撤退守備の決壊と負傷のダブルパンチ
なでしこジャパンのオリンピック初陣。相手は前年のワールドカップの王者であるスペインである。立ち上がりのわちゃわちゃした展開を抜けると、スペインのボール保持が試合のベースとなる。日本は4-4-2で対抗。2トップがアンカーまでケアする形でバックラインに制限をかけていく。
日本としてはなるべく押し下げられたくはない。序盤にあった宮澤のパスカットからのカウンターは日本が非保持ベースで戦う上での理想と言えるボールの動かし方だったはずだ。
日本はプレスだけでなく、立ち上がりは自陣からのビルドアップもうまく流れに乗ることができていた。スペインは日本のバックラインに対してプレスに出ていったが、降りる長谷川の助けを借りつつ、藤野や長野がライン間で前を向くところまで届けて、日本はプレスを脱出することができた。
ボールをここまで逃すことができれば、日本は少人数でのカウンターに移行。スピードのある宮澤の抜け出しか、清水のオーバーラップのどちらか出口としてカウンターを完結させていく。
流れの中で地味に効いていたのは田中。最終ライン相手に起点を作り続けることでグイハロを最終ラインのフォローに押し込んでいった。
日本の前線の中でも特に藤野のパフォーマンスは圧巻だった。ライン間でカウンターのスイッチを入れることはもちろんのこと、自身も裏への駆け引きから抜け出す場面を作り出す。さらにはその流れで掴んだFKを自身で沈めてしまうのだから、立ち上がりの彼女の出来はパーフェクトだったと言っていいだろう。
ビハインドとなったスペインはリカバリーが求められる流れ。彼女たちの保持はやや右サイドが重めなのが特徴的。IHのボンマティが自陣に引くことで、左サイドはアイソレーション待ちで右サイドに作られたギャップを左に届けてもらうのを待つ様相が強かった。
よって、保持のズレを作ろうとするのは右サイド。CFのパラジュエロのゴリゴリの押し込みも目立ったが、スペインなので最後に頼るのは移動によるショートパスによる解決だった。左IHのプテジャスが右サイドに流れることでスペインは同一レーンに人を置くことが増えていく。
これで日本の対応は後手に。同点ゴールのシーンはこの同一レーンに重なった相手への対応に迷ってしまった熊谷が無効化されたことで背後をあっさりと取られてしまった。
スペインはこの右サイドのオーバーロードでの同一箇所の重なりで主導権を握る。右の大外の抜け出しから攻撃の糸口を見つけたスペインは前半のうちに解決策をみつけた感があった。
日本は押し込まれながらも藤野が機を見たプレスでのラインアップからなんとか光を探す展開。保持でも強まるプレスに屈してしまい、押し返す手段がないままハーフタイムを迎えることとなった。
後半、日本は清家に代えて浜野を投入。宮澤をWBに移す形で5-4-1に移行する。これにより前半以上に前からの圧力はかかりにくくなるが、それでも後方の枚数を合わせる必要があると判断したのだろう。前に入れた浜野は縦パスのターゲットとして田中にかかっていた負荷を分担する役割を担っていたように見えた。
しかしながら、スペインはバックスへのプレスが掛からなくなったことを利用して3トップの裏への動き出しから日本を揺さぶっていく。徐々に日本は左サイドの宮澤が対応に後手を踏む場面が増えていく。
さらには日本は右のWBに入っている清水が負傷交代。右サイドの守備にも不安が出てくる。両サイドの守備が後手に回ることになり、ついに日本は守備が決壊。左サイドから横ドリブルでカルデンティにボックス内に侵入を許すとそのままリターンを仕留められて失点を喫する。
日本は高い位置からのチェイシングを開始。だが、スペインも左サイドにボールを収めながら時間を作り、時計の針を進めていく。守屋を入れて前線のターゲットを増やす日本は右サイドから起点を作ってクロスを入れるが、決定的なシュートシーンを作ることができない。
結局試合はそのまま終了。日本はスペインに逆転勝ちを許す厳しいスタートとなった。
ひとこと
逆転負けに清水の負傷というダブルパンチを喰らった日本。かなり厳しい状況に陥ったが、ブラジル戦での巻き返しに期待したい。
試合結果
2024.7.25
パリオリンピック
グループステージ 第1節
日本 1-2 スペイン
スタッド・ドゥ・ラ・ボージョワール
【得点者】
JPN:13′ 藤野あおば
ESP:22′ ボンマティ, 74′ カルデンティ
主審:ブクラ・カラブビ
