MENU
カテゴリー

「いざとなれば立ち返る」~2020.7.11 J1 第4節 川崎フロンターレ×柏レイソル レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
柏の手打ちで川崎は立ち返る

 横浜FC戦はどうせ参考にならん!ということで、今節のプレビューでの展望はおさぼりだったのだがその判断は悪くなかったようだ。

 出場停止のヒシャルジソンが帰ってきたこともあり、この試合の柏はFC東京戦の4-1-4-1に回帰する。川崎のボール回しに対しては、オルンガに加えて、サイドハーフが1枚出ていくことで4-4-2のようにプレスに出てくる。

 4-1-4-1からSHが出ていって4-4-2っぽくなる!というのは、割とよく見る形ではある。ただ、この日の柏で気になったのは、出ていった後の中盤の動き。出ていったスペースを埋めるような4-4-2への変形はほぼ見られず、SHがプレスで空けたスペースは据え置きになっていた。

画像2

 この形が一番初めに見られたのは1分のこと。江坂が空けたスペースを車屋が使って、最後はダミアンのシュートまで持っていったシーンである。ただ、逆サイドの方がこの傾向は顕著。左右差の理由を考えるとすればインサイドハーフのカバーリング能力だろうか。右の戸嶋より、左の瀬川の方が出ていったスペースをどう管理するか?について難があったように思う。

 少しでも、高い位置で止めたい!というところからプレスに出ていったのであろう柏。ただ、柏のSHが最終ラインにプレスに行くことが、あまり川崎にとって牽制になっていなかったことと、川崎のSBが時間を得られてしまっていたため、プランを変更。柏は10分を過ぎたあたりから4-1-4-1にして。自陣のスペースを埋める形にシフトする。

画像3

 この修正により、ややこの時間帯は川崎がボールを引っかける頻度が多くなる。状況を変えたのは負傷交代。ジェジエウの負傷で登里が登場したことで、意外にも展開は川崎側に傾いていくことに。マンマーク色が強い柏に対して、徐々に川崎は選手個々がポジションレスに動き回るようになる。

 交代直後の登里が惜しいシーンを見せたのが17分。守田、下田の動きによって柏のスリーセンターが中央に圧縮されたと見るや、SH-IHの切れ目に抜け出す登里はさすがである。車屋もうまかったけど。

画像4

 前半の展開をまとめると、ポジションを守りつつボールを回してきた川崎に対してブロックを敷いてきた柏。ただ、柏の撤退守備は人についていく意識が強め。ならば川崎としては「どこまでついてきますか?」というもの。ブロックを敷きながらも人に強くついてくる柏の守備が、ポジションレスの移動が始まった要因の1つだろう。この動きのトリガーの1つが「ジェジエウの負傷交代で登里が入ってきたこと」というのもなかなかなめぐり合わせである。

 柏が難があったのは、人の受け渡しのところ。特にスリーセンターのところが気になった。ヒシャルジソン、出ていきたそうにしていたし、インサイドハーフが出ていったスペースを埋める役割はあまり向いていないように思う。中盤以前の守備でどこに追い込みたいか?という部分が見えにくくなってしまうと、それをチャラにできるほどのDFラインの強度は柏にはない。

 家長や長谷川など、外を意識している選手もボールサイドに顔を出してパス回しに参加。バランス重視を棚上げして動きまくるというのは、昨季への回帰っぽいが、相手にとってそれが有効ならば、それを引っ張り出すのは悪くないはずである。

【前半】-(2)
仕組みでは浮いているけども

 柏のボール保持はCBが幅をとり、中盤が降りてくる役割で手助けをするというもの。川崎のプレスはダミアンがリード役となり、CBにプレスをかける。CBとSBの中間ポジションをとる長谷川と家長がボールサイドに来た時にフォローをする。ちなみに今季のダミアンはたまにアンカーを消したりもする。

画像5

 中盤の役割はきつめのマンマーク。守田、下田あたりの起用はこの辺りを意識したものとも言えそうで、ボールを受けたくて降りていく柏の中盤についていく役割である。シンプルな形では前を向けない柏の中盤。利用したのはSBの部分だった。川崎はWGとSBの距離が間延びしやすく、柏のSBがフリーになりやすい。特に左のSBが車屋の時はこの傾向が顕著だった。北爪に預けることで縦にパスをつけられる戸嶋に前を向かせるというやり方は一定の効果はあったと思う。

画像6

 10分過ぎのシーンは、「アンカーの守田をスペースから釣りだして下田が左のフォローに行けない+安全地帯(RSB)の北爪の利用」の組み合わせで、川崎の左サイドから江坂にフリーでクロスを上げられた。川崎としてはこの日の守備の懸念である「前がかりになる中盤のスペース管理の部分」と「WGとSBの距離が遠くなる」という2つが合わさったピンチだろう。

画像7

 ただし、このシーンのように後方からパスをつないで川崎のプレスを無効化するシーンは少なかった。だからこそ、川崎は穴がありながらも圧力を高めるやり方を選択したのだろう。江坂にいい状態で前を向いてボールを持たせるビルドアップはできなかったし、オルンガも組み立ての部分の貢献度は低かった。

 そのため、速攻から相手陣を一気に陥れる形を多く作りたかった柏。ヒシャルジソンのボール奪取からオルンガがオフサイドとなったシーン(ジェジエウがケガしたところ)などはその狙いが見えた部分だった。しかし、先述の通り柏の守備は中盤の守備が連動せずに奪いどころを定められなかった。したがって、オルンガが活きそうなカウンターの発動の機会は限られるものに。

 ちなみに、川崎の右サイド側からの攻め上がりがジェジエウの負傷以降やや減った気がするのは、山根が上がった裏をカバーできるジェジエウの不在が効いている可能性が高い。ボール回しにおいて密集を作る動きを見せたのは、ロスト時に即時奪回しやすいため、ジェジエウの穴が見えにくくなるといった側面もあるだろう。山根が中央に突っ込んでロストした25分で即時奪回に成功した脇坂は◎。

 ちなみに負傷したジェジエウに代わりCBに入った車屋は配球役として満点で、CBとしてもストッパーとして機能。ただ、前半終盤に受けた警告だけ余計だった。

 前に起点を作れない柏。川崎が押し込む時間が増えていく。そうなると増えていくのがCK。セットプレーからの失点はFC東京戦で勝ち点を落としてしまった事案なのだが、この試合でも露呈。ボールウォッチャーになってニアのフリックに全くリアクションできなかった。

 立て続けに取った2得点目は川崎の左サイドのプレスに柏のビルドアップ隊が屈した形。長谷川、下田で制限した奪いどころに登里が突撃してカウンターに。フィニッシュは家長さんを褒めましょう。

 試合は2-0。川崎リードで前半を折り返す。

【後半】
三丸が提示した川崎の課題

 柏は3人の選手を交代。三丸、仲間、呉屋が登場する。

画像8

 呉屋はオルンガに比べて身体を張る意識が強く、背負って起点になろうという気概は感じた。クロスに合わせた2試合連続のゴールは反撃の起点になりうる時間帯のゴール。CFとしての存在感は出すことはできたのではないか。直前で3失点目を喫していなければ、効果はもっと高かったのかもしれないが。ボールウォッチャーになるゾーン守備の悪いところから失点を重ねてしまっては、勝ち点を奪うのはなかなか難しい。

 ただ、ひょっとすると柏にとっての交代での上積みは呉屋より三丸の方が大きかったかもしれない。今季の川崎の守備の難点は相手のSBに時間を与えてしまう所。前半はSBにボールを持たせても、殺傷性の高い攻撃にはつながらなかった。しかし、後半の呉屋の得点は高い位置でフリーになった三丸を離したところが起点になっている。彼のような時間を与えてはいけないSBに対しての守り方は、川崎にとっては今季未解決の課題だったりする。

 柏が惜しいのは、三丸にボールを届ける段階でミスが出てきてしまう所。特に反撃のために畳みかけたかった57分の瀬川からのパスがずれてしまうのは痛恨だった。結果的には川崎を畳みかけることができずに、試合が落ち着いてしまったといえるだろう。川崎のWGが低い位置をとってSBを監視できる状況においては、柏はほとんどボールを動かしながらチャンスを作ることができなかった。

 60分には川崎が選手交代。脇坂、家長⇒旗手、大島の交代。下げる選手は展開によらず決めていた可能性があるのが、この時期のレビューの難しいところである。点を取りに行かなきゃいけない状況なら別なんだけども。

 そういった状況も考えないといけないんだろうけど、旗手は若干持ち味が出にくい感じ。家長⇒旗手でチャンスメイク⇒ストライカーとガラッと色が変わるので、チームとしてやり方を変えつつ活かしていかないといけないなと。リードの状況で投入されている場面が多いのと、守備をちゃんとやるので、足を引っ張るなんて状況ではないのだが、本人が若干気にしているようにも思うので、早く結果は欲しい。

 川崎は試合を落ち着かせた後は、再びピッチを幅広くフェーズに移行。家長の不在がトリガーになっているかはわからない。相手を押し込んでカウンターの威力を低減することを大事にしていく印象を受けた。

 終盤でもエリア内に突撃していける山根はめっちゃ頼もしい。フィットが異常に早かったのはあるとはいえ、馬渡やマギーニョも家長との縦関係を模索する時間を与えられていたら、昨季も違ったんじゃないかなとも思ってしまうぜ。2人ともポテンシャルはあったからな。

 登里と山根がカウンター対応でかぶってしまったシーンから迎えた呉屋の独走は柏の反撃の最後のチャンス。守田、どう考えても退場なのだがなぜか黄色で済んだ。確かに、今季からJリーグはコンタクトプレーに寛容で、簡単に笛を吹いたり警告を出したりしないやり方を打ち出してはいる。ただ、チャンス潰しに関しては、コンタクトの強弱とは別に警告、退場の処分を与えるべき。カード払って止めている部分もあるはずで、そこで正しい罰が与えられないのはあまり好きじゃない。笛を吹かないならまだしも、吹いてなおカードを出さないシーンがこの場面に関わらず見られたのは残念だ。

 結局そのFKも決めることができず、川崎が逃げ切りに成功。2019年4月以来のリーグ戦ホーム連勝を飾った。

あとがき

■「策士、策を弄さず」でどこに進む?

 立ち上がりの柏を見た印象ではクラシコのFC東京に近い守備の仕方だなと感じた。とはいえ、4-1-4-1のスペースを埋める意識を優先してからはある程度安定する。ただ、中盤の人選が気になった。とりわけ、ヒシャルジソンや瀬川はこういったやり方にはそぐわないキャラクターではないか。後半の三丸、呉屋は存在感を見せたものの、川崎のボール保持を受け止めきれなかったのは間違いない。我慢が効かないセットプレーの守備も受ける展開には不向きだ。

 気になるのはネルシーニョがどこに進みたいのかという最終系が難しいところ。バリエーションも豊かで、ポテンシャルも確かなスカッドではあるが、その多彩さがピッチの中で反映されているとはいいがたい。どちらかといえば対症療法的なネルシーニョが、この試合の用兵で存在感を出せないとなると、ファンがどこに進むかが不安になっても不思議ではない。

■一歩前進も課題は未検証

 クラシコで無抵抗だったFC東京を退けた。この試合では修正をしてきた柏をこちらのやり方を変えたことで優勢に立った。一歩一歩進んでいる感があるのは確かである。今季から新しいことをはじめた川崎だが、変わること自体が目的ではないので、有効であれば以前のやり方に立ち返るというこの試合のやり方は好感が持てた。選択肢を複数持つことで間違えて選ぶ可能性はあるが、それ以外何もできなくなるよりは個人的にはいいのかなと思う。

 課題は柏より精度が高いブロックを組んでくるチームに対するアプローチ、そしてボール非保持時のプレスの局面におけるWGとSBの距離感が空いてしまうところ。前者はそういう相手と当たっていないので未知数、後者もSBに時間を与えることで致命傷には至っていない。そういう意味ではこの試合で三丸に自由を許した状況から喫した失点から学ぶことは多いはずだ。

試合結果
2020.7.11
明治安田生命 J1リーグ 第4節
川崎フロンターレ 3-1 柏レイソル
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:40’ 42′ 家長昭博, 52’ レアンドロ・ダミアン
柏: 56′ 呉屋大翔
主審:上田益也

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次