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「均衡を破壊する『+1』」~2021.1.13 プレミアリーグ 第18節 マンチェスター・シティ×ブライトン レビュー

スタメンはこちら。

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■左右で異なるブライトンの陣形

 前節チェルシー戦のマンチェスター・シティで最も目を引いたのは明らかにボール保持時に内側に立ち位置を取るカンセロだった。ただ、完全に目新しい役割というわけではなく、カンセロが中央に入るというのはこれまでも見られていたことだった。

 このチェルシー戦の日は、ロドリが最終ラインに降りる動きに合わせてカンセロが内側に入る動きを見せていた。

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 この動きにチェルシーのインサイドハーフが釣られるため、カンセロは1列前でフリーでボールを持つことができる。このカンセロを起点に左右に攻め手を見出して相手を圧倒したのがチェルシー戦だった。

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 ブライトン戦も大まかな設計は同じである。ロドリは低い位置を取り、カンセロはCHの位置に入る。ただし、ブライトンはチェルシーよりもうまく個の立ち位置に対応したといえるだろう。彼らは本来ボール保持を頑張るチームだが、この日はボールを持たれる前提で頑張って立ち回ろうという気概を感じることが出来た。

 ブライトンの前3枚のうち、シャドーであるタウとトロサールはシティの両CBを監視。アリスターはアンカーのロドリをマンマークする。後述するが、ロドリを捕まえておかないとシティは前方のズレを使えてしまうので、厄介である。シャドーの2枚のCBへのマークはアリスターのロドリに対するチェックに比べればタイトなものではない。

 ブライトンの非保持においてはボールが左右どちらのサイドにあるかで守り方がかなり変わる。まず、シティの左サイドでボールを持った時。LSBの位置までプレスに出ていくのはCHであるプロパーである。

   彼が前方の選手にプレスに行くのならば、当然間のスペースは空く。このスペースは3バックの右であるウェブスターか逆サイドのCHであるホワイトが絞って対応する。右のインサイドに入るカンセロにはWBであるベルナルドが絞って対応する。

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 すなわち、陣形でいえば4-3-3(4-3-1-2)のように見える。

 ボールがシティの右サイドにあるときは異なる形で対応する。シティはこちらのサイドにボールがあるときでもカンセロは内に入りっぱなし。正規のRBの位置には主にストーンズが進出してスペースを使う。マークすべき選手はCBということで、同サイドのシャドーであるトロサールが降りて対応するのが理想的な動きということになる。

 逆サイドにボールがあるときにカンセロのマークをしていたベルナルドは、こちらのサイドにボールが出てきたらカンセロを捨てて大外のレーンを埋めることを命じられていた。ちなみに逆サイドのフェルトマンはボールがどこにあろうと役割は大きくは変わらない。左の大外にいるフォーデンのマークが最優先である。

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 よってシティの右サイドにボールがあるときはブライトンは5-4-1のような陣形で守備をすることになる。

 この日のシティのポイントはどこを起点に攻撃を加速させるか?である。ブライトンからすると当然意図は逆になるので、彼らをいかにスピードアップさせないかになる。チェルシー戦ではシティのスピードアップの起点は1列前に入るカンセロだった。しかし、ブライトンはロドリの降りる動きに対してアリスターをマンマークでつけている。さらにはカンセロも横移動で受け渡しながらの対応で封じることが出来ている。したがって、チェルシー戦と同じやり方はブライトンには通用しなかったということになる。

 ではどのようにしてスイッチを入れるか。ブライトンの左右の移動を見た時に負荷が高いのは横移動の距離が大きいプロパー、ホワイト、ベルナルドの3人である。彼らはミドルゾーンを3枚で守っている形。ここを揺さぶることが出来れば突破口が見えてくる。

 したがって少ないタッチで大きくサイドチェンジをされるのがブライトンにとって最も困ること。11分のギュンドアンの後ろ向きで背負ったままでのサイドチェンジなどは、ブライトンが4-3-3から5-4-1変形への時間を稼ぐことが出来ないので、薄いサイドが出来上がるという算段である。この横移動が大きい3人を揺さぶられると、一気にDFラインの前まで相手が進出してきて来ることになる。

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 というわけでシティにとってはまず横方向にノッチを入れることが1つポイントになる。そうすればパスを引き出す楔の動きで最終ラインを動かすことが出来る。これでようやく後ろ向きでボールを受け手ばかりだった間受けの選手の呼吸ができる。ちなみにロドリのマークが外れると驚くほどアッサリ楔が入ることがあった。なので、彼を締め出すことがブライトンにとっては肝要だった。

 横の動きでノッチを作れるかどうかの攻防において最も難しい対応を強いられたのはベン・ホワイトだろう。ピッチのへその部分であらゆる選手と受け渡しながら次々と入り込んでくる選手にチェックをかけなくてはいけない。負荷は相当のものだったと推察する。

■慣れを破壊する『+1』

 ブライトンは横にスライドしながら守備しているうちにだんだん慣れてきたような感覚になってきたのではないだろうか。シティの左右への揺さぶりがキレイに決まるシーンはそこまで多くなく、うまく自陣への侵入を最小限に抑えていたように思う。

 そんな「慣れ」をぶっ壊したのがベルナルド・シルバ。あらゆるところで均衡が保たれている状態の中で彼が顔を出すとブライトンのバランスが崩れる。例えば右のSBの位置、例えば中盤中央。ボールと選手の移動でルールにのっとって受け渡しをしていたブライトンにとって更なる異分子の存在は邪魔でしかない。

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 +1となったベルナルドを捕まえきれないことでブライトンは徐々にシティに進撃の隙を与えていく。もう1つ駆け引きで変化があったのはフォーデンとフェルトマン。最終ラインの大外に立つことが多かったフォーデンがやや引いた位置に立つことによってフェルトマンとほかの最終ラインの高さにギャップができる。

 シティの横揺さぶりが成功し、ギュンドアンへの縦パスにウェブスターが出ていかなくてはいけなくなったタイミングでフォーデンが裏をとれば、フェルトマンはブライトンの他の最終ラインと逆の動きをしなくてはいけない。シティはこのギャップを見逃さなかった。

 高さまで合わせたデートを対面がするという前提で考えると、フォーデンの鋭いオフザボールを生かすにはむしろラインの高さもずらした方がもしかすると守る方はやりにくいのかもしれない。ちょうどつるべのような動きになるし、高さも合わせつつ、ウェブスターの出ていったスペースを考慮しながら受け渡しの判断となるとタスクオーバー感がある。

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シティは30分くらいからこのフォーデンのオフザボールを活かす形を狙っていた。したがって、彼がスコアラーになったのは偶然ではないだろう。彼の斜めの動きでボールを引き出すスキルはこの日のシティの仕上げの重要な要素であった。

■不定形に感じる理念の浸透

 後半に入るとだいぶシティの攻め込みはだいぶ鳴りを潜めるようになる。いくつかポイントはあるが、まずはブライトンが4-5-1のような形をメインにして、横幅をなるべく使わせないような形を取ったことだろう。

 特に、右のWGの位置に入ったタウはディアスに対して外切りでプレスをかけるように。SBへのパスへの警戒がうかがえる。2列目の人員を増やしたことで横のノッチが発生する頻度はかなり解消されたように思う。

 それでもいくつか懸念は残る。例えば、デ・ブライネの存在。前半は組み立てでは大人しかったデ・ブライネは後半に動き出す。列落ちでボールを引き出すと、ドリブルで自らすべてを破壊しに行く。こうなるとブライトンとしてはノッチどうこうの話ではなくなってしまう。前半は割と彼の負荷を下げる意味もあって、こういう動きは抑制していたのだろうけど、いざとなればこれがあるのはシティにとってはでかい。

 もう1つのブライトンの懸念はプレスラインが下がり、自陣深い位置からのボール運びを余儀なくされること。しかし、この懸念は杞憂に過ぎなかった。彼らのボール運びのスキルはシティのプレスをあっさり上回る。

 次々と空いているスペースに顔を出してボールをつなぐブライトンの面々。相手が空けたスペースに顔を出す不定形のような形で、メカニズムもつかみづらいように見える。シティからボールを奪って落ち着ける部分までこなし、ペースを狂わせたといっていいだろう。しかも、この先発はシーズンを通したおなじみのメンバーというわけではない。それだけにボール運びの理念がチーム全体に浸透していることがよくわかる後半となった。

目次

あとがき

■デ・ブライネの怖さ

 ビスマ、ウェルベック、ランプティなどの主力は欠場。マーチやモペイもベンチからという難しいスカッドの中で攻守によく練り上げられたアプローチを見せたのはポッター監督の手腕だろう。ただ、彼らがいれば勝てたか?と聞かれると難しいところ。最後の怖さがないのは、どのメンバーが出てきても共通だからである。

 この試合でもそこを除けば、かなり満足度は高かった。ただ、彼らがいなくてよくやったとは思えど、彼らがいたらゴールが決まるようになるか?といわれると答えに困ってしまう。理念は悪くないが、足踏みが続くブライトンの今季を象徴するような内容と結果だったように思う。

 相手に与える怖さといえば、デ・ブライネである。ブライトンの左CBであるバーンは鈍足であるため、比較的降りる選手を早めに捕まえに行く特徴がある。ただ、タイミングが早すぎると裏を取られるので、捕まえに行く瞬間の見極めは結構難しい。しかし、バーンは割とミスなくやっていた。

 ただ、そのバーンが唯一明らかにミスったのがデ・ブライネを捕まえに行くとき。やっぱり早く捕まえたくなるのだなと。それだけ怖い存在なのだなと感心した。

 この試合に限らず、デ・ブライネが立つ位置によって相手のブロックがゆがんでいる様子をよく見かける。まだボールに触ってないのだけど、相手に絶大な影響を与える。今季感じているデ・ブライネの怖さをこの試合でも改めて再確認することができた。

試合結果
2021.1.13
プレミアリーグ
第18節
マンチェスター・シティ 1-0 ブライトン
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City: 44′ フォーデン
主審: ダレン・イングランド

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