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「キーマン不在は好調の印」~2018.11.24 J1 第33節 FC東京×川崎フロンターレ レビュー

 シーズンも大詰めで迎えた多摩川クラシコ。
 長谷川監督が新たに就任したFC東京。前半戦は好調だったものの後半に入って徐々に失速。深刻なのは得点力の不足で特にホームゲームでは後半戦は1得点のみ。後半戦も維持し続けている堅守をベースにACL出場権争いを制することができるだろうか。

 しかし、近年の多摩川クラシコで苦戦しているのはむしろ川崎のほう。直近3試合は東京の2勝1分。会場を借りて味の素スタジアムで開催したルヴァンカップの鹿島戦にも敗戦してしまうなど、味の素スタジアムと多摩川クラシコにはあまりいい思い出がない川崎サポは多いことだろう。私も肩を落としながら京王線に乗って帰る思い出ばかりになっている。優勝決定を多摩川クラシコの勝利で祝えるだろうか。

 スタメンはこちら。

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 FC東京は直近数試合にならい高萩を前線に配置。橋本と米本が中盤でコンビを組む。太田と小川の2択だった左サイドバックは、近年川崎キラーとして多摩川クラシコで得点に絡む活躍を見せている太田をスタメンに選んだ。

 川崎は小林と大島がケガにより今季終了。知念と先発は自身初となる田中が代わりにスタメンに抜擢された。また長谷川も久々のスタメン起用となった。

目次

【前半】
高萩を混乱させた中村憲剛

 構造上は互いに4-2-3-1でスタートした両チーム。ともに非保持の状況では4-4-2ブロックに近く変形するのも同じ。FC東京の4-4-2の特徴は人への意識が強いこと。例えば、内側に絞る長谷川には室屋が大外のレーンを捨てて、そのままついていくことが多かったりとか。あとは前線の高萩。ボールホルダーのサイドに寄っていく動きが多く、4-4-1ブロック+1人というイメージのほうが近かったかもしれない。むしろ、高萩のいるところでボール奪取のスイッチを入れていく感じといったほうが正しいかも。高萩を主導としたプレスで川崎のボランチコンビを狙い撃ち。特に初先発の田中にはマークがきつく、途中からFC東京側のボールの狩りどころとして定めていた感があった。川崎の回避策として特徴的だったのは、CB(特に奈良)のミドルパスの頻度を増やしたことだろう。比較的余裕をもってボールを持てたCBコンビがいつもより長いレンジのパスを織り交ぜて、プレスを回避していたのが印象的だった。

 序盤の主導権を握ったのはFC東京。ボール奪取+ディエゴ・オリベイラのポストでのショートカウンターの頻度は多かったし、陣形が整う前のカウンター守備を強いられた川崎はファウルを連発。FC東京のセットプレーの局面が増えていき、川崎は思うように試合を進められなかった。

 状況を押し返すきっかけになったのは中村憲剛がポジションを動かしたことがきっかけ。田中へのケアを強める高萩がいないスペースに降りて、フリーでボールを受ける機会を作り、ボール保持の時間を増やしていく。中村が降りていくことで、他の後ろの選手もプレッシャーが緩まり、ポゼッションは安定した印象。横幅が狭いFC東京の陣形を利用して、後ろから大外の車屋とエウシーニョを使ってボールを前進させることで、川崎が押し込む時間が増えていく。

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 頼れる長老の気配りで押し込んだ川崎。今度は川崎のプレスがハマる番になる。先制点は川崎のショートカウンターからだ。リスタートからボール保持を始めるFC東京。田中のチェイスでボールの出しどころを失った橋本がボールロスト。そこから知念のミドルが決まり川崎が先制する。橋本は右サイドにいる東には出す余裕はあったものの、そこに出してもサイドでプレスに引っかかると考えたのかもしれない。フリーになっていた森重がボールを受けるサポートをしていれば少し違っていた可能性はある。いずれにせよ、中央からカウンターを受けるのは結果として一番まずくなってしまったのは間違いない。ここまでは悪くない試合運びだっただけに、もったいない失点だ。川崎からすればプレスでボールを出せる位置を限定し、ミスを誘発してミドルを叩きこむという素晴らしい先制点だった。

 ここから前半終了までは川崎のペースといっていいだろう。東京もカウンターを発動したシーンはあったが数えるほど。シュートまで持ち込めたシーンはさらに少なく、谷口と奈良を中心にしっかりカウンターをつぶすことができた。ボール保持においても中村や家長が中央にサポートに来ることで、CBとCHの4人は比較的自由にボールを動かしながら積極的な展開を見せることができた。ボール奪取の取りどころを定めるはずの高萩の狙いが定まっていなかったのは印象的。
 内に寄りがちな川崎のSHに合わせて、絞るFC東京のSBが空けた大外のレーンは車屋とエウシーニョが占有。中央では高萩にキーマンを絞らせず、外はSBが主導権を握る。先制点後は大人なサッカーを見せた川崎。試合は1-0で川崎リードでハーフタイムに突入した。

【後半】
未来へ踏み出せるゴール

 ハーフタイムにFC東京は選手交代を実施。米本→永井に交代し、2トップに変更。米本は前半に負傷したシーンがあったため、戦術的な交代か負傷交代かは不明。高萩はCHだったが、前にプレスをかけに行ったり、ラインが低くなったら控えたりとある程度流動性を持たせていたようだった。選手交代をきっかけに同点にすべく一気呵成をかけるFC東京。しかし次のゴールも川崎に入ることになる。

 この2点目は個人的にはかなり好み。マイシーズンベストゴール候補といってもいいくらい素晴らしいゴールだった。奈良のカットがまずよかった。裏のスペースをケアしてGKにつなぐ。そのあとにGKから再びパスを受けるためのパスコースづくりをサボらないところも素晴らしい。
 受けたソンリョンは素早く守田にグラウンダーのパスをつける。このフリーの選手に速い展開を見せる部分こそ、ソンリョンに物足りない部分だったので、この2週間で来季の新たな武器として仕込んでいたのかなと思うととても来年以降わくわくできるようなパスだった。そして、守田→家長へのパス。背後のフリーの味方を把握しながら受けてダイレクトで反転パス。フリーの味方の位置を把握し、的確なタイミングでパスを出す。まさしく今季守田が年間を通して伸ばしてきた部分。そして家長→エウシーニョへ。被カウンター時に自陣まで押し下げられていたエウシーニョは前に走り出していた。中村へのパスも知念へのクロスも難易度としては簡単なものではない。自陣から駆け上がりながら、高精度のプレーを連発できるエウシーニョは特殊技能者である。そして、PA内で勝負できる長谷川の飛び込みが追加点を呼ぶことに。

 普段からこのレビューを読んでいる方ならわかるかもしれないが、あんまり一つのゴールについてこんなに詳しく解説することはないのだが、ちょっとこれは話さずにはいられなかったので、バーっと書いてしまいました。このゴールシーンは奈良や長谷川やエウシーニョは持ち味を出せていたし、ソンリョンは珍しい試みでゴールの起点になる。守田は向上してきた部分が得点につながる。各人の持ち味を積み重ねて完成したこのゴールはフロンターレサッカーの結晶といってもよく、これを小林と大島という2人抜きで完結させたことも踏まえれば、まさしくこれは「フロンターレの未来につながるゴール」といっていいだろう。いやいやこのゴールに中村憲剛絡んでるやんけ、というツッコミが入りそうだが、ここはぜひ「まだまだ現役やで!」的コメントを本人がバシバシ出している点に免じてご容赦いただきたいところである。

 完璧な前半に完璧な追加点!このまま楽に勝ったで!といいたいところだが、ここからはFC東京が主導権を握る。米本がいなくなっても中盤の運動量の豊富さは終盤まで落ちず、しっかりとボールホルダーを追いかけまわすことができていた。前半の終盤はやや孤立気味だったディエゴ・オリベイラも永井とリンスという援軍を得て、持ち味を取り戻した印象だった。前半と違って中盤の底に鎮座する高萩を司令塔に、太田を使って川崎のブロック守備を左サイドから崩そうとするシーンが多かった。

 最終的には高萩に代えて矢島を投入してスクランブルに転じたFC東京。84分の矢島の谷口へのチャレンジはPKでもおかしくなかったが、笛はならず。後半はポストにも嫌われ、若干運に見放されている部分もあったか。

 試合はそのまま2-0で終了。川崎が等々力でのリベンジを達成した。

まとめ

 得点力不足に苦しむFC東京はこの試合でもゴールを決めることはできず。長谷川監督の試合後コメントにもあるように、ブロックを組んだ相手の攻略が後半戦の失速の主要因なのは間違いない。この試合では中盤の豊富な運動量からのショートカウンターが最も脅威に感じたが、ここの精度をあげていくのだろうか。守備ブロックの整備からの前線のタレントを生かしたショートカウンターは契約更新が発表された長谷川監督の十八番なので、路線継続が濃厚なのだろうか。オリベイラは買い取るのかな。どうするんでしょう。

 いつもより試験的な要素が多かった川崎。初先発ながら、ボール奪取にボール保持に一定の存在感を示した田中には来季以降もチャンスはありそう。2点目につながったソンリョンのフィードもよかったし、65分にしっかりとタックルでカウンターをつぶした奈良も前節に当レビューで触れた課題を解決した印象。他のスタメン選手も持ち味を出しながら、結果も得ることができた。90分間支配力が続いたわけではないが、大人なサッカーで多摩川クラシコを制したといっていいだろう。

 依存度が高かった大島と小林を欠いての勝利。キーマン不在を「誰が出てもできる」形に転じることができたのがこの試合の一番大きな収穫だろう。マンオブザマッチは誰?という試合になるほど川崎は強いというのが個人的な印象。キーマン不在、MVP不在での快勝は川崎の好調の印なのだ。

 残りは1試合。残留のかかる磐田との試合だが、最後に等々力に快勝でシーズンを締めくくりたいところだ。

試合結果
2018/11/24
J1 第33節
FC東京0-2川崎フロンターレ
【得点者】
川崎:18’知念、50’長谷川
味の素スタジアム
主審:家本政明

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