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「三笘を解放せよ」~2021.3.3 J1 第11節 川崎フロンターレ×セレッソ大阪 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

C大阪の非保持のコンセプトは

 以前のクルピ時代を良く知らない筆者。勝手に『クルピは自由!』というイメージを持っていたのだが、この試合に関してはめちゃめちゃ対策しているな!という感じで、全然イメージと違った。

 C大阪の非保持は4-4-2。プレスは隙あらば、ラインアップするタイミングを伺っており、現地では川崎のボール保持に対して『ライン!ライン!』みたいな声がかなり飛んでいた。

 ではラインアップする『隙あらば』はどういう時なの?という話に当然なってくるのだと思うんだけど、川崎がマイナスのパスを行ってやり直しを試みようとしたタイミングである。プレス隊である大久保と清武は非常にメリハリが効いていた。相手を追いかけまわすときは彼らをスイッチに全体が押し上げる。追いかけない時はCBにはボールを持たせて、ボールサイドではないプレス隊がアンカーをケアする。

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 特にプレスをかけたタイミングでは同サイドへの圧縮が顕著。ボールサイドのFW、SH、SBはもちろんのこと、この部分は藤田の追い込み方は非常に秀逸だった。とりあえず近場を切ることで川崎のパスワークから中央という選択肢を取り上げる。

 C大阪の先制点はこのサイドの追い込みがきっかけに。松田と坂元の囲い込みからボール奪取を決めると、ボールを持った坂元が深さを取って大久保に託す。シュートは非常に素晴らしいものだったが、ボール奪取からショートカウンターの形は狙い通りだろう。そこからは攻撃陣にお任せ。奪った後はクルピらしい『自由』感を感じられる。フリーになったらとりあえず試合開始直後一本目は打ってみる!という、川崎時代によく見られた大久保のルーティンがゴールという形で報われた格好だ。

■封じられたダミアンー三笘ライン

 同サイドで封じられた時の川崎の選択肢として有用なのは縦に急いで抜けるパターンである。今の川崎で言えばダミアンー三笘のホットライン。ダミアンの落としを三笘が拾って縦に一気に裏抜けを決めるという形である。閉じ込められたなら同サイドで完結させればいいじゃない!という話である。

 だが、ここに関してC大阪はよく対策していたと思う。ダミアン⇒三笘の落としで三笘は対面の松田を振り切ることはそれなりに出来ていた。スピードで出し抜けるから。ただ、ダイレクトな裏抜けでスピードを使った振り切り方をすると、どうしてもボールのコントロールが長くなりやすい。というか長くすることで振り切っている節がある。

 そこに待ち受けていたのが瀬古である。ダミアンへのケアに西尾が出ていくため、逆サイドの瀬古がこちらのサイドに出張。あらかじめ三笘のドリブルを1手目で止められる立ち位置でストッパー機能する。川崎としてはこの封じられ方をしたのは結構ダメージがでかかったと思う。

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 ただ、これはあくまでダミアンのポストを活用した場合の話。シミッチからダイレクトに裏に抜けるパスを三笘に送る場合は、足元にピタッと収められる形で三笘の下に届くことで多いので、コントロールは大きくならない。シミッチ⇒三笘のダイレクトはC大阪のケアの対象外。ただ、シミッチはなかなかフリーになって受けられるタイミングを特に前半は見いだせなかったので、このホットラインが発動するタイミングはあまり多くはなかった。

 撤退守備の時も三笘はバチバチに対策されていた。この日のC大阪は三笘に限らず左の大外からのカットインに対して、グリッドを狭めながら選択肢を奪っていく意識が強かった。これによって三笘が得意なパターンを徹底的に封じるC大阪。時には3人がかりで加速前に仕留めるほど、C大阪の三笘対策は徹底していた。

 プレッシングをかけていないときのC大阪はミドルゾーンで待ち受ける。縦の陣形をコンパクトにすることに非常に意識が向いていた。彼らのコンセプトはとにかく間を使わせないこと。三笘は加速させる前に仕留めること。そして先述のように隙あらばラインを上げて川崎をゴールから遠ざけた位置からプレーさせること。あわよくばカウンターから先制点を奪うこと。これらの項目がこの日の前半のC大阪のコンセプトだったように読み取れた。

 この中で唯一前半に遵守しきれなかったのが一番はじめの『とにかく間を使わせない』という項目。川崎が1点目を取ったシーンにおいては、川崎の左サイドから右にボールを運ばれてしまい、ピッチを横切られてしまった。そこから右を崩されて仕留められる。使わせたのは対面を剥がした旗手。

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 この日のCBコンビである瀬古と西尾は前に出ていって仕留める部分は最高だった。特に瀬古は三笘を封じることができる距離感を見出すことと、ダミアンとの競り合いは互角以上の出来だったように思う。しかし、エリア内でのクロス対応という取捨選択が伴う状況ではやや後手を踏んだ。左CBの瀬古の意識がC大阪の右(三笘のいるサイド)に行っていることもあり、C大阪の左サイドへのフォローもだいぶ遠くなってしまっていた。

 ただ、コンセプトとしてはクロス対応よりもっと前のところの段階で川崎に狙いを外されていると見るのが妥当。中央を経由して逆サイドに運ばれたことの方がしてやられた感は強いだろう。縦方向のコンパクトさを意識していただけに間を使われたこの失点は痛恨だった。

■蹴り飛ばし志向?

 C大阪のボール保持は柏戦と似たコンセプトに川崎対策を上乗せしたように見えた。瀬古、原川、ジンヒョンのフィードの精度を活かした対角へのフィードを活かす形を主体とする。ただ、柏戦よりは若干蹴り飛ばす要素は強かったように見える。ここはショートカウンターの形をなるべく避けたいという川崎仕様といってもいいだろう。

 特にジンヒョンのフィードは優れていた。長いキックにこだわらず、空いているところを正確に見極め、適切な速度で届ける。プレビューで懸念した川崎のWG裏へのSBへのパスもばっちり実装。川崎がこの日プレスで仕留めきれる場面が多くなかったのはジンヒョンの存在が大きいだろう。

 あと、藤田がスタメンに入ったことでボールの落ち着けどころを見つけた感じがした。彼はまだロティーナ感を残している選手だなと思う。勝ち越し弾へのキッカケになったFKは藤田のボール運びから。得点はアシストになった松田陸のクロスが抜群だった。

 ただ、このショートパスでのつなぎはあくまでオプションで頻度は少ない。基本的にはボールを取られてカウンターの温床にしたくないという大枠があったのでボール保持はそこまで時間を増やすよりは、前に蹴ってしまうという場面が多めだった。

■逆を見せることで拓ける同サイド

 後半の川崎はC大阪の対策に対して対策を打ってきた。対策について話す前にまずはC大阪のこの日のコンセプトを復習である。

①川崎が後ろからやり直す際にはラインを上げる
②川崎の左サイドは狭く閉じ込める(あわよくばカウンターの起点にする)
③三笘は加速する前に仕留める。撤退の時は最低2人で
④間は使わせず、逆サイドへの展開を許さない

 ざっくりこんな感じ。個人的には後半の対策は①を利用すればいいのかな?と思っていた。やり直す際にラインを上げるのでそこで相手をおびき寄せる。そうしてラインを上げる頻度を増やすように誘導して、ラインのズレができるように促す。そのようにしてできた間のスペースを活用し、④をひっくり返した先制点のように右サイドを活用するという流れである。

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 しかし、実際は④をよりダイレクトに攻略してしまう形で川崎は対策を打つ。谷口を主とした逆サイドへの長いパスである。後半早々に同点に追いついた形が典型。2トップの脇のプレスが届かないところからシンプルに逆サイドにピタリ。家長、山根はもちろん、マイナス方向の田中碧まで準備していたとなれば、こちらのサイドへの展開による解決はハーフタイムに決めていたことといえそうである。確かにそれが出来るのならば一番いい。

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 昨年の日産のマリノス戦でも似た形で頻発していたのだが、今回はこの形を対策として用いた形。

 こうなると苦しくなるC大阪。C大阪のプレス隊は自らのラインを越えられてしまうと、後方のブロックを助ける意識が薄い(前残りの役割なのかもしれない)ので、後方は4-4ブロックで何とかしなければいけない。したがって、2トップ脇から逆サイドに展開されてしまうとなると、これを何とかする役目は中盤に託される。当然出ていくしかない。実際は坂元が対応することが多かったが、こうなると今度は川崎の左の大外が空く。このゾーンを旗手や三笘が使うことで川崎は徐々に前進していく。

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 2トップの脇を取る役割は何も谷口に限らない。旗手が絞ってとってもいいし、脇坂が降りてもいい。坂元か藤田をおびき寄せられればいいし、降りる選手がいるのならその分前に選手を送り込めれば問題ない。川崎はこの辺りの重心が後ろになりすぎないバランスがうまいなと思う。

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 つまり、右サイドへの展開という手段を手に入れたことに寄って、川崎は左サイドでの対策からも解放されることとなる。前半と異なりオープンなスペースで受けるケースが増えた三笘はここから輝きだす。エラシコからダミアンとのワンツーで抜け出した3点目やオフサイドで取り消されるもネットを揺らしたシーンは素晴らしかった。が、これも後半頭の対策でC大阪の三笘シフトを軽くしたことが一因といえるだろう。

 川崎はその後塚川と橘田を投入。加藤を入れて前線のパワーアップを測るC大阪に対して、塚川は十分対抗できることは示せていたし、狭いスペースでなければアンカーとしてのゲームメイクを十分こなせることもわかってきた。橘田は後半も緩めない川崎のプレスの穴を閉じるために奔走。攻撃においてはリンクマンとしてすっかりチームにずっといるかのようなプレーで中盤にエネルギーをもたらした。中盤の層が早々に厚みを増したのはACLでの躍進を狙ううえで前向きな要素だ。

 慌てる場面はあったものの後半にペースを握った川崎が逆転で開幕2連勝を飾った。

あとがき

 クルピのC大阪は想像以上にまともだった。ロティーナっぽさはほぼなくなったけど、それは編成(まぁこれもクルピありきだろうけど)による選手の入れ替えも大きい要因だろうし、何より継続路線ならクルピじゃなくていいだろうしなので、少なくともフロントがやりたいのはこんな感じのこと!というのはこの2試合で提示できたのではないかなと思う。

 でもいろんな人が思うように柿谷はこのチームで見てみたかった。あと、遅攻の際には坂元がもう少し外に張るケースを作ったほうが面白そうかな?と思うんだけど、この辺りのバランスは変えないだろうか。

 川崎もC大阪と同じく安定感より爆発力を大事にしている節がある。本当にゲームを閉じるという思考がない。プレビューでも触れたけど、しばらくはこれでやるのだろうなと思う。行きつく先がどこになるのかは毎試合追っている自分でもよくわからない。よくわからないってことは楽しみってことなんだけども。

今日のオススメ

 この日の川崎の選手のプレーを個人にスポットを当てて紹介するコーナー。18分の前線にプレスをかけたと思ったら家長の裏に通された丸橋のケアを間に合わせる田中碧。なんだそれ。

試合結果
2021.3.3
明治安田生命 J1リーグ 第11節
川崎フロンターレ 3-2 セレッソ大阪
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:6′ 47′ レアンドロ・ダミアン, 62′ 三笘薫
C大阪:5′ 22′ 大久保嘉人
主審:佐藤隆治

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