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「味変対決の勝利の立役者」~2020.6.25 プレミアリーグ 第31節 チェルシー×マンチェスター・シティ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
CF不在の効果は

  連勝しなければ自分たちがトリガーとなり、リバプールのプレミア初優勝を引き起こすこととなるマンチェスター・シティ。とはいえ、シティのリーグ優勝の確率はほぼ0。彼らの今季のプライオリティは8月に再開するチャンピオンズリーグということで間違いない。リーグ戦の優先度的にもこの試合の目的をグアルディオラがどこに置くのかを読み取るのはとても難しい。もっとも、グアルディオラはいつでも難しいんだけど。

 試合はシティのボール保持の時間を主として進む。チェルシーは最終ラインの高さをある程度まで保ちつつ、プレスよりはリトリートの意識が強かった。したがって、チェルシーもシティのボール保持の時間が長くなるのは、ある程度許容していたということだろう。

 というわけで、シティにとってはチェルシーの4-5-1の網をどう突破するか?という命題に取り組むことになる。この試合のシティの一番の特徴はやはりCFの不在だろう。負傷のアグエロに加えて、ジェズスもこの試合ではベンチスタート。この試合でベースとなったのはベルナルド・シルバの偽9番である。したがって、ポジションの入れ替わりは顕著。例として挙げると9番役のベルナルドはガッツリ中盤まで受けに降りることも珍しくなかった。その分、WGのマフレズ、スターリングがやや内に絞る形。

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 とはいえ、これが効果的だったかというと難しいところ。確かにポジションを頻繁に繰り返しているし、捕まえにくくはあるものの、裏をとる動きが乏しい。そのため、深さを作れずに、チェルシーのコンパクトなブロックを間、間でつなぐ時間帯が続く。

 深さを作れていたのは4バックの大外から回るメンディをはじめとする左サイドの面々くらい。逆サイドはマフレズが主役になっている感じが強かった。ハーフスペースを抜けるウォーカーやデ・ブライネはあまり見られず、マフレズのカットインからのクロスという斜めに動いてくる動きが多かった。

 特に左サイドは崩して深さを作るという意味では悪くなかったのだが、中に選手を確保した状態でサイドを突破するという状況をあまり作れなかったのはマイナスポイント。チェルシーのブロックの網を広げる試みとして、裏抜けは当然必要なのだが、チェルシーの中盤の上げ下げが巧みでシティに決定機を許さなかった。チェルシーは下がったときの中央の埋め方が上手だった。

【前半】-(2)
中盤のスペース攻防でポゼッション安定

 チェルシーのビルドアップはベースのポジションから、あまり大きな並びの変化はなし。ボールを持つ機会は少なかったとはいえ、ひとたび機会を得るとじっくりボールを保持するチェルシー。深い位置からショートパスをつなぐ。シティの守備で気になったのはアンカーの挙動。再開後のシティは相手のアンカーに対して、アンカーが出ていく動きが多かった。アンカーを背中で消すCFと挟み込むイメージ。

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 ただ、この試合の立ち上がりはそのアンカーの動きがやや鈍かったように思う。そもそも、アーセナル戦のギュンドアンに比べるとやや機動力が低いロドリという属人的なものなのだろうか。ロドリが前に出ていく機会もあったが、その場合はロドリが空けたスペースが穴になる。ジルーがその位置に降りてポストをこなすことで前進。シティのプレスの穴を利用していた。

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 とはいえ引いたら引いたでチェルシーの中盤にはプレスがかかりにくくなる。プレスが弱い分、チェルシーのボール保持時の安定感は増し、シティの「ずっと俺のターン」感は薄まった。チェルシーの中盤はボール保持でも痒い所に手が届くポジショニングが目立つ。特にカンテ。ジョルジーニョのようなとがったセンスを見せるパスはないものの、シティの中盤が押し上げるのをためらうくらい低い位置からボールを引き出し続けた。インサイドハーフの下りるタイミングもシティの中盤を引き出すのに有効。サッリ時代からビルドアップ頑張ってよかったね。

 中盤と最終ラインのギャップを突くのがうまかったのはウィリアンも同じ。頻度としてはジルーよりこちらの方が多かったかもしれない。間で受けて、そのまま持ち運ぶウィリアンの動きはシティをかなり苦しめた。

 シティの方が長くボールを持ちながらも、チェルシーも保持で存在感を見せつつ、非保持ではやらせない。主導権がどちらにもない時間が続く。クーリングブレイクを経て、徐々に前に出てきたのはチェルシー。やはり自陣に押し込まれた時の守備は難があるシティ。機動力のあるチェルシーのアタッカー陣にシティが振り回される時間帯になる。

 ただ、先制点は試合展開とは関係ないところから。跳ね返ってきたCKの処理を誤って、プリシッチの独走を許してしまうシティ。ギュンドアンへのパスミスと、遅らせるべき場面でアタックをかけてしまいGKとの1対1を招いたメンディは痛恨。チェルシーが一歩前に出る。シティとしては劣勢の時間帯に手痛いミスでツケを払うことになった。

 失点後のシティは高い位置を保ったCBもブロック崩しに本格参戦。両ワイドから押し込んで、チェルシーのラインを下げるが、決定的な形にはならなに。

 試合はホームチームリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
共に「味変」した選手交代

 まるで前半の頭に戻ったかのような立ち上がりである。再度チェルシーのブロック攻略に挑むシティ。サイドのトライアングルでポジションチェンジを繰り返しながら、解決策を探るがなかなか解は見いだせない。

 しかし、シティは同点に追いつく。演出したのはデブライネ。ジルーがポストで収め損ねたボールを拾い、素早く間を通す縦パス。ここまで気を遣ってきたチェルシーの中盤にとっては、ここまでで最もクリティカルに通された縦パスかもしれない。楔を受けたマフレズに前に入られたカンテが犯したファウルでFKをゲット。これを完璧な無回転で沈める。ここまでで一番の縦パスと無回転FKというデ・ブライネの2つの魔法でシティは同点に追いつく。

 終盤の試合展開を決めたのはこのあとの両チームの選手交代である。大きく変えたのはシティ。ジェズスとダビド・シルバを投入し、ロドリとベルナルドを下げる。本職CFの登場の陰に隠れて、ギュンドアンのアンカー移動も見逃せない。より行動範囲の広いギュンドアンのアンカーを皮切りに、シティはハイプレスを敢行。自分たちのターンを取り戻しに行く。

 ボール保持においては、大外レーンをSBが駆け上がる動きがだいぶ減った。前半から内に絞ることが多かったウォーカーはほぼ相手の中盤をピン止めする囮+サイドチェンジの入り口みたいな感じだった。カンセロの方が向いてそうな役割な気もするけども、被カウンター時の対人を意識してのことだろうか。

 加えて、逆サイドのメンディも徐々に内に絞るようになる。外に開くのはWGかインサイドハーフ。SBはそこのお手伝いといった印象。これはいくら何でもジンチェンコの方が向いているだろうなと思ったら、普通にジンチェンコに交代した。

 自分が考えた仮説としてはロドリ⇒ギュンドアンのアンカー交代+SBの手前の陣地でのサポート強化でチェルシーの中盤の網を壊すことが目的ではないだろうか。シルバとデ・ブライネという仙人2人のインサイドハーフでさらにローテーションの質を高めよう!というイメージだと推察する。

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 選手の入れ替えで味を変えてきたシティに対して、チェルシーの交代策は最小限、しかも同ポジション。でもしっかり味は変わっている。ポゼッションで強みを見せるジルーに代えて、オープンスペースで輝けるエイブラハムを入れたことで、チェルシーはロングカウンターの意識がかなり高まる。中盤の動く幅を増やして勝負に出たシティに対して、トランジッション勝負を挑んだイメージだろう。

 この味変勝負で軍配が上がったのはチェルシー。シティは相変わらずボールは回るものの、もうひと味が足りない状況を変えたとは言い切れず。惜しくも仕留めきれなかったスターリングの決定機はむしろ縦に速く進んだものだった。

 決定機の数でも上回ったチェルシー。マウント、そして2度目のプリシッチなどシンプルながら相手のミスから決定機を得て、シティの最終ラインに揺さぶりをかける。

 試合を決めたのはデ・ブライネのパスがカンテにカットされたシーンから。パスをカットされた上にカウンターで独走を図るウィリアンを止めきれなかったことで二重にやってしまったデ・ブライネ。倒れずにプレーを続けたウィリアンを賞賛すべきシーンかもしれないけども。ウィリアンがデ・ブライネを振り切った後の一連のプレーで数的優位とリードを得たチェルシー。実質このゴールで試合は終わってしまった感である。あってよかったVAR。

 試合は2-1でチェルシーの勝利。最も、この勝利に沸いているチェルシーファンは中継ではあまり見かけなかった。だってリバプールファンばっかり映すんだもん。

あとがき

■呼び水が暴発

 この試合のシティの出来が悪かったのか、はたまた3-0で彼らがねじ伏せたアーセナルがあまりにイージーだったのかは判別がつかないが、ひとまず偽9番の前半の試みはゴール前の人数不足と、裏をとる人材の不足で頓挫してしまった感がある。チェルシーの中盤と真っ向勝負を挑むための修正も、一度はFKで追いつく呼び水になるも、最後はカンテに縦パス阻まれてしまいジエンドになってしまった。この試合では局面局面でチェルシーに乱されてしまい、ずっと俺のターンを維持することはできなかった。

■やっぱりカンテ

 チェルシーを褒めるべきシーンが多かったのも事実だろう。後半のオープンスペース勝負になったカウンターの精度ももちろん素晴らしい。試合の展開を読むランパードもさすがといっていい。でもやっぱりカンテかなぁ。受ける展開になるとアンカー・カンテの凄味はかなりあった。シティに勝つなら、多少は我慢しなきゃいけないので、そこの第一関門突破に大きく寄与したのも大きい。オフザボールで違いを作るインサイドハーフ・カンテもさすがだけど、シティ相手ならアンカーもいい。中盤の舵をとりながら最終ラインのバックアップまで決めるこの試合のカンテは、まぎれもなくチェルシーの最重要選手であるということを強く認識させられた試合だった。

試合結果
2020/6/25
プレミアリーグ
第31節
チェルシー 2-1 マンチェスター・シティ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE: 36′ プリシッチ, 78′(PK) ウィリアン
Man City: 55′ デ・ブライネ
主審:スチュアート・アットウィル

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