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レビュー
大駒2人不在における工夫
シティとのエティハドでの試合を終えてアーセナルは首位のリバプールとの勝ち点差は1の2位。直線対決を全て終えた三つ巴の優勝争いはここからライバルの取りこぼしを祈りながらまだまだ続いていく。
一方のルートンは残留争いの真っ最中。勝ち点減処分という十字架を背負っているエバートンとフォレストを中心に来季のプレミアに向けた生き残りの勝負に挑んでいる。
ルートンのフォーメーションは5-4-1、。13人いる負傷者のうち、エドワーズがプレスカンファレンスの復帰の可能性があるとしたのは3人。そのうち2人がメンバー入り。ダウティーがスタメンに、そしてチョンがベンチに名を連ねた。ちなみにオニェディンマは初めてのプレミアでのスタメンに臨むことになる。
ルートンのプランはメンバーを入れ替えても大きく変化なし。高い位置から相手を捕まえにいく、ただしメソッドにはほんのりと変化があった。オールコートでマンツーで当たるのではなく、後方に人を余らせる形を敷く。アーセナルは3バックなのでこれに1枚を余らせるとバックスは4枚。よってルートンは4-4-2で守る。
人基準という大枠は変わっていないので、陣形を守ることにそこまでこだわりはない感じ。ただ、プレス隊にとっては1枚少ない形+GKのラヤを絡めてくる形でビルドアップを行ってくるので、頻繁な受け渡しが発生する形となる。SBのホワイトが攻め上がる機会があれば、ダウティーが最終ラインに入って5枚になることもある。
アーセナルは後方からのショートパスを軸としたビルドアップでスタート。バックラインからの組み立てを行っていく。ルートンもアーセナル用にマイナーチェンジを施していたように、アーセナルもまたルートンにあった攻略法を用意していたと言える。具体的にはポジションチェンジとレーンチェンジにいつも以上に積極的だったことである。
アンカーのトーマスの隣にジンチェンコやウーデゴールが立つのはいつも通り。だが、テイストとしては相手の構造を動かすというよりも、どこまでついていくかを図っていくイメージ。誰がどこまで来るのか、そしてどこまで来たら受け渡されるかを図りながら勝負をかけていく。
動きをつけろと言われれば、まずは降りるアクションをすることが多い。しかしながら、こうした相手に重要なのは攻め上がる動き直しをそこに掛け合わられるかどうか。ジンチェンコの列上げも重要だったし、ハヴァーツに合わせるIH陣がボールに近寄りながら受けるような動きが多かったのもそうした意識があってこそなのかもしれない。寄る分求められるパスの精度がピーキーになっていた感もあったが。
ポジションの解放という意味で特徴的だったのはWG。降りるハヴァーツのアクションをトリガーに、トロサールやネルソンは大外から背後に走るアクションを積極的に狙っていく。よって、位置取りは大外ではなくインサイドも多く、いつも以上に流動的であった。
そういう意味ではルートンのこの日のプランは正しかったと言えるだろう。後方に遊軍を残しておくことで裏を狙うWGに迎撃をすることができる。
1人の動きに対して、 他の人の動きを掛け合わせるというコンセプト自体はサカとマルティネッリという今のアーセナルで最も個人で解決できる2人を失っているからこそのプランということだろう。
しかしながら、アーセナルは直線的な攻撃を急ぎすぎていた感がある。ボールを収めた選手と関係性を作るのはいいが、関係性の構築は二人称まで。3人目の動きとして絡むアクションができる人がいないという感じで攻撃の仕上げに苦戦していた。そういう状況においては1人で相手を剥がせるトロサールの存在が一層輝くことになる。
救いになっていたのは後方のビルドアップ隊が安定していたこと。先にも述べたがルートンが後方に余らせる決断をしたことで、GKに加えてもう1人が余りがち。浮きやすかったのはトーマス。モリスとクラークが前に行き気味だった分、アンカーのトーマスは自分で前を向く余裕があるくらい安定していた。よって、アーセナルの保持局面が一方的に続いていく局面は確保されていた。
ネガトラで後手を踏まないネルソンとスミス・ロウ
ルートンの保持の機会はあまり多くはなかったが、アーセナルのプレッシングのイメージはこれまでと変わらない。ウーデゴールが前にプレス隊に入り、4-4-2をキープ。2トップでサイドに誘導し、インサイドへの縦パスの受け手をアンカーが捕まえることで潰し切る。
ライスがトーマスに変わってもこの傾向は不変。アンカーを潰し役としたプレスで基本的にサイドから中央へのパスをベースに追い込んでいく。守備範囲の話をすればトーマスも優秀なのだろうが、ライスの後に見ると相対的に物足りなくなるのだから贅沢は怖い。
というわけでいつもよりは若干割引だったプレッシングだが、このプレッシングからアーセナルは先制点をゲットする。殊勲だったのはIHに入ったスミス・ロウ。絞るアクションでルートンの中盤を捕まえてカウンターを発動したアーセナルはハヴァーツとウーデコールのコンビから先制する。
この日のスミス・ロウはこうしたトランジッションで後手を踏まず、普段のレギュラー組と遜色ないパフォーマンスを見せた。これまでは甘かったプレスバックでも体を投げ出して自陣のPA内の守備でも貢献していた。
ネガトラで隙を見せなかったのはネルソンも同様。29分のように自陣のカウンター対応で体を張るなど、強度面で通用するパフォーマンスを披露。出場機会増加へのアピールとなるパフォーマンスだったと言えるだろう。
プレッシングから先制点を奪ったアーセナル。このようにライス不在のアーセナルに対してもなかなかルートンはボールを前に進めることができない。先行したことでアーセナルのプレス意識はやや減退。だが、中央を固めてサイドを手薄にするシティ戦仕様の守備に対して、ルートンは大外からの攻め筋がなく苦戦する。
ならば、ルートンはファストブレイクと行きたいところだが、先述の気合の入ったヘイルエンド組に加えて、サイドのカバーに出ていってカウンターの芽を摘んでいるCB陣もいる。ルートンはファストブレイクでも簡単に前に進めることは難しかった。
押し込むアーセナルは前半終了間際に追加点。この追加点はこの試合におけるルートンとアーセナルの構造が反映されたものだった。決め手になったのはハーフスペースの裏を取るスミス・ロウのアクションを咎められなかったこと。折り返されて橋岡のオウンゴールとなったあたりはもうどうしようもなかったところである。
では、空いてしまったスミス・ロウは誰が追うべきだったのか。理屈としては右のCB、つまり橋岡ということになる。しかしながら、この場面では中央のCBであるメンジと右のCBである橋岡が左右入れ替わっている。直前のプレーを見ると左右に動くネルソンによって左右の配置が乱されたようである。
先に述べた通り、ルートンのこの試合の守備は後方を1枚余らせる形がベース。その分、誰がどこまで追うか。そしてマークを受け渡すかの指示をピッチの上で逐一共有しながら行わないといけない。この日のアーセナルはさらに意識的にレーン移動が多めだったため、ルートンの受け渡しの負荷が高かった。
結果的にこの動きで出て来るはずだったメンジは中央のハヴァーツのケアという中央CBの際の役を優先してしまった感。これでスミス・ロウの対応に後手に回ってしまった。
受け渡しが発生するプランだからこそ生まれたルートンの左右のCBの入れ替わり。これによって、連携ミスが発生して前半のうちにルートンは2失点目を喫することとなってしまった。
後半、ルートンは後方を同数で受けるプレッシングの頻度を増加。バークリーが前目のプレスに顔を出すなど、前半よりも前がかりなプレッシングで高い位置に出ていく。
アーセナルは特にブーストをかけないフラットな入り。自陣でのビルドアップから少しずつ前進を狙っていく。前半の2点目のシーンが心に残っていたのか、2列目よりも前の選手たちは左右のレーン移動を増加。縦方向への移動よりも受け渡しが発生しやすいオフザボールの動きを増やしていた。
というわけでアーセナルは後半も落ち着いた試合の入り。ルートンは前線のモリスに放り込んでいくが、なかなか有効打となる攻撃を打つことができない。
よって、勝負に出たルートンはチョンを投入。このチョンの投入は流れを活性化。中盤まで降りては縦にパスを差し込んだり逆サイドに展開することでアーセナルを押し込んでいく。
まったりと受けるアーセナルは特にこの状況に抵抗する様子はなし。ミドルブロックで構え、ポゼッションでのらりくらりと相手のプレスをかわし、相手の波状攻撃を避ける形で時間を過ごしていく。
交代選手にインパクトのある活躍が見られなかったのは寂しいが、アーセナルは45分きっちり何も起こさずに時計の針を進めることに終始してルートンに反撃を許さないままシャットアウト。クリーンシートを維持したまま試合の幕引きに成功した。
あとがき
ハイプレスをやってこなかった分、アーセナルの保持に対して受け渡しなどでどう守るか?みたいなところのビジョンの共有がルートンには必要になっていた。アーセナル側からもそれに伴ってどのように攻略するか?という絵の共有が必要になっていたのだけども、普段プレーできていない選手を起用しても絵の共有ができたことはとても良かったように思う。プレスバックの強度も含めて、こういうところを意識して試合を進めようというところが多くの選手に広がっているのだなと感じることができる90分だった。
試合結果
2024.4.3
プレミアリーグ 第30節
アーセナル 2-0 ルートン・タウン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:24’ ウーデゴール, 44′ 橋岡大樹(OG)
主審:クレイグ・ポーソン