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「サッカーは気持ち」~2020.12.26 プレミアリーグ 第15節 アーセナル×チェルシー レビュー

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目次

レビュー

■得点を手繰り寄せるいい兆候

 勝ったどうこうももちろんあるんですけど、この試合のアーセナルは率直によかったですよね。

 ボール保持の局面にフォーカスすれば、これまではごちゃついていた大外とハーフスペースの棲み分けができていました。ここまではここの動きが被ることが多い上に、サイドへの展開自体が各駅停車的であり、サイドの局面自体の質が悪かったわけです。

 それに比べれば、この試合はボールがサイドに渡るまでの局面も、渡ってからの局面もここ数試合に比べれば格段に良かったといっていいでしょう。サイドへの展開において貢献できるジャカの復帰も大きかったですし、左右にオフザボールの動きをサボらないマルティネッリやサカが配置されたことも大きかったです。ボールサイドに流れることでサイド突破を助けたスミス=ロウの貢献も光っていました。

 この日のアーセナルは1分半のシーンのようにサイドに流れるところで終わるだけではなく、途中からPA内に動きをシフトするところまで組み込まれていました。PAの人数も確保できるうえにマークの受け渡しも片側に圧縮することも難しいです。ティアニーもオープンな状況にしてからボールが渡っているのでクロスの弾道も鋭く、これまでのハイクロスばかりの供給にはなっていませんでした。

 サイドへの供給へのこだわりはCBへの起用にも見られました。マガリャンイスの欠場があるとはいえスピードに劣るマリの先発は、ミドルパスに長けている彼からの左サイドへの配球を意識したものであるでしょう。戦術的なデメリットは後述するとして、この左CBの配球の精度もサイドの状況の良化の手助けになっていました。

 1点目のPKのシーンもジャッジは微妙でしたが、ジャカの展開からティアニーがジェームズをぶち抜きPA内に入ったからこそ。そもそもこれまでのアーセナルは大外でボールを持っても、2,3人抜かなければPA内に入り込めないのがデフォルトでした。なのでこのPKのシーンも、アーセナルのクロスを上げる局面が良化していることの証明でもあります。もっともこのシーンはそのクロスがフェイクとなり突破を仕掛けたわけですけども。

 2点目のFKのきっかけも中央からサカが逆サイドに展開しようとしたシーンからでした。この局面で中央からサイドに揺さぶるということ自体がアーセナルになかったことです。得点自体はセットプレーでもこれらの得点を得るまでの過程はこの試合のアーセナルの良化を十分表していると思います。

■ハイプレスをやるっきゃない

 非保持の局面はハイプレスがベースでした。アンカーをスミス=ロウとラカゼットで受け渡しながら監視します。CBにこそ時間を与えますが、そこ以外はなるべく前を向かせることを最小限に抑えるプレスのかけ方をしていました。SBにはSHがプレッシャーをかけていきます。これまでのアーセナルとの違いは後方の選手を意識しながら1人目のプレスをかけるようになったことです。同サイドの後方の選手を見ながらのプレスなんて当たり前じゃん?って思うかもしれないけど、それが出来なかったのがこれまでのアーセナルです。

 アーセナルが高めのプレスをかけていったのはCBのスピード不足によるところが大きいでしょう。エイブラハムやヴェルナーと真っ向でスピード勝負をすればアーセナルの守備陣が大破するのは目に見えています。したがって、前から潰すことで前線に勝負をさせないという戦い方を選んだのがこの試合のアーセナルでした。

 カウンターをうけないためには、当然攻撃の完結の仕方も重要です。なので、相手陣奥深くまで攻め込むことができてPA内のクロスを何とか対応するという状況を作る攻撃もこの試合の守備の流れを作る一因でした。それが出来なければ、パブロ・マリが警告を受けた16分のシーンのようになってしまいます。エルネニーのボールロストはこうした場面を作ることが多く、チェルシーは途中から彼のところをボールの取りどころと定めていました。

■交代潰しのアルテタ

 アーセナルの守備で気になる部分はCHとCBの間のギャップです。ジャカやエルネニーが釣りだされた時にこのスペースがぽっかり空くことがあります。しかし、チェルシーはこのスペースにパスを供給することができませんでした。

 後半のジョルジーニョ投入はアーセナルのMF後方のギャップをつくための物でしょう。空間認知力に優れ、ワンタッチのパスで間のスペースにボールを送ることができるジョルジーニョならば、そのギャップを突くことができるとランパードは考えたのだと思います。

 アーセナル目線では別の問題があります。それはこのハイプレス主体の守備はどこまで持つのか?という部分です。前線の運動量が落ちてしまえば、後方の守備陣が広いスペースでさらされてしまう機会は当然増えます。すでにパブロ・マリは警告を受けており、こういった機会が増えることがアーセナルにとっては望ましいものではありません。

 したがって、どこかでDFラインを下げて相手を迎え撃つタイミングを作らねばなりません。アルテタはそれを後半開始に設定したようです。アーセナルが撤退し、スペースを消すような守備を意識しだしてしまうと、上述のようにギャップをつく部分に関して一日の長があるジョルジーニョ投入による効果があまり見られないようになってしまいます。ジョルジーニョの投入と撤退守備の決断の因果関係がどこまであるかはわかりませんけども。

 アーセナルの守備は完ぺきではありませんでしたが、これまでに比べれば明らかな改善が見られます。ハイプレスを主体とするやり方は90分間主導権は握れないでしょう。この日のように欲しい時間帯に得点が取れなければ苦しいやり方であることも確かです。そして、過密日程の極みである今シーズンにおいてはあまり適した戦術とは言えないでしょう。機動力に欠ける選手がいるアーセナルにとっては汎用性が高いやり方とは言えません。それでも、この試合においてはそのやり方で一定の主導権を握ったことは明らかですし、内容の改善ととらえていいと思います。

 チェルシー目線で言えば後半はクロスゲーになってしまいました。せめて、ホールディングかマリをエリア内から動かす中央の揺さぶりは欲しかったところです。彼らはPAに限れば信頼がおけるCBたちです。一方で守備範囲とアジリティには明らかな不安要素があります。エイブラハムには起点になる働きは期待できないので、撤退している中でCBのラインの上下動を強いるような動きはできませんでした。

 プリシッチのドリブルにはDFラインを動かす力はありましたが、彼のドリブルに合わせるチェルシーの面々のオフザボールの動きが乏しく、威力が最大限に発揮されたとはいいがたいです。中央での揺さぶりが効いてこないとなるとサイドからのクロスがピンポイントでの精度のものが要求されることになります。ジエフが不在の今のチェルシーにはそれを求めるのはなかなか厳しいでしょう。

 アーセナルは深い位置からのカウンターの形が見られたのも進歩でした。ラカゼットの降りる動きと逆の裏抜けのコンビネーションでチェルシーの高いラインを逆にスピードで上回る場面も。ボールを持たせて自在に攻撃とまではいっていませんでしたが、十分に深い位置に撤退したアーセナルにも攻撃の機会は存在していました。

 最終局面のブロック守備では課題もあり、最後はバタバタとして追いつかれそうになる場面もありました。しかし、レノのPKストップもありアーセナルは快勝。未勝利記録をストップし、ファンにボクシングデーのプレゼントを渡すことが出来ました。

あとがき

 レビューを書いてきて2年半弱。ここ数か月のアーセナルをレビューしながら思うのは『サッカーって気持ちだな』ということです。いやまぁそれだけじゃないんでしょうけどもね。ただ、少し前だとこういう気持ちっていうのは言語化をサボった逃げの言葉だなとか思う感じだったのですが、最近のアーセナルは良くないことに戦術以前の問題っぽいことをぼろぼろ出しておりまして、戦術どうこうとかは二の次だなと思うようになったわけです。

 これは1つのチームを長いこと見ているからこその部分もあると思うわけです。細かい所作とか態度とかプレーに違和感を持つことも多くなるのは、『ファンとして』1つのチームを追っているからこそ。ミスした後のリアクションとか、プレーが切れた後の喜怒哀楽とか、これまでの試合に欠けていたそういう部分がこの試合では見られました。アーセナルファンにとっては久しぶりに心から『これだけ頑張っている選手たちに勝ち点を取ってほしい』と思えた試合だったのではないでしょうか。

 逆に言うと負けまくっているときは印象に引っ張られるので、何ができたか何ができなかったかということを落ち着いて整理して振り返ることもレビューの役目になるのかなと思っています。この徒然なる書き方スタイルは実は結構読み物としての評判も良かったりするのですが、より写実的で事実ベースで時間経過に沿った従来の書き方もアーカイブとして考えると悪くないのかなと思ったりします。というわけで書き方はどうしたらいいか悩んでます。

 ただ、この試合を書いていて思ったのは盤面についての内容に迫るほど、ですます調がしんどいということでした。なので、試合の具体的な内容に踏み込んでいくようになると、少なくとも文体は戻す必要がありそうだなと思っています。

 話がそれました。アーセナルに話を戻すと、この試合に関してはゴールは幸運なスーパープレーに恵まれた部分も多かったのは確かですが、それを掴みに行く姿勢というのは見られたように思います。勝てなかった試合の中で言うとレスター戦の内容も勝利こそつかめなかったように思いますが、この試合のように奮闘していたように思います。そういう試合は負けてもなお振り返りたくなります。

 実はウルブス戦以降はレビューを書くのに試合をみかえしていません。ジャカの退場以降の展開に想像がついてしまったバーンリー戦は終盤は1回もろくに見ないまま書きました。この日のアーセナルはたとえ敗れていたとしても見返してレビューを書きたくなる内容でした。

 チームに何が起こっているかとか、選手が抱える問題だとかサッカーの試合においては外からではわからないことがたくさんあることは事実です。一方で『答えはピッチに全て落ちている』という考え方も自分にとってはまた真実です。この内容で勝ちを掴んだアーセナルに何が起きたのかは自分にはわかりません。しかし、ここ数試合では見られなかったいいプレーが要所で見られたのがこのチェルシー戦です。

 外からで何がわかるんだ!といいたくなる人もいるかもしれません。それはもうその通りなんですよ。あなたの言う通りです。それでも自分は『良くなった証も悪くなった兆候も最後はプレーに反映される』と信じてまた次の試合もレビューを書こうと思うわけです。

試合結果
2020.12.26
プレミアリーグ
第16節
アーセナル 3-1 チェルシー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:35′ ラカゼット, 44′ ジャカ, 56′ サカ 
CHE:85′ エイブラハム
主審:マイケル・オリバー

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