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「名乗り」~2018.11.3 プレミアリーグ 第11節 アーセナル×リバプール レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【まえがき】
アーセナルは勇気を見せられるか

 今季のリバプールといえば外を切るプレス!って言ってもいいくらい、今季のリバプールはいろんな人にがっつりそこを分析されている。とんとんさんとからいかーるとさんとか。有名どころのブログでは割と取り上げられている命題。

 簡単に言うと、相手チームのビルドアップ時にWG(サラーとマネ)がサイドへのコースを切るように立つのが特徴。

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・WGが外から中に向けてチェックをかけてサイドを封鎖。
・ボールを中央に誘導し、前線3枚とMF3枚の六角形の中に誘い込み奪う。
→【目的】中央(=相手ゴールへの最短距離)でボールを奪いカウンター

 ざっくりいうとこんな感じ。シーズンここまでのリバプールが外を切らせて中央にボールを誘導することにプライオリティを置いていたのは間違いない。

 翻ってアーセナルのビルドアップに目を移せば、サイドからの前進というのは今季のアーセナルの肝だろう。前節のクリスタルパレス戦では前に進められるSBが不在で不発に終わった。ビルドアップを中央のみから強いられる展開になるとアーセナルは厳しい。中央に狙いを絞られると、六角形の中で圧縮されてボールをロストしてしまう。

 質問箱にきた「この試合のキーマンは?」という問いに対して、「ホールディング」と答えたのは、利き足サイドと逆側のCBに配置された彼が相手のマークを散らすような配球ができるか。より具体的に言えば勇気を持って左サイドに展開できるかが、この試合のアーセナルのビルドアップのカギになると思ったからだ。ボール奪取を決めた後のスピードがあるリバプールのカウンターへの対応を含めて、アーセナルの最終ラインはまさに試金石となる試合といえる。

【前半】
ビルドアップ経路をめぐる駆け引き

 序盤は驚くほどにボール保持の局面が多かったアーセナル。アーセナルがまずプレス回避のためにとった作戦はいわゆる「観音開き」。CBが大きく開き、GKと合わせて3人で最終ラインでのビルドアップを進める格好。これによってアーセナルは数的優位を確保。
 リバプールが原理に基づくなら、SBがいる方向からCBに向かってプレスをかけるのが正解。それを忠実に実行すると図のような感じになるのだが、これだとWGのスタートポジションが外目になる。

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 そうなると中央に追い込むことはできても、そのあとの囲い込みの圧縮の強度が落ちてしまう。カウンターの起点になる強力なWGがサイドに追いやられると、そもそもリバプールの六角形内で奪う目的である「中央から最短でのカウンター」としての意義は薄くなる。いつもに比べるとアーセナルのMFが最終ラインに落ちなかったことも特徴の一つ。密度が低くなった六角形内にトレイラとジャカの2枚がいることで、ボール運びが容易になっていた。

 アーセナルが受動的にではなく、能動的に中央を利用することでボールを前進させていく展開が進む。今度は選択を迫られるのはリバプールの方だ。WGは中をふさぐか悩み始める。守備に対してより献身的なマネは中央に絞ったりなど工夫をしていたのに対して、サラーはより原則に忠実に外を消している場面が多かった印象だ。中盤で素晴らしい配球を見せていたのはジャカ。時に浮き球を駆使しながら、サイドを使って前進。相手がサイドへの意識が強ければ、エジルへの縦パスをダイレクトに入れる。レノをビルドアップに組み込むことで、中央を自由に使えるアーセナルが序盤は優位に立っていた。 

 前進が可能になると、素早く連動してスピードアップするアーセナル。リバプールが見事だったのはDFラインのコントロール。プレスを回避したアーセナルが裏を使ってスピードアップするのを、何度もオフサイドで防いでいたのは素晴らしかった。40分付近にアーセナルがネットを揺らしたシーンも、しっかりオフサイドをかけていた。1stプレスを交わされるという想定外が発生しても、後ろでしっかり受け止められるというのは、彼らが数年前に比べて格段に強いチームになった証左といってもいいかもしれない。

 序盤のリバプールの前進は右はサラーへの裏抜けが中心、左はミルナーとロバートソンが幅を取るといった形。アーセナルとは逆で、リバプールは前進する頻度は少ないものの、そこから先の攻略の精度は高かった。アーセナルにとってより脅威だったのはやはりサラーの裏抜けだろう。サラーやフィルミーノを中心にアーセナルのラインを裏を攻略し、決定機を数回作り出していた。この部分のリバプールのカウンターの質は素晴らしいと認めなければいけない。余談ですが21分30秒付近のサラーの独走に対するジャカの対応は感動しました。 

 逆に非保持時のアーセナルがよかったのは中央での守備。特にトレイラの強度が光る。FW-MF間のファビーニョからのボール奪取はリバプールのお株を奪うようなプレスだった。なのでリバプールは幅を取ったビルドアップから裏抜けの形がメインに。リバプールとしてはなかなか前進ができない状況。それだけに17分30秒付近のゴールがオフサイドとして取り消されたのは痛恨だろう。副審が明らかにオフサイドラインに対して正しい位置取りができてなかったので、もう少しポジショニングが違えば異なるジャッジだったかもしれない。アーセナルファンは胸をなでおろしたはずだ。

 前進まではアーセナルが、前進してからはリバプールがそれぞれの強さを見せる。決定機の数としては同じくらいか、リバプールがやや多かったか。両チームのファンでなくとも楽しめるスリリングな前半だったのではないだろうか。

【後半】
幅を手当てしたリバプール、間と裏を使うアーセナル

 メンバー変更はなかったが、かみ合わせを変えてきたのはリバプール。ミルナーをサイドに、サラーを最前線に置いた4-2-3-1にシフト。主に前進を許していたサイドの手当て+サラーを最前線に置くことでより少ない手数でゴールを陥れる意図だろうか。

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 この変更でビルドアップの出口がより塞ぎやすくなったリバプール。それに対して、アーセナルのビルドアップでは徐々にムスタフィが存在感が増していく。フリーでボールを持ちやすくなったムスタフィは裏やサイドにボールを散らして前進に貢献。なかでも51分の前進は見事。

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 まさにこれこそ日ごろから俺がムスタフィに求めていることだ!!って思いました。サイドに出口を防がれるなら、おびき寄せないとだから。その役割をCBがもっとできるようになれば、アーセナルはまだ強くなりますよ。ムスタフィが継続してできるかはわからないけど、少なくともその片鱗は見せれた。角度を作るような方向に裏抜けしたムヒタリアンもそこを見逃さなかったベジェリンも良い。いやー、このビルドアップからの崩しよかったなー。ファン・ダイクがすごい勢いでカバーに来たけど。はえーよ。

 後半もアーセナルは悪くないスタートをしたのだが、先制したのはリバプール。マネの抜け出しのスタートポジションが秀逸だった。ベジェリンがカバーすべきだろうが、これは駆け引きでマネが上回ったなと。69分の崩しもそうだが、ほんとにこの人たちは速い。あとプレー選択も早い。フィルミーノ、サラー、マネは欧州屈指のユニットといって差し支えない。後方支援するロバートソンも厄介だし。

 点が必要になったアーセナル。アンカーから2センターに移動し行動範囲が広がったファビーニョの裏をエジルやムヒタリアンがつきながら前進する。降りるエジルにリバプールの最終ラインはついていかないので、局所的な3対2の出来上がり。まあ最後で食い止められるし!みたいな。

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 間を明け渡したリバプール。そんな間受けで近頃存在感を発揮しているイウォビが交代で投入される。後半からリバプールが採用した4-4-2で浮きやすいのは、SB-CB-SH-CHの四角形の間。リバプールの最終ラインは間の動きについていくより、ステイして迎え撃つ傾向が強かったので、間でイウォビに仕事してもらおう的な。

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 システム変更でやや位置を後ろには下げたものの、間からアシストを決めたのがイウォビだ。ラカゼットとウェルベックという2枚がいた分、若干リバプールの最終ラインが遅れたか。しかし、本当に若干。ラカゼットのシュートがエクセレント。わずかなスキを得点につなげてしまうのだから、恐ろしいものだ。

 試合はそのまま1-1のドローで終了した。

まとめ

 決して思い通りに進んでいたわけではないリバプール。相手のビルドアップはひっかけられないし、シュートがポストに阻まれたり、ゴールがオフサイドで取り消される不運もあった。それでも決定機の数自体はアーセナルより多かったのではないか。ファン・ダイクを中心に無理がきくバックライン、限られた前進の機会を決定機にしてしまう前線、そしてミルナーの汎用性の高さなど要所で優勝候補としての堂々たる振る舞いを見せられた試合だ。ファン・ダイクってやっぱりすごいですね。アーセナルは試合を通じて中央をうまく締めていたと思うが、無理ならサイドとか多様性も感じるし、確実に強くなっているのではないかなと。展開としては劣勢でもなお強し!みたいな。間違いなくここから先の優勝争いをリードする存在だろう。鍵となりそうなのは中盤の構成か。今日はファビーニョだったが、ここの最適解はちょっと見出すのに苦労している感じ。離脱中のヘンダーソンやケイタも含めて調整が必要かもしれない。

 チーム一丸となり勝ち点1をつかんだアーセナル。まずほめたたえるべきはここ数年苦しんできたリバプールの前線からのチェックを無力化したエメリのビルドアップ策だ。属人的なスキルだけではなく、配置を含めた工夫で解決し、近年のリバプール戦では最も前進が容易だった試合運びをすることができたのは間違いなく監督の力だ。
 サイドバックの2人が戻ってこれたのも大きかった。ボランチとCBコンビの躍動は素晴らしかったが、コラシナツとベジェリンがともにサイドで前進できていたからこそ、中央での仕事が楽になったのは見逃せない。本当にこの2人がこの試合に間に合ってよかった。

 アーセナルが公式戦で連勝をしている間も「彼らは本物なのか?」という疑問は各所から上がっていた。アーセナルファンですら、自分たちの連勝についてどう評価すればよかったのか判断がつかない部分があったのではないか。そんな中でリバプール戦を試金石を位置づけるファンも多かっただろう。この試合でアーセナルにとって最も重要だったのは、再び強豪としての『名乗り』をあげられたことだ。エメリの下で新しいアーセナルがリスタートを図るべく、旗印をエミレーツに掲げられたのはチームにとって大きな一歩と形容すべきだろう。確かに勝ちたかった。それはそうだ。しかし、無敗のリバプールを相手に回してもやれるという自信は何事にも代えがたい。エメリの下でアーセナルファンの希望の灯が再びともされた。それだけでも素晴らしい夜とはいえないだろうか。

試合結果
プレミアリーグ 第11節
アーセナル1-1リバプール
エミレーツ・スタジアム
得点者
ARS: 82′ ラカゼット
LIV:61′ ミルナー
主審:アンドレ・マリナー

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