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「W杯の予習は計画的に」~EURO 2020全チーム総括 part3~

 準決勝に行けなかった者たち。part1~2はこちら。

目次

スイス

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■躍進の理由はアップデートにあり

 この大会のトレンドの1つにグループステージとは全く異なる顔を見せる中堅チームの躍進というものがある。自分たちのこだわりや中心選手たちとの心中を避けられなかった列強を尻目に、練度も強度も高めつつバリエーションを広げながら上位に進出していく様子は非常に魅力的に映る。

 スイスはこのトレンドの代表格のチームといっていいだろう。正直、グループリーグでは見栄えがあまり良くなかった。3バックの数的優位を軸としたゾマーやアカンジの縦パスを軸に、エンボロが楔を受けて反転しゴールに突き進むという形のサッカーを展開していた。

 後方の優位+一本の縦パスから楔を入れて前進という形は個人のポテンシャルに拠るところが多く、あまり躍進の可能性を感じることが出来なかった。現に第2節のイタリア戦では3-0と厳しい現実を突きつけられた。

 風向きが変わったのは第3節のトルコ戦から。ポイントは2つ。1つ目は左サイドの用兵である。WBだったリカルド・ロドリゲスをCBの一角に起用して、攻撃時にSBを任せる。その代わりにWBに入ったツバーに自由を与え、時にはストライカーのような振る舞いで前線に飛び出すように。これで左サイドに可変性と厚みがもたらされることになった。

 もう1つはビルドアップ時におけるジャカの積極的な活用。すでに述べた通り、これまではバックスからの1本のパスがキーだったため、ジャカのビルドアップは飛ばされる傾向にあった。だが、勝利が絶対条件だったトルコ戦でこれを解禁すると、フランス戦では勝利のキーとなる活躍にまで昇華。1人1人がバラバラでプレスに来るフランスとジャカの縦パスの相性は最高。前進からのフランス攻略に大いに貢献した。同点弾となるガヴラノヴィッチの得点を演出したのもジャカの縦パスである。

 そのジャカが出場停止となったスペイン戦では自陣ブロック守備+カウンターの意識を徹底。中盤以前の機動力勝負に持ち込み、ジャカ不在ならではのスピードを生かした人選でスペインにカウンターの刃を突きつけ続けた。

 惜しくも二度目のPKで涙を飲んだが、存在感は十分見せたトーナメントに。試合ごとにできることを増やしていく様子には多くのファンがうならされたことだ労。成長を試合ごとに見せてくれる姿にラウンドが進むごとに期待を思わずかけたくなる好チームだった。

頑張った人:ハリス・セフェロヴィッチ
 チーム単位でできることが増えていったスイスだが、個人単位でラウンドごとにできることを増やしていったのがセフェロヴィッチ。当初はフィニッシャー止まりだったが、ショートパス主体の組み立てに代わっていくにつれ、崩しの局面でも欠かせない存在になっていった。ゾマーと迷ったけど、スイスらしさを象徴しているのでこちらで。

今大会まとめ

ベルギー

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■らしく勝って、らしく散る

 誰が相手だろうと一撃で死に至らしめる槍を持っている。しかし、その槍を振り下ろす前にはどうしても脇が空いてしまう。ベルギーをざっくりと形容するとそんなチームである。ヴィルモッツからマルティネスに監督が代わっても、タレント力をふんだんに使ったサッカーだったのは間違いない。

 初戦で苦しんだのはデ・ブライネの不在。ミス起因で先制点を取ったロシア戦は完勝だったものの、ボールを敵陣まで運ぶことができずにスマートに勝利を挙げたとはいいがたい。この大会では充実のシーズンを過ごしたティーレマンスを躍進するタレントとして予想していた有識者が何人かいた(俺もそう思ってた)けど、その目論見は外れることになる。後述するが、ベルギーの中盤はタスクオーバーで存在感を示すどころではなかった。

 デ・ブライネの登場で一変したのがデンマーク戦。立ち上がりから鬼気迫るプレスをかけたデンマークだったが、縦方向に自在に動くデ・ブライネの登場で加速が可能になると戦況がガラッと変わる。こちらはシーズンの好調さを維持したルカクに徐々にボールが通るようになり試合は一気に逆転をする。

 デ・ブライネの破壊力は続くフィンランド戦でも。この試合においても攻めあぐねていたベルギーだったが、彼にしか通せない隙間に縦パスを通してしまうのだから恐ろしい。EURO全体を見渡した時に後方からの持ちあがりとダイレクトな展開が多く、中盤が目立ちにくい大会になったと感じていたのだけど、デ・ブライネとモドリッチだけは別格。すごい。

 そのデ・ブライネが負傷で退いてしまったポルトガル戦で見事中核の役割を引きついたのがエデン・アザール。リードしている展開の中で、チームを無事に落ち着かせて手堅い逃げ切りに貢献した。

 しかし、個人がチームを救っていくスタイルはイタリア戦で限界を迎える。3トップの加速力からカウンターで先制点を獲れなかったのが全て。振り下ろした槍はドンナルンマに食い止められてしまう。すると、前残りする前線の穴をイタリアが保持で突くように。ボックスにいると堅いが、守備範囲が広くないベルギーの最終ラインはこの状況で押し上げられず。イタリアに間のスペースを自由に使われまくる。

 その穴を塞ぎに走らされたのがティーレマンスとヴィツェルのCH陣。とにかくこの代表では黒子。前のタレントと重ための後ろで開いたスペース潰しに大忙しという様相で、ティーレマンスはブレイクの隙間すら与えられなかった。

 最後の最後に頼ったのが新星のドクの単騎ドリブルというのも、いかにもこのベルギー代表っぽい。イタリアを下せるポテンシャルを持っているチームだが、ハードパンチが当たらなければ勝てないこともある。ベルギーらしく勝って、ベルギーらしく散るというスタイルに沿った大会を過ごしたチームだったように思う。

頑張った選手⇒ケビン・デ・ブライネ
 中盤受難の大会において、個の力で言えばベストに近いパフォーマンスをしたと思う。特にデンマーク戦の途中投入後の一変は大会を通じて一番効いた交代かもしれない。

今大会まとめ

チェコ

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■変幻自在のチームが補えなかったエースの代役

 スイスのところで『この大会のトレンドの1つにグループステージとは全く異なる顔を見せる中堅チームの躍進というものがある』と紹介をした。チェコもこの潮流に当てはまるチームだとは思う。だが、自分たちのメソッドを改良しながら、アップグレードを果たしていったスイスに比べると、チェコが進んだ道筋はやや不思議だったように思う。

 なんというか、相手と組んでみて、どこで戦えるかを見定めて戦い方を変えていくみたいな。そういう意味で言えば、チェコがそうやって成長したのではなく、何試合も見ることが自分がそういったチェコの特徴に気づいただけということなのかもしれない。

 というわけですべては相手次第である。スコットランドが相手ならばキックアンドラッシュに付き合う、オランダが相手ならばショートパスのつなぎ合いに挑む!のように変幻自在に戦い方を変えていく。

 その戦い方が通用するかどうかが試合の中でスタイルを継続する指針である。スコットランドが相手ならば、そのままでも押し切れるという判断だったのだろう。縦に早い殴り合いからシックが仕上げ役を務めて、スコットランドを寄せ付けなかった。

 一方でクロアチア戦やオランダ戦ではノリでは攻めては危険と判断したのか、リズムを落としてブロック守備の誘導から相手の攻撃のテンポを落とすことを優先させる。こういった相手や戦況に拠って戦いどころを変えられるのがチェコの強みである。

 ただ、試合に合わせることができても決めきれるかどうかは紙一重である。オランダ戦では後半の相手の決定機逸の直後にシックがデ・リフトの退場を誘発したことでその後の試合を優位に進めることができた部分が大きい。互角の戦いから先に当たりを引いた形。

 だが、デンマーク戦では落ち着かない展開からセットプレーで先手を奪われる。そうなると爆発力の観点でかなり厳しい。ハイプレスを備えているので、それで引っかけ続けてチャンスを得るしかない。実際、デンマーク戦では一方的に押し込む展開から1点差に迫る場面もあった。

 しかし、もう1つの問題のエースの代替不在が立ちはだかる。プレスで飛ばした影響でシックが交代すると攻撃の終着点が見えなくなる。デンマーク戦の終盤はその課題が如実に出てしまった。ここまでスマートに戦ってきた印象の強いチェコだったが、最後の最後で一番の課題を突き付けられてしまったことで、ベスト4への扉が閉ざされてしまった。

頑張った選手⇒パトリック・シック
 ゴール前での凄味あるフィニッシュとバターにナイフを入れるようなしなやかなポストと剛柔両方の強みを持つ選手。ジプシー感ある選手だけど、今はレバークーゼンにいるみたい。

今大会まとめ

ウクライナ

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■魅力満点だが戦況が向かないと…

 オランダと並んでチャラさとイケイケ感が全開のチーム。この2チームが揃っているグループCはちょっとカロリー過多だったように思う。

 強みにハマった時は全く止められないチームである。特に迫力があったのはボールを奪ってからカウンターに転じるポジティブトランジッションの局面。CFのヤレムチュクが相手のライン間のスペースで受けて潰れ役になると、推進力のある2列目が後方からフォローする。

 ウクライナは守る際にはWGが高い位置に残りながらインサイドの縦パスを入れることをケアするのだが、おそらくこれはカウンターの際の出力を最大限にするためだろう。特に存在感があったのはマリノフスキ。タメが効くタイプの選手で急ぐべき時と味方の攻め上がりを待つときの時間の調節の巧さが際立っていた。チームを引っ張るジンチェンコも要所で決定的な働きを見せて、シティ所属の肩書に自らがふさわしいことをアピールした。

 ベスト16のスウェーデン戦は相手に退場者が出たおかげで撤退して壁を敷く選択をした相手を打ち破る。受け止める選択した相手にはこうした破壊力を前面に押し出すことができている。こういう状況においてはウクライナは最強である。そういう意味では彼らが絶対に勝てない相手はこの大会にはあまり見当たらないような気がする。

 一方で自分たちの展開にならない時には脆さが見える。代表的なのはグループステージの第3節。ここまでの出来で言えば、オーストリアならば十分に張り合えると思ったのだけど撃沈。引き分けでも突破ができる状況というのがマイナスに働いたのだろうか。やたら慎重な入りで受けに回ったせいもあり、全くいいところが出なかった。

 イングランド戦では前半のうちにウクライナが修正を施し戦況は好転。ハーフタイムを挟んだせいでイングランドに対策を施され撃沈した。この試合では前半からのビハインドに加えて、負傷者を伴う選手交代も相まったということで、一概にシェフチェンコの早計さを咎めることはできない。ただ、速すぎる対策が嫌がらせの達人のイングランドに修正の隙を与えたのは確かだろう。

 受けに回った時に泣き所になったのはサイドの手薄さ。WGは内を閉じる役割という名目で前に残るので、どうしてもサイドは穴になりやすい。イングランド戦などはそれを突かれてしまっている。

 構造的な欠陥を補えるほどの破壊力を展開を選ばすに出すところまではチームとしての完成度は高くなかったウクライナ。まるでクラブチームのような連携の流暢さは魅力的で、見ているだけで楽しいスタイルなのだが、チームと監督に要所に出た甘さをイングランドに付け込まれてしまった感。ベスト4最後のイスに滑り込むことはできなかった。

頑張った選手⇒ルスラン・マリノフスキ
 今大会で猛威を振るったアタランタ産選手の一角。タスク割りがハッキリしているとナショナルチームに移植しやすいのかな。

今大会まとめ

おわり。あと4チーム。

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