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「前提の潰し返し」~2021.1.26 プレミアリーグ 第20節 サウサンプトン×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■内側さえ抑えればいい

 先制点を得たCKでのサウサンプトンはお見事。相手の動かし方を研究し、最終的に空いたアームストロングが見事に仕留めるという形でサウサンプトンがどうしても欲しかったであろう最初の1点を得ることが出来た。

 基本的に先制点は欲しいものだろうが、この日のサウサンプトンは特に先制点が欲しかったのではないだろうか。理由としてはまず先週末のFAカップで主力を使ったハイプレスでの試合に臨んでいること。その日の対戦相手はこの日の相手と同じアーセナル。アーセナルはサウサンプトンほど主力メンバーを投入していなかったし、プレッシングで命を燃やしてもいなかった。中2日で迎えるリーグでのリマッチにおいて、体力面ではアーセナルに分があったのは明らかだろう。

 加えて、この日のサウサンプトンのバックスは両SBが不在。出ずっぱりだったバートランドとウォーカー=ピータース以外の選手はほぼ試してこなかっただけにこの両者がいないのは辛い。離脱が続くヴェスターゴーアに加えて最終ラインには主軸3枚がいない状態だった。このDFラインを助けるためにも早々の先制点は欲しかった。

 上々の立ち上がりを見せたサウサンプトンだったがそれ以外のシーンでは非常に苦戦した。主にビルドアップをアーセナルに阻害される頻度が高いことが要因である。サウサンプトンのビルドアップはDF-MF間のハーフスペースへの縦パスを起点に少ないタッチでパス交換をし、相手の最終ラインをブレイク。時には横移動を挟みながら最終ラインを横に揺さぶりシュート機会を作り出す。

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 横幅は両SBが作り出す。彼らは共に高い位置を取ることが多いのだが、ここのリスクは攻撃を完結させる精度の高さでカバー。外の選択肢を見せることで相手に狙いを絞らせない。

 しかし、この日のアーセナルは見事に狙いを絞ったプレスを仕掛けることができた。サイドに誘導というよりは高い位置で縦にコンパクトな陣形を組み、中央を絞るような形で守る。CHのジャカとトーマスには対面のCHと後ろでボールを受けたがるSHの2か所を共に守る役割を担う。この両にらみはぱっと見結構難しいように思うが、CBからの出所に限れば角度を少し変えれば移動距離をそこまで大きくしないままで守ることができる。

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 サウサンプトンにとって痛かったのは大外をフリに使えなかったこと。レギュラーメンバーでないSBにはボールを預けることができるが、そこから先に進むことができないため脅威にならない。いつもよりは限られた選択肢の中でのビルドアップになった分、アーセナルの中盤は狙いを定めてボールをハントできることが多かった。

 例えば13分のサウサンプトンのカウンターのシーンでは前線にはアダムス1枚。トーマスにとってはカウンターを阻害することは難しくなかったはずだ。サウサンプトンにとっては非保持で2トップが下がりすぎるとカウンターの一刺しも難しくなるという展開に。

 アーセナルの同点のシーンは攻撃の芽を摘み取った素早いカウンターから。ジャカは見事な即時の縦への展開を決めたし、ペペはうまくボールを引き出しつつ冷静に沈めた。サウサンプトンはSBの戻りが遅れたところから。「攻撃を完結させること」がサウサンプトンの両SBの上がりを許容しているので、アーセナルが高い位置から咎めることはその前提の覆しである。

 ちなみにトーマスがドリブル1つでウォード=プラウズとベドナレクの意識を自分の方に向けているのは大事。パスルートの先でこの内側への意識が地味に効いている。

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 アーセナルはショートパスでのビルドアップを咎められたFA杯でのやり返しを行った格好。サウサンプトンの首根っこを捕まえた形である。

■サウサンプトンの解決策+保持での隙を見つけるアーセナル

 それでもサウサンプトンのビルドアップは徐々にアーセナルのプレスに対応していく。CHが後方に移動しながらボールを引き出す動きを見せることで、対面のCHを釣りだす。アーセナルにはそれにともなかった最終ラインの押し上げがなかったため、これだとジャカやトーマスは両にらみが効かないようになる。

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 いち早くそこをつく動きを見せたのがマッカーシー。浮き球を落とすようにアーセナルのCH裏にボールを送ることで攻撃を加速させる場面が出てくるようになる。アーセナルにとってはプレッシングからのショートカウンターは攻撃の手段であり、かつ足が速くない自軍最終ラインをプロテクトする意味合いもあったので、徐々に試合は均衡していく。

 となると、今度は保持で違いを作らなくてはいけないアーセナル。突破口を見出したのは大外である。サウサンプトンもDFラインを晒される機会がないため、前線を軸に早めにプレスで取り返しに行く。FA杯の時はSHのプレスに合わせたSBの押し上げのタイミングがばっちりで、外からフタをすることに成功した。

 しかし、タイミングがシビアなプレスは経験の浅いヴォーキンスとヴァレリにはやや荷が重かったよう。アーセナルのSHには受けるタイミングがあり、ここから突破口を作ることができた。

 ここからジャカやセドリックがサイドで前を向き、逆サイドに大きく振るのがこの日のアーセナルの攻め手。サイドでサカが前を向いて1対1ができる状況を作れば、PAに攻め込むのはそこまで難しくはなかった。

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 もう1つはSBがプレスに出てきたスペースから裏をとりラインを一気に押し下げる手法。サウサンプトンは遅れても前に出てくるのでそれを利用した形である。要はサウサンプトンはラインは上げるけども、ホルダーにプレッシャーがかからずに背走を許してしまう状況に。シーズン当初の良くないサウサンプトンの非保持が顔をのぞかせたように見えた。

 最終ラインの裏へのケアの甘さが出たのはアーセナルの2得点目。ゴールキックの流れからポストをしたラカゼットが裏のサカに素早い展開。フォローをしようと出てきたマッカーシーもケアが間に合わず、サカにとってはイージーなフィニッシュになった。

■伝染したアーセナル

 後半は互いに縦に速いオープンな展開になった。これはサウサンプトンが良くなったというよりはアーセナルが少しプレスが遅くなったように見える。まるで前半のサウサンプトンが伝染ってしまったかのような形で、プレスには出ていくけど捕まえられないという悪循環。サウサンプトンに攻撃の機会を与える。

 試合は後半頭、ゆるっとした形で陣地を行きかうオープンな展開になった。ボールホルダーの横パスor横ドリブルで様子を伺い、縦に抜ける選手に一気につけるという流れで両チームとも均等にゴールに迫る機会を得た。

 そのカウンターからゴールを決めたのはアーセナル。前半に指摘した左サイドからの大きな右へのサイドチェンジが起点。サカのDFが対応できないタイミングでの見事な精度の折り返しは芸術的。最後はポストに当たりながらもゴールに押し込んだ。

 このゴールで試合の緊張感はやや低下。中2日の疲れもあってか、試合のテンションが下がった。終わってから見れば3得点目が試合を決めたといっていいだろう。

 余談だが、ペペは左サイドで徐々にパフォーマンスを上げているように見える。お手軽な順足クロスという選択肢が増えたこと、後方のセドリックが彼をうまく使ってくれたことなどが理由に挙げられる。それに加えてタッチライン側にボールを隠すような形でボールを持つので、大外オーバーラップする左サイドバックへのパス出しがスムーズなことも大きそうだ。ベジェリンも追い越す動きはいいけど、右サイドだとペペにとって角度的に厳しい状態で縦につけないといけない分厳しい。あとはペペ自身が途中交代からゲームに上手く入れるようになるといいんだけども。

あとがき

■動的な主導権掌握の弊害

 FA杯の1戦目を受けてこそのこの2戦目という形だった。アーセナルはプレスに苦しんだ1戦目とは逆にプレスをかけることで先に主導権を握ることができた。サウサンプトンの修正の早さはさすがだったけど、メンバーが変わりつつもSBのリスクの取り方とか含めていつも通りに来てくれたことはアーセナルにとっては好都合だったように思う。

 戦術の幅を決めるスミス=ロウ、トーマスの負傷具合は気になるところだが、ひとまず1戦目の反省点を洗い出して相手のアキレス腱を狙うことができたのはいい部分である。ジャカとトーマスが揃うと大分中盤高い位置で構えることができる。サカも安定してコンディションを維持しており、中核の選手が揃えば戦えることは徐々に示せるようになってきた。

 懸念はゲームコントロールの部分だろう。主導権を動きの強度を上げることで掌握している部分があるので、ペースを落とす部分が共有できないとこの試合の後半の頭のようにふわふわした時間が続いてしまうことになる。90分間相手を圧倒できるわけではないため、チーム内でのペースの意識の共有はしておきたいところだ。

 次節は2位のマンチェスター・ユナイテッド。またとないシーズンダブルのチャンスをアーセナルはモノにすることができるだろうか。

試合結果
2021.1.26
プレミアリーグ
第20節
サウサンプトン 1-3 アーセナル
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:3′ アームストロング
ARS: 8′ ペペ, 39′ サカ, 73′ ラカゼット
主審: ケビン・フレンド

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