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「殴れるスロースターター」~2020.3.1 プレミアリーグ 第28節 エバートン×マンチェスター・ユナイテッド レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
先制するスロースターター

 エバートンの前節の対戦相手はアーセナル。ということで当noteでは前節レビューを書いていた。

その書き出しはこうである。

 これだけ長くレビューを書くことをやっていれば、何かが起きる前に点が入ってしまうことも当然ある。この試合はまさしくそのケースで、それぞれの狙いやユニット、個々の調子などを見る前にスコアが動いてしまった。

 そして、この書き出しは本当にこのまんまこの試合のレビューの書き出しに使えるものである。むしろ、意外度としては今節の方が上。何もないところから完全に相手にゴールをプレゼントしてしまった形のデ・ヘアだった。

 前半早々の失点は手痛いことは間違いないが、せめてもの救いをあえて述べるのであれば、気にせずいつも通りやるしかないというところだろうか。まぁ、へこんでも仕方ないよね。。みたいな。実際に仕方ない失点だったしね。

 そういうわけで、いつも通りやるしかないユナイテッドがボールを握って試合は進む。両チームの噛み合わせを考えると中盤がズレを作りやすいマッチアップになる。ユナイテッドのボール保持の観点に立てば、間にいる人がフリーになりやすい構造になっている。わかりやすいのはアンカーのところ。ユナイテッドはそこまでマティッチにボールを入れることでビルドアップを開始することはなかったけど、構造的にはアンカーはエバートンが監視しにくい立ち位置である。

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 ユナイテッドがビルドアップで経由していたのは、内側よりも外側である。特に左サイドがメイン。起点となったのはルーク・ショー。インサイドハーフのフレッジが近くにいるため、同サイドのウォルコットはマークに行くタイミングが遅くなりがちである。

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 エバートンの課題はスロースタートであること。前節も今節も先制はしたものの、彼らに関しては「スロースターター」という印象がある。4-4-2ブロックを形成するのだが、人へのマークは遅い。先ほど述べたルーク・ショーへのマークもそうだし、ボールの受けどころへのチェックも遅い。

 進んできたルーク・ショーにはいくつか選択肢がある。1つはSB-CB間を抜けるように抜けていく選手へのパス(図中ではブルーノ・フェルナンデス)、1つは中央の選手への斜めの楔(マルシャル)、そして自らのドリブルでの侵入である。右に比べて左の完成度が高いのはルーク・ショーの攻撃性能の高さが一因だろう。

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 エバートンの反撃は高い位置を取りやすいユナイテッドのSBの裏から。得点直後のカルバート=ルーウィンのように、長いボールで一気に攻め立てるパターンを反撃の武器として持っていた。

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 落ち着いてボールを持つパターンにおいては狙い目はユナイテッドのスリーセンター。大外で高い位置を取るSBによってユナイテッドの中盤の選手間の距離を広げる。ここで広げた陣形をうまく使うのがアンドレ・ゴメス。14分のシーンはウォルコットがコントロールをミスってしまった感があったが、ボールと相手の陣形の動かし方としては理想的な運びだと思う。

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 ただし、陣地を広く使って相手の守備を広げるというやり方は諸刃の剣。カウンターを食らえば自陣にはスカスカのスペースが広がっている。その影響が如実に出たのは失点シーン。エバートンのCBが縦に鋭く差してくる様子はないと踏んだフレッジが早めにSBにプレッシャーをかけることでミスを誘発。カウンターからブルーノ・フェルナンデスのゴールを呼び込む形となった。

 前半の終盤はやたら負傷しまくっていたリシャルリソン、両チームの小競り合い、やたら飛び交うカードが目立ってサッカー以外のところが気になる展開に。サッカーとしては両チームともいいところも悪いところもありつつ後半を迎えることに。

【後半】
かみ合わせて殴り合う

 前半はスロースターターとして入るのがエバートンのお決まりだとしたら、後半に攻守の強度が上がるのもエバートンのお決まりである。前節のアーセナル戦は後半の入りこそ前半の流れを引きずった強度で失点を食らったものの、この試合では後半開始共に前プレスを発動。前半と比べて非常にハイテンポな展開となった。

 マンチェスター・ユナイテッドの問題点は、ボールを持ちやすい布陣にしたものの、エバートンと同様にバックスの足元のスキルはそこまで高くはないところ。したがって、エバートンの前から嵌めこむハイプレスにはちゃんと苦戦していた。

 取り返した後のエバートンの狙いは前半と同じくSBの裏側。特にリシャルリソンは本来の資質を考えても、左に流れてからのプレーがうまい。そのうえ、左サイドハーフのシグルズソンは内側に切り込んでのプレーも期待できる選手。SBの裏を取ったリシャルリソンに相手のCBがついていけば、内側の空いたスペースでプレーすることができる。後半途中から入った逆サイドのベルナルジも絞ってプレーするのがうまいプレイヤーである。

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 後半にペースを握られたユナイテッドは選手交代で4-2-3-1に移行。イガーロ、マタを投入して噛み合わせがいい形に変更してきた。ここからはデュエル志向が強まっていくので、特に配置の側面では述べるようなことはなくなっていく。まぁ前半もそういう成分が多かったかというと微妙なんだけど。

 アンチェロッティの後半の交代(アンドレ・ゴメス→モイゼ・キーン)とそれに伴う配置変更も、PAまでのボールの持ち運び方をどうするか?といった工夫の話よりも、もう単純に前線に攻撃性能を追加したいぜ!という話に見えた。ユナイテッドがかみ合わせて、試合をデュエル側面に寄せてきても、展開はエバートンペースから動かなかったという証拠かもしれない。

 前半にリシャルリソンが何度も座り込んで動けなくなってしまった役割を後半に引き継いだシディベが、度重なる小さい負傷(壁への激突含む)でボロボロになっているのが大変そうだなって思った。

【後半】-(2)
オフサイドについて

 展開的にプレミアっぽい豪快な感じだったので面白かったけど、レビュー的には書くことがあんまりなかった後半なので試合終盤のオフサイド判定について簡単に触れておく。

    カギになるのは「シグルズソンの存在がデ・ヘアのプレーに影響を与えたか」という点である。

    自分は率直に当初はこの判定はオンサイドでいいのではないかと思った。根拠は2つ。

1.  カルバート=ルーウィンのシュートを放った時にはシグルズソンはデ・ヘアの視線を塞ぐ位置にはいない。
2.  デ・ヘアはシグルズソンの存在に関わらず、シュートをセーブするのは難しく、シグルズソンの存在がデ・ヘアのセーブに影響したとは言えない。

   1については議論の余地はないだろう。ちなみに「視界」ではなく、「視線」なのが重要と某審判員の方に教わったことがある。

   難しいのは2について。再考するきっかけになったのはこの一連のツイート。

The second aspect is “making an obvious action which clearly impacts on the ability of an opponent to play the ball”. It is crucial here to note that “impacts on the ability” is a theoretical idea, there will be no judgement made on De Gea’s ability to make the save.

   要は「プレーへの影響」というのは理屈の上での話であり、実際のプレイヤー(この場合はデ・ヘア)のセーブ能力には関係ないということである。つまり、この考えに基づけば、デ・ヘアは逆サイド重心になっていてセーブが難しいことは関係ない。「実質的なセーブの可能性がなかったとしても、シグルズソンの存在がデ・ヘアに影響を与えうるか?」という点が重要になる。

   シグルズソンはボールに対して足を上げるようにして接触を避けた。おそらく、瞬間的にデ・ヘアの視線を遮ってボールを隠すような場面はあったと考えるのが妥当だろう。

    このシーンが発生した時にTLに流れたG大阪×柏の遠藤のオフサイド判定も、遠藤の存在に関わらずセーブは難しかったように思う。こちらの場面ではGKが飛んだ方向に遠藤がいたため、より影響を与えたと考えられてもおかしくない。

G大阪vs柏のマッチレポート・動画(JリーグYBCルヴァンカップ:2020年2月16日):Jリーグ.jpJリーグの試合日程と結果一覧。試合日には速報もご利用いただけます。www.jleague.jp

 先ほどの一連のツイートの解釈に基づけば、シグルズソンの動きが「理屈の上では」デ・ヘアのプレーに影響を与える可能性があったとして、オフサイド判定になるのは妥当なように思う。

    仮にシグルズソンがデ・ヘアの視線を遮らないような形で動いた(シュートの瞬間に左サイド側に転がるなどして)としたらどうなるのだろう。理論上では間の前にいるだけで、デ・ヘアのプレー選択に影響を与える気がする。でもそもそもオフサイドポジションにいること自体は問題ではないし。そこまでを影響と取るかはむずかしいね。

あとがき

■武器は強力、課題はムラ

 終了間際に勝ち点を取り逃がした感のあるエバートン。2試合連続で先制点を早い時間にあげたとはいえ、低調な前半は相変わらず。ただし、前線には質の高いアタッカーを揃えているので、悪い時間でも殴り返せるのは強みである。今のエバートンのアタッカー陣の質を簡単に上回れるクラブはあんまりいないはずだし、撃ち合いにはめっぽう強そうだ。

 逆に言えば、出入りの多さで勝ち点は安定しなさそうである。アーセナル戦に比べれば時間帯ごとのムラは少し抑えられたような印象を受けるので、ここから終盤までどうまとめていくか。次節のチェルシー相手は殴り合いでもやれるかもだけど。

変化は興味深い。ダービーはどうか?

 「プレミアで今、面白いチームはどこ?」って聞かれたらここ数週間はユナイテッドの名前を挙げることにしている。単純に今はほかのチームが面白くないこともあるけど、ブルーノ・フェルナンデスはなんていうか新鮮で面白い。彼を触媒にユナイテッドというチームが「ボール持つの頑張ろうぜ!」ってなっているのは興味深い。

 あとはチーム全体がついてこれるか。この試合でもアンカーを含めて後方のボール出しの拙さは感じる。ルーク・ショーは輝けそうだが、それ以外はそもそも適正としては微妙なところだろう。改善の余地である。

 ただ、直近の対戦相手のマンチェスター・シティからするとこの変化は与しやすい方向に舵を切っているように思う。前半戦のフィジカル圧殺ではなく、同じ土俵に上がることを選べばシティ有利に針が振れるはずだ。ダービーのスールシャールの挑み方には注視したい。

試合結果
プレミアリーグ
第28節
エバートン 1-1 マンチェスター・ユナイテッド
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:3’ カルバート=ルーウィン
Man Utd:31’ ブルーノ・フェルナンデス
主審:クリス・カバナフ

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