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「『いつも通り』でいいのか」~2020.2.22 J1 第1節 川崎フロンターレ×サガン鳥栖 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
アシメにはアシメで

   新しい年、新しいシーズンのスタート。等々力で迎える開幕戦は、去年と同じ指揮官で新しいスタートに挑む両チームの対戦である。

     直近の対戦結果を見れば、この試合に最も頻度が多いスコアは0-0。しかし、そもそも攻撃仕様の川崎に加えて、今季は鳥栖もボール持つためにどうするねん!にシフトチェンジ。いつもと違う川崎×鳥栖になる感プンプンである。

鳥栖、白星発進へ闘志 MF松岡「攻撃主導する」 22日に敵地・川崎戦|スポーツ|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE今季のJ1リーグは21日に開幕し、サガン鳥栖は22日午後3時から、神奈川県川崎市の等々力陸上競技場で川崎フロンターレと対戦www.saga-s.co.jp

    試合前の予感は比較的当たったように思う。鳥栖は比較的高い位置からプレッシャーにきた。川崎のボール回しは左右で非対称なのは、プレビューで紹介した通り。清水戦の画像の使い回しだけど、こんな感じである。

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    非対称性を生み出しているのは両インサイドハーフの役割。高い位置でのアクセントがメインの脇坂とビルドアップにより関与する役割の大島、そしてそれに伴い前方に押し出される登里が主な特徴である。

    それに対して、この試合の鳥栖は左右非対称のプレッシングを仕掛けてくる。鳥栖の基本配置は4-1-4-1。基本のプレス隊は1トップの趙1人である。そこに中盤からプレスの助太刀が来る。この助っ人が左右でアシンメトリーだった。右はIHの本田、左はSHの小屋松がプレスの助っ人になることが多かった。

    これはおそらく川崎の左サイドのビルドアップを警戒したものだと思う。本田は後方の大島を背中で消しながら、プレスの射程圏内に入った時に捕まえに行く形。本田が前に出て行く時はアンカーの松岡がスライドして4-4-2フラットのようになる。SHの安はサイドに留まり、登里を自由にさせないような立ち回りをする。

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    おそらく、これがボール保持において谷口が息苦しそうにしていたメカニズムではないだろうか。運べる登里と楔でスイッチを入れられる大島という2つのビルドアップルートが存在するのが川崎の左の強みなのだが、鳥栖はそのルートを寸断するようなプレスをかけてきた。

    それに比べて、川崎の右サイドは幾分か呼吸が楽だった。小屋松はジェジエウに対して、外からプレスをかけてくる形になるので、内側にパスコースが存在する。仮に内側を切るようにプレスをかけてきても、外のパスコースは空く。

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    一度、山根に内田がプレス、家長にエドゥアルドがサイドに流れてまだ捕まえにいったシーンがあった。このシーンでは川崎の攻撃を止めることができたが、ここまでやるのはかなりリスキーである。あまり多くは見られなかった形だ。

     ジェジエウに左サイド同様、インサイドハーフの原川がプレスをかけなかったのは、おそらくスリーセンターの左右の動きを少なくするためだろう。どちらのサイドもインサイドハーフが出て行くようだと、スライドの動きが大きくなる。加えて、スリーセンターの最大の懸念である、アンカー脇のスペースを空ける頻度も多くなる。より危険な川崎の左を封鎖して、右はある程度許容したのだろう。

    この日は谷口よりジェジエウの方がビルドアップへの貢献度が高かったと感じるサポーターが多いと思うのだが、鳥栖が左右非対称のプレスを仕掛けてきたことも影響すると思う。

    とはいえ、序盤は川崎のパスワークがこのプレスを上回るシーンが多かった。川崎の左サイドは時間が与えられなかったが、インサイドハーフがアンカー脇のスペースで受けることで攻撃は一気に加速。左のビルドアップから、アンカーの両脇で受けた選手が右に展開。家長と内田の1on1に後方から山根がサポート。小屋松のプレスバックは間に合わないことが多かった。前半15分まではこの右のサイドを出口とした攻撃が非常に有効だった。

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 【前半】-(2)
鳥栖が見せた根気

    新しいことを始めるというのにも下地の違いというのはある。例えば、川崎はボール保持における考え方を変えている最中だと思うが、パスを通す技術そのものや、ボールを持つことを怖がらないことに関しては、すでに今までのやり方が生きている部分。逆に、鳥栖にはそういったスキルやメンタリティを植え付けるところから始めないといけないことになる。

    そんな鳥栖に対して、川崎は強気にプレス。前7人に加えてSBも積極的に前に出てきて、鳥栖のボール保持を寸断する。高丘は流石の精度を時折見せるものの、そんな彼も含めて川崎のプレスに引っかかる場面は頻発。ハイプレス起因で多くの決定機を迎えた川崎だったが、いずれも得点には至らず。

    川崎は鳥栖に対してボール保持を頑張る覚悟を問うようなプレスを仕掛けてきていたが、鳥栖は失敗を続けても、繰り返しプレスに挑んでいった。少なくとも、この試合を通しては鳥栖からはそのボール保持の覚悟を感じることができたように思う。

    試合が進むにつれ、プレスが落ち着くシーンが増えてきた。川崎はサイドの多角形崩しがメイン。30分付近からは家長が逆サイドに流れる場面も見られるようになり、徐々に去年の風情が漂いだす。とはいっても、この時点では「PA内の人数を確保する」という大枠の目標からは逸脱していないように見えた。

    鳥栖は小屋松、安の両サイドからの突破に加え、数本CBからアンカー脇のスペースに楔が入るシーンがあった。ここのポストからのチャンスメイク+大外でWGが持った時のハーフスペースの裏抜けが鳥栖のチャンスメイクの主なパターンだった。

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   この時間帯のゴールチャンスはボールを持っている時間に比例をした感じ。前半は川崎の方がボールを持っていたので、川崎の方がシュートチャンスは多かった。ただ、両チームとも得点には至らず。前半はスコアレスで折り返す。

【後半】
徐々に収束していく

 後半が始まって真っ先に感じたのは「あれ?鳥栖は偽SBを始めた?」ということである。そう思ったきっかけはRSBの森下が脇坂(前半から大島と左右を入れ替えた)に寄ることで宮にパスコースを提供していたから。

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 ビルドアップにおけるこういったサポートはあまり再現性は見られなかったが、鳥栖は後半の方がレーンの移動を意識していたように見える。予習した鳥栖×清水の試合でも、川崎との試合の前半でも鳥栖は5レーンの持ち場が決まっているよう見えたので、後半にこういう移動を始めたのは変化といえそうである。

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 特に右サイドは循環が見られた。SBが内側を使いだすことで外に張る機会が徐々に出てきた右サイド。安→チアゴ・アウベスの交代でサイドアタックの強化を狙った鳥栖。

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 とはいえ、川崎も反撃。左に移った脇坂を起点に外から内に絞るような裏取りへの斜めのランを活かした攻撃が見られた。鳥栖はSBが攻撃時に動きだした分、裏をケアするのが前半よりも難しくなっているように見えた。

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 停滞が見え出したのは60分前後。サイド崩しに人が徐々にわらわら集まってくるようになってくる。象徴的なところが家長の左サイド移動だろう。サイドを崩すことに固執するあまり、PA内の人が確保できなかったり、PA内の人をうまく引き出せないまま、数的不利でクロスを上げることになったりした。

 ということで左右の攻撃的ポジションを一新した川崎。三笘と旗手のダブルリーグ戦デビューである。両サイドの活性化を狙った交代である。

    三笘は投入直後からジョーカーとしての存在感をバリバリ発揮。ドリブルの切れ味はもちろんなのだが、印象的だったのはパスの精度。うまいんだろうなとは思っていたけれど、受け手に次のプレーを促すような位置にボールを出すなぁと思いながら見ていた。

   旗手は投入直後こそボールが足につかなかったものの、徐々に動き出しで存在感を見せるように。ただ、少なくとも2回あった決定機はどちらかは枠にもっていきたかったところである。

 ただ、個々のコンディションとかプレーのそのものの質とかはおいておいて、全体としては徐々に従来のフロンターレっぽいところに収束していく感じはした。三笘や旗手のような新加入の選手が入って、今までの路線っぽくなるというのはなかなか興味深い。俺の主観だけども。徐々にオフザボールの動きは減り、ショートパスのひらめきの組み合わせで鳥栖のブロックの打開を試みる川崎。しかし、打開はできず。試合は0-0のスコアレスで終了した。

あとがき

■新スタイルは時間が必要

 ニュースタイルに取り組んでいるという看板に偽りはなし。序盤はプレスに引っかかりながらも、鳥栖はあきらめずにショートパスでのつなぎを頑張った。終盤も低い位置にブロックを敷く時間はあったものの、マイボールになってからは大事に保持する場面が目立った。バックスの足元の技術の高さの片鱗は見えただけに、ここからの上積みには期待したい。

 一方で課題も見えた。後半の頭のようにビルドアップ時の立ち位置にはもう少し序盤から気を配ると、よりスムーズなボール運びが期待できるのではないだろうか。小屋松や安がサイドで勝負した後のエリア内での得点の取り方はどうするか?など整備するところはまだ多そう。方針としては面白い試みだが、取り組みが実を結ぶにはまだ時間はかかりそうだ。

■『いつも通り』はごめんだ

 大まかには本文中に書いた通り。新しい試みでうまくいった前半、徐々にいつも通りのやり方に収束していった後半というのがこの試合の流れだった。後半は本文で触れた三笘や旗手以外にも密集のパス交換における小林のうまさや、終盤でも前に出ていける山根など、人数をかけて打開を試みるときの長所が見立っていたように思う。

 ブロックに引き込まれた終盤の10分のやりくりが難しかったのはわかる。しかし、立ち位置を制御する新しいやり方は徐々に影を潜め、ショートパスで密集を打開しようとしたのは、昨年等々力で何度も見た光景である。得点が入らない中で、長い間やってきた考え方を90分やり続けるというのは難しいのかもしれないが、前半はかなりうまくいっていたので、メンバーを代えても立ち位置を守るやり方を踏襲してほしいところはあった。

 「鳥栖戦はスコアレスドローが多い」「等々力の試合はドローが多い」「去年の開幕戦もドローだった」「スロースタートである」。結果だけみれば確かにいつも通りだ。しかし、川崎がこれからやろうとしていることは、決していつも通りのことではないはず。鳥栖との0-0もいつもの0-0とは展開が違ったのは明らか。リーグは変容している。川崎だけがいつも通りでいいわけがない。「いつも通り」が通用しないのは去年もうわかったこと。川崎は変わることについて、見る側もやる側も我慢が必要なシーズンを迎えたのだ。

試合結果
J1 第1節
川崎フロンターレ 0-0 サガン鳥栖
等々力陸上競技場
主審:木村博之

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