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「僕たちの日本代表の物語」~2021.7.31-8.6 東京五輪 日本代表 ノックアウトラウンド 総括

グループステージ編はこちら。

■強者の振る舞いはできなかった

 グループステージのまとめの項でも書いた通り、日本はこの大会において『強者の振る舞い』をしてノックアウトラウンドの進出を決めた。先制パンチを食らわせるため、自分たちの持ち味である2列目の打開力を生かすための方策を取り入れ、序盤から畳みかけるやり方である。

 決勝トーナメントを経て、この大会での日本の印象は「強者の振る舞いをして勝つチーム」から「強者の振る舞いが出来る時にしか勝てないチーム」に変化した。ノックアウトラウンドの3試合はいずれも苦戦したといえるが、それぞれ異なる文脈から苦戦した試合だ。

   ニュージーランド戦は攻めあぐねが目についた。負傷者がきっかけで行われたニュージーランドのシステム変更以降、リズムを持っていかれるも、最終的には延長を視野に入れた塹壕戦で負けないことを優先。交代で勢いを失ったニュージーランドの攻めをじり貧に追い込み、PK戦で競り勝った。

 スペイン戦はそもそも強者の振る舞いをトライすることが出来なかった。前半半ばに見せたハイプレスの試みは面白いものではあったが、カウンター時に前線が個人個人で袋小路に入り込んでしまった感じ。悪くはない戦い方ではあったが、1つでもボタンを掛け違えてしまえば負けてしまう相手に対して、掛け違ってしまったボタンがあったという形だった。

 ある意味、最もショッキングだったのがメキシコ戦かもしれない。この試合においては繰り出そうとした先制パンチを普通にいなされ、カウンターでボコボコにされた試合だった。先制パンチを繰り出そうとして入らずに返り討ちに合うというのはこの大会で初めてのことだった。

 というわけで三者三様の苦戦の仕方をしたノックアウトラウンドだった。ベスト4というと健闘しているようにも聞こえるが、PK戦を引き分けとカウントするならば、一発勝負になってからは一勝もできないまま終わってしまったというのもまた事実。自国開催で豪華なメンバーをそろえたことも相まって、このベスト4には「よくやった」という声と「もっとやれた」という声がまじりあうことになっている。あるいは「よくやったけど、まだやれた」という感覚の人も多いだろう。

■ターンオーバーはどこまで必要?

 うまくいったいかないの話をするときに真っ先に挙がりそうなのは大会が進むにつれて顕著になってきた勤続疲労の部分である。特に吉田、遠藤、田中碧、久保などのセンターラインのメンバーはかなりの試合において出場時間が嵩んでおり、終盤には明らかにパフォーマンスへの影響が出ていた。

メキシコ戦においては今まではチームの歪みを懸命に正していた遠藤のところからPKを与えるなど、本来のコンディションならば考えにくいミスをしたのも事実だ。中盤の控えを事実上CBの3番手と兼務になった板倉1人に預けるのはプレータイム管理の観点から難があるという論調には確かにと同意できる分が大きい。

 一方で、この教訓がワールドカップに生きるかといわれれば微妙な話である。まず、本当に本大会でターンオーバーをする余裕があるのか?という話である。まず、列強といわれる強豪国においても本大会の中で大胆なスタメンを入れ替えるのはノックアウトラウンドの進出が確定、もしくはほぼ確定したGS第3節がほとんど。

    それ以外の試合では1,2ポジションほど定まらない箇所を相手や自チームの事情によって変えるくらいだ。CF、左のSH、SBなどを入れ替えながら戦った今大会の日本と同じ程度と捉えることが出来る。

   さらに疲労の観点から言えばノックアウトラウンドで相まみえたスペインの方がはるかに上だろう。スタメンの一部のメンバーはEUROという最高峰の舞台から1週間強で五輪の舞台に立っているのだから。

 ワールドカップという舞台設定もターンオーバーが根本的な治療薬になりにくいと考える一つの要因である。まず、冬のカタール開催であること。気候等の環境条件を考えると、湿度が高い日本で戦うよりははるかに楽だろう。日程面においても五輪と異なり、中2日で試合をこなすシチュエーションはない。

   加えて、五輪と比較してコンペティションの要求レベルが高いというのも一因である。もちろん、スタメンに遜色ない選手を控えにもう1セット準備できるならターンオーバーをした方がいいだろうが、今の日本はそうではない。ほぼ半数近くがA代表級のU-24ですら五輪で苦しんでいるのに、ワールドカップ本大会で日本がスタメンと遜色ない11人をもう1セット揃えることはさらにハードルが高いことといえる。

 仮にW杯ベスト8を目標として掲げるならば、そこまでの道のりは4試合。ハードだが、ある程度メンバー固定をしながらも戦い抜ける試合数ではある。もちろん、不測の怪我人や出場停止などチームの幅は広いに越したことはないし、問われる場面があるのは間違いない。でも、もっと先に指摘しなければいけないことがほかにあるような気がしてしまう。

■合理的ならOKというわけではない

 ここまで示してきたのはワールドカップでターンオーバーできるほど厚みがあるチームを作る余裕があるか?という話。今大会で敗れた要因の1つに疲労があるのは間違いない。それは別の話である。

 メンバーを代える以外でも疲労を下げるやり方はあったはずである。例えば、ニュージーランド戦。90分で決めに行けなかったことはケーススタディになりうる。この判断は自分が考える今大会の森保監督への評価を示す格好の材料である。

 延長を視野に入れてメンバー交代を遅らせるのは非常に合理的な判断である。勝つことはできなかったが、負けないことは徹底出来た試合ではあったと思う。そういう意味では森保監督の判断は支持できる。

 では、なぜ負けない手段を選ぶ羽目になったのか?というと、撤退するニュージーランドを崩すための手立てがなかったからである。今大会の日本は得意な局面以外への対応がうまくできていなかったように見える。

    3位決定戦でのメキシコ戦でも同様の問題に直面。横パスを入れながらラインブレイクのタイミングをうかがえなかったこと、林以外の前線が裏に抜けて相手の陣形を引き延ばす動きをみせないこと、CBの持ち上がりへの合わせ方がわからずに戸惑っていたことなどが立ちはだかり、押し込む相手に対してボール保持の局面で相手を揺さぶることは大会を通じてできなかった。

 したがって、負けないために自分たちが出来ないポゼッションでの攻撃を深追いしなかった森保監督の判断は理には適っている。だが、ポゼッションが出来ないチームに仕上げたのはそもそも誰なのか?という部分を考えれば、チームとしての課題が浮き上がってくるだろう。

 日本のアイデンティティとなるような新戦術を作れというわけではない。代表チームは日本に限らず、そういったイノベーションを見せる場ではない。CLのように『戦術とディティールの万国博覧会』の要素をワールドカップははらんでいない。

 だが、ワールドカップにおいて日本が自分たちの局面だけで押し切れるほどの国力がないのは明らか。そのため、他局面を活かすための武器は磨いておきたい。ニュージーランドのフォーメーション変更によるポゼッションや、ハイプレスをいなす3位決定戦のメキシコ相手に何かできるための準備はしておかないといけないのである。それがワールドカップまでの森保監督の仕事になるだろう。

 アジア最終予選は本大会と比べればコンペティションが求めてくるチームの強度は低い。展開によっては2列目の強度で押し切れる試合もあるだろう。久保、堂安以外にも鎌田、南野、伊東、古橋などこのポジションにおいて日本は絶好調だ。だが、1対1の突破力での解決を続けていては本大会で同じ目に遭う可能性は否定できない。目の前の相手に丁寧に向き合い、状況の変化に敏感になる必要があるように思う。変化に気づく繊細さと変化に対応する器用さが身につくかが個人的なワールドカップに向けた日本代表の注目ポイントである。

 もう少しつけたすならば最後に縋るものを見定めなければいけないと思う。スペイン戦で決勝ゴールを決めたアセンシオがボールから離れながらラストパスを受けたのは文化とDNAを感じた。次のワールドカップまでにというスケールでは不可能だけど、最後に縋った自分たちの文化で大一番をモノにするのは大事なことではないかなと思う。とかく悪い表現で使われがちだが、スペインは日本に「自分たちのサッカー」で勝った試合といえるだろう。日本もあらゆる手を尽くした最後に帰ってくる地として、いつかはそういうものを確立しなければいけないと思う。それはまだ先の話。でも、ロストフの14秒と同じく、あそこで離れて受けたアセンシオの動きを自分たちはよく覚えておく必要がある気がしてならない。

■僕たちの日本代表だった

 さて、ここからはあとがきである。多くのサッカーファンと同じく、ハリル事変の後、自分は代表への感情移入が難しくなった方の人間である。ベルギー戦において、2点を先行した時も、ロストフの14秒が目の前で繰り広げられている時も、一つも声を出さずただただ無表情でテレビの中で起こる出来事を眺めていた。あの代表は自分にとっては「僕たちの日本代表」ではなかった。

 したがって、今回の東京五輪の代表についても長い期間熱心に追ってきたわけではない。なので特別な愛着があるわけではない。そしてJFAや日本代表を取り巻く環境もあの日のベルギー戦とそこまで大きく変わったわけではないように思える。

 それでも今回の五輪代表は自分にとっては「僕たちの日本代表」だった。川崎勢が多かったからという理由はどこかピンとこない。あるいは規律が特別しっかりしていたからというわけでもない。

 多分、選手たちがこのチームのことを誇りに思っていることが心から伝わってきたからだと思う。それが選手たちの発言や感情表現から伝わってきたからかなと。ロシアでも同じことは起きていたのかもしれないけど、自分はそれを感じ取れる状態ではなかった。なので、もしかすると彼らの話というより自分の問題なのかもしれないけど。

 はっきりとした理由はわからないけど、この夏を経て自分は代表が強くなるにはどうしたらいいんだろう?ということを考えることが出来るようになった。そのような気持ちにさせてくれたチームの関係者には多くの感謝とねぎらいの言葉を贈りたい。東京五輪、お疲れ様でした。

 各試合のマッチレビューはこちら。

Quarter-final ニュージーランド戦

Semi-final スペイン戦

3位決定戦 メキシコ戦

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