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「失われた強みと増えた穴」~2020.8.12 UEFAチャンピオンズリーグ Quarter-Final アタランタ×パリ・サンジェルマン レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
マンマーク対策は上々も問題はアリ

 グループステージは3連敗スタート。昨年セリエAで躍進を遂げ、期待の声が大きかったアタランタのCL初挑戦は非常に厳しい船出であった。しかし、そこから逆転で2位でのグループステージ突破を決めると、Round16ではバレンシアを下して準々決勝に駒を進めた。躍進を遂げるアタランタがCL常連のPSGの胸を借りるという構図。ただし、PSGも勝ち抜ければカタール系とタッグを組んでから初めてのベスト4に。そんな彼らがCLの門番のような立ち位置でアタランタを迎え撃つというのはなかなか興味深いものである。

 ガスペリーニは頑固一徹。やっている内容が同じというわけではないけど、主流とはいいがたいやり方で我が道を貫きつつ結果を出しているという意味では欧州のペドロビッチっぽさを感じる。いや、ペドロビッチはそもそも欧州なんだけど。

 そういうわけでアタランタはこの試合もいつも通りの守り方。3-4-1-2でがっつりとマンマークである。マンマークの最大の難点は個人の能力で上回られること。とりわけ相手のアタッキングサードにおけるアタッカーとの同数を受け入れられるかどうか?というのがマンマークをやる上での大きな要素になる。アタランタはPSGのアタッカー相手でも同数を受け入れる姿勢を試合開始の段階で見せていた。

 それに対してのPSGのボール保持は後方から長いボールでシンプルに前方のアタッカーに当てるやり方がメイン。キンペンペとナバスからの長いボールが多かった。とりわけナバスからのフィードはとても多かった。アタランタの守備は前から行くけど、決して取り切るためのハイプレスという感じではない。自分のマークを捨ててまで前に行くことは稀。したがってナバスがボールを持っているときは、ボールを持っているPSGとフィールドプレイヤーにマンマークを行っているアタランタの間で均衡が保たれるような状況が作り出されていた。

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 マンマークをしてきたアタランタに対してPSGが初めに行った問いかけは中央で起用するネイマールが作り出すギャップである。3トップの中央のような形で位置するネイマールをトップ下までおろす。3バックの中央を務めるカルダラに対して、どこまでついてきますか?と話しかけるようにネイマールが中央に降りていく。それに対するカルダラの答えは「はい、もちろんです」という即答。降りていくネイマールに対しては最終ラインにできる穴もいとわずにぴったりとついていく。

 男気溢れるスタイルには感銘を受けるものの相手はネイマール。毎回毎回前に出ていって食い止められるわけではなく、交わされて決定的なピンチを迎える機会は少なくなかった。このギャップを作るネイマールがPSGの攻めの中心。ボールを受けたネイマールが対面のカルダラを剥がしてドリブルをスタートするところからPSGは多くのチャンスを作っていた。アタランタもカルダラにネイマールをぶん投げているわけではなく、懸命に前方の選手がプレスバックはしていたがそれでもシュートチャンスは作られていた。

 しかしながら問題点が2つ。1つはこれ以外のチャンスの作り方が見えなかったこと。ネイマールがたくさんチャンスを作れていたのだからいいではないか!といえばそうなのだが、ボール保持のほかの手段があまり見えてこず。ネイマール自身もチャンスを作ってからは縦に早いプレーを選択することが多かったため、タメを作って厚みのある攻撃をチーム全体でできていたか?というと微妙なところだった。エレーラやゲイェは後方支援はするものの、PAに入り込む役割はなし。ただし、それでも殺傷能力は高くて点は入りそうだったのが恐ろしいけど。もう少し構えて戦うチーム相手だとどうなる?という部分が気になった。

 そしてもう1つの問題点は肝心なネイマールのフィニッシュである。このフィニッシュがやたらポンコツだった。わずかに左にそれたシュート以外はほぼ狙った通りに足に当たらなかったといっていいのでは?ってくらいにシュートが不発。キレキレのドリブルで沸かせてから、どうしてしまった?と心配になるくらいのフィニッシュワークの質であった。殺傷能力のあるチャンスは作れたけど、チャンスメイクもフィニッシャーも一手に引き受けたネイマールが最後の質を高められなかったことで得点を挙げるには至らないPSGであった。

【前半】-(2)
数的優位+上に乗る質

 アタランタは攻撃においても重心が高め。最終ラインも含めて多くの選手が高い位置をとり、攻撃に厚みをもたらす手法を取っている。とりわけ大外にとらわれないWBの攻撃参加やワイドCBの高い位置までの進出による数的優位の確保はほかのチームではあまりお目にかかれないやり方である。

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 PSGのディフェンスは中央を締めた4-3。イカルディやサラビアなどの前線の選手もさぼっているわけではないが、アタランタとは異なり人を捕まえることに軸足をおいていないので、深くまで追いかけることはしていなかった。中央も後方のバイタルのケアが優先。ボールホルダーを捕まえることを優先するよりも使われたくないスペースにおいて、少ない手順で崩されることを嫌っていたように思う。

 アタランタの突破の軸となるのはサイドでの多角形形成。ボールサイドのCHとWBを中心にサパタやゴメスが多角形を作る。前半は特に左サイドからの突破を狙っていた。ゴメスは常にボールサイドに顔を出してボールを触り続ける攻撃におけるフリーマンの役割。キープ力、チャンスメイク、そしてフィニッシュワークに近い仕上げの部分も含めて、彼の見せるクオリティはアタランタの生命線。数的優位を主体とするボール保持のアプローチの上に輝く優秀な「質」である。

 PSGはスペースのケアを優先していたため、局所的な数的不利で迎え撃つ必要がある。そのため、多角形でサイドを崩すというところまでにはたどり着いていたアタランタ。ネイマールと比べれば決して機会が多くはなかったが、こちらもチャンスは作れていた。

 そんな中で先制点を取ったのはアタランタ。後方から持ち上がったトロイがそのまま攻撃参加。MFのラインを突破した後にPAに突っ込んでいったため、PSGは人手不足に。その恩恵を受けて大外でフリーになったパシャリッチが先制ゴールを決める。後方の攻撃参加によりフリーを作り出すというアタランタらしいアプローチ。やりたかったタスクから結果を手にしたアタランタがまずは突破に向けて一歩前進した形に。

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 先制点後は点が入る以前と比べるとボールが行きかう早い展開がやや増えた。オープンな展開になった時にアタランタで際立ったのは長いボールにおける競り合いの強さ。マンマークという戦い方の性質上、陣形をコンパクトに維持し続けるのは非常に難しい。なので、オープンならばそれに対応した優位として高さという武器を持っているのかな?と思った。確かアタランタは身長が180cm以上の選手ばっかりだったような。

 攻めども点が入らないPSGを尻目にアタランタが先行する形で前半を終えた。

【後半】
マンマークとリトリートに見る苦悩

 アタランタは先制点以降は無理に後方の同数を受け入れることはせずにリトリートを早める決断が増加。より安全な運転での試合運びが目立つようになった。例として挙げられるのは降りていくネイマールへの対応で、前半はなるべくカルダラがついていくことで対応する場面があったが、後半はパシャリッチやデローン、フロイラーなどの中盤の選手がマッチアップしたり、複数人で囲い込む状況が増えていった。

 一方で得点が必要になったPSGは徐々にハイプレスを解禁するように。ハーフコートゲームを目指して高い位置から囲い込むようにプレスを発動する。これによりアタランタがボールを持つ時間は減少。アタランタも無理にポゼッションはしないので、長いボールでの回避や前進が目立つようになってくる。PSGのハイプレスとアタランタのリトリートの決断が早まったことで、試合は前半よりもさらにPSGが押し込む展開になっていく。

 アタランタはここでコンディションに不安があった模様のゴメスを交代。タメが作れる最重要人物が不在になったことでアタランタはさらに苦しくなる。サパタへの長いボール以外に攻め手が見つからない状況になっていく。そのロングボールも全体が押し上げられないためマイボールにできない。

 加えてそのサパタも交代。一旦はリトリートの割合が増えたアタランタが再度ハイプレスを徐々に復活させたのは、攻撃面では起点を作れないため、陣地を回復する方法がなかったからではないだろうか。

 しかし、ハイプレスを復活させてもアタランタにとっては茨の道。後方の同数を受け入れるのはネイマールだけでもしんどかったのに、ムバッペまで出てくるのだからたまったものではない。

 これに加えて交代枠を使い切った後にフロイラーが負傷してしまったアタランタ。いくら終了までの時間が迫ってきていたとはいえ、この状態はあまりにも厳しかった。

 結果的にPSGは逆転に成功する。1点目はチュポ=モティングのカットインからネイマールへクロス、折り返しをマルキーニョスが沈めた。アタランタはラインの上げ下げが選手の間でばらついてしまった印象だ。追加点はケーラーの柔らかい落としから、ネイマールが裏へ抜けるムバッペに柔らかいパス。中でアシストを受けたのはチュポ=モティング。

 交代選手の活躍で後半追加タイムにPSGが逆転に成功。試合は1-2で幕を閉じた。

あとがき

■あと一歩を許さなかったPSG

 アタランタは勇猛果敢だった。CLの準々決勝という大舞台で彼らの持ち味を前面に押し出してPSGと渡り合ったという事実は非常に大きい。ガスペリーニは器用ではないのかもしれないが、ここまでくれば腹をくくったやり方で挑むのが選手もファンも監督自身も納得する形だっただろう。

 結果だけ見ればあと一歩のように見えたが、PSGがジワジワとダメージを与えながらアタランタをねじ伏せた試合といっていいだろう。重要選手を交代で下げて形を作れなくなるアタランタに対して、ムバッペのようなネイマールと同様に「穴」を作れる選手が出てくるPSG。終盤はマンマークで立ち向かうしかなかったアタランタにとっては非常に厳しかった。

 いうまでもなくネイマールは異次元。シュートこそ呪われているかと思うくらい当たっていなかったが、それでもドリブルにパスに高精度でチャンスメイクする姿は異次元。フィニッシュワークの不調に引っ張られることなく、凄味すら感じるプレーでアタランタを圧倒した。PSGの見事な逆転劇と共に、ネイマール自身が世界最高峰のフットボーラーであることを再確認させられた試合だった。

試合結果
2020.8.12
UEFA Champions League 
Quarter-Final
アタランタ 1-2 パリ・サンジェルマン
エスタディオ・ダ・ルス
【得点者】
ATA: 27′ パシャリッチ
PSG: 90′ マルキーニョス, 90+3′ チュポ=モティング
主審: アンソニー・テイラー

 

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