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「決め手は2つ目のトリガー」~2021.9.22 J1 第32節 鹿島アントラーズ×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

■リスクヘッジの川崎

 鹿島×川崎といえば対人バチバチ、トランジッションがトレードマークの一戦である。しかし、この試合はここまで積み上げてきた歴戦と比べると、攻守の切り替えはそこまで多くなく、展開が早くないように見えた。

 その原因はアウェイの川崎側にあるように思う。スターターを見る限りは4-3-3でのスタートかな?と思ったのだが、この試合の川崎は4-2-3-1を採用した。理由としてはおそらく鹿島のサイド攻撃に対応するためだろう。

 川崎の4-3-3のデメリットとして、WG裏を非保持で使われてしまうと中盤や最終ラインが引き出されやすくなり苦しくなってしまうことがある。特にこうした運動量に無理が効く選手の代表格である田中の移籍以降は、川崎はこの局面を避ける頻度が心なしか増えている気がする。

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 この日は初めからWGを下げることで鹿島のSB-SHのサイド攻撃に人数を合わせるような形をとった。ボールを取る位置が多少低くなっても仕方がない。サイドで数的優位を作られることはまずは避ける。それがこの日の川崎のコンセプトだった。

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 川崎が無理にボールを奪取する位置を高めに設定しなかったというのが、この試合のテンポを決める一因だった。

 プレビューでも触れた通り、鹿島は名古屋や福岡など直近で4-4-2気味に守る相手に苦しんでいる。サイドに出ていった時も3人目を絡めた動きがあまり上手くなく、相手に選択肢を突きつける動きが得意ではない。この試合でもその部分は垣間見られたように思う。

 サイドで鹿島が3人目の動きから川崎を背走させられなかったこと、そしてライン間で輝ける荒木を封殺したことも含めて川崎のローラインはある程度の効果を見せることができた。

 だが、川崎にとっては誤算もあった。鹿島の両SBである。安西、広瀬のコンビは守備面における対人では不安ではあるものの、敵陣に迫る部分では頼りになる。特に安西はこの部分ではかなり計算ができた。川崎の守備は数は合わせていたものの、サイドのスペースを狭めるところまではいっていなかったので、ドリブルができる安西を起点に鹿島はゴールに迫ることができた。ここまでの試合では守備面を中心にパフォーマンスが上がってこなかった安西だったが、この試合は攻撃面で存在感を見せたと言っていいだろう。

 それを助けた和泉も良かった。安西のサポートだけでなく、前半の中盤以降は左から斜めにカットインしてくる動きも良好。40分のシーンの裏抜けはシュートに持っていける位置に置けたらベスト(もちろん、ボールの問題もあるけど)、欲を言えば大外に走った安西がもう少しPAに迫れるようになると川崎的には脅威になる。この局面での動きはまだ改善が必要だと思うけど、基本的に鹿島の左サイドの前半の出来は良かったと思う。

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■攻撃の選択肢を突きつけられない

 川崎は攻撃面でもリスクヘッジを心がける。短いボールを繋いでいくことよりも、早めに長いボールを当てながら前進していく形を優先していた。狙いはダミアンとマルシーニョのところだろう。やや左に流れて、広瀬に競りかけるようにハイボールを受けて、マルシーニョにボールを落とす。

 少ない手数でボールを前に送り、少人数で崩し切るという意図ならば今の川崎ではマルシーニョが最適だろう。広いスペースで彼にドリブルをさせることができれば少なくとも鹿島を後ろ向きにすることはできる。

 だが、ここから先の攻撃で川崎は問題を抱えることになる。川崎の縦に早い攻撃に合わせて、押し上げられる選手は限定的。これは重心を低く設定した非保持による影響もあるだろうし、そもそも中盤の選手がサイドにサポートの行きにくい、4-2-3-1の構造的な問題も大きい。ホルダーに対して受け手となりそうな選手が1人になることが多い。

 例えばダミアンが潰れてマルシーニョに流すと、彼には旗手しかもう出す先がない。鹿島が苦手なのは選択肢が複数ある状況で迷いながら守るような状況。このようにパスの到達地点が分かりきっている状況にはめっぽう強い。

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 加えてプレビューで指摘した鹿島のCBがやたら動きすぎてしまう問題も川崎はつけいることができなかった。12分のシーン、家長が町田を引っ張り出すことができたシーンにおいて、町田が空けたスペースに抜ける選手がいない。高い位置でボールを奪えたり、こういうスペースへの抜け出しが得意な脇坂がいればこういうシーンは生かせるんだろうけど。先に述べたように4-2-3-1の弊害感もあるけども。原因はともかく、ニアで鹿島のCBが開けたスペースへのランができないとなれば、鹿島のCBがサイドに流れる動きが正当化されてしまう。

 マルシーニョのスタイルも鹿島の守備が狙いやすい原因の一つ。35分のシーン、この場面ではマルシーニョにボールが渡った時点で登里のオーバーラップが間に合っているのだが、マルシーニョは内側に大きく体を入れてプレー。こうなると鹿島は外にボールが渡ることはないと選択肢を絞ることができる。結果的にSBを使わないという選択肢は理解できるものの、『SBが選択肢から消えてしまうことが守備側からあからさまにわかってしまうこと』は避けたい。こういう部分で、あらゆる選択肢を相手に突きつけていけるか?がマルシーニョの課題になっていきそうな予感である。

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 川崎が前半に打ち出した少ない人数で攻め切るというやり方自体は理解できる部分ではある。連戦の最中だし、フルスロットルで鹿島と90分やるのはハード。鹿島は直近でローラインの4-4-2攻略に苦慮している。

 さらに22分のサイドチェンジを見ればこの日の芝の転がりの悪さもわかるだろう。川崎のサイドチェンジはキーマンがサイドに一発で大きなボールをつけるよりも中盤を経由し、テンポが速いグラウンダーを繋いで逆サイドまで持っていくことが多いので、芝でスピードが出てこないのはピッチを広く使うフェーズにおいても川崎に影響を与える。鹿島のスライドが先に間に合ってしまうならばサイドチェンジの意味はない。やたらロブパスを繋げたことも、川崎はショートパスでのロストでもリスクヘッジをしていたように見えた。

 鹿島の得点がなかったことも川崎の得点がなかったことも、川崎は攻守にローリスクの手法を取ったからという要因が非常に大きかった前半であった。

■試合を分けたのは一つのファウル

 立ち上がりからガンガン仕掛けていくのが前半戦の川崎ならば、夏以降の川崎はプレスにガンガンいくタイミングを後半頭に設定することが多かった。前半はいくつかの要因からそこまで試合のテンポを上げない選択をした川崎だったが、対鹿島を考えればどこかにアクセルを踏むはず。というわけで個人的には後半の頭に仕掛けると思っていた。

 だが、この試合の後半頭の川崎は明確にプレスのアクセルを踏むことはなかった。川崎の後半頭の変更は旗手と家長の位置を変えたこと。これにより、中央の高い位置で起点を作ることができた川崎。惜しくもオフサイド判定になったマルシーニョの抜け出しのシーンは家長を中央に移動させた理由が非常にクリアに分かった場面だった。

 しかし、高い位置からプレスに行ったり、時間を作って中盤を押し上げて押し込むような場面を増やすような動きはなし。川崎のベンチワークは試合のテンポを大幅に変えるというよりは部分的な修正に終始した印象だ。

 試合のペースが大きく変わらない状況で先制したのは鹿島。安西のクロスからアラーノが先制弾を叩き込む。結末から辿るとアラーノにヘッドをさせてしまったのが川崎の失点の要因だろう。安西を縦に誘導し、フライ性のクロスを上げさせたところまではエラーとは言い切れない。

 中の上田がジェジエウから谷口に競りかける相手を変えたのが秀逸で、これによりアラーノへの対応を登里がする羽目になった。登里も競りかけるところまでは行ったものの、アラーノの叩きつけるプレー選択も奏功。全体的に川崎の守備陣をアラーノと上田を中心に鹿島が上回ったシーンと言えそうだ。

 余談だけど、インサイドで受ける効果的なプレーが荒木よりもアラーノの方がうまかったのはアラーノのスタートポジションが外だったからだろう。内で受けたい位置に入り込みながらパスを引き出すことで川崎の対応を後手に回らせていた。

 ここからは鹿島がペースを握る。中でも効いていたのはピトゥカ。前線の落としを受けての持ち上がりからの陣地回復で川崎を押し下げる。対する川崎は3枚替えで流れを掴もうとするも、交代選手がなかなかリズムを掴めたい。特に宮城と旗手は縦関係を上手く使えず。宮城はマルシーニョと同様にカットインを中盤で絡め取られてしまうなど、ボールロストの温床になっていた。

 失点後、3枚替えというトリガーを引き、流れを引き寄せようと試みた川崎。だが、むしろ交代選手は封じられ、ピトゥカの陣地回復と土居やアラーノようなスペース感覚が鋭い選手の組み合わせから鹿島が勢い付く展開になった。

 この試合で結果を分けた場面があるとすれば、川崎の1得点目の原因となった広瀬のファウルだろう。率直に言えば不要なファウルだった。この試合の川崎のサイド攻撃に対する鹿島の対応は攻撃を遅らせてフォローを待つのが鉄則。この場面でも三竿のカバーは間に合っていた。カットイン方向に立つ三竿が宮城のドリブルを止めるというのはこの試合の流れを見ていれば十分予期できたはず。それだけに飛び込んでファウルを犯した広瀬のプレーは必要なかったと言わざるを得ない。

 おそらくはこのワンプレーを重要視しての山村の投入がピタッと当たる。『合わせるだけだった』と振り返る脇坂のキックに合わせた山村のヘッドで川崎は試合を振り出しに戻す。

 鹿島にとって残念だったのはもう流れを引き戻すことができなかったことだろう。特に前線へのフィードの狙いが曖昧になり、捨てる形が増えてしまったのが残念。それまではポスト等からピトゥカに前を向かせることで相手陣地に押し込むことができていた。展開がオープンになってからも、この押し下げのフェースを噛ませることができている間は川崎相手に優位を取れていた。70分、家長が出し手がなくスローダウンをした川崎のカウンターを見れば、押し込んで攻め終わることができれば、川崎の攻め手をある程度収めることは十分に可能なことはよくわかるだろう。

 それだけにアバウトなボールに終始したのは残念。こうなるとアンカーに据えた山村の読みと高さが生きる展開になるがハマる。ロングボールによる効率的な陣地回復を図るならば、エヴェラウドをロングボールできっちり狙うこと。またセカンドボールの回収要員としてレオ・シルバを入れることはもう少しクリアにしておきたかった。

 川崎は同点直前に入った知念の貢献が効いていた。おそらく、左右に流れながらボールの収めどころになってほしいという指示を受けたのだろう。列を落ちることなく踏ん張ることができた知念は家長1人では請け負いきれなかった前線での時間を作る役割を見事に果たした。

 サイドと中央を変えながら起点になる知念と家長で深さを作ることができた川崎。縦に引き伸ばした中盤には脇坂が得意な広いスペースができることとなる。広瀬のファウルから、鹿島の交代を経てようやく川崎が3枚替えで引いたトリガーの効果が出てきた。

 そして、仕上げは宮城。間延びした中盤でぽっかり空いたバイタルから叩き込み、劇的に試合を決めてみせる。どちらに転がってもおかしくない試合の中で選手交代と広瀬のファウルという2つのトリガーから流れをつかんだ川崎が勝ち点3を敵地で手にする結果に終わった。

あとがき

■鹿島らしくない

 あんまり、個人を責める形になるのは書き手の意思に反する部分ではあるのだが、鹿島は先制点後の川崎にとって苦しい流れの時に寸分の隙も与えてくれない!というのがCSや天皇杯で苦杯を舐めてきた川崎視点での鹿島のイメージだったので、ちょっとその隙を与えた当事者である広瀬にはかなり厳しい論調の内容になってしまった。正直いうと相馬監督になって取り戻す!としていた『鹿島らしさ』が感じられないことが敗因の一番大きい部分だったように思う。

 むしろ、展開によらず愚直に前に向かいながら勝ち点3を撮りにいく!という姿勢はタイトルを目指して奮闘していた頃の川崎とダブる部分がある。そういう部分で言うと、これまで優勝してきた部分で詰めの甘さが出た故の逆転負けなので、鹿島サポからすると悔やんでも悔やみきれない敗戦だったのではないかなと思う。当然、選手もダメージがあるはずだ。短いスパンで立て直しのきっかけとなる試合があるのは個人的にはポジティブだと思う。ACL出場権に向けてもう一度アクセルを踏めるといいのだが。

■あの日の浦和のような

 いや、勝ったね。正直驚いた。この試合のプレビューで『勝っている部分をしっかりと得点につなげられなかったACLのリベンジをしたい』と述べたのだけど、どちらかといえば先制されて流れが悪い中で、『ここしかない!』と言うところから逆転勝ちを引き寄せたという意味ではむしろルヴァンカップのリベンジといってもいいかもしれない。

 ルヴァンカップでは西とユンカーにこの形しかない!というプレーから逆転突破を許す糸口を掴まれてしまった。山村の投入はタイミングを考えてもあのワンプレーに賭けた部分が大きい(その後のプレーもよかったけど)。ここまで交代が狙った通りにハマるとチームは勢い付く。あの日、浦和にやられた一点突破を、この日川崎は鹿島にやってのけたんだと思う。

 そういう意味ではルヴァンに敗れたところの心の整理は自分の中でうまくつけられそうな試合だったなと思った。タイトルは返ってくるわけじゃないけどね。それでもシーズンは進んでいくし、その道のりをいかに前を向いて戦えるかって大事じゃないですか。残りのシーズンを取れなかったタイトルを悔やむだけの旅にしたくないでしょう。そういう意味でこの勝利はここから先のリーグの道のりを胸を張って進む手助けになるように思う。

今日のオススメ

 51分の上田のスルーを読み切った登里。ピッチで先の場面で何が起こるかを知っている選手がいることは川崎にとって大きい。

試合結果
2021.9.22
明治安田生命 J1リーグ 第32節
鹿島アントラーズ 1-2 川崎フロンターレ
県立カシマサッカースタジアム
【得点者】
鹿島:61′ ファン・アラーノ
川崎:83′ 山村和也,90+4′ 宮城天
主審:木村博之

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