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「緩急で仕留める」~2020.9.5 J1 第14節 横浜F・マリノス×川崎フロンターレ レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
落ち着いた後の強度

 神奈川ダービーということで試合前には数多くのプレビューが上がっていた当カード。注目ポイントとして挙げられることが多かったのは立ち上がりのスタイル、そして先制点の行方である。

 この論点に関してはホームの横浜FMの先制という形で開始早々に決着する。川崎の立ち上がりは4-3-3。お馴染みの外切りのWGに、中盤はマンマーク気味という形で横浜FMのボール保持に挑んだ。

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 特に後方は人を捕まえる意識が強かった川崎。先制点の場面はそれが裏目に出た形だった。内側にカットインする松田についていった車屋。流れの中で天野のボールをカットしたまでは良かったが、さらに深い位置にいた扇原までの二度追いは少し余計だったように思う。これで自サイドの裏をあけてしまった車屋。

    裏抜けされた松田に谷口と大島が引っ張られると、マイナスに折り返される。アシストとなったマルコスへのパスコースは本来なら大島がいる位置だが、車屋も守田も彼の代わりにパスコースを切ることができず。守田は谷口がサイドに流れた分、ジュニオール・サントスを気にしていたんだろう。

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 SBの裏を狙うべし!というのは川崎の対横浜FMへのやり方として提案したが、このシーンでは車屋が飛び出して空けたスペースの歪みから、悪い連鎖を止めることができず。本来やりたい形をやり返されてしまった。

 10分過ぎから、川崎はいつものように脇坂を前に出した4-4-2を織り交ぜるようになる。おそらく前から相手を捕まえつつ、4-3-3の泣き所であるWG-SBのスペースを埋めるためだろう。

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 横浜FMのこの日のスタートの人選はボール保持に適していたように思う。前田大然がいない分、縦へのスピードはやや抑えられていたし、2ボランチではなく中盤で機動力のある天野を中盤の一角に起用していたのもボール保持での自由度を上げていた。

 ポジションを入れ替えながら川崎の4-4-2の間に立つように移動。特に左サイドにおける天野の存在は効いていた。川崎の間で頻繁に受けることで、リード後の横浜FMのボール保持において川崎のプレスをいなすのに重要であった。

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 10分前後からの数分間はボール保持で時間を作った横浜FMのペースになっていた。しかし、川崎は徐々にペースを取り戻す。横浜FMはボール周辺に人を置く分、即時奪回を狙いたかったはず。それに合わせて川崎は縦に早くつけて横浜FMの空いた後方のスペースを狙う選択もあったはず。

    だがそれには川崎は付き合わず。川崎はひとまず横浜FMの即時奪回をバックパスを駆使しつつ回避することをまずは優先。横浜FMが即時奪回をやめ、一息を入れるタイミングで大きな展開を入れる。『大きな展開』で狙ったのは横浜FMのSBの裏。特に狙っていたのは小池とマッチアップする三笘薫のスペースである。

 この日の川崎はボール回しの優先度は異なっていたように思う。特に後方の選手の大外や対角への意識は強かった。谷口は積極的にこのスペースを狙っていたし、守田も同様で、少ないタッチで大きく左に蹴りだす場面は多かった。試合中の鬼木監督の声かけや試合後の谷口のコメントでもこの試合と狙いと見て間違いない。



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   手薄なサイドを崩すためにまずは一息入れてから大きな展開で加速するという緩急をつけることで、横浜FMを押し下げ返すことに成功する。ロスト後のカウンターの芽を摘む守田の頼もしいこと。これにより波状攻撃が可能になる。

 24分の山根のプレーを見ると、この日のボール回しにおけるプレーの優先度はわかりやすい。裏抜けを狙った同サイドの家長との呼吸が合わずに裏へのパスをキャンセル。持ち直して逆サイドに大きく振った。崩せるなら同サイド、無理なら逆サイド。どっちかは手薄!という考えをベースに、無理に急ぐのではなく横浜FMをサイドに振ることを優先としていた。

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 大外に振った後にセットになったのはハーフスペースの裏抜け。昨年前半戦の横浜FMの十八番をこの日は川崎が存分に披露。左は大島、右は脇坂が幅を取るWGを内側からサポートを高い頻度で行う。ボール保持時に役に立ったマルコスと天野という中盤の人選は、加速する川崎のカウンターを受ける時はマイナス要素に。戻り切れずに扇原周辺に人がいない!という現象が見られた。

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 川崎の同点弾もこの形から。大島のキープと脇坂の大きな展開で横浜FMの密集を脱出。左サイドへの大きな展開。広いスペースを享受した三笘がチアゴ・マルチンス相手に股抜きを決めて、同点に追いつく。

 この日の三笘は序盤こそ小池にだいぶ手を焼いていたが、前半途中からは徐々に上回るシーンが出てくるように。あれ?と思っても、いつの間にか立て直して結果を出す。ルーキーらしくはないかもしれないが、それが今季ここまでの三笘薫である。逆にいえば、横浜FMはこれだけ彼にスペースを与え続けたのはどうだったか。

 横浜FMはボール保持の局面に転じれば、間からつなぐことで川崎を押し込むことができる。先制点の場面もそうだが、松田の外からのカットインは良かったように思う。彼がボールを持っていた時にニアのハーフスペース裏抜けに備えて大島がこのスペースをかなり警戒していたのは印象的だった。

 横浜FMは左サイドでもフリーの選手を作り出すことはできていたが、クロスをニアで跳ね返される場面が頻発。ジェジエウの山を越えることができていなかったし、中にターゲットになる選手も少し不足していたように思う。

 スコアこそ同点だが、理詰めでチャンスを作っていたのはどちらかといえばアウェイの川崎だったように思う。試合は1-1でハーフタイムを迎える。

【後半】
効果はすぐに

 4-3-3スタートで4-4-2成分が徐々に濃くなっていくというのが前半の川崎あるあるならば、後半の川崎あるあるはスタートからハイプレスを軸に一気に畳みかけること。旗手、小林を投入し脇坂、ダミアンを下げる後半頭の交代でプレス隊を総とっかえしたことを見ても、後半開始前にその予感は漂っていた。

 実際にその予感は正しかったといえそうだ。川崎は小林、家長を先頭に横浜FMに強くプレッシャーをかけていく。後半開始にボールの取りどころになったのは絞った位置で受けたティーラトン。守田、旗手と開始まもなくここで2回のボール奪取に成功する川崎。

 川崎は前線の追い回しに加えて、守田が積極的に出ていくことで圧を増加していく。2トップがCBにプレッシャーをかけた際の後方支援として、守田が扇原を自由にさせない役割を担っていた。

    横浜FMはへそになる扇原に強くプレッシャーをかけられたことで前進が停滞。ティーラトンは絞った位置でロストしたと書いたけど、外での逃げ場をもう少し活用しても良かったかもしれない。得点シーンと前後するけど56分とかはティーラトンが張ることで川崎が高い位置で止めるのが少ししんどかったようにも見えた。

    川崎の両SBも高い位置まで出ていっていたため、横浜FMはSBの裏を狙うやり方はもう少しできた気がする。あるいは中央のパス交換でのプレス回避にこだわるならば、マルコス・ジュニオールまで届けられれば前進することができたかもしれない。

 この畳みかけの後半頭の時間帯に得点を重ねた川崎。大島の後方支援のプレスからスローインでマイボールにすると、谷口のスルーパスから抜け出したのは大島。オフサイドポジションにいた川崎の選手が何人かいた分、横浜FMは少しラインを下げてオンサイドで抜け出した大島を捕まえるタイミングが遅れたかもしれない。左足でパク・イルギュが対応しにくい回転でラストパスを出すと、これを家長が決めて勝ち越しする。

 そして、その2分後。旗手のアシストを受けた三笘がこの日2得点目を決める。もう少し前の場面から見てみると、旗手は密集から車屋とのコンビネーションで抜けた三笘からのサイドチェンジを受けて、ティーラトンとの1対1の状況にもっていっている。

   前半は広いスペースで1on1をすることが多かった三笘が、このシーンでは手薄な逆サイドに展開する役割。サイドチェンジを主体とした組み立ては両サイドともに突破力があってこそ。薄いサイドに展開した後に、逆サイドからのクロスにフィニッシャーとして飛び込んだ三笘は求められた役割を完璧に果たした。もちろん、出し手の旗手も素晴らしかった。

 得点が川崎に入ったこと以外にも後半の頭には数多くの変化が見られた試合だった。例えばジェジエウの交代。鬼木監督は「違和感があった」と試合後に言っていたのでアクシデンタルな交代ということだが、ジュニオール・サントスに前を向かせず、クロスをことごとく跳ね返したジェジエウに代わってすでにカードを持っている車屋をCBに移すのは少し怖かった。実際、そこから収められかけるシーンが少し見受けられたので。ジュニオール・サントスが下がった後なら安心して見れたと思うけど。

 そして、豪雨である。川崎が得点を決めた直後から降り出した豪雨はピッチの状況を一変させた。横浜FMは仲川、喜田、前田と後半10分過ぎに勝負の3枚替えをしたのだが、彼らがHTに確かめたピッチの感触と全く異なったものになったのは試合にすんなり入るハードルを少し引き上げたかもしれない。

 川崎がプレスを控えたことでやや横浜FMがボールを持つ時間帯が増えていく。川崎はミドルゾーンで構えつつ、横浜FMのミスからカウンターで急ぐ場面と落ち着かせてスローダウンする場面を使い分ける。この日の川崎は相手のパスを引っかけた後の一本目のパスで横浜FMの即時奪回をいなすことがうまくいっていた。

 横浜FMはボールを保持して押し込んでからの遅攻のクオリティは課題になっていた。狭いスペースでのパス交換でPAに追い込んでからの川崎の重心を崩すことに苦心。選手の技術や連携の話もあるだろうが、こういうピッチで相手を押し込んでからの狭いスペースを崩すことのしんどさは川崎サポーターは身に沁みているはず。後半に川崎を崩しで上回り決定的なシュートチャンスに至る場面はあまりなかった。

 むしろ相手にボールを持つ時間を与えつつも川崎は生き生きしていたように見えた。三笘薫の次に齋藤学と対面する羽目になった小池龍太は厄日としか言いようがない。オフザボールでの違いを見せ続けた数試合に続き、この日も好調。清水戦ではボールを保持しているときのプレーに不安があったが、神戸戦に続きこの日もチャンスメイクで存在感を発揮。レギュラー争いに名乗りを上げたといっていいだろう。長谷川竜也も加えて三つ巴の左サイドは超激戦区になりそうだ。

 横浜FMが攻め込む場面もあったが、後半は川崎が手綱を握りつつ、時折ゴールを脅かす展開が主。2点を加えて後半の主導権を握った川崎が逆転勝ちで神奈川ダービーを制した。

あとがき

■ポイントは抑えたが見つけにくいバランス

 先制点を得たものの逆転を許してしまった横浜FM。ボール保持で時間を作る力も見せていたし、立ち上がりがどちらのものだった?という試合前にあげたポイントに答えるなら横浜FMのモノだったかなと思う。

 しかしながら、試合をひっくり返されるとそこから再度反撃に出る力はなかった。ボールホルダーを追い越す動きに対してなす術がなかったサイドの守備はしんどそうだった。さすがに三笘と齋藤に立ち向かい続けた小池を責める気にはならないだろう。こういう構造を許し、サイドにヘルプに出にくくなったシステムの方が問題が大きそう。

 ただし、先述のように中盤の構成はボール保持において序盤は有用だった部分もあり、どこでバランスを取るかは非常に難しいところ。多様な前線のキャラクターも、裏を返せば選手の個性でできることが決まっている印象で、この日のような望まない展開に陥った時のもどかしさは感じた。

 過密日程は続いていく。今季の完成形をポステコグルーはどこに持ってくるだろうか。

■急加速で強襲

 先行された展開にボール保持で作られた時間。川崎は慌ててもおかしくなかったが、相手の狙いどころを淡々と攻めてペースを取り戻した。自信があるのだろう。落ち着いて狙いどころから急加速。試合を取り戻した部分は試合運びとして上手だった。

 後半もスイッチを入れて慌てる横浜FMを尻目に追加点を重ねる。この試合の川崎で素晴らしかったのは緩急のつけ方。一旦横浜FMのプレスをかわし、確実に相手の嫌がるところに長いボールを送って目先を変える。後半頭からのプレスで相手に襲い掛かり結果に結びつけるなど、勘所を抑えた強弱の付け方で横浜FMを上回った。

 先制点の場面を見れば課題があるのは明白。監督もチームも当然それは織り込み済みのはず。ただ、この試合で結果を出した相手の薄いサイドを使った攻撃は名古屋戦でトライしたが実にならなかった部分。今度は逆転に結び付いたのは感慨深い。まだ付け入られる隙はある、でもできることも増えている。自信も反省も併せ持ちつつ、次の試合に臨むチームを楽しみにしていきたい。

今日のオススメ

 本文中でも取り上げた24分の山根のサイドチェンジ。守田も同様なのだが1つのターン、1つのステップで対面を剥がして大きく展開という流れは効いていた。まずは同サイドを狙いつつ、難しかったら逆という複数の選択肢をみせたのも好感。

試合結果
2020.8.5
明治安田生命 J1リーグ 第14節
横浜F・マリノス 1-3 川崎フロンターレ
日産スタジアム
【得点】
横浜FM:2′ マルコス・ジュニオール
川崎:33′ 50′ 三笘薫, 48′ 家長昭博
主審:家本政明

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