1人で守る川崎の右サイドからエウベルと永戸で蹂躙することができる。

 サイドから差し込まれるパスに順々にスライドして食いついていった結果、手薄な逆サイドから簡単にクロスを上げられて失点という形は川崎でよく見るパターンの1つ。家長に単純に戻る体力があるかどうかという問題に加えて、戻ったとて横浜FMの攻め筋を抑えるのは難しい。ミドルをケアできても、よく見る失点パターンという新しい扉が開いてしまう。FC東京相手に家長がこのスペースを埋めることを優先して問題がなかったのは、相手が同サイド攻略に注力していて、逆サイドに振るという攻撃の設計図を描けていなかったから。横浜FMはそういうチームではない。

 というわけで大島と橘田があれだけボールサイドに寄っているにも関わらず、松原→ロペスのラインで川崎のCHが2人まとめて背中に通されるパスをされた時点で西村のミドルか逆サイドへの展開は避けられないこととなる。あれだけ同サイドに寄ることを前提とするのであればせめて大島は松原のパスコースを制限する程度に寄せれば、横浜FMの攻撃ルートをより制限することができたかもしれない。

 CBが刈り取れれば!という意見もあるだろうが、ポストプレーのレシーバーがフリーで軽く触って落とせばOKの状態に対してできることはあまりないと思う。反転や抜け出しに対してはロペスに自由を与えていなかったし、基本的にCBはよくやっていた。

破壊力ある前線の副作用

 横浜FMの大島サイドからの旋回に対しては前半の川崎はよく食らいついていたし、エウベルについてもプレー方向を制限しながら影響を抑えることはできていた。山田、脇坂も低い位置でサイドやバイタルの守備のヘルプに出てくるので、一度押し下げられるとなかなか押し返せないという難点こそあるが、単純なクロスは佐々木と高井が無効化できていたため、大きな問題にはならない。初出場の早坂も早い段階でクロスをキャッチし、落ち着くことができたはずである。

 川崎はマルシーニョ、家長、山田の前3枚を軸に陣地回復。とりわけ中盤でのデュエルを制してからのマルシーニョにボールを預けての速攻が光った。特に2つ目の決定機は惜しかった。自身がゴールを狙う道筋も決して悪いものではなかったが、追い越す家長を使えば山田のシュートというよりクリアなフィニッシュまでのルートが見えた可能性もある。

 家長のカットからうまれた2つ目のマルシーニョの決定機から少しずつ川崎はボールを握るようになる。とりわけ攻め手となっていたのは右サイド。こちらのサイドは明確にエウベルの戻りが遅く、渡辺がスライドするので、川崎は渡辺が空けた中央との両睨みが可能になる。ちなみに、川崎は自陣からのビルドアップでもエウベルの背後をカバーする渡辺に負荷をかけることでクリーンに前進することができていた。火力のある前線が守備で不具合をきたすという構造は川崎も横浜FMも変わりはない。

 川崎のこの日の決定機はその手前のいいプレーとリンクすることが多かった。31分の家長の決定機における大島のタメはその代表例だろう。サイドでズレを作る作業はインサイドで高さのない川崎にとっては不可欠であり、大島のタメはその役割を果たしていた。

 しかしながら、この日はマルシーニョと家長が訪れる決定機を決め切れず。機会自体は少なくても早々に試合を動かすことができた前節とは異なり、ゴールを決め切れないまま前半を終えることとなる。

ストライカー同時投入の効果は…

 後半、川崎は高い位置からのプレスでスタート。横浜FMもこれに呼応するように高い位置からのプレスで対抗する。だが、前半の項で述べた通り、基本的にはこの試合は保持側有利。一度、川崎がひっかけてロペスが抜けかけた以外は保持側がプレスを抜ける形で前線に進撃していった。

 先に決定機を迎えたのは川崎。右サイドからの家長のシンプルクロスに合わせた山田がクロスバーを叩くシュート。こぼれをファン・ウェルメスケルケンが押し込むチャンスがあったが、前半からセーブが当たっているポープが壁となり、ゴールを許さない。

 すると、ピンチをしのいだ横浜FMが先制。きっかけは左サイドの前進。フリーでボールを持ち運んだ永戸からノンストップでゴール前まで向かうと、ボックス内に侵入した西村を橘田が倒してPKを献上。早坂はロペスのキックに対応し、方向も読んでいたが止めることはできなかった。

 この場面の川崎の守備を遡ると、家長と山田の永戸の受け渡しがまずかった。山田は永戸を受け渡してから持ち場に戻るべきで、ボールが同サイドから出ていないのに背後を把握できない家長を追い越す形で前に戻れば、永戸がフリーの瞬間ができるのは当たり前である。

 このようにサイドの守備の遅れでも川崎はフィニッシュまで一気に持っていかれることがある。家長(この場面での責任がそこまで重くはないと思うが)、マルシーニョのSHは守備の運動量と規律の両面で難があるので、こういうズレ方はよくある。2失点目につながる大島システムの欠陥に加えて、SHの守備でもエラーを発生する可能性があるのはやはり看過できないだろう。今、優勝争いをしているチームにこの設計図で対抗するのは個人的には難しいと思う。

 追いかける川崎は3人の選手を交代。山本、遠野、車屋を投入し3セクションそれぞれでテコ入れを行う。大島と組んだ山本はなかなか持ち味を発揮するのに苦慮していたように思う。時間を前に送る彼の得意なパスは鳴りを潜め、無難なプレー選択に終始していた。

 左のCBに入った車屋はとにかく体が重そうで大分戦からあまりコンディションが上がっていないようだった。ボールを持った時の押し上げも鈍重だったし、セットプレーで畠中に前に入られた時はほぼリアクションすることができていなかった。高井が出場停止の次節のDFラインの構成には大いに不安が残るパフォーマンスだった。

 というわけで川崎は攻め手探しに苦慮する展開に。だが、終盤に左サイドから光明。不慣れな位置でデビューしたクルードがSBに入ったこのサイドは大外へのチェックがかなり甘く、遠野が絞れば大外から簡単にクロスを上げ放題の状況。佐々木がこの状況を生かしてボックス内にクロスを入れていった。

 工夫をしなくても左サイドからシンプルクロスの供給ができる川崎はボックス内にエリソン、山田、小林の3人のストライカーを投入。だが、この効果は限定的。それぞれが空中戦で無双できるわけでもなく、それぞれが互いの位置を意識してスペースに入り込むとか、味方のために折り返すという意識がなかったので、相手になかなか競り勝てないストライカーがそれぞれクロスに飛び込む場面の連続だった。

 とりわけ山田と小林は同じクロスに2人が飛び込むことで味方のアクションを阻害してしまうことが多々あり、同時起用がマイナスに作用しているようにも見えた。今年加入のエリソンはともかく、もう2年ほどプレーしている山田と小林には同時出場している時のクロスの飛び込み方のバリエーションがほしいところである。

 アクロバティックなエリソンの一撃で追撃した川崎だが、反撃もそこまで。3失点を喫してリーグでの無敗記録は8で止まることとなった。

あとがき

 やはり、2失点目が大きかった試合に思えた。こうした守備の不具合は基本的には大島がいることを前提として描いた設計図には存在してしまうものだろう。9人の神戸やFC東京では顕在化しなかったけども、横浜FM相手であれば顔を見せてしまう不具合である。

 ただし、横浜FMがこの形から大量にチャンスを作ったというわけではないし、逆に言えば45分はきっちり抑えることができている。大島が保持面でテンポを整えるのに有益な役割を果たしているのは明らかだし、この試合でそこが途切れたわけでもない。なので、失点に繋がったから全部ダメ!というわけではなくて、こういう難点があることを頭に入れて付き合っていかないとだめだよねという類の話だと思う。そこは割り切っていい。

 一方でこの試合を決定力不足と割り切るのは個人的にはもったいないなと思う。そりゃ、家長やマルシーニョが決めていれば川崎は優位に試合を進めることはできたと思う。けども、シュートが決まらないなんていうのはサッカーではよくあること。決まらないならば、次の自分たちの決定機を作るための努力をしなければいけないのがこのスポーツである。

 一度しかチャンスを作れない強大な相手であれば決定機を逃したことを嘆くことも仕方ないと思うが、基本的にはそういう相手は今のJにはいない。であれば、シュートを外してしまったこととセットで、次の決定機を作れなかったことも悔いるべき。前者だけを悔いる割り切りは個人的には不要だと思うし、相手の決定機を減らして自分たちの決定機を増やすための方策づくりに関してはいくらでも諦め悪くあがいてほしい。

試合結果

2024.8.17
J1 第27節
川崎フロンターレ 1-3 横浜F・マリノス
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:89‘ エリソン
横浜FM:58’(PK) アンデルソン・ロペス, 60‘ 西村拓真, 79’ 畠中槙之輔
主審:福島孝一郎

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次