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「手段の質、量、選び方」~2020.9.27 J1 第19節 湘南ベルマーレ×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次


【前半】
狙いどころの狙い方

 確かに戦績だけを見ると日立台やヤンマースタジアムに比べればはるかに勝利数は多い。しかしながら、勝つにせよ常に粘られて苦労する印象が強いのがこのShonan BMWスタジアムである。昨年は大勝したものの、向こうが混乱に陥っているさなかであったことは見逃せない要素。それでも先制点を取るまで苦しめられた試合であった。

 今年の1回目の対戦も序盤は湘南に苦しめられた。この試合の湘南のプレスは高い位置からの中盤+WBのプレスが第一の矢、最終ラインがそれに呼応するように第二陣として高い位置に進出していく。川崎はここのプレスの網を突破できず、試合の序盤は湘南が川崎のボール保持を跳ね返して押し込む展開になる。

 序盤の湘南のこの圧力に屈しない姿勢を見せたのは守田英正。3分にターンからの持ち上がりで中盤の包囲網を突破すると、直後の5分にはワンタッチで早めに縦に入れて攻撃を加速させる。大島僚太が不在の中でボール保持において守田がこれだけ相手を見ながらプレーできるのは頼もしい限り。ベンチから鬼木監督が彼に最終ラインに下がらずに受けることを要求したのも、それができると評価しているからこそだろう。

 10分も経つと湘南のプレスも沈静化。川崎がボールを持ち、相手陣で押し込む時間帯になる。湘南のブロックは5-3-2。相手陣に押し込んで崩すとなるとやや人が多くてハード。この日の川崎は押し込んでからも苦労していたように思う。高さのない湘南の守備陣相手にクロス連打も一つの方策だったと思うが、ダミアンがベンチなこともあってか純粋な高さの土俵に持ち込むことはなかった。

 プレビューでも触れた通り、湘南相手に最も有効なのは最終ラインを背走させながら攻撃に対処させる状況を作ることだ。

 特にWB-ワイドのCBの距離が遠いことが多く、3CBの外側から裏抜けをすると相手の最終ラインを外から下げることが出来る。オーソドックスな例を説明をすると、サイドでだれか1人が相手のWBを引き付ける。引き付けたことでできたギャップで誰かが裏抜けをするという形。湘南は背走で対応するときのDF-MF間のスペースが非常に空きやすいので、マイナスで構える選手は欲しい。したがって理想はWGの裏抜けでの押し下げとマイナスで受けるインサイドハーフのコンビネーションで崩すこと。

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   例を挙げるとすると、裏抜けも折り返してからもちょっと時間がかかってしまったが、5分の田中からのパスを受けた旗手、脇坂の動きみたいな感じで。

    形にこだわらなくても、結局は3CBの裏から最終ラインを押し下げるのが目的。この日の湘南は3CHがサイドの高い位置にスライドして出ていく機会が多かった。スライドしながら3CHで68mを埋めるのはほぼ不可能。したがって、川崎は逆サイドへの展開を行い、薄いサイドを作ることでより裏取りを簡単に行うことが出来る。

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    仮に3CHがスペースを空けてくれるのならば、中央からだっていい。5バックの前にフリーで前を向いてボールを持てる選手がいるのならば、それに越したことはないはずである。パスはずれたが38分に小林が中央で受けたシーンのようなイメージである。

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 川崎の先制点の場面はうまく湘南の最終ラインの上げ下げを手中に収めた結果といっていいだろう。家長と山根を主体として、WBの小林を引っ張り出すと裏に抜けた家長からロブ気味のクロス。これを小林が合わせて先制する。ラインを下げられて時間を生み出された上にピンポイントで合わせられるのだから、守る側からすればたまったものではないと思う。

【前半】-(2)
ひっくり返されるのは怖いけど

 ボール保持の主導権を取り返して先制点を得る。こう書くと万々歳感があるのだが、実際の試合展開としてはチャンスの山を築き、相手を脅かし続ける展開にはなっていなかった。

    気になった点は2つある。1つは川崎がボール保持の時に湘南の薄いスペースを的確につく選択をサイドのプレイヤーができていたかどうか。特にこの日の左サイドは気になる部分が多かった。湘南の左に比べれば右のWBの岡本の方が出てくるタイミングもやや遅く、フリーで持てるケースは多かった気がするのだが、薄いサイドを作ったりそれを活用するようなプレーは比較的少なかった。

 同サイド攻略が出来なくとも、相手をゆがめて薄いところを作れば問題ない。ただ、この日の車屋を見てみると内側に絞って低い位置で受けることが多かった。そうなると守る側はIHが少し前に出ていくだけでずれることなく守ることが出来る。こういう相手が動くかどうかの駆け引きは登里の方が得意。車屋が前半のみでの交代になってしまったのは、もしかするとこのあたりが関係しているのかもしてない。

 もう1つ気になったのは徐々に川崎が中央を崩したがっているように見えたこと。薄い状況ならば中央を使えばいいというのは上で述べた通りだが、本来中央からの崩しは最も難易度が高い。その上、失ったとしたら即刻ロングカウンターを食らうことになる。

    なんといっても44分の例だろう。旗手の横パスをカットするとそこから一気呵成のカウンター。数的有利のままフィニッシュワークまで持ち込んだが、齊藤のヘッドは枠をとらえることが出来なかった。

 じゃあ、湘南がうまくいっていたか?といわれると難しいところ。確かに川崎を苦しめてはいたが、前半のシュート自体がこのシーン1本であるというのはしんどい。

    先の44分の場面でボール奪取した田中聡は奪取後の持ち上がりや的確な配球で存在感を示した。しかし、WBが上がった川崎のSBの裏をとっても広いカバー範囲がデフォルトの川崎のCB陣につぶされてしまい、そこから先に進めなかった。さらにクロスを上げても中で跳ね返されてしまい、なかなかシュートまではいけない。ここは谷口とジェジエウの奮闘が光った部分である。

 というわけで互いに苦しみながらも点が入ったのはアウェイの川崎の方。0-1のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
機会の差は覆らず

 ざっくりいえば後半も前半と変わらない展開が続いていたといえるだろう。川崎がサイドから湘南のバックスのラインを下げるトライをして、湘南がカウンターからの一刺しを狙うというのが大筋である。

 湘南の後方のビルドアップは川崎のバックスに対して常に余っているようだったので、試合を通してもう少し持ち上がってもよかった気がするけども。川崎の4-4-2のプレス隊2枚のうち、1枚はアンカーの金子を見ることが多かったし、2トップ脇から運ぶ機会があれば、もっとWBが深い位置で持てる機会は多かったと思う。田中聡は持ち上がれるポテンシャルを感じたのでなおさら。落ち着いてボールを持つ機会そのものを作るのがハードだったかもしれないけども。

 両チームともハーフタイムに選手交代は1枚ずつ。川崎は車屋に代えて登里が登場。ポジショニングと駆け引きに優れた登里がピッチに入ったことで左サイドは前半と比べると湘南のDFラインを揺さぶる機会が増えてくる。この試合に関しては登里の方が車屋より適していたのかなと。

 湘南は長らくお休みだった鈴木冬一を投入する。WBとして突破力を生かしてほしいところだが、この試合では対面する家長に守備で手を焼く機会が多かった。もちろん攻撃において、高い位置でボールを持つ機会もあったが、普段と比べるとやや精度を欠いており、存在感は割引。最後の3バックのCBはしんどそうだった。ここからコンディションを整えていきたいところだ。

 家長が押し込む場面が目立ったと表現した通り、リードしているにも関わらず川崎は攻め気が強かった。まぁ、いつものことではあるのだが。左サイドに登里が高い位置を取り、逆サイドの山根も同様。さらにインサイドハーフの脇坂や田中は前半にも増して湘南の最終ラインと駆け引きする機会が増加。というわけでかなり前がかりな仕上がりに。

 後方はおそらくジェジエウと谷口で完封できる算段ということだろう。守田を含めた3枚にほぼ守備を丸投げするような場面もあった。シュートで終わらなければ明らかに収支はマイナス!という状況だったのだが、まぁ実際にひっくり返される機会の少なさと、されたとしてもストッパーとしての3人の資質の高さで乗り切れていたからいいっちゃいいのかもしれない。

 でも、リードしている中でここまでの前偏重のバランスでやってる試合は今季あんまり記憶にないかも?どちらかというと後半はカウンターで殴っているイメージだったので。相手の攻撃陣と自軍のストッパーの能力を吟味した結果ならいいのかもしれないけど、例えば3点というノルマ先行でこのバランスになっているのだとしたら、相手次第では手痛いしっぺ返しを食らうのかなと思った。

 ここ数試合どこかキレがなかった三笘は得点とアシストこそなかったものの、徐々に本来のコンディションを戻しているように見えた。「押し下げてDF-MFラインを広げる」という目的のうち、特に押し下げてPAをえぐるということに関してはほぼ彼が独力でできていた。数試合ぶりに効いている三笘を見た感じがした。いや、ここまでダメだったわけじゃないけどね。

 一方で湘南は前進する手段探しに苦慮していた。前半戦でも点を決めたタリクを投入してからは彼を目掛けた長いボールを採用。そこそこ効果はあったように思うけど、ちょっと機会が少なかったように思う。後半は2,3回ほど湘南が大外からファーサイドにフリーで合うようなクロスが飛んでくる場面もあったが、こちらも機会としては少ない。湘南はチームとして複数得点者は2人だけ。決定力勝負のチームではないのだ。

 機会の数の面では湘南を圧倒して攻め込む川崎だったが、谷のファインセーブもあり、この日は追加点を得ることが出来ず。機会は少ないとはいえ、湘南にゴールに迫られる場面もあり冷や汗をかいたサポーターも多いはず。

 共に苦労した感のある神奈川ダービー。アウェイの川崎が何とか逃げ切って連勝を伸ばした。

あとがき

■湘南スタイルの上に乗るもの

 とにもかくにもゴールに迫る機会の少なさを何とかしなければいけない湘南。スタイルの行きつく先がどこなのかは気になるところ。長いボールとWBの突破だけではこの日の11人ではチャンスメイクの数が限られるのは当然な気がする。

    フィニッシュから逆算するなら、石原を低い位置の仕事からなるべく解き放ってあげたいところ。タリクの活用はその1つだとは思うが、ここまではスピードと飛び出しに長けた相棒を優先して起用しているように見える。

 逆に小兵を生かすならもう少し平地戦を頑張りたいところ。この試合でいえば田中はとてもいい意味で目立っていたと思う。今季序盤のスタイル変化の匂いはもしかすると過密日程で頓挫したのかもしれないが、元祖湘南スタイルに振り切ってしまうと結局曺貴裁が一番だった!っていう形になる気もしてしまう。自分に見えていないだけなのかもしれないが、湘南スタイルの上にのせるものが何か欲しくなってしまった。それがこの試合に足りなかったゴールに迫る機会を生み出してくれるような気がするので。

■もう少しだけ示し合わせたい

 「辛勝、0-1、物足りない!」といいたくなるサポーターの方には「まあまあいいじゃないですか」と肩を叩いてあげたい。クリーンシートでの連勝継続を喜べないのはいくら何でも目が肥えすぎている気がする。内容を見ると、湘南が嫌がることはできていたように思う。1点差ゆえにひやひやしたところもあったけど、特に後半は決定的なシュート機会があったわけでもないし。

 後半見てて思ったのが裏に抜けるパスがやたら速くて強くなかった?ってところ。気にしすぎかもしれないけど。弱くて手前でカットされて、被カウンターされるのを嫌がっていた?単に雨だから球足が速くなっていただけかもしれないが、ボールロストが湘南の深い位置になることが多かったので、カウンターのリスクヘッジにはなっていたように思う。その分ミスも多かったけど。

 チームを見ても、個人個人を見てもできることの数は増えているし幅は広がっている。湘南とのシュート機会の差はここにあると思う。この試合で「ん?」と思ったのは目の前に現れた選択肢の選び方のところだったりする。特に前半はバチっとはまった感があるのは得点のシーンくらいだったんじゃないかな。選択肢は増えた、相手の弱みも狙えるようになった。後はどこからいく?というのを示し合わせるだけ。次の相手はここもハマらないと勝たせてくれない強敵だ。

試合結果
2020.9.27
明治安田生命 J1リーグ 第19節
湘南ベルマーレ 0-3 川崎フロンターレ
Shonan BMWスタジアム
【得点】
川崎:18′ 小林悠
主審:家本政明

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