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「支配の切り崩し方」~2021.4.7 J1 第8節 川崎フロンターレ×サガン鳥栖 BBC風オカルトプレビュー

目次

Fixture

明治安田生命 J1リーグ 第8節
2021.4.7
川崎フロンターレ
(1位/7勝1分0敗/勝ち点22/得点21 失点4)
×
サガン鳥栖
(4位/4勝2分1敗/勝ち点14/得点10 失点1)
@等々力陸上競技場

戦績

直近の対戦成績

図1

 直近5年間で川崎が4勝、鳥栖が1勝、引き分けが6つ。

川崎ホームでの試合

図2

 直近10試合で川崎が4勝、鳥栖が2勝、引き分けが4つ。

Head-to-head

<Head-to-head>
・直近5試合の対戦で両軍合計3得点
・川崎は直近8試合の鳥栖戦で無敗(W3,D5)
・等々力での対戦は4年連続で引き分け。
・ホームサイドは直近5試合で1得点のみ。

 なんといってもロースコア決着がこのカードの特徴である。前節の大分戦のプレビューでもロースコアが多いって話をしたが、今節はその比ではない。

 なんせ直近5試合で両軍合わせて3得点のみ。しかも、等々力に限って言えば2018年以降3年連続のスコアレスドロー中。なんだそれは。等々力では複数得点も5年間なし。特にホームチームの得点が少なく、直近5試合で1得点だけというのだからかなりデータとしては顕著。

 ただし、直近8試合で鳥栖に負けてはいないので相性が悪いわけではない。

スカッド情報

【川崎フロンターレ】

・チョン・ソンリョンは前節腰の負傷で欠場。
・大島僚太はふくらはぎの負傷で離脱中。

【サガン鳥栖】

・ファン・ソッコは出場停止。

予想スタメン

画像3

Match facts

【川崎フロンターレ】

<川崎のMatch facts>
・リーグ戦は13試合負けなし。
・ホームゲームは3試合連続無失点。
・ホームゲームは8連勝中。
・今季ここまで交代出場した選手の得点がない。
・鬼木監督は金監督相手に勝利を挙げたことがない。
・ホーム鳥栖戦の川崎の最後の得点者は小林悠。

 年をまたいでリーグ戦は13試合負けなし。11連勝のインパクトには劣るが、安定感十分で2021年シーズンの開幕を迎えることが出来た。

 特にホームゲームでは好調を維持。8連勝中で今季5試合中4試合はクリーンシートである。今季等々力で得点を挙げたアウェイのプレイヤーはここまで大久保嘉人ただ1人だ。

 ただ、今季ここまで交代した選手の得点がないことは気がかり。おそらく中盤の選手から入れ替えるケースが多いため、単純に前線の替えの選手のプレータイムが少ないことも影響しているだろうが、総力戦になる鳥栖戦ではやや気になるデータではある。

    金監督に勝利が未だない鬼木監督はクラブを5年ぶりのホーム鳥栖戦勝利に導くことが出来るだろうか。ちなみに最後に等々力で鳥栖相手に点を取ったのは2017年の小林悠。ただし、この時はドロー決着。決勝点という意味でいえば2016年の大久保嘉人が最後。なんで今日の俺はこの人の話ばかりしているんだろう。

【サガン鳥栖】

<鳥栖のMatch facts>
・クリーンシートはここまで6試合。
・昨年同時期と比べて勝ち点は10多い。
・今季のアウェイでの公式戦は4戦で1勝のみ。
・今季のリーグ戦10得点のうち、アウェイで挙げたのは1得点のみ。
・林大地は今季ここまでオフサイドが9つでリーグトップ
・加入以降、エドゥアルドが出場したリーグ戦の平均勝ち点は1.43。不出場時の平均勝ち点(0.77)を大幅に上回る。

 前節のC大阪戦でついに無失点記録が止まった鳥栖。奥埜のミドルが無失点に終止符を打つ。余談だがこの無失点記録を破りかけたのも大久保嘉人だった。オフサイドだったけどね。

 それはそうと、今季は前節を除けば6試合クリーンシート。ラスト8試合はすべて失点を喫していた昨季と比べると抜群の出来である。勝ち点比較でも8節に初勝利だった昨季と比べて10の上積みがある。

 ただ、アウェイはやや苦手でここまでは湘南で挙げた1得点のみ。しぶとく守りながらアウェイでも勝ち点を積んでいる状況だ。

 他に特徴として挙げられるのはオフサイドの多さ。チームとしてはリーグトップ、そして林大地はここまでオフサイドが9回で個人でトップ。2位の家長が6回、3位の大久保(!)が5回であり彼らの消化試合が1試合多いことを踏まえると、圧倒的といっていいだろう。ちなみに林個人よりオフサイドが多いチームは鳥栖を除けば湘南、徳島、C大阪、川崎だけである。

展望

■まずは個人の役割を整理

 複雑なチームについてはまず勉強。鳥栖を追っているブロガーさんは観測できなかったが、困った時の師匠の記事があったので助かったぜ。



目指すは万能型。好スタートを切ったサガン鳥栖の”複雑な移動”を解き明かす | footballista | フットボリスタ


序盤5試合を終えたJ1で4勝1分無敗で3位につけるサガン鳥栖。好発進を切りにわかに注目を集めるチームの戦術的特徴について、


www.footballista.jp

 Match factsの項だけ見ると無失点記録にオフサイドと一見堅守速攻型に見えるかもしれないが、彼らの最大の特徴はボール保持の際の変形にある。ややこしいので予想スタメンの図(後述するが非保持はこの5-3-2で固定される)を元に変形について説明していきたい。

 まず個々人の役割について説明する。初めは最終ライン。3枚のCBのうち中央のエドゥアルドと右の田代(出場停止のソッコもここ)の2人がビルドアップ隊として最終ラインで横幅を取る。この2人が中央のラインを軸に左右対称で分かれる形が多い。間にパク、もしくはアンカーの島川がサリーして落ちる役割だ。

 もう1枚のCBの中野伸哉は攻撃時はSBのように左の大外を駆け上がる。逆サイドの大外のレーンは守備時はWBの飯野か大畑が任されている。らいかーさんの記事にもあるように右サイドは比較的移動が少なくスタンダードだ。

 中盤は先ほども述べたようにアンカーの島川がCBの間に落ちる役割。IHの2枚(本田と樋口)も相手の中盤の手前まで降りることもある。中野伸哉が大外を占有し、WBが内側に絞ることが多い左サイドではIHが低い位置で仕事をする機会が特に多い。

 2トップは裏を狙う機会が多く、主軸となるのは林と山下。アルゼンチンとの試合で見せた林の得点シーンにおける抜け出しは、クラブでも設計に組み込まれている彼の持ち味。このチームにしてあの得点ありというか。ポストなどのDFを背負っての仕事は比較的少なく、クロスに合わせる役割と裏に抜ける役割が2トップの主な役割である。

画像4

 保持の配置をまとめるとざっくりこんな感じ。

■攻守にベースになるのは『支配力』

   ここからは鳥栖の全体的なコンセプトについて。まず保持の時間を大事にしていることは明らかである。中央での列落ちの許容度は非常に高く、アンカーだけでなくIHまで最終ラインのそばまで降りながらプレーすることは珍しくない。

    ポイントは相手の人数を見極めながら降りる人数を調整していること。プレスが激しくないのならば、パクと2CBに任せればいいのでアンカーも列を下がって無理にボールに関わることはない。

 中央に選手が多く配置されており、ボール保持を大事にする割には中央でのパス交換での打開の優先度はそこまで高くない。例えば、CFがポストで前を向く選手を作り、そこから中央をかち割る裏抜けのパスを送るようなシーンはほぼみられない。

 鳥栖が大事にしていることはボールの失い方である。中央に人が多いのはパス交換の際にやり直しをしながらフリーマンを作り、そのフリーマンから前線の裏にボールを送ることである。このやり方はボールを失ったときのデメリットが少ない。失敗してとしても相手はDFラインの後方から攻撃をしなくてはいけないので、物理的に鳥栖のゴールが遠い状況になる。

画像5

 DFラインの後方からスタートする状況が苦しいと相手チームは高い位置からプレスをかけることになる。こうなると鳥栖の長いボールの出所は後方にシフトする。彼らの恐ろしいところはまさにここ。パクの配球力の高さはおそらくJではナンバーワン。FWの裏抜けという強力な武器と彼のフィードを組み合わせれば、たちまち非保持側は最終ラインの裏にボールを蹴られてしまう。ボールを取り返そうとすれば当然前がかりになるので林や山下の裏抜けのチャンスはより広がることになる。

 守備側からするとハイプレスをかけてGKからFWに長いキックを蹴らせるというのは相手次第ではボールを捨てさせたと取ることもできる。だが、林とパクのコンビならばこれはクリアどころかもはや崩しの武器。鳥栖の保持に苦しんだ相手が自陣に押し込まれることを避けるべく、ハイプレスを起動すれば後方にこの武器を使う隙を与えてしまうという蟻地獄のような状況に陥ることになる。

画像7

 最終ラインの裏以外はボールサイドと逆側の大外への長いボールを狙うことが多い。こちらも比較的ロスト時の安全性が高い手段である。鳥栖の堅守はロスト時の状況に気を遣うことがベース。すなわち、保持におけるリスクを回避することが第一優先である。

 選手は極端に固定することはなく、入れ替えるパターンもあるが入れ替わっても大枠は同じ。しかし、選手のキャラクターを生かしながら、ある程度プレー原則を破ることはある。

   特徴的なのはインサイドハーフ起用が多い仙頭啓矢のプレー。安全第一でフリーマン同士でパスをつなぐ頻度が多い鳥栖だが、彼はリスクが高い縦への楔を入れることを許容されている。

   鳥栖のボール保持はゲームを支配するという意味では非常に高い効率で設計されている。その一方でゴールに迫るという部分がやや単調でFWの裏抜け次第になってくるという難点がある。柏戦のようにその部分で明らかに優位をとれる相手ならば問題ないのだが、そうでないならばやや得点に向かう手段のパンチに欠ける。したがって、仙頭の縦パスがそれを補うアクセントになる。

   先日敗れたC大阪戦では逆にこのアクセントが多かった。多すぎると、トランジッションの機会が増加し、平時の鳥栖と比べれば保持の際の失点のリスクが高まる状況になる。そうなると馬力で勝るのはC大阪の方である。原則となるリスク回避の部分がややおろそかになった一戦だったように映った。パンチ力を補充するために支配力が低下した例と言えるだろう。

   その他に原則とやや異なるプレーをすることがあるのは左WBの小屋松。原則でいえば左はWBは内側、大外はSBロールの中野のものだが、大外でのプレーに強みのある小屋松がWBに入る際には中野と内と外でレーンを入れ替えることも珍しくない。

   あるいはトップに本田のようなMFタイプが入る場合はトップにも中盤に関わることが求められるようになったり。原則に加えて、選手の特徴に合わせた原則破りまでこなしてしまうのが今の鳥栖の保持の強みであり、それを行ってもチーム全体のバランスが崩れないほど完成度は高いものになっている。

   保持の項が長くなってしまったので非保持は簡潔に。5-3-2ベースでボールサイドと逆側のFWは絞り目で中央をケアする。同サイドの守備者は縦を切る。中盤は縦へのパスを遮るように立つ。

画像6

   同サイド縦へのグラウンダーや中央を介した素早いサイドチェンジ、中央でのパス交換などを避けることがまずは第一優先。一発の裏抜けにはパクが広い守備範囲で対応をする。

   ローラインで守備をすることもあるが、あくまで自分たちのペースでラインを下げることが前提だ。縦パスの連続や陣形が崩れるサイドチェンジによってラインを『下げさせられる』状況は望ましくない。あくまで非保持においてもベースは支配力にある。

■狙い目をどこまで引き起こしにいくか?

 さて、川崎はどのように立ち向かうべきか。まず絶対に狙うべきはトランジッションである。鳥栖は攻守におけるポジションの移動が大きく、それぞれの仕様に変形するまでに時間がかかるという弱みがある。その弱みをうまくシステムによって塗りつぶしているチームだ。

 攻⇒守の切り替えは相手陣の深い位置で完結させて生み出すし、守⇒攻の切り替えはパクというボールの預けどころや降りる中盤の選手を使いながら整えていく。

 だが、それは90分を通してうまくいくとは限らない。例えば柏戦の15分。鳥栖がボールをロストした後、クリスティアーノが自陣深くで中野を外したシーン。これは鳥栖がうまくトランジッションの隙を塗りつぶせなかった場面といえるだろう。一発裏を狙ってしまったため、鳥栖としては事なきを得たが、守備時にはCBの中野が攻撃時のSBとしての高い位置でボールハントに奪い失敗するのは明らかに鳥栖としてはまずい状況だ。

 中野は鳥栖において攻撃と守備で最も配置が大きく異なるプレイヤー。川崎がボールを奪ったときに彼のポジションが整っているか、それとも狙えるかどうかは川崎が急ぐ目安になる。隙があれば必ず狙うべきポイントだ。

   ただし、パクが待ち構える一発裏ではなく、貯金を前に送るような形で最終ラインを背走させながらカウンターを進めなければならない。鳥栖のDF陣は弱くはないが、広大なスペースを支えるほどの絶対性はまだ備わっていない。

   問題はこのトランジッションをどこまで意図的に引き起こすかである。鳥栖は明らかに攻守の切り替えを自分たちが制御できる範囲に収めたいはず。あとは川崎がどこまで誘発するかである。要はプレスを強めてテンポを上げるかどうか?という話。

   基本的には切り替えが多いC大阪戦のような展開の方が川崎は戦いやすいはず。ただ、真っ向からプレスをかけてテンポアップを試みても、鳥栖に保持でいなされてしまう可能性は十分にある。

   ここまでの対戦相手を見ると鳥栖に思い切って立ち上がりからプレスをかけるタイプはそもそも少ないけど、パクやCBのスキルの高さを見ればここは慎重になってもいい部分だと思う。C大阪戦はどちらかといえば鳥栖の仕様のミスに近く、最終ラインまで下げた丁寧なやり直しを使えれば、もう少しゲームを握れたはずだ。

    最も楽なのはなんとかして先制してしまうこと。鳥栖が得点を取りにくれば、さすがにリスクを負ったパスが増えるはず。林をはじめとする鳥栖のFW陣は強力だが、さすがに谷口とジェジエウに完勝はないはず。柏戦のように長いボールの抜け出しからの得点を許すならば、一気に形勢は苦しくなる。逆に先制すればリスクを負ったパス選択の増加に伴い、川崎の攻撃機会も増えるだろう。

   保持においては立ち上がりは多少精度は下がってもダミアンへの長いボールを主体とし、前線のタレントで仕留める機会をうかがうながら様子を見るのが妥当だろうか。90分を通してみれば、鳥栖は福岡戦のように疲労が見えたり、C大阪戦のようにいらついたりなど付けいる隙はある。

   序盤は鳥栖にボールを握らせつつ、偶発的に生まれたトランジッションの隙とダミアンへの長いボールで少ない攻撃機会を好機に結びつける。焦れて支配モードから点取りモードにシフトした終盤戦に川崎も強度を上げたプレスを敢行する。これが理想的な90分ではないだろうか。

    おそらくここまでの相手の中で完成度は随一。1つのミスが展開を変えるスリリングな一戦になるはず。90分を見越した地力勝負に引きずり込んで、金監督に対する初勝利を手繰り寄せたいところだ。

【参考】
transfermarkt(https://www.transfermarkt.co.uk/)
soccer D.B.(https://soccer-db.net/)
Football LAB(http://www.football-lab.jp/)
Jリーグ データサイト(https://data.j-league.or.jp/SFTP01/)
FBref.com(https://fbref.com/en/)
日刊スポーツ(https://www.nikkansports.com/soccer/)

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