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「EURO 2020 チーム別まとめ」~オーストリア代表編~

目次

チーム情報

監督:フランコ・フォーダ
FIFAランキング:23位
EURO2016⇒GS敗退
W杯2018⇒予選敗退

招集メンバー

GK
12 パバオ・ペルバン(ヴォルフスブルク)
13 ダニエル・バッハマン(ワトフォード)
1 アレクサンデル・シュラガー(LASKリンツ)

DF
8 ダビド・アラバ(バイエルン)
2 アンドレアス・ウルマー(ザルツブルク)
26 マルコ・フリードル(ブレーメン)
5 シュテファン・ポッシュ(ホッフェンハイム)
21 シュテファン・ライナー(ボルシアMG)
4 マルティン・ヒンターエッガー(フランクフルト)
15 フィリップ・ラインハルト(フライブルク)
3 アレクサンダル・ドラゴビッチ(レヴァークーゼン)
16 クリストファー・トリメル(ウニオン・ベルリン)

MF
9 マルセル・ザビッツァー(ライプツィヒ)
24 コンラッド・ライマー(ライプツィヒ)
18 アレッサンドロ・シェプフ(シャルケ)
23 ザベル・シュラーガー(ヴォルフスブルク)
22 バレンティノ・ラザロ(ボルシアMG)
10 フロリアン・グリリッチュ(ホッフェンハイム)
19 クリストフ・バウムガルトナー(ホッフェンハイム)
14 ユリアン・バウムガルトリンガー(レヴァークーゼン)
6 シュテファン・イルザンカー(フランクフルト)
17 ルイス・シャウブ(ルツェルン)

FW
7 マルコ・アルナウトビッチ(上海海港足球倶楽部)
25 サーシャ・カライジッチ(シュツットガルト)
20 カリム・オニシウォ(マインツ)
11 ミヒャエル・グレゴリッチュ(アウクスブルク)

各試合振り返り

GS第1節 北マケドニア戦

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■圧力増加の積極策で歴史を切り拓く

 共に勝てばEUROの本戦での初勝利。オーストリアと北マケドニアの一戦は歴史の1ページを手繰り寄せるための大一番となる。細かい部分で違いはあれど、両チームの非保持におけるコンセプトは似ていたように思う。5バックで最終ラインの人数を揃える。そして、サイドチェンジを許さずに同サイドに封じ込める。

 というわけでこの試合は相手の守備の同サイド圧縮をどのように解決するか?がテーマになってくる。その答えを先に出したのはオーストリアだった。解決策として提示したのはスーパープレー。ザビッツァーからの逆サイドのライナーへの高速ピンポイントクロスである。素早く低弾道で通した逆サイドへの一撃はクリティカルヒット。超絶美技でオーストリアが一歩前に出る。

 対する北マケドニアが手にしたチャンスはオーストリアのミスに乗っかったものだ。味方に偶発的にぶつけた締まったボールからマケドニアがチャンスを迎える。最後にこぼれ球が目の前に来たのはパンデフ。北マケドニアが歴史の扉を開けるならば、この男しかありえないという神の啓示があったかのようだった。確かにパンデフしかありえない。英雄が北マケドニアのEURO史上初の得点を決めて、同点に追いつく。

 ここから前半終了まではやや北マケドニアが優勢だったか。オーストリアの方が高い位置で止めようという意識が強い分、北マケドニアには前に進むスペースが与えられていたように思う。

 同点で迎えた後半。徐々にボールロスト後のプレスを強化したオーストリアが主導権を取り返す。圧で勝るオーストリアが北マケドニアの陣内でのプレー時間が増えていく展開に。北マケドニアはエルマス、バルディのキープからアリオスキなど脚力のある選手のフリーランで一刺しを狙っていく。オーストリアはキープを狙う北マケドニアの中盤に圧をかけてミスを誘発していく形だ。

 勝負の分かれ目となったのは終盤の選手交代。エルマスを前にスライドさせて、ドローもOKというスタンスを見せた北マケドニア。選手層を考えれば仕方ないことだと思う。一方のオーストリアは2トップを総入れ替え。これを皮切りにエリア内への放り込みを増やしていく。加えて、この日は3バックの中央を務めていたアラバを解放。自由度を高めて相手陣に入る頻度を増やす。

 決勝点となったのはその2つの変更の掛け合わせ。クロスの受け入れ態勢強化とクロスの出し手となるアラバの解放がオーストリアの決め手になった。左サイドからアラバが放ったクロスはピンポイントでスペースに。グレゴリッチに走りこむスペースを教えてあげるようなクロスは、人数は十分揃っていた北マケドニアでも対応はできなかった。

 仕上げは決勝点を挙げたグレゴリッチの相棒。アルナウトビッチが試合を決める3点目で交代した2トップはそろい踏みだ。歴史的な初勝利を掴んだのはオーストリア。終盤の交代の積極策で圧力をかけて北マケドニアをねじ伏せた。

試合結果
オーストリア 3-1 北マケドニア
ブカレスト・ナショナル・アレナ
【得点者】
AUS:18′ ライナー, 78′ グレゴリッチ, 89′ アルナウトビッチ
MKD:28′ パンデフ
主審:アンドレアス・エクベーク

GS第2節 オランダ戦

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■終盤に効いた出場停止

 第1戦と比べるとオランダは少しやり方を変えてきたように見える。変わったように見えたのは右サイド。ウクライナ戦で攻撃面で活躍したダンフリースを押し出すように、後方ではデ・フライがSB化。中盤もアンカー気味だったデ・ローンがデ・ヨングとフラットで底に2枚並ぶ形が多かった。

 想像だが、前者はベクトルを自分たちに向けたような交代に見える。ダンフリースを攻守に前方に押し出すことで大外から押し込むことを狙っているように見えた。一方のデ・ローンとデ・ヨングがフラット気味な形になったのはオーストリアの中盤3枚に形を合わせる色が強かったように思う。

 オランダは前に出る時は4バック気味でガンガン行こうぜプレスをかけるのだが、リトリートの際にはダンフリースを5バックの外に戻した形でかっちりブロックを組む。オーストリアとしてはオランダが前に出たところをかわし、かつ5バックを形成する前に攻め切りたかったはず。例えば27分のシーンのように。

 しかし、そうしたシーンは非常に稀。なかなか攻め手を見つけられなかった。ザビッツァー、ウルマー、ヒンターエッガーが流れる左サイドから攻めたいのだろうけど、流れてくるタイミングや位置があまり効果的ではなく、変形で相手をずらすことができない。例えばオランダのDFのついていきたい習性を利用して、2トップのどちらかをサイドに流しつつザビッツァーをPA内に突撃!みたいなことをやってくれれば面白かったと思う。

 そんなことをしているうちにオーストリアは主将のアラバがポカ。PA内でダンフリースを踏みつけてPKを献上する。試合開始から両軍はやたらタックルのテンポが合わずに無謀な警告を食らいまくっていた。このアラバは単に足があってしまい踏みつけてしまった感はあるけど、ファウルで落ち着かない立ち上がりを象徴していると思う。

 後半は攻撃に出なければいけなくなったオーストリア。またしても得点に絡んだダンフリースに追加点を決められ状況は厳しくなる。だが、70分になってようやく縦パスが入るように。75分くらいにはもうオランダの中央がヘロヘロで攻め立て放題になったこともあり進撃が可能になる。

 だが、とにかく火力がない。具体的にはエリア内の脅威がない。いや、これはアルナウトビッチでしょ。なんで出場停止なのよ。オランダを押し込むまでにはいったが、最後の仕上げの要素がピッチになかったオーストリアが最後は屈してしまう。北マケドニア戦の二匹目のドジョウを狙い、アラバを解放しても受け手がいなければ同じことだ。

 結局試合はそのまま終了。2連勝のオランダが1節を残してグループCの首位通過を決めた。

試合結果
オランダ 2-0 オーストリア
ヨハン・クライフ・アレナ
【得点者】
NED:11′(PK) デパイ, 67′ ダンフリース
主審:オレル・グリンフェルド

GS第3節 ウクライナ戦

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■らしくないウクライナをねじ伏せる

 勝てば突破、負ければ3位で待機という運命を決めるグループCの大一番である。やや有利な状況にあるのはウクライナ。総得点で有利な分、引き分けでもオーストリアを上回ることが出来るという状況である。

 というわけでより死に物狂いで臨まなくてはいけなかったのはオーストリア。この大会のオーストリアは、アラバを中央に置いた3バックを基本線として、終盤の得点が必要となった時間帯にはアラバを左サイドに解放し、クロスをバシバシ上げさせるという二段構えだった。

 だが、この試合では頭からアラバを左サイドで起用。加えて、これまでの試合ではあまり見られなかった高い位置からのプレッシングを解禁し、立ち上がりからウクライナに奇襲をかけた。

 ウクライナはドローでOKな分、少し構える姿勢だったのだろう。確かにカウンターに打って出ることが出来る前線のメンバーではあるし、オーストリアの左サイドはアラバとザビッツァーが上がり目なポジションを取る。この裏はカウンターの狙い目としてなりえただろう。実際にカウンターによる進撃は散発的ではあるが見られた。

 しかし、守備時にWGを下げないウクライナの非保持の方針はやや受けに回った状況でも継続。これが保持でサイドに人をかけるオーストリアとの相性が悪かった。深い位置に押し込まれるとCKなどのセットプレーの機会を多く得ることに。これが先制点につながる。バウムガルトナーの先制点で不利だったオーストリアは状況をひっくり返す。

 ビハインドで迎えた後半。シェフチェンコは前半にあまりいいところがなかった中心選手であるマリノフスキを下げるショック療法的な交代を実施、さらにはプレス強化で前に出てくる機会を増やす。だが、威勢がよかったのは立ち上がりだけ。60分過ぎからはチャンスが作れずに停滞するように。アルナウトビッチがロングカウンターをとっとと仕留めていれば試合の決着はもっと早く着いたはずである。

 終盤は意外と持つことが出来るオーストリアに時間を使われウクライナは敗戦。シェフチェンコは受けに回った序盤にマリノフスキの交代というらしくない試合運びのツケをまんまと払わされる羽目になった。

試合結果
ウクライナ 0-1 オーストリア
ブカレスト・ナショナル・アレナ
【得点者】
AUS:21′ バウムガルトナー
主審:ジュネイト・チャキル

Round 16 イタリア戦

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■持たざる者のイタリア対策で水際に追い詰める

 第1節に不在だったヴェラッティが先発復帰した以外はいつものメンバーに戻したイタリア。おそらくこちらはグループステージと似たスタイル。

 それに対してオーストリアはシステムと人員配置で比較的スタイルが変わりやすいチーム。オーストリアのポイントはまずはバックスの枚数、そしてアラバをどこに置くかの2点となる。オーストリアの選択は4-3-3、そしてアラバは左サイドバックに置くという形である。

 アラバをサイドバックに置くというのはオーストリアにとっては『ガンガン攻めよう!』のサイン。左サイドに起点を作り、彼のクロスからチャンスを作りたいという意志である。

 オーストリアはこの試合で非常によくイタリア対策を練っていたと思う。グループステージで見せたイタリアの強みは中盤のプレッシングである。このプレッシングを地道に外すことをオーストリアは選んだ。オーストリアはSBをWG裏に配置する。そしてIHのザビッツァーとシュラーガーの2人を左右に動かしながらヴェラッティとバレッラの2人を横に揺さぶる。イタリアのWGを越えた位置に立つSB、内外に大きく動くIHをイタリアのIHにすべて押し付けることによって、イタリアのプレッシングを回避することに成功した。

 もっともイタリアの守備視点で本来気になるのは、高い位置を取るSBのところとCBのスピード不足である。だが、オーストリアサイドの立ち位置で見れば、SBの裏を取れるアタッカーもイタリアのCBをぶっちぎれるCFもいない。オーストリアが取ったやり方は、イタリアの弱みを突くのではなく強みを歪ませること。イタリアの弱みを突くアタッカーを持たざる者の対策といえるだろう。

 それでもCBを2枚に設定したこと、そして配球役からアラバを外し、より敵陣深い位置でプレーさせる選択をしたのは勇敢といえるだろう。その分、グリーリッチュがアンカーとして最終ラインの枚数調整に入ることでなんとかアラバを押し上げた。

 対するイタリアはカウンタージャンキー。3トップに加えて、両SBが後ろから素早く攻撃のフォローに入ることで厚みを持たせていた。オーストリアの4バックというやり方が悪い方に出たのはこのイタリアの大外攻撃に対抗する部分。スピナッツォーラが大外アタックを仕掛けてくることで、ラインを下げられるうえに全体の重心を右側に引っ張られる状況が発生する。

 その結果、スピナッツォーラと逆サイドのバレッラが攻めあがる位置のバイタルでミドルを打つ隙ができるようになる。アラバがここをケアするようになり、徐々に対応できるようになったけど。

 後半、イタリアはWGのプレスバックを課すこと、そしてIHがより待ち構えて守備をする変更を加える。これにより徐々にイタリアにペースが流れるように。ただ、60分を過ぎると試合はどちらの手からも離れた展開の中で偶発的に互いにチャンスを迎えるようになった。その中でオーストリアが先制点に手をかけた。惜しくもオフサイド判定となったが、これはアラバを高い位置を置くという選択が呼んだものといえそうである。

 スコアレスのまま延長に入った試合で得点を手にしたのはイタリア。先制点の形は先に示した左の大外でオーストリアを引っ張っておきながらの逆サイドの動き。絞るアラバに対して、さらに大外で構えたキエーザがもう1枚構えていたのが重要。ライマーの戻りが間に合わなかったオーストリアを破り、貴重な先制点を奪った。内側でアラバを釣るように走ったペッシーナが黒子として優秀だった。

 追い上げるオーストリアは終盤に盛り返すも、決定的な2点目を得たイタリアに追いつくことはできず。水際まで追い込まれたイタリアだったがなんとか苦戦の末にオーストリアを撃破。敗れはしたが、グループステージから上積みを見せたオーストリアの健闘が光った。

試合結果
イタリア 2-1(EX) オーストリア
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ITA:95′ キエーザ, 105′ ペッシーナ
AUT:114′ カライジッチ
主審:アンソニー・テイラー

大会総括

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■真っ向勝負でイタリアを追い詰める

 意外なことにEUROの本戦ではここまで勝利したことのないオーストリア。北マケドニアやフィンランドと肩を並べるほどの小国とは思えないのだけど、国際大会では歴史的に結果を残せていない。というわけで傍から見ればラウンド16までたどり着いたことは大躍進といえる。

とはいえ、メンバーの顔触れを見ればなかなかに豪華。力のある選手たちが揃っているチームである。共に初勝利をかけた初戦のフィンランド戦においてはアラバのクロスやザビッツァーのサイドチェンジなどタレントたちのスキルにおいて差を見せた。

 代表において、明らかなエース格の選手が複数のポジションをこなす場合、まずその中心選手をどこに置くのかからチームが決まっていくケースが多い。ネームバリューでいっても実力でいってもオーストリアの中心選手はアラバ。彼をどこに置くかでスタイルが決まる。

 このオーストリアでアラバが務めたのは3バックの中央と左、そして左SBの3つである。3バックの中央に置いた場合は司令塔的な立ち位置。長短のパスを操りながら攻めるサイドを決める役割である。

スタイルと置き場所の組み合わせで見てみると3バックの左と左SBに置かれた際の指針はあまり大きく変わらないといっていい。左サイドで駆け上がり、クロスを上げる仕上げに近い役割がこちらである。オーストリアがより点をとりたいときはスペシャルスキルであるクロスを解放するためにアラバをサイドから押し上げる。

 ざっくりいえば、アラバの立ち位置を基準としたこの2種類の手法の使い分けでグループステージは突破したといってよさそうである。この大会の傾向でもあるのだが、中堅国はGS第3節を皮切りにグッと完成度を上げてくるチームが多い印象。オーストリアはアラバをサイドに固定したまま、後方の組み立てを整備することで精度を高めていった。

 天下分け目(結局は負けたウクライナもGS突破したが)だったウクライナ戦はウクライナが慣れない受けに回ったところをアラバのクロスを主体とした形で圧力をかけて飲み込んだ要素が強かった。

 真骨頂だったのはイタリア戦だろう。バックスと行動範囲を広めに定めたザビッツァーとシュラーガーのIHコンビでイタリアの中盤のプレス外しに真っ向から挑戦。見事押し返すことに成功していた。アラバを配球役でなく、よりアタッキングサードよりにプレーさせる勇敢な決断に選手たちが応えた試合といっていいだろう。最後の最後は大外⇒大外という4バックの泣きどころをキエーザに破壊されてしまったが、イタリアを十分に苦しめていた。

 歴史の扉を開き、アウトサイダーとして列強にかみついた。爪痕を残すには十分な大会だったといえるだろう。見せた上積みがW杯の予選に還元されるかが今から楽しみなチームである。

頑張った選手⇒ダビド・アラバ
 ベタだけどこの人で。フリーとはいえ鳴り物入りでレアル・マドリーに行く選手というのはこういう人なんだなということを思い知らされた感。イタリア戦ではあわや先制点の場面も演出しておき、起用されたポジションの意味合いをきっちり示して見せた。

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