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「戦う土俵を決める力」~2020.8.19 J1 第11節 川崎フロンターレ×セレッソ大阪 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
自分の形で先手を取る

 立ち上がりからC大阪はロングボールを2つ。意外とつながないんだ!と思いつつ試合は始まった。実際、開始直後のC大阪はちょっと奇襲のような感じ。立ち上がりから引き込むのではなく、やや前に出てくる。まずは捕まえに行ってどんな感じかを測るのって大事だったりするのかな。

 なんとなく展開が落ち着いてきたのは5分過ぎのこと。プレビューで触れたように川崎はボール保持の局面でC大阪の4-4ブロックに対峙し、C大阪はGKを含めたビルドアップで川崎のプレスの穴を突く時間の始まりである。

 早速結果を出したのはC大阪。川崎が4-3-3でC大阪のビルドアップを受けるとC大阪のSBが空きやすくなる。ジンヒョンが丸橋に送ったところから一連のプレーは開始。山根と大島をあっさり交わすと、裏に抜けたブルーノ・メンデスへ。

    ジェジエウのスライディングは博打に映ったかもしれないが、メンデスの方が中に入っているうえに、ジェジエウがメンデスの利き足と逆側にいたことも考慮すれば、あそこでスライディングをする判断もわからなくはない。むしろ簡単にかわされた山根と大島の方がまずかった。

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 予想通りC大阪からボールを取り返すのはハード。大外の丸橋と松田に加えて、中央では藤田がボールの収めどころになっていた。奥埜に代わって高木が前線に入っているこの日のC大阪だったが、連携は上々。

    12分のように幅を取る丸橋、降りる清武、裏を狙うメンデスと高木が作ったスペースに坂元が入り込んでドリブルを開始するシーンはお見事。川崎のDFラインは下がる機会が多く、このDF-MF間のスペースを使われてしまった。清武、丸橋、坂元の動きにFWが合わせる流れはこのシーンに限らず見られたし、よく整備されているなと感じた。

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 川崎も序盤は押し込まれた印象が強かったが、振り返ってみてみると押し込んだときの攻撃は悪くなかった。4人ほどでサイド崩しに挑みつつ、誰かが裏抜けして局面の打開を狙う。機会が少なかったのと押し込む手前で相手に渡してしまうパスミスが見られてしまったため印象が悪かったのかなと。

 そういった状況の中で脇坂の技ありFKが決まったのは非常に大きい。川崎はここ最近スロースタートからの給水or得点でリズムがやたらよくなるというパターンが多いので、脇坂が強引に川崎をほぐしてくれたのはとてもありがたかった。

【前半】-(2)
遠くへの意識と中盤のスキルの組み合わせ

 給水明けで目についたのはまずはC大阪の守備時の意識の部分。立ち上がりにプレスに行って、落ち着いてまではわかったけど、給水明けにもう一段前から追いかける意識が高まったような気がする。柏戦ではもう少し撤退が早かったように思えたが、この試合では川崎のインサイドハーフのところにミドルゾーンで防波堤となった奥埜と藤田の位置も高く思えた。

 前に出てくる分、川崎の中盤とC大阪の中盤はガチンコで組み合う形が多かった。C大阪が中盤で捕まえに来る分、川崎はスペースを見つけたパスで前進することができた。個人的には想定していたよりも川崎の幅を取る長いパスが活きた気がする。4-4-2ブロックは外が空きやすいので、外から相手を押し下げることで川崎も前進を狙うことができた。

 もう1つ給水後の川崎の攻撃で感じたのはサイドチェンジから手薄なサイドを作り、そのサイドから勝負するという意識が高まったということ。大体30分すぎくらいからかな。プレビューで指摘した大外からファーへのクロス(旗手が小林に『入ってこい!』って言われていたシーン)が徐々に増えるように。

   ここ数試合はあまり多くなかった作り方な気がするが、家長が入った影響だろうか。もしくはC大阪の守備が手薄になりやすいのがこの形だったか、はたまた両方というパターンもあるかもしれない。

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 中盤のボールスキルと遠くを意識する展開が合わさって結果が出たのは40分過ぎ。前に出てくる藤田と奥埜を大島と田中のパス交換で脱出すると脇坂から旗手に展開。味方の上がりを待って再び中央に戻すと、脇坂から大外の山根にロブが出る。家長と山根で丸橋と2対1の状況ができた時点で川崎の勝ち。あわてて家長を引っかけた丸橋のファウルで川崎がPKを得る。

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 セットプレー2回から川崎は逆転。試合は2-1で川崎のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
綱引きを決着させたのは

 最近の川崎は非保持における4-3-3と4-4-2の変化がより分かりにくい。定常的に脇坂が前にいるパターンとIHから脇坂が出ていくパターンの両方があるせいだとは思うけど。この試合でも飲水後くらいから4-4-2のような守り方をする時間が増えた。

 しかし、後半はもう一段階プレスのギアをあげた川崎。小林、脇坂のプレス隊に家長、旗手そして3列目から田中碧が加わり、C大阪のビルドアップに高めからプレッシングをかけていく。後半初めの川崎の決定機であった脇坂のシュートのシーンは、田中碧が清武にプレスをかけたところからカウンターに移行している。前半ではC大阪の攻撃の加速スイッチとして機能していた降りていく清武を潰すことで迎えた決定機。C大阪のポゼッションを阻害して、川崎がショートカウンターに移行するプレスができていたことが象徴されたシーンだった。

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 川崎のハイプレスの完成度は高く、深い位置まで追い込む時はなるべく一番近いパスコースを背中で消しながら追っていく。最終的には蹴らせて川崎の最終ラインが跳ね返して攻撃に転じるのが理想。回収して攻撃のハーフコートゲームが機能していたのが後半の頭だった。

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 波状攻撃で押し込んでいる中で生まれた3点目。4対4のサイドでのボール保持において、登里が走り抜けたことで生まれたスペースでフリーになった大島から裏へのロブパス。斜めの走り込みで起点になった小林がその後のこぼれ球を押し込んで追加点。ちょっとオフサイドっぽかったけど、波状攻撃の流れの中でサイド攻略し、裏抜けで確保したスペースを活用したという意味では意義が大きい得点だったように思う。

 2点を追いかけるC大阪はセットプレーから瀬古のゴールで再び1点差に。なんであなたは川崎戦でしか決めないのですか。

 瀬古が得点を決めたタイミングでC大阪は3枚交代。ここからはハイプレスの川崎とボール保持でそれを打破するC大阪の主導権の綱引きの時間帯。川崎の取り切るというよりはパスを出させる場所を制限するようなプレスに、C大阪は藤田が最終ラインに落ちることで数的優位を確保して対抗。鈴木への縦パスでのポストと、フリーマンのように動き回る柿谷にボールを預けることで前進を試みる。時には前進に成功するC大阪だが、シュートチャンスまでには至らない状況で飲水タイムに入る。

 飲水タイム後も続いた主導権の綱引きに決着をつけたのは交代で入った三笘薫。スローインのカウンターから小林悠へのループパスで奥行きを作ると折り返しを受けてニアをぶち抜いた。リーグベスト級のCBであるヨニッチの股を抜き、セーブ率トップのジンヒョンのニアを抜くというルーキーである。

 仕上げも三笘が起点に。大外左サイドからのアイソレーションでドリブルをスタート。左サイドを破壊して折り返して完璧なお膳立て。登里のシュートのこぼれをダミアンが決めて勝負ありだった。

 その後も川崎はプレスを弱めずPAへの侵入も積極的だった。その分C大阪にもチャンスはあった。ロングカウンターに出てきたソンリョンを見た片山のロングシュートはコースは完ぺきだったが高さが合わずにクロスバーに阻まれる。なんかシュールだったぜ。

 結局そのまま試合は終了。試合前の予想と反し打ち合いになった上位対決は川崎が5-2で連勝をキープした。

あとがき

■失点は多いが完成度は高かった

 したたかな先制点に堅いブロック。最終的には失点を重ねて敗れてしまったが、間違いなくC大阪は今季対戦した中では最もタフなチームの1つだった。ただ、チームのスタイルとスカッド的に追いかける展開になると難しくなるのに加えて、終盤では選手の疲弊も色濃かったりなどリードされてからはやや苦しくなってしまった。

 個人的な想定で言えばもっと非保持ではローラインを徹底して攻守の切り替えの少なくしてくるかと思ったので、そこは少し意外だった。おそらく切り替えの少なさよりもボールを取り上げることの方が重要と考えたのだろう。

 川崎目線で言えばC大阪のブロックの完成度だとおそらくローラインの方がじれったかったし、リズムをつかみにくかったのではないかなと思う。あと、後半は前半に手を焼いていたSB経由のビルドアップがやたら減ったように思ったのだが、そこはなんでだろう。幅取られたほうがプレスの狙いは絞りにくかったように思ったけども。

 いずれにしても上の気になる点はどういう方策をとるかの問題。リーグでは最も完成度の高いチームであることは明らかで次の10月対戦も侮れない相手であることは間違いない。

■得意の土俵に持ち込んだ会心の前半

 まさに会心の試合だった。特に先制点後にクローズされがちなC大阪に対して、早々に逆転した前半の飲水タイム後のパフォーマンスは素晴らしかった。C大阪の4-4ブロックに対して、サイドを変えながら広く広く相手の陣形を動かしてPKを得たシーンは特に優秀。11人がC大阪相手にどう攻めればいいかというのを実践できていた。狙った形が実ったPKだと思う。

 どの選手も素晴らしい出来だったが、中盤はよくやっていた。特に同点ゴールでチームをほぐした脇坂、そして攻撃ではペースメーカーを担い、守備ではキーマン潰しを担い後半のプレスでは前プレにも貢献した田中碧はこの試合の主導権を引き寄せる活躍だった。

 今のC大阪はよくオーガナイズされたチーム。試合序盤からどこか覇気を感じなかった3年前の等々力での大勝とこの勝利はわけが違う。とても難易度が高い相手を退けることに成功した。最終的に試合の大勢を決めたのはギアを二段階上げた三笘だったが、その時間帯までにいい状態でつなぐことができたチームとしての力が今日は何より誇らしい。後半に見られたハイプレスからの波状攻撃は間違いなくこちらの土俵。あのロティーナをこちらの土俵に引きずり込めるのだ。「今の川崎は強い!」と胸を張っていえるナイスゲームだった。

今週のオススメ

 40分過ぎにPKが獲得したシーンのビルドアップにおける大島と田中のパス交換によるプレス脱出。旗手、家長の両WGの幅取りは試合を通してよかったのだが、サイドでの囲い込みの圧が比較的弱かったのは中盤でのプレスに屈せずにボールを早く縦につけることができたMF陣のおかげ。それが結果に結びついたシーンとして選出。

試合結果
2020.8.19
明治安田生命 J1リーグ 第11節
川崎フロンターレ 5-2 セレッソ大阪
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:21′ 脇坂泰斗, 42′(PK) 家長昭博, 53′ 小林悠, 75′ 三笘薫 77’ レアンドロ・ダミアン
C大阪:7′ ブルーノ・メンデス, 58′ 瀬古歩夢
主審:岡部拓人

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