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「師弟対決は総力戦」~2020.3.7 プレミアリーグ 第29節 アーセナル×ウェストハム レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
見えやすかったパブロ・マリの特徴

 指揮官同士にスポットライトを当てれば師弟対決となったこの一戦。師匠に当たる、デイビット・モイーズはミケル・アルテタに対して、ひとまずボールを渡す選択でこの試合に臨んだ。

 ウェストハムは4-4-2でアーセナルのボール保持に対抗。ハイプレスを使うこともあったが、ミドルゾーンを越えた段階では、積極的に撤退を選択することが多かった。ウェストハムの特徴として挙げられるのはアントニオの立ち位置。4-4-2の「2」の位置に入るアントニオだったが、彼の立ち位置でウェストハムがどこからアーセナルのビルドアップを封鎖したいか?がわかるような気がした。

 試合開始直後はアーセナルのCB2人につくようにマッチアップ。それによってセバージョスは比較的楽に時間を得ることができていた。アントニオの役割は、アーセナルの左サイドへのパスコースを切るような立ち位置でプレスをかけていた。

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 ということで時間を得ることができたのはセバージョス。2トップの間からボールを受けるセバージョスで前進できていた。こうなってくると中央を警戒しなくてはいけないウェストハム。アントニオがセバージョスをケアするような立ち位置を取ると、次に時間を与えられたのはパブロ・マリ。早速問われるボール持てるか?と部分だが、少なくともフリーになったときはボールを動かしながら空いているところにパスを供給できていた。例えばSHの裏のサカとか。

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 リーグデビュー戦となったパブロ・マリの話をすれば、特徴が分かりやすい試合展開になったと思う。時間を与えられれば供給役になれるという所もそうだし、守備面で言えば10分過ぎのシーンが象徴的。アントニオに競り負けて、裏をぶち抜かれたように体をぶつけての競り合いやスピード勝負は少し厳しそう。先読みして芽を摘んでいくタイプなのだろうなと思う。ちなみにこのシーンでは潰しきれなかったソクラティスの対応も微妙。対人も裏の開け方もSBとしては少々厳しいものを感じる場面が多かった

 ウェストハムの守備時の立ち位置でもう1つ特徴的だったのは、SHが絞って守備をする機会が多かったこと。左と右で守り方は違ったけど。アーセナルから見て右のサイドは、大外に張るペペに対してクレスウェルが出ていく役割。フォルナルスは内に絞ってハーフスペースを閉じる役割である。あるいはエジルを監視するマンマーク志向の強い役割だったのかも。

 逆サイドはSHのボーウェンがプレスバック時に大外をカバー。SBのエンガキアは内側絞って守っていた。

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 そんなボーウェンも高い位置で守る時は内側に絞ることがあった。おそらくこれはハーフスペースへの楔を封じる役割。ジャカからのパスをボーウェンがカットしてカウンター発動!というのはウェストハムの狙い通りだろう。

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 絞るSHはおそらく攻撃面でも狙いはあったはず。ウェストハムの攻撃はアレかアントニオをめがけたロングボールが主体。SHのフォルナルスとボーウェンはその落としを受けてカウンターを運ぶ役割。内に絞ったほうが守備⇒攻撃の移行がスムーズだったように思う。

 それでも、アーセナルはウェストハムに大きなチャンスはそこまで作らせなかった。ダビド・ルイスが最終ラインの門番としての役割が板についてきたのは、アーセナルファンとしては頼もしい限りである。

 ただし、アーセナルも攻撃面ではなかなかチャンスが遠い。後方のパス回しから、フリーになったセバージョスが右に大きく展開。ペペとエジルの連携で崩しにかかるのを繰り返していたが、なかなかシュートまでには至らず。中央のエンケティアも起点になり切れなかった。ボールは握れるが、ブロック攻略からシュートに至る場面はあまりなく、両チームとも守備が攻撃を上回る展開が多い試合になっていた。

 試合は0-0。攻めあぐねる攻撃が目立つ中でハーフタイムを迎える。

【後半】
一変する主導権の握り方

 ウェストハムは前半からアーセナルにボールを持たせることを許容していたが、後半の入りは前半よりも撤退してアーセナルを迎え撃つ方法を選択した。

 ウェストハムの両SHはシンプルに最終ライン大外までプレスバックしてスペースを埋める機会が増えていく。時には6バックに見えるような陣形になることもあった。アーセナルは左はジャカ、右はソクラティスが前半よりも積極的に上がることで左右で多角形を形成。中盤でセバージョスが供給役となり、左右にボールを出すリンクマンとしてせっせと働いていた。中央に人をかけたウェストハムに対して、展開力で打開を試みることができるセバージョスはこの試合では貴重であった。

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 ウェストハムはSHの位置を下げた影響でこの時間はカウンターが刺しにくくなった。反撃の機会も限られてしまう。アーセナルがセバージョスを中心に両サイドからウェストハムのブロック崩しに勤しむ後半の立ち上がりになった。

 だが、試合は10分もすれば違う顔を見せるように。理由は機会が限られていたウェストハムのボール保持が結構ちゃんとしていたから。ライスを中盤の底に置きつつ、高い位置を取ったクレスウェルのクロスは精度も高く、非常に効いていた。この試合のアーセナルはサイドの守備の連携があまりよくなかった。特にペペとソクラティスのサイドは危うさが目立っていた。レノが決定的なセービングを見せることでアーセナルは何とか難を逃れることができたという場面もあったくらいだ。

 ウェストハムと同様に、アーセナルも自陣に押し込まれるとなかなか押し返す手立てがない。長いボールは跳ね返されてしまうし、ロングカウンターを繰り出す機会は限られていた。徐々に押し込まれて困ってきたところでアルテタはラカゼットを投入。フィニッシュこそ不調だが、つなぎの局面でも貢献が期待できるラカゼットの投入で、セバージョス以外の中央の起点を増やす狙いだろう。

 投入直後に内側に斜めに走りこむランからの決定機をオーバメヤンが見せたように、アーセナルの攻撃のポイントを1つ増やすという意味で、ラカゼットの投入は非常に大きかった。裏のオーバメヤン、間のエジルなど、彼のポストから多くのチャンスメイクのきっかけをつかむことができたアーセナルであった。

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 というわけで比較的守備側がうまくいっていた様相が強かった前半に比べれば、後半はボール保持側がうまく試合を握る展開にシフトしていったといえるだろう。押し込むチームが10分単位で代わって、そのたびに主導権も移り変わる展開になっていった。

 そんな中で先制点を決めたのはアーセナル。シュートの跳ね返りに対して抜け出したエジルが同じく抜け出したラカゼットに対してアシストを決める。一度はエジルの抜け出しがオフサイドと判定されたものの、結果的にはVARの介入でゴールと認められた形。いてよかったVAR。そして、このゴールの起点は時間を与えられたパブロ・マリの縦パスからであった。

 その後、反撃に転じるウェストハム。ハーフスペースを陣取るボーウェンとフォルナルスを起点として、エリア内に攻め込む。特にボーウェンは交代で下がるまではアーセナルを脅かす存在だった。

 しかし、ウェストハムは最後アーセナルのゴールをこじ開けることができず。試合は1-0でアーセナルが久しぶりのリーグ3連勝を決めた。

あとがき

■シンプルが通用せず

 結局、こじ開けられなかったウェストハム。ボーウェンを軸としたカウンターアタックはさすがの破壊力ではあったが、アレとアントニオを軸にしたロングボールを起点としたカウンターは比較的アーセナルに潰されてしまった印象だった。シンプルなだけにそこが通用しないと厳しい。

 守備においてはエンケティアを完封していた時間帯は両サイドからの攻撃だけ防げば何とかなっていたが、ラカゼットが入って中央にも起点を作られるようになってしまってからは決壊してしまった。

 おそらく、ここからのシーズンでやることは大きくは変わらないだろう。撤退守備をベースに長いボールで刺す。ハーフスペースを閉じつつ、楔を引っかけてくれたらショートカウンター。とにかく先手を取って自慢のアタッカー陣が躍動する試合展開を狙いたい。残留に向けてここからが正念場だろう。

■全部をつぎ込んだ勝利

 クリーンシートで勝利を収めたアーセナル。今季初の3連勝(!)を達成した。ブロック崩しに苦戦を強いられたが、セバージョスを中心に腰を据えて取り組み課題を解決することができた。ただ、その道のりは非常に厳しいもの。試合を通してボールを落ち着いて保持できていたが、コントロールを失う時間もあった。

 ニューカッスル戦のレビューで述べたように、今季はこういう試合が続くことになるだろう。楽に勝てる試合は非常に少ないと思う。他のCL争いを続けているクラブに対して抜きんでて調子がいいとは言えない。CL出場権確保という目標に対しては難しい戦いが続く。

 得点シーンを構成する要素を振り返ると、今季熟成してきた左サイドのオーバメヤンとサカの連携にマリの縦パスという新しい材料が加わった形。得点シーン以外にもラカゼットの投入による中央突破強化と、セバージョスの奮闘や最後尾が支えるレノを中心になんとか総力戦を勝利で締めくくることができた形である。今は手の内を隠せるだけの余裕はない。この日のピッチで見せることができたものを携えて、水曜にはエティハドに乗り込むチャレンジに挑むことになるだろう。

試合結果
プレミアリーグ
第29節
アーセナル 1-0 ウェストハム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 78′ ラカゼット
主審:マーティン・アトキンソン

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