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「組織的なプレスは後ろを楽にする」~2018.11.24 プレミアリーグ 第13節 トッテナム×チェルシー レビュー

ポチェッティーノの元、スタジアム建設とCL出場という2足のわらじをはきつづけるスパーズ。私のひいきのチームの宿敵とはいえ、スタジアム建設時のしんどさはアーセナルも味わった部分であり、チームを強くしたいけどなかなかお金をかけられないというサポーターのもどかしい気持ちはよくわかる。それでも限られた資金の中でコンスタントに上位をキープしているのは称賛されるべき。毎年のように噂される主力の流出もなんとか回避し続けて、アップデートを続けている印象だ。

対してチェルシーは今夏からサッリ体制がスタート。サッリはプレミア初挑戦の上、今夏の監督就任が確定するまでにやや時間を要したため、開幕から軌道に乗るまでに時間がかかるかと思ったが、ここまで無敗という素晴らしい成績で駆け抜けている。完成度も試合を重ねるにつれ徐々に上がっている印象だ。

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
線の上でプレス待機

 チェルシーはボール保持時4-3-3、非保持時はコバチッチとウィリアンがSHになり4-4-2になるサッリ式のオーソドックスな変形。対してスパーズの並びは数字にするのが難しい。現地の予想スタメンは4-2-3-1だったが、数字で表すなら4-3-3の並びが近いだろう。ケインとソンはチェルシーの最終ラインにプレスをかける役割。チェルシー対策としておなじみのジョルジーニョへのマンマークは今日はアリの役割だった。ボールを持ちたいチェルシーに対して積極的なプレスを仕掛けるスパーズ。面白いと感じたのはスパーズの選手の配置の仕方。

 チェルシーは多角形を形成することで前進していきたいチーム。よってボール保持の時は斜め方向にずれた配置につくことが多い。それに対してスパーズの選手が立ったのは間のスペース。選手と選手の線の上と言い換えてもいいだろう。

 ジョルジーニョとデートさせられているアリを除けば、ほとんどの選手が線上に配置。チェルシーがビルドアップの時に形成する多角形のメインとなるのは菱形だが、その1つの頂点を形成することが多いジョルジーニョを封鎖することで、チェルシーは菱形の形成が困難になる。なのでこの試合では三角形がメインになる。スパーズにとって三角形を形成する線の上に選手を配置するメリットは2つ。

 1つは線上のスパーズの選手はあらゆる選手にチェックに行けること。そしてもう1つはボールホルダーに複数の方向からチェックに行けること。スパーズは特にチェルシーの最終ラインの4人以外がボールを持った時には一気に圧縮して複数方向からボールを奪い取る動きをしていた。前線の立ち位置を参考にマークマンを絞れるので、スパーズの後ろはとても守りやすそうだった。
 チェルシーの最終ラインの選手に複数方向からチェックをかけなかった理由は単純にメリットが薄いからだろう。SBのアロンソやアスピリクエタを挟み打つためには、スパーズのFWかSBが長い距離を走る必要がある。FWがプレスバックしてボールを奪取しても、前線のカウンターの枚数は減ってしまうし、SBが前に出ていくと後方のバランスが崩れる可能性がある。CBも似たような理由だろう。スパーズのCHが長い距離を走って前線にプレスに出ていくのは、自陣後方にボールが入ったときのカバーの遅れにつながりかねない。アリはジョルジーニョとのデートが優先だ。

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 パッとこの図を見ると、チェルシーにとって空いてるコースは結構あるようにも見える。ルイスーコバチッチのラインとか、コバチッチーアザールのラインとか。しかし、スパーズの目線で言えば、常時すべての線上に選手を配置する必要はない。

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 例としてルイスがボールを保持しているシーンを考える。ルイスがボールを保持している時にメインになる多角形の頂点はアロンソとコバチッチ。本当はジョルジーニョもだけど、アリが邪魔をしているため頂点の役割を果たせない。なので三角形。三角形には線分が3つあるので線上に立つのは3人!って思いそうだけど、2人で十分。なぜならルイスがボールを持っている段階では、アロンソーコバチッチ間の線分はチェルシーにとって何の意味もなさないからだ。

 必要のない線分はもちろんボールホルダーによって変わるのだが、そこはスパーズの中盤とSBが連携して塞ぐ線分を逐一変えていたし、そもそもパスの行き先が見えているときはチェルシーの選手を捕まえに行くケースもしばしば。運動量のあるシソコのスタメン起用の理由はこのあたりにもあるかもしれない。

 スパーズの線上プレスはとても効果的であった。チェルシーはボールを引っかけるシーンを多発。ボールを奪うとアリ、ソンはハーフスペースに移動しボールを引き出す。SBのオーバーラップも効果的で特にデイビスがアスピリクエタを引っ張れた時は、チェルシーの最終ラインのバランスが崩れてスパーズの前線がとても躍動していた。点にはならなかったけど、10分のソンのシュートシーンとか。15分のケインの追加点もこのスペースを使ったものだった。ゾーンの切れ目はサッリチェルシーの泣き所だ。

【前半】-(2)
反撃を試みるチェルシー 

 チェルシーの最終ラインからしたらプレッシャーのかかりにくいSBに素早いフィードを送りたいのだが、あまりそういうシーンは見られなかった。オープンになるケパからサイドへの速いフィードは解決策になりうるかと思ったけど。チェルシーの前進は前線へのロングボールがメイン。セカンドボールを拾って押し上げられたときに限られてしまう。ロングボールはスパーズの選手が線上からターゲットとの競り合いに移動する時間を生んでしまうので、そこまで効果的ではなかった。単純な競り合いに勝てるかどうか。

 それでも2点取られてからはチェルシーがやや押し返す。要因としてはリュディガーが長めのパスを織り交ぜるようになったこと。そして何といってもアザール。スパーズが配置を工夫してもアザールの質的優位は消えるわけではない。コバチッチが大外に移動してシソコを釣ったすきにアザールが中に入りドリブルスタート!っていう使い方が多かった気がする。アザールはすごい。コバチッチもすごい。そういうわけで押し返すチェルシー。プレスも2点ビハインドということで重心を上げていく。スパーズの後方はそこまで足元の技術に長けているわけではないので、チェルシーが前からプレスをかけられたときは怪しい部分はあった。
 とはいえチェルシーも決定機までには至らず。モラタがすごいたくさんオフサイドにかかっていた。試合は2-0でスパーズリードで折り返す。

【後半】
後半早々に・・・

 前半の続きのようなスタート。攻勢を強めたいチェルシーはウィリアンも前線からのプレスに参戦。前半の途中から見られた大きな展開でスパーズを揺さぶる。サイドからの攻めを中心にシュートシーンも増えてきたところだったが、後半早々にスパーズがとどめを刺す。ポテンシャルで振り切られた感のあるジョルジーニョはともかく、ルイスの軽いプレーはいただけない。ソンのゴールはスーパーだったが、チェルシーの対応が甘かったのも事実だろう。

 追い込まれたサッリの選択はアザールを中央に置くこと。アザール、ウィリアン、途中交代のペドロの3枚に変更した。スパーズは3点をとったことでやや後ろに重心を置く。2回だけデイビスがGK付近までチェイスにいったけど、あれはなんだったんだろう・・・。
 ペドロと同時に投入されたバークリーはスパーズのブロックの外から起点となるべく奮闘はしていた。しかし決定機を作り出すのはスパーズの方。カウンターから決定機を作り出す。シンプルに総じて走力がスパーズの方に分があるのと、さらされたチェルシーの最終ラインがややもろかった印象だ。

 押し下げてるけど、攻め手が見つからない。こういう展開ならあいつが欲しいもんだ!と思っていたら交代で入ってきた。サッリの3枚目の交代カードはウィリアン→ジルー。ジョルジーニョとか下げても面白いかなと思ったけど。
 そのジルーがヘディングで今季初ゴールを挙げるが、反撃もここまで。トッテナムが勝利し、1987年以来の対チェルシー戦連勝を飾った。

まとめ

 快勝を飾ったスパーズ。ジョルジーニョ封じはおそらく誰でも思いつく策だろうが、そこから先のプレスの精度の高さが際立った。前線の献身的なチェイスが後方のプレスの狙いどころを定める助けになっていたのが印象的。行くところ行かないところの判断がチームとしてはっきりしていて、後方の選手はやりやすさがあったのではないか。特に右サイドのオーリエ、ソン、シソコのユニットは強力だった。前線のコンビネーションも盤石で、チェルシーのDF陣を完全に攻略したといっていいだろう。CLのインテル戦、ノースロンドンダービーと難しい試合が続くがまずは素晴らしい連戦のスタートを切った形だ。

 今季初黒星を喫したチェルシー。ジョルジーニョ封じの打開策を90分通して見つけられなかった格好。要所で個人の質の高さは見せたものの、スパーズの組織力を前に軍門に下ってしまった。カウンターを受けたときのCBとアンカーでの対応には一抹の不安が募る結末になってしまった。ここからサッリは年末年始の過密日程に挑むことになる。ターンオーバーをあまり行わない方針のサッリはこの冬をどう乗り切るか。

試合結果
プレミアリーグ 第13節
トッテナム3-1チェルシー
ウェンブリー・スタジアム
得点者
TOT: 8’アリ, 16’ケイン, 54’ソン
CHE:85′ ジルー
主審:マーティン・アトキンソン

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