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「遅すぎたスタートライン到達」~2020.11.3 J1 第26節 川崎フロンターレ×北海道コンサドーレ札幌 レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
家長が収めどころになる理由

 共に中2日で迎えた一戦。日程の余裕よりも集客を取った感の火曜祝日開催である。よりハードなのはおそらく札幌の方。大阪からの川崎という2連アウェイ連戦。ホーム連戦となった川崎に比べると難しい部分が大きい。

 しかしながら、スターティングメンバーを見ると札幌は高さよりスピードで揺さぶれる選手をそろえてきた。したがって、これはおそらくハイプレスを仕掛けてくるのだろうなという予感。そうでなければ札幌はゴールに近づくのは難しいだろうからである。プレビューでは全然違うことを書いたのに、予想って難しいものだね。

 スタメンを見た時の印象通り、札幌はスピード勝負。守備においてはマンマークを主体に。トップに入った荒野はアンカーの守田を監視。それ以外のメンバーもそれぞれ自分の担当を受け持って厳しくマークに行く。

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 特にハードなのは中盤のマークだった。川崎の最終ラインの中盤への縦パスはほぼ後ろ向きで受ける状態を作り出されていた。これほど中盤のポストが求められる試合というのはなかなか珍しい。川崎の中盤は厳しいプレッシャーを受けながら横に何とかはたこうとするが、このパスがズレたところからカウンターを食らうパターンが頻発していた。

 というわけで止まって受けてはらちが明かない川崎。ひとまずは動きながらプレスを外すトライをする。8分のシーンは脇坂がサイドに流れながら山根と入れ替わる受け方を試してみる。うまくいかなかったけど。こうして動き回って、ギャップや受け渡しが発生しやすい状況を作り、自陣を脱出するというのがひとまずの狙い。

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 12分のシーンのように旗手に2人(宮澤、高嶺)がついてきたタイミングなどはズレを活かす絶好機。一度はボールが札幌サイドにわたるものの、セカンドボールを拾った守田からサイドに展開。このシーンでは札幌の守備にズレが発生したといっていいだろう。

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 しかし、こういったシーンはあまり多くはなかった。川崎の動きは札幌と比べると少なく、札幌を動かし続けるだけの正確さや動きの逆を取る華麗さも持っていなかった。こういう展開になれば、背負って受けることに関してはチームで群を抜いたスキルを持っている家長にボールが入ったときに最も落ち着くのは必然である。落ち着いただけでそこから先は見えなかったけど。

 マンマークの場合は、リスクが大きいのは川崎のCFと札幌のCBのマッチアップなはず。ミンテはダミアンに粘り強くついていたので後方としては入れにくかったのかもしれないが、この日は珍しく右サイドに流れる動き(福森がたまに戻り損ねるから)を挟むなど引き出し方は工夫をしていたので、中盤で引っかかるパスを繰り返すくらいなら、もっと前に当てても良かったようにも思う。

【前半】-(2)
脇坂の混乱

 札幌の保持はプレビューで触れた通り4-1-5のような形が中心に。この日の札幌の布陣の特徴はチャンスメーカーが左サイドに偏重しているところだ。長いパスを正確に飛ばせる福森、幅を取ってからカットインで勝負できるルーカス・フェルナンデス、そしてドリブルを軸にボールを運べるチャナティップも左サイドに流れることが多かった。

 歪みが出ていたのはまず前線の守備から。ビルドアップにおいて札幌のCBに入る宮澤とミンテは幅を取るため、川崎のWGがCBに食いつくことが多かった。そのため、札幌のSBの位置の選手は川崎のインサイドハーフが捕まえに行くまではフリーになる。

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 特に厄介なのは福森。PAにも逆サイドにも自在に蹴ることができる彼に時間を与えてしまうと、ここから大きな展開で揺さぶられることになる。札幌は純粋な高さで勝負ができない分、川崎のラインを揺さぶるような動きが多かった。なのでフィードも人に向かってというよりもスペースに。

 プレビューで一つだけ書いたことが当たっていたとしたら「どちらが相手が望まないラインコントロールを強いることができるか?」がこの試合の優勢を決めるということ。福森以外にも札幌のフィードはスペースに出してラインを動かすことになるものが多かった。高さがない遅効を成立させるには緻密な長いボールの質が必要だが、この日の札幌は上下動で相手を乱すことができる前線の機動力と、その上下動を無駄にしない後方のフィードの正確さが兼ね備わっていた。さらにその仕上げとなるクロスも川崎が空けやすいファーを狙うことが多かった。横幅を取って攻撃に出る両WBとPAに飛び込む(待機だと上背がないので)ことを厭わない前線の献身は光っていた。

 ならばとっとと福森を脇坂が捕まえればいいやんけ!となりそうなものだが、厄介なのは札幌の前線は裏抜けだけでなく引いて受けても仕事ができること。脇坂が空けたスペースに引いて受けられるチャナティップと荒野が降りてきて受ければよりチャンスが広がる。

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 そうなると、脇坂は何も考えずに福森にチェックに行くことはできない。飲水タイム後の4-2-3-1風の配置変更はまず福森への牽制役をはっきりさせるための物だろう。旗手を右のSHに配置し、彼が福森を監視しやすい配置となった。

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 理屈の上ではこれで解決なんだけど、そうはいかなかった。修正直後の28分過ぎにはすでに前線に旗手が引っ張り出されて、脇坂が福森のケアに出ていき、そのスペースをルーカスに付け込まれている。

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 前線の2人があまり守備に貢献できないせいかもしれないが、前が誘導できずにサイドがしっちゃかめっちゃかになっている状況がはこの日は多かった。数とシステムは合わせても、後方が運ぶ動きを見せればほころんでしまう。そんなわけで飲水タイムでの修正は効果が薄く、劣勢のままハーフタイムの笛を聞くことになった川崎であった。

 試合は0-0。互いに無得点で前半を終える。

【後半】
対症療法では効果は限定的

 前半の課題をざっくりまとめると攻撃面では「相手を剥がせずにマンマークプレスにつかまってしまう」、守備面では「札幌の左サイドに点在するチャンスメーカーに自由を許し、スペースの取り合いに対して後手に回る」がとりわけ目立ったところだと思う。

 それを踏まえると川崎のHTの交代は理に適ったもののように思う。1人に対して相手が1人かかってくる状況ならば、相手を剥がす能力に長けている三笘は活きやすい状況だろう。行動範囲が広い田中碧は前半に脇坂が埋めきれなかった広いスペースのカバーリングが可能になるかもしれない。

 注意したいのは脇坂⇒田中碧で見込まれる改善はあくまで対症療法的な手法であること。前線の守備の基準点の整理がままならない状況で、あくまで後方のスキルでなんとかしようというやり方であるということである。札幌の前線は控え選手とスタメン選手のキャラクターのギャップが大きい。中2日の状況ではスタメンが前半うまくいったスタイルを90分続けるのは困難な可能性が高い。したがって、鬼木監督としては一定時間の我慢でしのいで状況が変わるのを待つということだったのかもしれない。

 というわけで少なくとも守備面での課題はこの交代では根治しないだろうなと思っていた。そして予想通り、非保持では引き続き困難に直面する川崎。後半も押し込まれる時間は継続であった。

 ボール保持の部分はどうだろうか。1人が1人を見るマンマーク主体の中で1枚剥がすことに長けている三笘を投入した川崎。それに対して、札幌は田中と金子の2枚を当てることで対応。そうすると車屋がフリーになる。ただ、三笘が2人を引き付けて車屋がフリーになるという状況を川崎は全くといっていいほど活用できていなかった。車屋はあとから出てくる登里と比べると、動いてボールを引き出すスキルが不十分で三笘との連携で左サイドを打開する場面はほとんどなかった。右サイドでもSHとSBのワンツーで打開を試みるが、この日は山根も齋藤もパスの精度が不十分ではがした後のプレーでのミスで攻撃が停滞してしまう。

 この日の札幌のプレスの秀逸だった部分は、多少パスでラインを越されても安易に自軍側に人数をかける選択をしなかったこと。むしろボールの後方にいる川崎の選手に対してもプレスをかけ続け、マイナスのパスコースを消していた部分である。うまくいったので勇敢だ。

 だからこそ、目の前の相手を剥がす意義は川崎にとってさらに高まる。札幌の先制点の場面で守田が前を向いてドリブルにトライをしたのは、彼自身が目の前の相手を剥がして時間を作ることの大事さを感じていたからともいえる。もちろん、ミスはミスなのだけど。ただ、この試合において厳しいバックパスをすること自体がリスクが大きいということは次の2失点目のシーンを見れば明白だった。

 この2つの得点の場面は札幌がドウグラス・オリベイラとアンデルソン・ロペスを投入した直後だったが、札幌にとって前線のキャラクターが変化したことは、ボールロストからのカウンターを仕留める威力の強化という意味合いで十分にプラスになるものだった。

 失点直後の川崎の交代はジェジエウ、ダミアン、そして齋藤を下げて宮代、中村、登里を入れる3枚替え。メッセージとしてはあくまで地上戦で目の前の相手を剥がすことにトライし続けろということだろう。PA付近まで進んでなお細かいパスの交換にやきもきするファンも多かったかもしれないが、ダミアンを下げてかつ山村を入れないということは空中戦ではなく、崩しきって得点シーンを作り出せというメッセージだったように思える。なので、安易なハイクロスこそこの局面ではNGなのだろう。

 交代選手が3枚入ってようやく押し込む時間を作ることができた川崎。5枚カードを切ってようやくスタートラインに立つことができた印象である。エリア付近でボールを回せればある程度得点の匂いを漂わせることができた川崎。ただし、カウンターの余力がある前線がいる札幌の得点の匂いを同じように漂っていたことも記しておきたい。

 80分の宮代の決定機のように川崎はゴールに迫る場面を作ることはできたが、ゴールを割ることはできず。札幌がリーグ戦史上初めて川崎相手に勝利を挙げることができた。

あとがき

■走り回るだけではなく取り上げる

 中2日という厳しい条件をアウェイ連戦で臨んだ札幌の方が一般的には厳しい戦いになる。マンマークでこだわるのであればなおのこと。ボールは追いかける方が疲れるからである。ただ、ボール保持率を見てみるとこの試合はトータルで五分五分、前半は57%と札幌の方が高かった。ボール保持率≠試合の主導権ではあるが前半の札幌や終盤の川崎を見ると、この試合はボール保持していたチームの方が常に優勢だった。

 なので札幌は川崎から攻め込む機会そのものを取り上げた形になる。肌感覚としては今季川崎を最も手も足も出ない状態で封じ込めた印象である。エネルギーがなくなりそうなタイミングで先制点を取れたのは大きかった。その先制点がまたエネルギーになるので。中盤は川崎に完勝。特に前線から中盤までこなし得点にまで絡んだ荒野は圧巻。そして、その選手たちと心中するような采配ができるペドロビッチもお見事。完敗である。

■中盤不発も割り切りもアリ

 優勢の時間が全くなかったわけではないが、さすがに2点ビハインドと残り20分でスタート地点に立つというのは厳しいものがある。今の川崎はよくも悪くも中盤で時間を作れるかどうかがカギになっている感がある。大島不在の声を嘆く声もこの日の川崎がそれができなかったという裏返しだろう。多摩川クラシコではそれができていたので、その声がなかったのもわからなくはない。大島のような限られた時間やスペースの中で相手に優位を取れる選手が欲しくなるのも無理もない展開だった。田中、脇坂、守田で全然できる日もあるんだけどね。

 この日の見せた姿も今の川崎の1つの顔ということだろう。登里の試合後コメントのように「こういう試合はシーズンにおいてある」と割り切ってしまう考え方は悪いとは思わない。これもまた本当のところなのだろうし。個人で剥がす力不足を感じさせる敗戦は糧にしやすいだろうし、この試合から選手たちの奮起を期待したいところ。いい薬になったと総括するのはそのあとにいい結果を出してからの話だけども。

今日のオススメ

 51分30秒付近。右サイドからの田中碧のCK。少し前のシーンから見てみるとエリア内にいた三笘がキックの瞬間にはエリアの外にいる。この試合現地で見ていたのだが実はこのシーン、蹴る前にやたら川崎のベンチが騒ぎだしているので「なんだ?」と思ったら、エリアの外の齋藤と中の三笘が場所を入れ替わった。そんなことがあってからの家長と三笘のコンビを活用した二次クロスを発動したので、中2日でも練られたセットプレーが出てくるのはすごいなと思った。

試合結果
2020.11.3
明治安田生命 J1リーグ 第26節
川崎フロンターレ 0-2 北海道コンサドーレ札幌
等々力陸上競技場
【得点】
札幌:62′ アンデルソン・ロペス, 65′ 荒野拓馬
主審:西村雄一

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