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「手を出せなかった余白」~2020.10.17 プレミアリーグ 第5節 マンチェスター・シティ×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
異彩を放つカンセロロール

 現地の予想フォーメーションに対して肩透かしを食らわせた両チーム。こういう試合が出てくると数字で表記するフォーメーションがどこまで意味を成すのかがわからないけども。なので上の図の並びはそんなに信じないでくださいね。

 わかりにくいものならば丁寧に見ていく必要がある。基本的にこの試合で分かりにくいことをやっているのはマンチェスター・シティの方であった。攻守ともに仕組みを把握するのにかなり時間がかかった。相変わらずめんどくさい監督である。

 まずはアーセナルのボール保持の局面から。アーセナルのボール保持の振舞いは4-3-3をベースにした形。中央でCHが落ちる動きを頻発させる分、両CBは横に広い位置を取る。SBロールのティアニーとベジェリンは押しあがる形になる。

 それに対してのシティはざっくり言うと4-2-4のような形でプレスに来る。高い位置からプレスに来るシティだったが、アーセナルに対して刈り取る姿勢を見せていたかは微妙。高い位置を取ってはいたが、人を捕まえる優先度が高かったわけではない。アーセナルの4バックに対して、4枚をぶつけてやろう!というのとは少し違うと思う。彼らの狙いは内側を閉じて、プレスに来た4枚の後ろで前を向くことができる選手を作りたくなかったことではないだろうか。

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 なので、コースは切るけど寄せ切ることはしない。列を超える動きを許すのはNGなので、SBに1つラインを超えたところで持たせるのはシティとしてはうれしくない。なので例えばティアニーを追いやるとしたら左サイドの奥が理想だったのではないか。ここに追いやれば怖くはない。

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 で、今季アーセナルがこういった敵チームのプレスに対してどのようにビルドアップで解決を図っているか?というと、左サイドの可変である。守備時の5バック⇒4バックへの移行でティアニーがSBの位置に出る。そして前方にいるWB(サカ)とWG(オーバメヤン)が内外奥を使い分けてボールを受けるルートを作り出すというのが鉄板である。下は過去の試合の図。

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 この試合のシティの4-2-4のようなプレッシングにおいて役割が異なった選手が2人いる。ウォーカーとカンセロである。ゾーン風味が強いハイプレスを敢行していたシティの中で、彼ら2人だけがマンマーク成分が強かった。それぞれオーバメヤンとサカの影を踏みながらついていく役目である。可変を潰すには人をつけるのが一番手っ取り早い。シティはアーセナルのビルドアップにおける肝である左サイドのWGとWBの2人に狙いを絞ってマンマークを敢行したのだと思う。

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 34分のシーンはこのやり方の効果がてきめんだったシーン。マガリャンイスのサカへの縦パスを狙い撃ちしたカンセロからカウンターから決定機を迎えたシーンである。

【前半】-(2)
『静』と『動』の組み合わせで前進

 続いてシティのボール保持の局面。陣形をあえて数字で表すのならば攻撃陣と似た4-4-2だったように思う。ただし、攻撃時と人員の配置は異なる。ロドリが最終ラインに入りアケ、ディアス、ウォーカーと共に最終ラインを4枚で組む。CHにはベルナルドとカンセロのコンビである。

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 4-4-2だと一般的にはパスコースを作るのがハードとされるが、ここはシティがうまく段をつけていた。この段をつける役割の選手がボールを持ち運べる役割をこなしており、これがシティの前進に大きく貢献していた。2枚のCH、2枚のCFはそれぞれ静的な方、動的な方に区分されており、動的な役割の選手が降りる動きでボールを受けてそのまま前にボールを運んでいくというものだった。

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 フェルナンジーニョではなくベルナルドをCHに使ったのはこのためであろう。低い位置から運ぶという役割はベルナルドにはうってつけであった。アーセナルのハイプレスはシティよりは人を捕まえに行く色が濃かったように思う。ジャカが前のプレスに加わることが多かったのは、低い位置まで降りていくベルナルドに引き寄せられる動きが多かったから。守備時は5-2-3っぽくなるアーセナルだったが中盤から一枚引っ張り出される形が多かった。

 失点シーンはこの中盤が引っ張り出された形から。降りるシティについていくアーセナル。ルイスやマガリャンイスが一度は高い位置まで出ていって食い止めるが、ディアスのパスで列を超すことに成功したシティ。前がかりになっているアーセナルの中盤の戻りより先に高い位置に進出する。ディアスからのパスを受けたマフレズが内側にターンし、逆サイドに運びつつ斜めのパスを。ここからフォーデンとベジェリンの1対1からシュートまで持ち込むとスターリングが押し込んで先制する。

 この日のシティの攻撃の仕上げはWGとSBの1対1だったように思う。なので、先に触れた縦に運ぶ動きとこのシーンで見せたマフレズのサイドを変えながら列を1つ突破するような展開でその場面をお膳立てするのが理想。

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 アーセナル側からするとバックラインとシティのアタッカー陣が同数で受けるのは厳しい。後ろに重い5バックもWGにリトリートを求めるのも、同数を受け入れられないからである。ペペのところは戻りが遅かったりの危うさはあったが、それでも攻撃面で対峙するSBにカウンター時に優位をもたらしてくれるとの判断だろう。それだけにSBにアケが出てくるのは予想してなかったはずだ。カンセロやウォーカーとは毛色が異なるけど、アケも特殊な役割を命じられた選手だったと思う。唯一の見せ場であった43分のシーンでばっちりペペを止めきったのは見事である。

 試合は1-0のホームチームリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
じわっと改善はみられたが

 確かにシティはアーセナルに対策を打ってきていた。が、それは完璧なものではなかったように思う。問題点の1つはボール保持と非保持における配置の変化が大きいこと。それでも相手を止めて時間を稼げる個人がいてしまえば、何にも問題ない。しかし中盤より前にその役割ができる選手はいない。したがって、アーセナルにとってはトランジッション局面での中盤の攻防はもう少し頑張りたかったところである。

 ラカゼットではなくウィリアンを中央で使った理由を考えると彼自身にドリブルで運んでもらいたかったのではないだろうか。ラカゼットはポストで起点になることはできるが、自身がボールをドリブルで運ぶとなるとより適しているのはウィリアンだろう。深い位置に押し込まれたとしてもそういった陣地回復の仕方があるとアルテタは考えたのではないだろうか。13分のシーンはウィリアンに前を向いて運んでほしかったシーンだと思う。しかしながら、こういう場面は前半に見られずウィリアンはほぼビルドアップにおいて貢献できていなかった。

 ジャカ、セバージョスも前半はライン間で起点になることができなかった。列を降りることでしかボールを受けることができず、シティが嫌がるであろう4トップのプレスの裏側で受ける役割を果たすことができなかった。結局、アーセナルが前半にボールを運べたのはマンマークを受けて警戒された左サイドから。ティアニー、サカが対面相手をずらしながらフリーになるスペースで受けることでしか前進できなかった。そのほかはアバウトな裏への長いボールが多かったが、オーバメヤンはともかくこの日の裏走りが少ないウィリアンとペペをターゲットにこのやり方というのは無理があったように思う。

 対策されてなお対策されたルートからしか進めないというのは問題点だと思う。したがって、後半はそのほかのルートを開拓するというのがアーセナルの課題になる。前半の話を長々と後半の項でしてしまったが許してくれ。

 後半のアーセナルのビルドアップの中では51分のシーンはボール運びがうまくいったといえるだろう。ここまではほぼ動きをみせなかったウィリアンが右サイドに流れてボールを引き出す。それに合わせてジャカが列を上げる動きでフリーになる。そこからこの日勝負したい左サイドに展開するという流れでスムーズに敵陣までボールを運ぶことができた。

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 一方でダメだったのは59分のシーン。守備の対応で慌てて戻ったシーンではあったという状況は考慮すべきだが、本来受け手として高い位置で受けたいはずのサカが最終ライン付近で出し手となっている。後方にはマガリャンイスが何もできない位置で余っている状況。いわゆる後ろが重たくて受け手がいないシチュエーションである。

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 この場面ではオーバメヤンへの縦パスをカットされることでカウンターを食らう。ただ、本当の問題はここで仮にオーバメヤンに通ったとて、彼の周りにサポートする選手がおらず、先の展開が見えないこと。アーセナルは個の出し手と受け手のバランスが後ろに傾倒することで終始前進が難しくなってしまったように思う。

 ウィリアンの行動範囲が広がり、徐々にサイドに起点を作れるようになるアーセナル。中央でCHが受けるスペースが高くなり、シティを押し込める場面も出てくるようになる。じわっとじわっとだったけど。前半は死に体だった右サイドの連携からペペの惜しい抜け出しとかは、後半に改善された良さである。

 ただ、アーセナルの課題は交代メンバーで爆発力を注入できないということである。特にこの日はWGができるサカ、ウィリアン、ペペが全てスタメンから出場。攻撃的なベンチメンバーはラカゼットとエンケティアしかいない。いい選手なのだけど、出てワンプレー、ツープレーの切れ味で勝負するタイプではない。シティに対してジリジリとボールと主導権を自分たちに引き寄せているようには見えていたが、シティもギュンドアン、フェルナンジーニョを投入し中盤の保持と包囲網を強化する。ウィリアン、うまくいきだした途端に下がってしまってちょっとリセット感があったのももったいなかった。

 惜しい場面がないわけではなかったが、エデルソンの牙城は崩せなかったアーセナル。試合は1-0。シティが3試合ぶりの勝利を手にすることに成功した。

あとがき

■余白へのチャレンジが物足りない

 シティのアーセナル対策は完全無欠のスーパー作戦というよりは、現状の粗がある完成度の中で、ある程度怪しいところがあるのを受け入れながらも、今の人員でできることをやったような印象を受けた。

 例えば、自陣からの脱出における長い縦パスを引っかける場面は結構目立った。ボールをドリブルで運ぶという解決策は、できる選手にそれを託して、この長いパスが通らないという問題を覆い隠すものである。でも、毎回はドリブルで運ぶわけにはいかず、パスも選ぶことも当然あるのでこういうエラーが発生するのはシティ側としてはある程度割り切っていたと思う。

 アーセナルがつくべきはこういうシティの作戦の「余白」だった。完全無欠じゃない作戦には余白がある。縦パスを引っかけた後の手早いフィニッシュまでの道筋。しかし、この日のアーセナルはボール奪取後にどうしてもスローダウンしてしまう。

 プレス局面を脱出した4-4-2ブロックの状況もシティの個々の守備能力を加味すると十分に余白なのだが、ここでもかなりボールの出しどころに困っていた様子。本文でも触れた出し手と受け手のバランスを前半に手付かずのまま進んでしまったのはしんどい。アーセナルのベンチメンバーの爆発力のなさ、そしてビハインドという状況を考えるとアルテタには選手交代以外にも早く手を打ってほしかった。というのが感想である。

 ウィリアンの移動範囲を広くして中盤が前を向く手助けをするとか、ラカゼットをCFとして置いて奥側に起点となる場所を作るとか。ビルドアップルートが限定されてしまったことは交代選手なしでもトライしてほしかった部分である。だって、今までできていた試合もあったのに。やってみてできなかったと、やらなかったというのは違うので、その部分でのチャレンジが見られなかったのは悲しい部分だった。

 シティは強い相手だが、メンバーの入れ替えや負傷者が多く、今季はまだ仕上がり途上のチームである。レノ、マガリャンイス、ティアニー、サカなど個人レベルで輝く選手はいたが、チームとしてはもう少しこのシティ相手に正面から向かい合ってチャレンジするシーンを作ってほしかった。それがアーセナルファンとしての思いである。

試合結果
2020.10.17
プレミアリーグ
第5節
マンチェスター・シティ 1-0 アーセナル
エティハド・スタジアム
【得点者】
MCI:23′ スターリング
主審:クリス・カバナフ

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