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「強みの際立たせ方」~2018.9.26 J1 第18節 湘南ベルマーレ×川崎フロンターレ レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
外部要因による影響

 試合のレビューに入る前に述べておきたいのは、この試合はもっと好条件で見たかったということ。毎年、湘南の守備網をかいくぐれるかはチームの完成度やコンディションを図るうえで、とても個人的に重要な位置づけなのだ。この天候の中でも、両チームよく仕上げてきたと感じることができた試合だったのでことさら残念だ。

 湘南が5-2-3の形でスタート。川崎は後ろは3枚組み立てでボランチが最終ラインに落ちることが多かった。
 湘南といえばハイプレス!というのは、もうJリーグファンの間では代名詞。川崎は毎回これに苦しめられつつ「ボールは汗をかかない!」の理論でボールを回して、体力を奪いスペースを作る。湘南はとにかく走ってスペースを与えない!これが近年の川崎×湘南の構図だ。しかし、この日は試合に影響を与える外部要因がいくつかあった。

 まずはミッドウィーク開催。中3日での開催で週末にはまたゲームがあるという過密日程での開催ということ。そして強い雨風。ぱっと思いつく影響は体力への影響だろう。そしてもう1つは雨でボールが転がらないこと。
 留意しておきたいのは、前者が両チームともに影響を与える因子であるのに対し、後者はよりグラウンダーのパス主体で組み立てる色の強い川崎に影響を与える因子であることだ。加えて前半の川崎のエンドは風下。特に川崎には受難の多い前半になった。

【前半】-(2)
湘南第一の矢~ハイプレス~

 相手守備の攻略法は大きく分けて「幅」「間」「裏」の3つがある。ちょっと前だけど、ここに書きました。

 上に書いた通り、気候の影響でレンジの長いパスは使いにくい。ボールは汗はかかないかもしれないが、失速はする。川崎の立場に立てば「幅」と「裏」は短いパス交換の連続で重心を揺さぶりながら攻略したい。しかし、この環境下ではスピード感が出づらく、湘南の対応が間に合う可能性が高い。
 そして、「間」は湘南の選手はクローズしており、スペースがない。湘南の中盤が出て行ってスペースを開けたときは、ほとんど川崎の中盤は前を向いてプレーできてなかったように思う。
 
 というわけで川崎の狙いは「幅」と「裏」に球足の速いボールを送ること。前半の目立った川崎のチャンスは多くがこの形だ。5分の下田のファウルで終わったシーンは大島の「裏」へのパス、11分の家長のシュートは下田の「幅」を使ったミドルレンジのパス、13分に阿部がPA内に侵入したシーンは大島の「裏」へのパスだ。

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【前半】-(3)
湘南第二の矢~ミドルプレス~

 速いミドルレンジのパスで、まずは湘南のハイプレスをいなすことに成功した川崎。ボールを前進させることに成功した川崎の支配でゲームは進む。とはならなかったのがこの試合の前半だ。
 湘南の次の作戦はミドルプレス。ある程度ハイプレスがハマらないと分かった湘南は3トップがハーフライン付近まで撤退。湘南としては人を密集させて、何としても「間」を使わせないことを最優先に置いた形。「幅」と「裏」は使えるものならどうぞといったところだろうか。プレスに関しては、ハーフラインから先の位置まで侵入してきた相手は前を向かせず捕まえる。それより後ろはある程度自由に持たせていた。
 
 川崎にとってこの作戦が厄介なのは、純粋な走力に関しては湘南が上回っているという点。つまり、川崎の最終ラインがいくらフリーで幅や裏へのパスを出したところで、相手の重心を揺さぶらずに「せーの」というタイミングでは湘南が対応できてしまう。川崎もそれはわかっているのでむやみに裏は蹴らない。川崎が湘南陣地に押し込むも、人口密度はハイプレスの時よりも高く、ショートパスつなぎの難易度は上がっている。川崎は肝要なエリアに侵入できないまま時間は過ぎていく。

【前半】-(4)
湘南第三の矢~ゲーゲンプレス~

 ゲーゲンプレスとは簡単に言えば、ボールを奪われた直後にすぐさまボールを取り返すために敢行するプレスのこと。ハイプレスと相違点は陣形が整う前にプレスを敢行するので、敵味方ともポジションの秩序が乱れやすいこと。プレスを敢行する側は、ロストした際にはなるべく人数をボール周りに集めたい。

 川崎は対5バック相手に弱いというのは、主に攻撃面でのイメージの人が多いだろうが、守備面でも5バックは苦手。具体的には相手のWBへのマークがあいまいでフリーにすることが多い。湘南はWBを使ってサイドで三角形、四角形を作ってボールを前進させていた。CBやシャドーのフォローもよくできていた。

 先にも述べた通り、ボールを前進させて敵陣に味方を多く送り込めば、ゲーゲンプレスは成功しやすくなる。この試合では川崎が湘南の前進を許したため、うまくゲーゲンプレスを掛けられていた。
 無論川崎もボール扱いは慣れているチーム。引っかかってばかりではない。ただ、仮にボール奪取後に小林に楔が入ったとしても、全体の重心は湘南によって押し下げられているため、小林の周辺には味方がいない状況になる。

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 ボールロスト後は敵も味方も陣形が乱れていることが多い。故にこの局面はミドルプレスの状況に比べれば、縦パスは入りやすくなる。川崎的には楔が入れられるなら入れたいのだが、全体の陣形が押しあがる前に縦パスが入っても小林はつぶされてしまうというジレンマに陥る。湘南はゲーゲンプレス時には川崎に余裕を持たせないようプレッシャーをしっかりかけていたので、川崎としては落ち着いて一つずつ前進できなかった。雨により「ショートパスの連続の方が致命的なミスになるかも」という心理面も影響していたかもしれない。
 しかしこの局面では、縦に急げば急ぐほど湘南の思うつぼだ。

 二の矢(=ミドルプレス)と三の矢(=ゲーゲンプレス)を併用し、前半の途中からは湘南が支配したといっていいゲームだった。

【後半】
トランジッション合戦開戦

 ハーフタイムを挟んでさらに強くなる雨。そもそも台風で延期したのに、延期した日にも台風みたいな天気につかまるこの試合。お天道様誰か怒らせたんじゃないのか。

 風上エンドになったことが影響しているかはわからないが、対ミドルプレスにはショートパスを使って勇気を持って進めていくことを決めた川崎。前半に比べれば相手陣地に押し込むシチュエーションは増えた。
 湘南がボールを持っているときでも、川崎が湘南の最終ラインにチェックを厳しくかけるようになったので、湘南は前半のように前進できる局面はかなり減った。
 ミドルプレスが怪しくなってきた湘南は再びハイプレスの手を強める。両チームともプレスの強度と位置を高めてきたことで、前半と比べてトランジッションの局面が多い試合になった。

 川崎の選手交代は登里、鈴木と重馬場に強そうな選手たちから。下田を下げたのは、少し飛ばし気味だったからか、もしくは湘南が強めてきたプレス回避には中村憲剛の位置を下げたほうが得策だからと考えたからだろう。
 川崎の2枚の交代はチームに推進力を与える交代として機能していたように思う。ただ、最終局面での緻密さはやや落ちるので、勝ち点3ありきならば、アバウトなボールでも収められる知念の投入はもう少し早くてもいいように感じた。

 前半とは異なる一進一退のトランジッション合戦の様相になった後半。前半の湘南が意外とショートパスで前進できるじゃん!と見せたなら、後半の川崎は意外とトランジッションができるじゃん!というところを見せられたと思う。湘南もトランジッション合戦はお手の物。シャドーをフレッシュな選手に入れ替えて対抗してきた。

 この試合の後半の評価は難しい。ラスト10分を見れば川崎が勝ち点3を逃したのは確かに惜しい。PA攻略で一日の長を見せたことは間違いないだろう。湘南は最終局面でのラストパスの質はやや物足りず、明らかな決定機を作るのに四苦八苦していた。
 ただ、本来湘南の土俵であるトランジッション合戦において、川崎も中3日の中で相応の強度を見せたことは誇っていいところだろう。

 嵐の中での神奈川ダービーはスコアレスドローとなった。

まとめ

 前節の名古屋戦や今節の湘南戦で見せた川崎のトランジッション強度。今季の川崎では鳴りを潜めていた部分だが、ここでクオリティを示すことによって、本来のボール保持をベースにしたサッカーの局面が増えているのが直近の川崎だ。特にその象徴となっているのが下田北斗。中盤のハードワークでの貢献は目を見張るものがある。ミドルレンジでのパスの頻度が上がれば、もうネットを懐かしむサポーターはいなくなるかもしれない。

 本来印象にない部分のクオリティを上げることで、元来チームが持つ良さが際立つのはこの日の湘南も同じ。前半の湘南のプレスに幅を持たせていたのは、あまりイメージにないショートパス主体による前進だ。彼らもまた目に見える長所以外の部分を磨くことで、本来のチームを際立たせることに成功していた。そして、仕上げは秋元だ。

 川崎の立場からすれば、この勝ち点1は判断が難しい。名古屋戦と同じスタメンを起用したことも含めて、この湘南戦はシーズン後に結果論でしか白黒つけられないようなゲームなのではないか。白にするのも黒にするのも残り7試合次第である。

試合結果
2018/9/26
J1 第18節
湘南ベルマーレ0-0川崎フロンターレ
Shonan BMW スタジアム
主審:飯田淳平

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