MENU
カテゴリー

「勝ちに不思議の勝ちあり」~2020.7.26 プレミアリーグ 第38節 アーセナル×ワトフォード レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
今日の可変の手法は?

 直近数試合のアーセナルはボール保持で4バック、ボール非保持で5バックという可変システムを用いて戦う。3バックのうち1枚にSBタイプのコラシナツかティアニーを入れて、彼らに攻撃時にSBとしてのタスクを与えるというものだ。

画像2

 この3バック⇔4バック互換チャレンジは自軍のメンバー、相手、そして試合の状況などによってマイナーチェンジをする。両WBを上げて、CFのラカゼットの両脇にペペとオーバメヤンを終結させるアプローチもそうだし、例えば前節のアストンビラ戦は後半からWBのサカが内側に絞る役割を担当する。個人的にはこうかはバツグンだ!ってものはまだ見つかってないけど、相手を見ながらの修正などはとてもうまくやっているというのがここまでのアルテタの3バック⇔4バック互換チャレンジへの印象である。

画像3

 そして、迎えた最終節でのこのチャレンジ。3バックと4バックで役割を変える選手として指名されたのはジャカだった。攻撃時は3センターの一角?もしくは2センターの片割れ?ウィロックをどう見るか次第だが、ジャカがボール保持の際に中盤のタスクを与えられていたことは間違いないだろう。非保持ではルイスとティアニーの間、3CBの一員として振る舞うことが多かった。

画像4

 アルテタは一貫してこの3CBの一角には左利きを置いてきたし、左サイドに落ちてビルドアップすることの多いジャカがここで試されるのは何となくわかる気もする。ただし、この試合に関しては失敗だった。

 まず、守備時のポジションが中央に寄りすぎていたように思う。大外に出ていくWBのティアニーに対して、ジャカは中央の相手を気にかけるので、5バックなのにハーフスペースががら空きという状況が生まれていた。

 そして、空いてしまったここのスペースに埋めに来るのがセバージョス。攻撃時は2センターかもしれない2人が、守備時にはそろって左のハーフスペース付近に最終ラインとして参加というカオスな状況が誕生する。これで6バック、場合によっては気まぐれでオーバメヤンも最終ラインまで下がって守備に参加していたので7バックである。

画像6

 アーセナルもさすがにこれでは攻撃に出られない。といいたいところなのだが、問題はそれ以前のところにある。そもそも7人いるのにハーフスペースの裏抜けには対応できないし、クロスを合わせる選手にはフリーでプレーを許してしまう。ダビド・ルイスはエリア内でタイトにマークにつけていなかったし、ホールディングは最終ラインから飛び出してもうまく相手もつぶせずに自軍に穴をあけるだけだった。

画像6

【前半】-(2)
当然だったアルテタの怒り

 ワトフォードが前進するパターンは大きく分けて3つ。ディーニーの降りてくるポスト、右サイドのトライアングル(SB,SH+1)からのハーフスペース裏抜け、そしてホールディングが空けたワトフォード左サイドのハーフスペースからの裏抜けである。

   サール相手に距離を離すのは、ドリブルで抜かれないためってことで100歩譲ってわかるけど、ディーニーのポストを放置するのはやめてほしいし、クロスの先の相手に寄せないのはもっとやめてほしい。アルテタが飲水タイムで怒ったような振る舞いを見せたのは当然である。

 人がたくさんいるからこその無責任、そして勝手に出ていっては穴をあけるという流れの繰り返しのアーセナル。いつもは冷静なティアニーもこの日は無謀な飛び出しが見られるなど、守備の距離感が狂っていたのは気になる。それに対して、ワトフォードはチャンスの山を築いては捨て、築いては捨てという流れ。ようやく実になったのは、ホールディングのパスミスをさらってダビド・ルイスのPKを誘った40分過ぎのことだった。

 ワトフォードにここまで点が入らなかったのは不思議だが、ここまでの間にアーセナルがすでに3点取ったのは別に不思議ではない。ワトフォードは左サイドバックのマシナが裏を空けがちに。最終ラインの他の面々も特にここにケアはいかないため、ペペが一人でドリブルで運ぶことで陣地を回復することはそんなに難しくなかったし、対面を出し抜いてエリアの中にラストパスを供給することもできていた。2点目のティアニーの得点も起点となったのはペペだ。
 
 ワトフォードの4-4-2ブロックも追い込む方向、ブロックのコンパクトさ、ボールホルダーへのプレッシャーいずれも不十分だったし、アーセナルがひとたびボールをもてば、外と中を使い分けてワトフォードの守備陣形を揺さぶることはできていた。押し込まれた時の守備対応の軽率さが1失点目のPKには表れていたし、3失点目もオーバメヤンにPA内でトラップを許してしまえば当然そうなるだろう。

 要所で力みが見えるワトフォードと緩みの連鎖が止まらないアーセナル。攻守に歯車がかみ合わない両チームのゲームはアーセナルが3-1とリードしてハーフタイムを迎える。

【後半】
本職が入っても変わらない流れ

 後半も状況はなかなか変わらない。攻め込むワトフォードをなかなか跳ね返せないアーセナル。前半に指摘したワイドのCBが守るべきハーフスペースは引き続きワトフォードの狙い目だった。右のホールディングは63分のシーンのように釣りだされて、相手を潰しきれずに裏をとられてしまうし、左のジャカは立っているだけで結局突破されてしまうシーンが目につく。まぁジャカは本職ではないので仕方ない部分もあるけども。

 ビルドアップの局面でもアーセナルは安定したボール保持を維持できなかった。それでも見どころがあったのはメイトランド=ナイルズ。やっぱりビルドアップの出口になる動きは上手。できれば来季残ってほしいけど、やっぱり難しいのかなぁ。

 10分過ぎたところでアーセナルは選手交代を敢行。コラシナツ、エンケティアを投入。ジャカが最終ライン業務から解放されて中盤に復帰。コラシナツがCBの一角に入ることになった。

 これで少しはいつも通りになるかと思いきや、そうはいかないアーセナル。コラシナツが入ってもハーフスペースの裏は相変わらず取られ続けることに。結局そこから決壊してしまったアーセナル。ウェルベックが決めた2点目はこの試合ひたすらやられまくった右の大外⇒ニアのハーフスペースの裏というパターンだった。

 その後も大きく展開は変わらなかったこの試合。オーバメヤンの決定機こそあったものの、基本はシュートの雨あられ。マルティネスに助けられたり、ワトフォードのシュートの精度が足りなかったりなどで結局同点弾を食らうことだけは免れることができた。エリア内でCBの寄せがひたすら甘かったのはセットプレーでも同じ。最後までひやひやものの試合だった。

 試合は3-2で逃げ切ったアーセナルが8位に浮上してフィニッシュ。逆転勝ちのミッションを果たせなかったワトフォードは降格になってしまった。

あとがき

■1週間でどこまで切り替えが効くか

 ダイナミックで勢いがあるけど、どこか雑さがあってたまに大仕事をする。憎めないキャラクターのワトフォードの降格は個人的には寂しいものがある。アーセナルファンで有名なディーニーの息子はさぞ複雑な気持ちだっただろう。

 試合を振り返ってみるととにもかくにも書きたくなることがあまり出てこなかった。それは自分の気づきの力不足であるかもしれないし、単にアーセナルのこの試合の取り組みで書きたくなる要素があまりなかったのかもしれない。「この試合に勝てば、自分の所属するクラブに数百万ポンドの金が入る!」という状況はどれくらい選手のモチベーションになるのだろうか。8位になるかもという状況は個人的には全然燃えなかった。

 とはいえ、この試合の出来のまま臨んでしまえば、確実にFAカップのタイトルはチェルシーの下に行ってしまう。数百万ポンドではなくタイトルという目標はこの試合ではさっぱりだった選手たちの心に火をつけることができるだろうか。泣いても笑ってもあと1試合である。

試合結果
2020/7/26
プレミアリーグ
第38節
アーセナル 3-2 ワトフォード
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 5′(PK) 33′ オーバメヤン, 24′ ティアニー
LIV: 43′(PK) ディーニー, 66′ ウェルベック
主審:マイク・ディーン

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次