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「健闘じゃ物足りない」~2024.4.9 UEFAチャンピオンズリーグ Quarter-final 1st leg アーセナル×バイエルン マッチレビュー~

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レビュー

壁は二度破られる

 アーセナルにとっては14年ぶりにたどり着いたCLの準々決勝の舞台。相対するはノックアウトラウンドでは過去に一度も下したことがないドイツの盟主・バイエルンである。

 Round 16のポルト戦とは異なり、前からのプレスに積極的に出ていくオープンマインドな試合に。アーセナルがプレスで仕掛けてバイエルンがそれに応戦するという形でスタートする。

 立ち上がりはバイエルンのプレス回避が見事。アーセナルのバックス相手にファウルを奪い取るケインと降りてきて大きく左右に振る形でプレスを外したムシアラによって、アーセナルの前からのプレスを回避。敵陣に侵入することに成功する。

 それでもプレスを諦めなかったアーセナル。立ち上がりにハマり切らなくてもプレスを継続したのは、最終的にはなんとかしてくれるというバックスへの信頼と自分達への自信があってこそだろう。ダイアーなどをサイドにプレスで追い込みながら高い位置からボールを奪いにいく。

 アーセナルは敵陣でのボール奪取に成功するとそこから右サイドの定点攻撃に移行。バイエルンはSHのニャブリがホワイトについていくなど、バイエルンのサイドでの守備はアーセナルに枚数を合わせる形で対抗していたが、サカへのマークの枚数をどうするのか?とアーセナルの選手の動き直しに対して後手を踏むなどの対応がぼやけていた。その結果、サイドに穴を開けることもしばしば。デイビスのカードとサカのゴールはこの時間帯にアーセナルが右サイドで主導権を握っていたことの具現化である。

 ライマーが保持の際に列を落ちることでバイエルンがボールを落ち着けるアクションを即座に入れたのはさすがであった。キミッヒのビルドアップ参加がいつもよりも手厚かったことも含めて、バイエルンは保持できっちりというイメージだったのだろう。

 バイエルンからすると単なるロングボールではアーセナルの守備を崩すのはしんどい感じがする立ち上がり。ケインが収まったとて、後方を同数で受けないアーセナルはケインに競り合わない側のCBが後方にステイすることになる。バイエルンにとっては複数枚あるアーセナルの壁の1つ目をケインのポストで切り崩そうとする立ち上がりだった。ポストの先の切り崩し役は右に立つサネに託された様相だった。

 だが、この壁はアーセナル側のエラーであっさり崩壊。自陣での処理をミスってしまい、ガブリエウが縦パスを相手に渡してしまうと、一気に攻め込んだバイエルンに同点に追いつかれてしまう。

 先にバイエルン視点の話をすると、奪った後のケイン→ゴレツカのパスが見事。ケインもゴレツカもそれぞれライスとサリバの根元を使うパスからアーセナルの守備を切り崩すことに成功していた。特に逆を取られて素通りされてしまったライスにとっては悔いの残る対応となったはず。

 アーセナルからすると1つ目の壁になっていたガブリエウがあっさりとパスミスをしてしまったのが痛恨。おそらく、ラヤに戻すつもりで処理しようとしていたが、彼が飛び出してしまった分、計画と違ったのだろうと思う。それでもある程度オープンであればアーセナルのCBにはきっちり処理して欲しいところ。

 ガブリエウがキヴィオルにパスをつけるという判断自体は間違ってはいないと思うが、スキルがついてこなかったという認識。いずれにしてもこのシーンにおいてはホルダーにボールを捨てられる余地がある時点で、第一責任者はホルダーのガブリエウにあるというのは自分の中では揺らがない。

 想像でしかないが、アーセナルのプレスを支えていたのはバックラインに対する自信なのだとしたら、アーセナルのプレスに対する意識はこの失点においてへし折られたことになる。特に前に出ていくところを交わされてしまったライスが前にプレスに行きにくくなることはイメージがつく。逆にケインに収めればOKという意識を持てるバイエルンのバックス、特にダイアーにとってはプレスを逃がす自信が少しずつついてきたはずである。

 バイエルンはプレス回避からさらにゴールをゲット。アーセナルはサイドに追い込むことができた場面かと思ったが、ロングボールを収めたサネがキヴィオルに対して反転して前を向くことに成功。アーセナルのDFをまとめて交わすドリブルを披露し、PKとなるファウルを奪取。彼もまたアーセナルの複数枚ある守備の壁を破ったということになるだろう。

 バイエルンがリードを得たことでリトリート成分を増加。アーセナルは保持に回る時間が増えるように。アーセナルのこの日のビルドアップは2CB+ジョルジーニョに加えて、IHのライスとジョルジーニョがメインのサポート。SBはあまりビルドアップに関与せずに高い位置を取っていく。この日のバイエルンのメカニズムを考えれば、上がるSBにはSHがついてくることになるので、アーセナルはSBが高い位置をとることにより、バイエルンのWGが前に出てくることを抑止していた。

 29分のサリバのキャリーや降りるウーデゴールはビルドアップの出口になっていた。ただ、その先がないのがこの日のアーセナル。特にバイエルンの選手がサカとマルティネッリに2枚ついてくることを利用できなかったことは痛恨。サイド攻撃の解決策が見つからないままハーフタイムを迎える。

ジンチェンコ投入のメリットとデメリット

 後半、アーセナルはジンチェンコを投入。ハイリスク、ハイリターンな方向に舵を切る判断に踏み切ったなというのが個人的な意見である。ポジティブな要素としては、まずはダブルチームを受けていたマルティネッリの解放が挙げられる。手前でビルドアップに関与するジンチェンコの存在により、サネは自陣側に引き寄せられる。そのため、マルティネッリへのダブルチームは前半よりは緩和。1on1で仕掛けられる機会は明らかに増えた。

 さらには左の配球をジンチェンコに任せることができるようになったことで右サイドにはオーバーロード気味に人数をかけられるように。ハヴァーツが右に流れ、ウーデゴールが高い位置での仕事を増やし、それを後方からジョルジーニョが支えるという形で前半よりも厚みのある攻撃を繰り出すことができていた。

 ジンチェンコ投入で想定できるデメリットは単純にサネとのマッチアップの不安を解消出来る交代ではないことが1つ。もう1つは前半のようにSBがビルドアップに関与せずに高い位置を取ることはバイエルンのWGを出てくることに対する抑止力になっていたのだけども、それをビルドアップ参加で放棄してしまったことである。

 ただ、サネとの対人に関してはジンチェンコはとてもよく守っていた。間合いを空けてスローダウンを促し、ドリブルを封じてヘルプをまったり、背中を向いて受けようとする場合には逆に一気に間合いを寄せて反転を許さなかった。早い時間でサネが退いたのは、もちろんコンディションの側面もあると思うが、縦に鋭いコマンで味変をするというタクティカルな側面もあったように思える。

 ただし、非保持での対人と構造的な変化という意味ではよくやっていたジンチェンコだがボールタッチはイマイチ。裏への流れるようなパスミスが多かった分、致命傷になるミスは少なかったが、構造の変化と対人の2つの点であれば冨安でもフルコンディションに戻った後のティンバーでもチームにもたらすことができる。そこ通すんかい!という側面はジンチェンコだからこそだと思うので、彼ありきのバリューを発揮したとは言い難いという出来だった。

 押し返されたバイエルンだったが、ケインとムシアラが中央に降りてきては反転して左右に展開することで攻撃の手段がなくなったわけではなかった。押し込んだ後でも相手の逆を取るプレーからこじ開けるための隙を作り出すなど、斬り合いに対して前向きな姿勢で挑んできた。

 真っ向勝負で仕掛けていく両チームだが、得点にたどり着いたのはアーセナル。右のハーフスペース付近でボールを受けたジェズスが2枚を引き付けてリリースしたのがまずはお見事。その時間の分の恩恵をきっちり受けたトロサールが仕事人ぶりを発揮して同点に。交代選手2人の活躍により、試合は振り出しに戻ることとなった。

 バイエルンがさすがだったのはここでもう一度ポゼッションで試合を落ち着かせることに舵を切れること。ライマーとキミッヒを軸にバックスが幅を取るポゼッションを行いながら、アーセナルファンの熱狂を冷ます時間を設けられるのは彼らの力に他ならない。

 アーセナルはトーマス投入でアンカーにスライドさせていたライスを前プレ隊に再び投入。ハイプレスに出ていくようにチームを促す交代だった。なるべく高い位置でボールを止めつつ、縦パスを出すという使命を授かったトーマスだったが、縦パスの精度は当たり外れが多め。最後のシーンのサカの決定機を演出したのがトーマスということを忘れるつもりはないが、バックヘッドでのクリアミスを含めて不安定なパフォーマンスも存在したことも確かである。

 トロサールの同点ゴール以降は互いに決定機は一度ずつ存在したが、どちらもこれを沈めることはできず。試合は2-2のドローで来週に決着を持ち越すこととなった。

ひとこと

 2つの失点のシーンは今のアーセナルにとっては非常に辛いものだった。こういう部分を見せないから強いとされていたのが今季のアーセナルなので、それをこの大舞台で引き当ててしまったのは痛恨。それがCLと言えばそれまでだけども、今季勝ち上がるためにはこうしたミスはなるべく減らす必要がある。

 2nd legに向けた話はまたプレビューで。1st legでボコボコにされる不安が全くなかったかといえば嘘になるが、今のバイエルンとアーセナルの力関係は互角にやれるということに安堵して終わらせるにはもったいないものがある。健闘ではなく欲しいのは勝ち抜け。ミュンヘンでの地でもアグレッシブさを失わない90分を見せてほしい。

試合結果

2024.4.9
UEFAチャンピオンズリーグ
Quarter-final 1st leg
アーセナル 2-2 バイエルン
アーセナル・スタジアム
【得点者】
ARS:12′ サカ, 76′ トロサール
BAY:18′ ニャブリ, 32′(PK) ケイン
主審:グレン・ニーベリ

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