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「等々力劇場-レジェンド編-」~2020.9.23 J1 第18節 川崎フロンターレ×横浜FC レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
等々力は彼らのテンポに

 何といっても話題になったのは横浜FCのスタメンだろう。J1最年長出場記録を堂々更新した三浦知良に加えて、中村俊輔や松井大輔というそうそうたるメンバーがスタメン。ベンチ入りメンバーにはレアンドロ・ドミンゲスも。レジェンドが等々力に大集結という祭典をかましてきた下平監督。

 ターンオーバーに主眼を置いた起用なのは間違いないだろう。控えに入った杉本も含めて、今季出場機会が少ない選手は多く、直近で重用されていた安永や齋藤、皆川はベンチからも外れた。川崎対策が先立っていたというよりは、中2日で控える浦和戦を念頭において起用する選手を絞ったことは間違いないはずである。ただし、手を抜いたわけではなく、選んだメンバーでどのように勝利を引き寄せるか?という部分は非常にうまく設計されていた。

 試合前に個人的に感じた懸念は以下の通りである。

 両チームのスタメンを見た上で、川崎に有利になりそうな展開を考えてみる。攻守切り替えが多く、相手陣と自陣の往復が繰り返される展開がベストだろう。上下動の頻度が増えれば、さすがにこの横浜FCのスタメンでは耐えられないはず。したがって、試合のテンポが速ければ川崎ペースになるだろうし、横浜FCはなるべくペースを落としてトランジッションが減る展開にもっていきたいのではないかと思った。なので、試合をスローリーに持っていく横浜FCに川崎が合わせてしまうような展開はどうしても避けたいと思っていた。というわけで試合のリズムが早ければ川崎の思い通り、そうでなければ逆のペースというイメージを持っていた。

 総じていえば前半は川崎が避けたい展開に陥っていたと思う。横浜FCは見事に試合のテンポを落とすことに成功していた。ビルドアップは深い位置から。CBが開いてGKもボール回しに参加。両SBは高い位置を取っている。中央にはCHの佐藤が低い位置まで降りてくる。

 横浜FCはボールを回すことが最優先なので、降りてボールを触れに来ることはおそらくOKなのだろう。SHの中村俊輔も中盤まで下がり後方のボール回しに参加することが多かった。三浦知良も同じく低い位置でポストをうける役割をこなす。

 このような状況になると当然発生するのは後ろに重たくなり、前に出ていけない現象。体を張ってタメを作る瀬沼と前への推進力をほぼ一手に引き受けた松尾の2人にはかなりの負荷がかかっていたと思う。15分に中村俊輔が齋藤学にかっさらわれたシーンのように低い位置での対応のミスがあれば川崎には格好のショートカウンターのチャンスが出てくることにもなるリスクもある。

 ただ、繰り返しになるが、この日の横浜FCのゲームプランは前半にプレーのテンポを極端に落として川崎をそのペースに引き込むことだった可能性があるので、一概にこれがだめなのか?といわれると難しいところ。あくまでこのメンバーで川崎と戦うという意味ではこういう時計の進め方は有用なのかもしれない。

 実際、川崎はダミアンをはじめとするプレス隊が狙いどころを定められずに困っているように見えた。なので齋藤や旗手、中村憲剛などのいくいかないの判断が優れている選手の個人技でボールを獲り切る場面が多かった。そのためいつもよりも4-3-3なのか、4-4-2っぽく守っているのか判別しにくいところは多かった。WGとSBの出ていくかステイするかの判断も統一できておらず、横浜FCのSBに自由を与えてしまい安全地帯化することも多かった。前から行くと腹に決めているときはここにSBがスライドできている。

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 ただし、運動量が伴っているわけではないので、一度ボールが取られると取り返すのは困難だった横浜FC。ずっと俺のターンはまず無理な芸当である。川崎がボールをひとたび持つと、一斉に撤退してローラインで4-4-2で組む横浜FC。しかし、撤退しても川崎との動きの量の差は顕著である。特にサイドではその差が出ていた。中村俊輔のいるサイドにおける齋藤学と登里のコンビはオフザボールでの引き出しでフリーでボールを受けることができた。

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 CHの松井と佐藤もカバーリングで勝負タイプではなく、川崎のハーフスペースを含めたトライアングルのボール回しで後手に回るシーンは多かった。ただ、この日の川崎は互いの息が合わずにパスがズレてしまうことがしばしば。早いシュートも多く、オフザボールの動きの量の差がそのままいい崩しの頻度として反映されることはあまりなかった。

 特に右サイドは結構うまくいっていなかったように思う。こちらのサイドのCHの松井はサイドまでスライドして守備をするのは難しかったのでスペースはあった。しかし、中のダミアンも合わせてコンビネーションで打開する場面は数えるほど。川崎の選手のポテンシャルを考えると少々寂しいといってもいいかもしれない。

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 そんな出来だっただけに田中碧の先制ゴールは見事。フィニッシュもさることながら、コースを作る動きも素晴らしく、どこか重たくスローリーだった川崎に貴重な先制点をもたらしたといえるだろう。

 その後も横浜FCはボール保持時はうまさを見せる場面が多くものの、シュートまでは遠い場面が目立つ。川崎もPAまではなんなく運べるものの、仕上げの拙さが目につき、決定的なシュート機会を量産するまでは至らなかった。個々のパフォーマンスで目立って悪い選手はいなかったが、ユニットとしての相乗効果がいつもより割引だったところと、横浜FCの試合のテンポに付き合った部分はあったのだと思う。

 しかし、先制点を決めているのは川崎。1-0のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
4人目のレジェンド、登場

 FWをダミアンから小林にスイッチし、三笘を入れて旗手を中央に移動。察しのいい川崎サポはこの選手交代と配置変更だけで後半頭からのプレスの発動を予感していたかもしれない。そんな予感は早々に的中。自分の体感で言うと、「プレスをかけまくるかもしれない」というツイートする前に得点が入ったイメージである。

 アンカー的振舞いをしていた佐藤へのパスのズレから小林⇒旗手で後半に結果を出すのにかかった時間は20秒強。前半は高い位置に出てくることは少なくおとなしかった守田が前に出てきていることを踏まえると、明らかに後半開始にアクセルを踏んだ印象である。

 しかし、跳ね返されるのもあっという間。生み出したのは中村俊輔の左足のCKである。正直、ぴったり合わせたというよりはアワアワしているうちに当たってしまった感が否めないのだが、空間把握能力が高くヘディングに強い山村が近くにいたにも関わらず、ほとんど反応できなかったのは驚き。それほど動きが読みにくい軌道だったのだろうか。

 メンバーは変わったが1点差にはすぐに戻ったこのゲーム。変化をしたのは川崎のプレスが前がかりになり、横浜FCのボールつなぎの局面がやや苦しくなったこと。川崎がボールを持ち、攻めてくる局面から横浜FCが脱出するのに苦労する展開になっていった。

 風向きが変わったのはベンチに控えていたもう1人のレジェンドの登場から。瀬沼と縦の関係でトップ下のようなポジションに陣取ったレアンドロ・ドミンゲス。狭い位置、後ろ向きでのボールを受けることができる彼は、高い位置でのマークを集めて味方をフリーにすることができるし、少ないタッチで彼らにボールを流すことができる。すなわち周りに前を向いてプレーをさせる能力が高い。手塚や佐藤が前を向いて受けられればほぼプレスは回避できるし、松尾や斉藤が前を向ければ川崎のDFを脅かすドリブルを仕掛けることができる

 佐藤謙介の得点もこのレアンドロ・ドミンゲスのお膳立てからのもの。シュートを促すように置かれたラストパスはまさに匠の技といっていいだろう。

 横浜FC側が悔やまれるのはその前の3失点目。小林友希は体を前に入れていただけに強引に旗手に入れ変わられてしまったのは痛恨である。懸念だった横浜FCのCBの軽さが失点となって表れたシーンだった。このシーンの直前のクロスバーを叩いた決定機を決められなかったことも含めて、詰めは甘かった。

 佐藤の得点で盛り上がる横浜FCは最後まで追撃の手を緩めることはなかった。80分の決定機が浮いてしまった斉藤は痛恨。ひやひやさせられた川崎は押し込まれつつも時計の針をうまく進めていき逃げ切り勝利。ホームでリーグ6連勝を達成した。

あとがき

■短期的にはマイナスだが、中期的には・・・

 前半はスローダウン、後半にペースを上げて川崎を脅かすというのがざっくりした横浜FCのプランだろう。このプランは比較的うまくいったといえるではないだろうか。特に中村俊輔⇒レアンドロ・ドミンゲスのリレーは効果が抜群。ボール保持の局面においては、ほとんどの時間で川崎のプレスを空転させることに成功していた。

 一方でスカッド全体を見渡した時には残念さもある。三浦や松井は効果的なプレーもあったもの、動きの少なさによるマイナスは見逃せないところ。さすがに3人も動けないとなると相手を攻守に圧倒というわけにはいかないだろう。中2日で控える浦和戦にフォーカスしたといえばそれまでだが、局面では川崎を脅かすことができただけに、川崎に勝つことにフォーカスしたメンバーで見たかった気持ちも正直ある。

 ただ、ピッチで輝くレジェンドを見て横浜FCの面々が中期的にいい影響を受ければ収支はプラスに傾くかもしれない。実際、傍から見る自分でも心を打たれるパフォーマンスはしていたと思うし、普段から共に練習している選手たちならなおさらであるはずだ。

 日ごろレビューを書くときに苗字表記でほぼ気にしていない「三浦」という記載だけですらちょっと気になるもん。対峙した川崎の選手たちはかなりのプレッシャーだっただろうなぁ。

■追試は落第だが、強みは見せた

 プレビューで取り上げた「追試」という意味では落第だろう。横浜FCは川崎からボールを取り上げることに成功していたし、動かされて後手に回った時の川崎の非保持での弱みは健在。普段は後半に馬力で押し切ることで覆い隠していた部分も、横浜FCも後半勝負を仕掛けてきたことで、いつもよりも優位に立つことはできなかった。神戸戦に続き、課題は据え置きとするのが妥当だろう。

 一方で、試合運びを見ると先制してから一度も追いつかれる場面はなかった。前半の苦しい時間帯で先制できたことで楽になっていたし、後半頭はプレスによる奇襲から狙い通りの得点を生むことができた。徐々にプレスがかからなくなったことを考えると、あの時間帯に2点目を取れたことは大きい。ミスや物足りない部分は大いにあったが試合運びという意味では巧みさをみせてはいた。中2日という状況を考えれば、課題は据え置きにしつつも試合運びでは今季の強さを見せてうまく結果を得たとも言い換えられるだろう。

今日のオススメ

 89分の小林悠の時間を稼ぐファウル。ファウルが欲しいところで取れる選手が大好き。

試合結果
2020.9.23
明治安田生命 J1リーグ 第18節
川崎フロンターレ 3-2 横浜FC
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:22′ 田中碧, 46′ 67′ 旗手怜央
横浜FC:48′ 小林友希, 74′ 佐藤謙介
主審:荒木友輔

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