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「数的不利の着地先の意味」~2020.11.21 J1 第28節 大分トリニータ×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
『左高右低』で迎え撃つ

 今季ここまで前からのプレッシングに苦しんだケースはそこまで多くなかった川崎。例外の1つは2節前の札幌戦。この試合では出足が鋭いマンマークに中盤が剥がせずに前進ができなかった試合である。今節の大分戦も川崎は前半は前進に苦しんだ試合。ただ、この試合の大分は激しいマンマークを常時実践していた札幌とは異なるアプローチである。

 大分は配置で言えば3-4-3の並びだが、左右がやや非対称なのが特徴的だった。左のシャドーの野村は1トップの伊佐と並び前線の守備に参加する一方で、右のシャドーの町田はリトリートして中盤の守備の比重の方が大きい。したがって、守備時の大分の陣形は4-4-2もしくは4-4-1-1のような形。両シャドーは左が高く、右が低い関係を築いていた。

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 大分が際立っていたのは後方とのプレスの連動。プレス隊の伊佐と野村はそれぞれCBにプレッシャーをかけに出ていくタイミングがあるのだが、後方の長谷川雄志がそれに対応してCBの1つ前のポジションの選手にプレッシャーをかけに行く。

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 川崎の守備でもよく見られることなのだが、前プレの際にはこの前方の守備者のプレスに合わせて後方が出ていくタイミングが合わずに相手に隙を与えるシーンがある。

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 この日の大分はそのギャップが非常に少なかった。野村、伊佐という先導役と長谷川という後方部隊の連動が見事。川崎のCBはプレスがかかったときに1つ前にパスを出すことができなかった。

 川崎がここから脱出するには長いレンジのパスを駆使する必要があった。大分は完全なオールコートマンツーではないので、近いところのパスコースは埋めていても遠くの選手までマークが行き届いているわけではない。可能性を見せたのはソンリョン⇒山根へのミドルパス。前に出てくる野村の背後は空くことが多く、ここにあらかじめ田中達也が出てくることは少なかった。

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 なのでこのパスルートが開通すれば時間を得ることができる川崎。ただ、10分までにあった2回のパスでは出し手のソンリョンもピタッと置けないし、受け手の山根も少しまごついてしまう。ここで時間を作ることができれば相手にリトリートを決断させることができたはずである。ここは向上の余地である。

 この日の川崎は裏へのパスの精度もイマイチ。山根のスペースに後追いで出てくる田中達也の裏のスペースを含めて、ミドルゾーンに構える大分の背後をつけなくなる。それでも10分を過ぎると大分がプレスを発動させる機会は徐々に低下。段々とプレスに出てこない大分を川崎が押し込む場面が出てくるようになった。

【前半】-(2)
退場にまつわるエトセトラ

 攻撃においても大分は「左高右低」。左CBの三竿がSBの位置をとり、同サイドWBの田中達也は前に。逆サイドのWBの小出は田中達也に比べると低い位置を取ることが多かった。この試合の前半の大分は右サイドからの攻めが多かった。スタートとなるのは小出が長谷川竜也の届かない大外で受けること。長谷川竜也が間に合わないスペースで受けることで、まずは登里を引っ張り出す。

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 こうして車屋のカバー範囲を広げるのが第一歩。このサイドのハーフスペースに伊佐や町田が流れることで登里が空いているスペースを突く。車屋を登里のカバーに動かした段階で中のCBは谷口1枚になる。逆サイドの野村や田中達也はこの右サイド攻略に合わせて、PA内に雪崩れ込むといった形。最後の仕上げは左サイドのこの2人と伊佐と町田の流れなかった方の計3人。この3人で川崎のPAを強襲する。

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 というわけで川崎はWGとSBのギャップを突かれた前進を許すことになる。川崎の左を狙ったのは齋藤ー山根ラインよりも、長谷川ー登里ラインの方が狙い目だと思ったのか、それとも大分が自軍左サイドをフィニッシャーとして使いたかったからなのかはわからないけど。

 飲水タイム明けに実践した川崎の布陣変更は守備時のこのギャップを埋めるためのものである。まずはWGの長谷川と齋藤をサイドに出してマークをはっきりさせる。そしてSBが仮に前に釣りだされたとしてもCHが2枚に増えたことでSBが出ていったカバーに出やすくなる。普段だったらジェジエウは山根の裏を自動的にカバーするように、広い範囲でクラッシャーの役割をこなすのだが、この日は出場停止で不在。まずはCBにはCBとしてエリア内の仕事に専念してもらう。それがこの変更の意図だったと思う。

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 というわけで谷口彰悟の退場シーンは野村に入れ替わられた個人のミスというのが大前提ではあるが、そもそもCBが外に出ていってカバーする機会を作ってしまったことが川崎の飲水タイムでの修正が機能していない証拠といえる。この場面では大島がフラッと前に出ていってしまっているのが気になる。修正後に任されていたCHのタスクの1つはCBの行動範囲を狭めることである。

 大島はこの試合における守備のタスクをこなせていたかは微妙。ボールハンターではないが、ボール周辺の動きを察知する危機管理能力には優れているのだが、この試合では大分のパスワークにだいぶかき回されてしまったように思う。

 退場シーンをさらに巻き戻せば、ボール奪取後の守田の縦パスが齋藤と会わずにロストにつながっている。このロスト後の縦パスの精度は川崎の武器だったのだが、このシーンに限らずここ数試合はどうもこのパスが決まらない。

 したがってこのシーンはこの試合の守備における構造的な欠陥とここ数試合の川崎の課題が谷口のミスを引き起こしてしまったとするのが個人的な見立てになる。

 川崎は守田がCBに入り布陣を4-3-2に変更。ここから受ける展開が続くことに。まずは1-0で前半を終えるのが川崎の優先事項だっただろうが、まずはこれを完遂。試合は1人少ない川崎が1点のビハインドでハーフタイムを迎える。

【後半】
この場面においてはアリ

 川崎は三笘と田中碧を投入。4-3-2のフォーメーションは継続。前半は長谷川竜也がストライカーとサイドハーフを兼任するように張りまわっていたが、後半は三笘と小林が前残り。インサイドハーフに運動量の不安がある中村憲剛を外し、行動範囲が広い田中碧を入れることで後方を3人の根性で賄うことに。

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 行動範囲は広いものの、横幅まで3人でカバーするトライだったので川崎の間のスペースは空いてしまう。大分はこの空いているスペースに野村が降りてボールを受けることで落ち着きどころを作る。野村のようなキープ力はあるがゴール前での仕事ができる選手が降りてくる機会が増えると、前にいるべき時にいられない!という難点がある。しかし、この日の1-0という状況、相手の後方のスペースの広さ、同サイドに高い位置で輝ける田中達也がいるという状況を加味すれば、ここで低い位置の起点としての役割を野村に求めることはアリ。大分はこのようにしてボール保持の時間を作っていた。

 川崎が10人になって大きく変わったのは攻め手のコンセプト。前半はサイドから相手を引っ張り出して、裏を狙って押し込む形が多かったが、10人になった後半はよりダイレクトに中央の打開を狙う方策にシフトした。

 中央の3センター+2トップは上下動で近くを塞ごうとする大分のディフェンスを縦に揺さぶる。おそらく中央での駆け引きを行うことでゴールにより直線的に向かいたいというコンセプト。確かにパスを通す難易度は上がるが、中央に密集して奥行き勝負する方がゴールに届かせるまでに数的不利の困難には直面しにくい。

 基準点を設けずに狙いを絞らせにくくしたのも工夫の1つだろう。「三笘をフリーマンのように起用した」という鬼木監督のコメントも、受け手とフィニッシャーとしての役割の色が濃い小林悠を下げて、万能型の旗手を2トップの一角として入れたのも、抜けだす選手と抜けるパスを出す選手をシームレスにするためだろう。

 中盤中央ではボールの受け方で1枚剥がすスキルと細かいところを通すパス交換で勝負!というのはこの試合における川崎の勝利には悪くない選択だったと思う。実際にチャンスを作れる場面もなくはなかったし。大分側からすればローラインにシフトすれば抜け出されることもないのだが、押し込まれる展開は避けたいということだろう。撤退守備にシフトすることなく、前に出てきてくれたのは川崎にとっては一縷の望みでもあった。川崎にとってもこのやり方はこの局面ならアリに見えた。

 最終的に押し込む場面ができたところで川崎はレアンドロ・ダミアンを投入。最後まで同点の意志を見せるも、ゴールには届かなかった。

 結局試合は1-0で終了。大分が10人の川崎をストップ。目の前での優勝を阻止することに成功した。

あとがき

特性に見合ったリスクとミッション

 見事にミッションコンプリート。特に前半に見られた連動したプレスはとてもよかった。終盤を見ると押し込まれるとバッタバッタすることはよくわかった。その分高めで食い止める方策を整備するのはとてもいい補完の仕方だと思う。だからこそ、なるべく遅い時間まで押し込まれることを嫌がっていたのだろうと思うし。大外でレーン分けをしながら進むやり方も川崎相手に良くマッチしていた。片野坂監督はしてやったりだろう。

 個人で見るとこちらが抜いたと思ったところに出てくる鈴木や、右サイドでの組み立てと後半はボランチとしても高い守備力を見せた岩田もよかったが、フィニッシャーとしてもボールキープ役としても優秀なうえにプレスの先導役もこなすことができた野村が最も印象に残った。徳島時代から思っていたけどいい選手だなぁ。

■この手法、立ち位置は?

 谷口の退場が試合を変えてしまったことは事実だが、後半のサッカーを11人でやっていれば点とれたのに!という感じでもないし、10人だったからこそ後半のやり方が顔をだしたともいえそう。なので、この試合の位置づけはかなり難しい。

 中央で密集して奥行きを狙うというやり方はこの試合の勝ち筋としては非常に有効だったと思うのだが、逆に今季の川崎の中でこのやり方がどういう立ち位置なのか、そして来季以降にこのやり方がどういう役割になっていくのか(もしくは全然ならないのか)はよくわからない。

 負けた理由は単純で前半にとられた優位によるところである。この試合でもっとも気になったのは大分が非常に彼らのオーソドックスなやり方で川崎を攻略したこと。大外とハーフスペースを組み合わせて相手陣に侵入するというやり方は彼らのベースといえる手法だし、川崎の4-3-3の弱みであるWG-SBとのギャップを考えてもWBに大外の起点を作りだすのは当然。このやり方にすんなり屈してしまったのは気になる。ジェジエウがいれば彼のサイドは何とかしてくれるかもしれないけどもね。

今週のオススメ

 ソンリョンのセーブ各種。今季は地味にセービング向上しているけど他サポはなかなか気づかないので川崎サポはどんどん大きな声でほめていってほしい。

試合結果
2020.11.21
明治安田生命 J1リーグ 第28節
大分トリニータ 1-0 川崎フロンターレ
昭和電工ドーム大分
【得点】
大分:36′ 野村直輝(PK)
主審:笠原寛貴

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