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「もしかしたら『是』なのかもしれない」~2020.12.13 プレミアリーグ 第12節 アーセナル×バーンリー レビュー

 スタメンはこちら。

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 今節も試合の展開はそこそこに思ったことを書きます。

■ノースロンドンダービー後の発言は額面通りなのか

 このレビューを見に来ている皆様は試合観た方でしょうか。だとしたらそれだけでおつかれさまです。90分間目新しいものが見られるような試合だったわけでもなければ、共にシュート機会が多くエンタメ性だけでも担保されているような試合ではなかったですね。90分見るだけで一仕事感がすごかった試合でした。特におつかれさまだったのはアーセナルファンの皆さまですね。月曜の朝から活力を奪ってくるのはしんどいですね。

 アーセナルファンに聞きたいのですが、この試合で一番ショックだったことはどの部分でしょうか?タックルを仕掛けた側だったはずのジャカがいつの間にか相手にのど輪をかましていて退場したこと?敵陣にはゴールを決められないオーバメヤンが自陣のネットを揺らせることが分かったこと?試合後の報道でダビド・ルイスを筆頭とした主力選手がアルテタと関係が悪くなっていると報じられたこと?

 まぁ、確かにどれもショッキングでしたものね。ペペも頭突きもそうだけど、ジャカのような退場が続くというのはなかなか来ますね。チームがうまくいっていない時や選手個人が未熟で攻撃性が高いのか、あるいはそのどちらかなのでしょう。今のアーセナルは、ピッチにおいてできることを選手が何もやっておらず、できることを引き出して相手に勝つための準備を監督ができていない状態です。

 「やりたいことができない」ではなく「勝つための準備ができていない」と言ったのは、もしかするとアルテタはある程度今のアーセナルがやりたいことができていると考えている可能性もあると思っているからです。

 多くの人が「ん?」と思ったトッテナム戦後のピッチに関するコメントには自分も不思議な気持ちがありました。

 ただ、これはまぁ理解はできます。監督の発言は全てを鵜呑みにするのは危険です。本心とは真逆で外に向かって発しているように見られている発言が内に向けられたものであることは往々にしてあります。ダービー後のショッキングな敗戦を和らげるためということも考えられるでしょう。

 個人的にこの試合で一番ショッキングだったのはジャカの退場でも、オーバメヤンのOGでもなく、選手たちとの不和でもなく、もしかするとアルテタがトッテナム戦後に発したこの発言がもしかするとある程度本心によるものではないか?と感じるようになってしまったことです。

 そしてパスを引っかけるリスクが高い中央を避けてサイドから迂回するやり方が首位を走る好調のトッテナム相手の対策ではなく、降格圏で苦しむバーンリーに対しても同じように臨むべき今のアーセナルの普遍的なやりかたであるのはでないか?と感じてしまった点です。

 この試合のアーセナルは相変わらずCHがSBやCBの位置に降りて受けます。CHがバーンリーの2トップの後ろ、彼らの注意を中央に向けるような立ち位置で受けることはほぼありません。この傾向はトッテナム戦でも同様でした。しびれを切らしたように時折トーマスが中央を切り拓くドリブルを仕掛ける以外はCHが中央で重要な役割を果たすことはありませんでした。

 ジャカが仮に退場せずに90分プレーしてようと、プレーの貢献度という面ではそこまで大きな評価の変化はないかもしれません。もちろん、退場が彼のプレイヤー個人の規律に関しての評価に大きく影響があることは言うまでもありませんが。いずれにせよ、CHには中央での受ける動き自体があまり見られず、バーンリーのCHが非保持において危機にさらされる頻度はわずかです。

 時折、ラカゼットやサカなどスペース感覚に優れている選手が切れ目に顔をだして楔の受け手になることはありますが、彼らが受けるスペースを広げる助けはビルドアップの段階ではほぼされていません。数少ないバーンリーのハイプレス発動時も、中央で起点を作って前進することができず、外⇒外を使って相手に戻る時間を与えてしまいます。

■どちらも気持ちもわかる

 ここ数試合のアーセナルを見てファンの中ではライン間で受ける選手のスキルを重要と考える人と、そういう問題ではないと考える人が両方います。これは個人的にはどちらもわかる部分があるように思います。

 ラカゼットのような間受けに優れた選手でなければ確かに幾ばくかの中央の起点もできないのが今のアーセナルです。ウィロックはサイドに締め出されることばかりで、中央での起点として機能することはありませんでした。確かに誰を使うかで中央でのチャンスの頻度は多少は変わります。

 一方で、中央での起点を使う仕組みを整備できなければ、たとえメッシを連れてきても大きく変わらないという意見もまた理解できます。直近のアーセナルはCHが相手のCHと駆け引きして相手を引き出すこと。裏に抜けるボールを使いDFラインを押し下げることはあまりしません。WGとSBの2枚で外を循環させてクロスを上げることの優先度に比べれば、そもそもライン間での駆け引きが重要視されていません。

 重要視されていないのならば、誰を起用しても変わらないというのはわかります。ラカゼットをトップ下に置くというのはあくまで対症療法であり、根治に至っていないというのが後者の考え方でしょう。彼個人のアドリブで中央の起点となる動きが行われたとしても、チームとしてそれに関する共通認識を持っていなければ意味はありません。

 余談ですが、出口がクロスということが決まっていたとしても、中央を使い相手の守備の陣形を縦横に揺さぶることが出来なければ成功率も変わってきます。単純なクロスに強いバーンリー相手にも中央のパスをスイッチとしたスペースを狙うクロスの優先度は相変わらず低く、「せーの」で挙げるクロスが主流になります。

 これはクロスを待ち受ける側も同じで、PAに入る選手こそ多いものの、入り込むタイミングはみな同じで、PAで静止した状態でクロスを受けることがほとんどです。それでもチャンスを与えてしまうのが今のバーンリーの守備ブロックの強度です。

    確かにゴールに迫る時間帯もありましたが、この試合のバーンリーの出来を考えれば、ゴールに迫るだけでは十分とは言えないと思います。そして、それでも得点を決められないのが今のアーセナルです。

 ただ、トッテナム戦のアルテタの発言をそのまま理解するのならば、得点が必要な場面において、このクロスはアルテタの中では「是」であり、これが今のアーセナルがやるべき最も重要な攻撃ということでしょう。だとしたら、自分は『クロスにこだわったとしても、アルテタとモイーズは異なる』という過去の所見については考え直す必要があるかもしれません。

 ただ、中央を起点にした崩しと速いスペースに入れるクロスはアルテタ就任以降のアーセナルでできていた時代もありました。それだけに今のアーセナルには嘆きだけでなく不可解な思いを持っているファンは多いと思います。

■気になるのはファンの評価よりも・・・

 一般的に、監督に対する評価はスタッフ、選手、ファンそれぞれで乖離があることは珍しくないと聞きます。アルテタに関するファンの評価は今はうまくいっていないということは一致していると思います。しかしながら、彼がクラブOBであること、強いチームを倒してFAカップのタイトルをもたらしたこと(=一度はチームがうまくいっていること)、そしてフロントがアルテタをバックアップするように権力を彼(とエドゥ)に集中させていることから、日本のアーセナルファンはアルテタの解任に対しては未だ旗色がバラバラという印象です。

 自分は3つ目の要素から解任には積極的ではありません。今のアーセナルのやり方は一般的ではないし、ヴェンゲル以降に一般的になろうとしていた体制改革もフロント自ら幕引きをしようとしています。アルテタはまるで次のヴェンゲルかのように多くの権限を与えられています。そういう監督を仮に1年で放逐するようなクラブだとしたら、ここまでの舵取りは大失敗であり、ここから先の舵取りも期待できないことは自明でしょう。そもそも、アルテタに権力を集中させていくことに関して自分はわずかな期待と多くの不安を感じていましたが。

 愛着のあるアルテタにアーセナルで成功してほしい気持ちはありますが、ピッチ内の事象(ファンが最もフェアに判断できる要素だと思ってます)を見る限り、アルテタがこれを正しいアプローチと考えているのならば、チームがパフォーマンスを上向かせるのは難しいように思います。

 経験豊富な監督を外から連れてきたとしても、権力が集中している中でのアーセナルの体制的な問題の掌握、解決と選手たちのモチベーションアップ、さらにはピッチ上の事象に手を付けるのは至難の業です。週2日での試合が基本の例年以上の過密日程もこの難易度を引き上げている要素の1つです。

 かといって『内部の問題掌握においてアドバンテージがある』という理由だけで、OB監督を手を変え品を変え試すのはもっと気が引けます。

 ただ、心配すべきはファンの評価ではないのかもしれません。最近のピッチで起きる現象を見る限り、アルテタが気にすべき評価はむしろ選手からのものでしょう。彼らからの評価が非常に悪く、チームの状況がうまくいっていないということは十分にあり得ます。

 今回、具体的に報道が出たダビド・ルイスやジャカだけでなく、アルテタの下で十分な情熱を燃やせていない選手はピッチにごまんといます。数人の選手が徒党を組んで、クーデターを望む程度ならばなんとかスカッド編成で対応可能かもしれませんが、むしろ今のアーセナルのためにファンを納得させるパフォーマンスができている選手はわずか。それもここ近年にアーセナルに加入していた選手が多いです。

 そう考えると夏以降のアルテタ(ジャカやオーバメヤンはこの夏以前に彼の存在を理由に残留を決めています)やフロントの振舞いにチーム全体が不満を募らせていることになります。これが仮に真実ならば、先より今を見たアルテタの解任は起き得ることだと思います。残念ながらチーム半分を1つの移籍市場で入れ替えられるほど欧州の移籍市場は今は活発ではありません。アーセナルの選手側のメンタリティがあまりにも未熟である可能性も大いにありますが、現実として監督を代える方がはるかにハードルが低いのは事実です。

 今の段階ではフロントとアルテタの足並みはそろっているように感じます。このフェーズで解任するタイプのクラブとも思えません。それが選手たちにとってはありがたいことかどうかはわかりませんが。

 バーンリー戦で分かったことはノースロンドンダービーの不甲斐ないパフォーマンスはプレミアであればどのクラブでも通用しないことです。そしてそのパフォーマンスをアルテタが『是』として今後も続ける可能性が高いということです。そして、それはアーセナルが入り込んだ暗いトンネルがまだまだ続くことにつながるように自分には思えてなりません。

 アルテタの思い描いている画をフロントが『否』とする可能性はあります。しかし、そうなればフロントはアルテタを『否』とする前に、エメリ解任後に権力を監督に集中させてきた自分たちに『否』を突き付ける必要があります。アーセナルの問題は今の自分たちを否定するために、過去の自分たちをも否定しなければいけないことに帰結しているように思えます。

 この記事の多くは推測ですが、今のアーセナルの状況が複雑で混迷を極めていることは間違いありません。アーセナルファンにとっては辛い年末年始になることは避けられないように思います。うまくいっているチームが短期的に悪くなることはよくあっても、その逆はあまり起き得ないのがサッカーのしんどいところですね。

試合結果
2020.12.13
プレミアリーグ
第12節
アーセナル 0-1 バーンリー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
BUR:73′ オーバメヤン(OG)
主審:グラハム・スコット

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