MENU
カテゴリー

「『自ら決める』というリベンジ」~2020.10.31 J1 第25節 川崎フロンターレ×FC東京 レビュー

 スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
一手先の準備で脱出

 2020年の多摩川クラシコも第3ラウンドである。初戦は味スタで川崎が先勝。2戦目はカップ戦をFC東京が制し、ここまで1勝1敗という戦績だ。

 今季のこの対戦において展開を決めるのはFC東京のスタンスである。序盤は川崎と組み合って戦うことを決めたようだ。4-4-2で構えるブロックはミドルゾーンに位置する。トップの永井とレアンドロは最終ラインにプレッシャーをかけながら川崎とボールを奪い合う序盤戦だった。

 立ち上がりはボールをカットした流れからゴールに迫るシーンを演出できたのはFC東京の方。決定機とは言わないまでも、シュートまではこぎつけていた。ただ、試合は徐々に川崎がボールを握りFC東京を押し込むことになる。

 押し込むきっかけになったのは大外のポイント。左WGの三笘が意識が向きがちなFC東京の2列目の外側で守備網を横に引っ張る受け方をする。大外で幅を取ってWGが受けるというのはよく自分もポイントとして挙げる部分ではあるのだが、これはあくまで目的ではなく手段。ゴールに向かうためのやり方の1つである。ましてや三笘の対面はルヴァンカップで彼を封じ込めた中村帆高。この状況を用意するだけでは成功が約束されているわけではない。

 この試合の川崎がよかったのは大外より先に次の一手を用意していたこと。三笘には中村帆高が出ていかざるを得ない分、FC東京の守備ブロックは横に引っ張られる。これに合わせて、内側にはSBの登里やIHの中村憲剛が受け手として入り込む。FC東京のCB陣は中央にいるダミアンを優先して動かないのでこのスペースに入りこむ選手を捕まえるのが難しい。

画像2

 そうなるとここのスペースを埋めるべきは同サイドのCHであるアルトゥール・シルバ。ただ、そうなると川崎は今度はシルバが動いたスペースに人が入ってくるようになる。

画像3

 ルヴァンカップ準決勝ではサイドに閉じ込めることで川崎のアタッカー陣を封じ込めたFC東京だったが、この試合では大外には閉じ込めきれずに中央やハーフスペースを活用された一手先の展開まで入られてしまった印象を受けた。プレビューでもあげたようにFC東京のCHが開けたスペースを使えるかどうか?はこの試合のキーポイント。

   これができていたことからも川崎ペースだったことは窺える。20分のシーンのように三笘が出張した家長のポストから斜めに侵入する形のように、大外から斜めに入ってくる部分までデザインされていたのは川崎の良さであった。

【前半】-(2)
相手のラインを決めるのは自分たち

 中央で猛威を振るっていたのはダミアン。FC東京はラインの駆け引きをするのではなく、ダミアンにぴったりつきながら粘り強く戦うことを選んだようだが、逆にダミアンにFC東京の最終ラインの高さを決める権利を渡してしまったように見えた。ダミアンはポストプレイヤーではないが、ポストはできる選手である。背負いながらFC東京のDFラインを下げて、大外から斜めの角度で受けられる深さを作る。空いた内側を使ってもいいし、斜めに走りこんでくる外を使ってもいい。深さを得たことで川崎はだいぶ自在だった。ダミアンはこの後シュートを外しまくるんだけど、だからってダメダメじゃん!とは言えないくらい彼の攻撃への貢献度は高かった。

 PK獲得シーンも彼のところから。サイドを意識して徐々に重心が下がる2列目の前でフリーで持ち上がることができた守田から最終ラインの裏に抜けるダミアンにロブパス。ダミアンと純粋なスピード勝負ならやれるCBは多いのだろうが、体を当てられながらの並走になればDFにとっては難易度がグッと上がる。たまらずホールディングしてしまう渡辺の気持ちはわからないでもない。

 PKを決めて先制し、攻勢を強める川崎。基本はさっき述べた外から中央に入っていく形とダミアンをよりダイレクトに使う形の組み合わせ。その中で黒子として存在感があったのが両IH。中村憲剛はゲームメイクを守田に任せて降りて受けるシーンは控えめ。ただ、勘所を抑えるボール関与で攻撃のスピードを調整する場面はさすがであった。

    田中はダミアンが作ったバイタルのスペースに飛び込んだり、左サイドに出ていくこともある家長が流れた場所に顔をだしたりなどあらゆるところに顔をだして躍動。彼らの即時奪回における貢献度の高さも川崎の波状攻撃に一役買っていた。

 FC東京はロングカウンターによる陣地回復を狙わざるを得ない展開になっているのだが、徐々にカウンターの運び役の選手たちの球離れが悪くなる。複数人に囲まれながら1人で打開せよというミッションになるとさすがのFC東京の攻撃陣でも分が悪い。川崎のボールロスト場所が悪ければもう少しチャンスもあったのだろうが、押し込まれてからしかボールを取り返せなかったので致し方ない部分もある。

 長谷川監督はどこまで織り込み済みだったのだろう。試合前の会見ではある程度は受ける場面が増えるのは仕方ないとしていたけども。もう少し序盤のようなミドルゾーンでやりあうシーンを増やしたかったのか。それとも受けることは前提で、ルヴァンカップの焼き直しのようにサイドに閉じ込められなかったことが誤算だったのか。ちょっとそのあたりは読めなかった。

 ボール保持率がここまで高いチームが、これだけシュートが多いというのは結構珍しいようにも思う。清水戦とかもこんなスタッツだっただろうか。ただ、川崎は圧倒的に攻め込むも、最後のシュートが決まらず追加点には至らない。試合は1-0でハーフタイムを迎える。

【後半】
得た優位、変わらない優位、失った優位

 1点差でなんとかハーフタイムまでしのぐことができたというのが長谷川監督の本音だろう。後半は選手交代と共にシステムの修正を施した。後半頭から三田にかわり中村拓海を投入。中村拓海は右SBに入り、前半右SBを務めていた中村帆高は左に移動。ボール非保持時は両中村がWBまで下がる5バックを形成、ボール保持時には中村帆高はSHといっていい位置まで進出していたので、攻撃時は4バックに変化する形を採用したようである。

 システムを変えたのはおそらく守備面での要素が大きいと見る。前半はダミアンにDFラインの高さを決められてしまった。特に渡辺はPKのシーンで警告を受けてから積極的な対応が難しくなってしまった印象を受けた。後ろの枚数を増やしたのは川崎が起点を作り続けた中央の位置のケアにCBが出ていきやすくするためだろう。お前らにプレーする場所は決めさせないんだぜ!的な。

画像4

 そしてシステム変更以外にももう1つFC東京で変化が見えたのはボール回しの部分。やり直しが増えてボールをつなぐシーンが出てくるようになった。さすがにボールを持たせすぎ、押し込まれすぎという考えだろう。川崎のハイプレスに苦しむ場面もありながらも、自分たちの時間をつくろうという意識は見えた。

 圧巻だったのは得点シーンのディエゴ・オリベイラ。ハーフスペースで受けて大外にはたき、川崎のブロックを外に広げた後、最後裏をとって侵入し角度のないところからのフィニッシュ。安部の手助けを受けながら間違いなくこの日一番のFC東京の崩しから同点弾を演出した。崩しから決めるところまでディエゴ・オリベイラ。

 決定機を外し続けて追いつかれてしまうという流れだけ見れば、川崎は嫌な感じ。さらにFC東京の修正でダミアンで得ていた優位は前半ほど強烈ではない。しかし、修正してなお変わらなかった優位もある。この日の中盤での主導権は90分間川崎側にあったように思う。安部とシルバに対して川崎の中盤は常に優勢だった。

 特に彼らがチェックに行きづらい自軍深い位置でタクトを振るう守田のところで川崎は陣形を整えることができるのが大きい。田中碧がピッチ内のあらゆるところに顔をだしてバランスを整えるならば、守田は動かないことで落ち着きどころを作る。動くだけでなく、時にはボールを落ち着けて時間を作ることもできるようになった田中にはアンカー経験が活きるシーンが見られるし、それを押しのけてアンカーの座についた守田の凄味も感じる。この2人の躍動が追いつかれてなお川崎が主導権を握れた要因だろう。

 布陣変更して得た優位もあれば、失った優位もある。三笘とのマッチアップは中村拓海には少々厳しい部分があった。決勝点はここから。三笘が作ったタメから飛び込んだ中村憲剛が自らの誕生日を祝う得点を決めた。仕方ない要素も大きいとはいえ、シルバがマイナスのコースを埋めきれなかったのは痛恨か。

 選手交代で永井とオリベイラが下がるとFC東京はより厳しい状況に。ロングカウンター主体で行くのならば田川とアダイウトンでも十分にやれると思うが、前半にそれが無理だったからそもそも後半にボール保持に力を入れる修正を施している。もう一度長いボールをアタッカー陣だけでなんとかするという回帰で結果を出すのは難しい。長谷川さんにとってはわかっていた部分ではあると思うけど。

 試合は2-1で川崎の勝利。多摩川クラシコでのダブルを達成した。

あとがき

■勝ち点を取ることを考えると・・・

 そもそもの条件が苦しかったのは否めない。まずは連戦の真っ最中であること、そして後ろにはルヴァンカップの決勝戦が控えていること。ルヴァンカップの準決勝のリベンジに燃える川崎とは異なり、この試合だけに100%フォーカスできる状況ではなかったことは事実である。

 したがって、先制される展開は厳しかった。「受ける場面も出てくる」という言葉からはある程度劣勢の時間帯を覚悟する思いも見られたが、あくまでこの試合で勝ち点を取るという所にフォーカスするのならば、ディエゴ・オリベイラの得点はリードを奪うものでなくでは難しかったように思う。

 とはいえ、連敗中の後ろ向きな戦いと比べれば内容的に前を向けるものだったことも事実。ルヴァンカップ決勝は頑張ってください!僕は悔しくて見たくないので、どこかに遊びに行く予定です。

■受け止めて、跳ね返す

 追いつかれる展開でも落ち着いてみていられたのは、90分間優位を取れる部分があったからこそ。特に序盤のダミアンを使った主導権の握り方は自分たちで攻めるところを決める強い意志を感じた。FC東京のDFラインの高さを規定して、川崎がやりたい場所でプレーする。FC東京に閉じ込められてプレーすることで封じられたルヴァンカップのリベンジは内容も含めてリベンジできたといっていいだろう。

 そして後半は中盤でボールを落ち着かせて主導権を取り戻すと、最後は大外のWG勝負で試合を仕留めた。策を講じるFC東京を受け切って乗り越えたのはチームとしても間違いなく大きな自信になる。

 個人的な話になるのだが、正直コロナ禍においてなかなか普段見ている友人と盛り上がりながら試合を見るのが難しい状況で「わざわざ1人でスタジアム観戦行かなくていいんじゃないのかな?」と思う部分が自分の中であった。そういうわけでずっと自宅でTV観戦を続けているわけだが、この試合では今年初めて心の底から「ああ、スタジアムで見たかったな」と思う試合であった。なんでかは分からんけども。

 そういう試合をスタッフを含めたチーム全員で見せてくれたこと。そしてその試合の主役が中村憲剛であること。自分は幸せなサポーターだなと思うことができる一戦だった。

試合結果
2020.10.31
明治安田生命 J1リーグ 第25節
川崎フロンターレ 2-1 FC東京
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:24′ 家長昭博, 74′ 中村憲剛
FC東京:57′ ディエゴ・オリベイラ
主審:松尾一

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次