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「魔の11月に現れた狼」~2018.11.11 プレミアリーグ 第12節 アーセナル×ウォルバーハンプトン レビュー

 スタメンはこちら。

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 髭が特徴的なヌーノ監督が率いるウルヴズ。開幕から比較的スタメンを固定した3-4-3で戦っているのが特徴。ネベスを軸にした中盤と、様々な特色のアタッカーをそろえるシャドーは彼らの強みだろう。この日はカバレイロとコスタが先発だ。彼らのアウェイの試合成績の特徴は得点も失点も少ないこと。ウルヴズよりアウェイでの得点が少ないのはカーディフだけ。しかし、アウェイでの失点が彼らより少ないのはシティとチェルシーだけ。ここまでのアウェイゲームは互いにロースコアで終わっている傾向が強く出ている。

 無敗記録を継続しているアーセナル。しかし直近4試合で引き分けは3つ。引き分けが増えてくると無敗記録が途切れた後に低迷しやすい、というのは単なる自分自身の経験則。ただ、ここから先はリーグ戦で厄介な相手が続く。ホームでウルヴズに勝利し「魔の11月」の初勝利を挙げたいところだ。

目次

【前半】
ほぼ完ぺきだったウルヴズのアーセナル対策

 試合は予想通りアーセナルのボール保持で進む。3-4-3でブロックを作るウルヴズ。アーセナルは2CBと2CHの4枚でビルドアップ。対してウルヴズのビルドアップはピッチを幅広に使った形。最終ラインからレンジの長いパスを右サイドに送って前進することが多かった。右サイドのコスタとドハーティはポジションを入れ替わりながらフリーの選手を作り、そこにフィードを飛ばす形がメイン。 

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 アーセナルのビルドアップに対するウルヴズの守備はとてもよく設計されていた。アーセナルのCB2人には積極的なプレスはかけない。まずシャドーの2人はハーフスペースに立つ。主な役割は降りてくるエジルとイウォビに対してのパスコースを遮断すること。

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 エジルにはコスタ、イウォビにはカバレイロがパス供給のカット役として立つ。アーセナルのSBにボールが渡れば、ウルヴズはWBが出てきて撃退する。CBからのイウォビ、エジルへの供給が難しければアーセナルとしてはジャカとトレイラにボールを預けたいところ。ただし、ウルヴズの3トップと2CHが形成する5角形の内部はとても狭く、前を向くのは難しかった。今流行りの多角形の中心で取っちゃうディフェンス。

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 多角形の内部が難しいなら、アーセナルのCHが動き回る必要がある。動き回るアーセナルのCHにウルヴズのだれがつくかはどこでボールを受けるかで決めていたようだった。アーセナルのCHがビルドアップで動く。今季でいえばジャカが左のハーフスペースに落ちる動きが最もスタンダードだろう。この試合もそうだった。しかし、ウルヴズはそこにも対策を打ってあった。順を追って解説する。

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 まずはジャカが最終ラインに落ちる動き。コスタはホールディングとエジルを結ぶ線の上に立っている。

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 ハーフスペースに降りてきたジャカにボールを渡せば、コスタは位置を修正しなければジャカ→エジルの線上に立つことはできない。なのでジャカ→エジルへのパスコースは開通する。この時に注目したいのがウルヴスのCHの動き。ボールサイドのCHであるモウチーニョがエジルにスライドしてマークに、同時に逆サイドのCHであるネベスはラカゼットへのパスコースをふさぎに行く。
モウチーニョはエジルに前を向かせないように守る。それでもボールがエジルに入って前を向かれる時はある。この時モウチーニョは必ず中央をケアするような体の向きなのが特徴。
 ウルヴズとしては一番避けたいのはラカゼットを経由して、ポストプレー1発で逆サイドに展開されること。なのでエジルにボールが渡った段階で、ネベスがスライドしてラカゼットへのパスを遮断。エジルにボールが渡った場合はサイドに誘導する向きで守る。そこからコラシナツにボールが渡ればドハーティが止めるといった形。エジルがサイドジャカに戻してサイドチェンジもできなくはないが、その場合はウルヴズの陣形のスライドが間に合っていた。

 このやり方で来たウルヴズに対して初めてアーセナルがエラーを引き起こさせたのは6分のこと。キーになったのはイウォビだ。

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 エジルにボールが渡った段階で、モウチーニョはエジルのマークに行く。そして相棒のネベスの注意はラカゼットに向く。そうなると本来の持ち場になる中央には誰もいない。ここのギャップを突いてボールを受けたのがイウォビだった。ネベスは完全に逆を取られた格好になり対応が遅れたが、モウチーニョのスライドが間に合って事なきを得たシーン。
 見事なのはウルヴズの修正だ。今後この形はカバレイロが絞りながら対応することで修正。むしろ中央に絞ったイウォビから逆サイドへのベジェリンへのパスは、カバレイロとジョニーによって狙い撃ちされていた印象すらある。ギャップが作られて、前の選手での対応が難しい時は最終ラインが押し上げることでアーセナルの前線に前を向かせないことに成功していた。アーセナルは上で示した形ではウルヴズを攻略することはできず、イウォビがハーフタイムで交代させられることになる。
 カバレイロの注意がイウォビにいくぶん、ムスタフィは割と自由だったのでここでいい縦パスとか入れられたら面白かったんだけどなぁ。時間かかるとカバレイロは戻ってきてしまうので残念!ってシーンは結構あった。

 もう1つ、突破の糸口となりえた14分のシーン。

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 アーセナルの右サイドにエジル、イウォビ、ラカゼットが集結。ウルヴズがスライドするなら、こっちもスライドしようぜ!と思ったかどうかはわからないが、逆サイドのスペースは空くことになる。しかし、コラシナツがここで1on1での突破ができず。シティと比べるのはあれだけど、彼らならここでメンディとかマフレズとかが質的優位を見せるんだよね。そりゃー強いよなー。。

 のんきに打開の方策を話していますが、この段階でアーセナルはミスから失点している。もったいない!前後左右にスライドを頑張っていたカバレイロにはご褒美がやってきた格好だ。

 その後も上に書いたメカニズムで堅牢な守備を見せるウルヴズ。頼みのイウォビもつぶされるばかり。アーセナルは攻めあぐねたまま前半を折りかえす。

【後半】
前進はできるようになったけど

 すでに述べたようにイウォビはハーフタイムで交代させられてしまった。代わって入ったのはゲンドゥージ。ボランチを3枚にした。前半は最終ラインに1枚、5角形の中に1枚CHを置くことが多かったアーセナル。じゃあ、5角形の外のCHを2枚にしたらウルヴズの3トップはどうするの?というような問いかけに見えた。

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 たびたび最終ラインに落ちるゲンドゥージ。彼の得意技といえば「小さな2対1」を作ること。なんのこっちゃ?な人はとんとんさんのゲンドゥージ特集のブログを読もう!簡単に言えば味方と極端に近づいてミクロな範囲で2対1という数的優位を作り出して突破すること!みたいな。
 最終ラインで2対1を作られ、コスタに若干迷いが生じるようになる。ゲンドゥージは自身も持ち上がれる。コスタを突破すれば目の前にはエジルにつくべきモウチーニョ。こうなるとエジルが空いてくるようになる。エジルは後半は前半よりも積極的に上下動を繰り返す。これによりモウチーニョの動きも大きくなり、ウルヴズのDF-MFライン間に空きが出てくる。後半のアーセナルは後ろから持ち上がれる選手を作ることで、ウルヴズの守備組織に徐々に穴をあけていく。

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 それでもそこから先の攻略をアーセナルがなかなかできなかったのは、間のスペースを作るのにエジルを使ってしまう機会が多かったから。上図のような形(65分30秒のシーンとか)だとエジルの間受けから前進できるが、エジルがモウチーニョを引き連れながら自陣最終ライン付近まで落ちて間のスペースを作り出してしまうと、そのスペースをつける選手がピッチにはいなかった。スタメンでエジルと共に間受けで力を発揮できるのはベンチに下がったイウォビだろう。アーセナルは前には進めるようになったが、その先の攻略ができない。

 中央で困ったときはサイドから。アーセナルが狙いをつけたのは左サイドから。後半開始時は人数をかけて、ムヒタリアンが登場後は彼とジャカで左を狙い撃ちしていた。時計が進むにつれ、コスタがややマークが遅れるようになったところに、ジャカが流れることで比較的フリーでボールを持てる。ウルヴズの陣形を片側に寄せたら、空くのは右サイド。広いスペースからベジェリンが空くようになる。70分のベジェリンのシュート、74分のオーバメヤンの決定機はいずれも左に寄せて右で仕上げる狙いの形だった。どっちか決めていればね!

 75分にアーセナルは最後の選手交代。エジル、コラシナツを下げてラムジーとムヒタリアンを投入。ムヒタリアンが左サイド?ラムジーが中央高めかな?ジャカは左サイドバックに。
 ウルヴズは息切れしてしまったコスタに代えて弾丸小僧アダマ・トラオレを投入する。この交代でヒメネスがサイドの守備に駆り出されてて笑った。大変だな。トラオレは守備させず、ブロックを下げた5-4ブロックで迎撃。トラオレは独力でカウンターの機会よろしくね!って感じだ。

 ウルヴズは83分に試合を決める機会があったものの、これを逃したのが高くついた。86分にムヒタリアンのクロス性のボールがそのままゴールイン。ウルヴズがサイドを開けていたとはいえ、結構偶発的だったかな。引き分けの連鎖を止めるべく攻めに出たアーセナルだったが、決定機が多かったのはウルヴズのほう。アダマ・トラオレはやっぱり速い。20分くらいで2つ3つは決定機生み出せるもんね。相手が前がかりになったときは本当に効く。ネベスのシュートもアーセナルファンを震え上がらせたが、バーを叩いた。試合はそのまま1-1で終了。

まとめ

 昇格組の中ではよく組織されているとは思っていたが、本当によく組織されていたウルヴズ。献身的な3トップと動けるCH、勇気を持ってラインを上げられる最終ラインに、頼れる守護神からなる5-4-1はかなり機能的だった。特に前半はアーセナルを完封といっていいだろう。シャドーは個性豊かな面々ぞろいで、なかでもこの試合ではカバレイロの豊富な運動量は特筆すべきだった。ここから先もプレミアリーグ台風の目としてビッククラブ相手にも存在感を示せる予感のする試合だった。

 リーグ戦3試合連続引き分けだったアーセナル。相手の機能的な守備を前に後手を踏む形となった。

【ウルヴズの狙い】
・ハーフスペースに降りてくるイウォビとエジルのパスを遮断
・仮にそこに渡ったらCHが協力し、ラカゼットへのパスコースを遮断

 この2つを遂行したウルヴズがアーセナルの攻撃を封殺した。ということは裏を返せば今のアーセナルの攻撃の強みは
・間で受けるイウォビとエジルからの展開
・ラカゼットのポストプレー
の2つということになるだろう。もっと上のレベルに行くには、どうしてもほかに武器は必要になる。例えばムスタフィは78分30秒みたいな鋭い楔をもっと打ち込んでほしいし、サイドで孤立した状態でコラシナツが1on1を制さなければどうしても手詰まりになる。両名ともこの試合の出来が悪かったわけではないが、こういった部分で違いを作れるのが、今アーセナルよりも上位にいるクラブたち。前半からあらゆる手を講じたが、ことごとく封じられて最後はリソース不足を感じさせた。そんなドローだった。

試合結果
プレミアリーグ 第12節
アーセナル1-1ウォルバーハンプトン
エミレーツ・スタジアム
得点者
ARS: 86′ ムヒタリアン
WOL: 13′ カバレイロ
主審:スチュワート・アットウェル

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